食と暮らし学 山菜採り

④宝母さん

文=矢吹史子

元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。

写真=船橋陽馬

千惠子さんのお宅で、山菜をたらふくいただいた、
私たち。食後も続く山菜トークのなかで、
千惠子さんの山菜採りの仕事のルーツには、
ご家族の大切な思いがあることがわかりました。

講師 金野千惠子さん

Contents

  • ①山菜採りに連れてって!
  • ②山菜採るど〜!
  • ③山菜って、んめな〜!
  • ④宝母さん
  • ⑤五城目朝市山菜まつりへ。

矢吹
千惠子さんがご結婚されたのはいくつの時ですか?
千惠子
26歳。
矢吹
それからずっと、五城目の山に入ってるんですよね。仕事をしていたころは、趣味で山菜採りに行ってたんですか?
千惠子
お父さん(ご主人)の会社(土建業)の事務とってだけど、留守電かげで山さ行ってだ(笑)。
矢吹
はははは〜!
千惠子
入札だのを、インターネットで見ねぇばダメなのに、山さ行ってで見でねぇば「指名入ってだねが! 何やってる!」って、お父さんに怒られだり(笑)。
矢吹
ははは〜。小学生のころは学校帰りにキノコは採ってたんですもんね。
千惠子
そう。キンダケどが、いっぱいあったもの。昔は。
矢吹
千恵子さんのマイタケ採りにも付いて行きたいな〜。
千惠子
あぇ〜。マイタケは教えられないわ(笑)。
矢吹
山菜もキノコも、みんな自分の陣地があるんですよね。
千惠子
私さ、シドケいっぺぇあるどごろ教えるって言った人がいだの。でも私がいっぱい採ってくるがら「おめぇさだば、やっぱり教えられねぇな」って。
矢吹
ははは〜。自分のほうが上だと教えるよって言うのにね。
千惠子
やっぱりそういうのある。まだまだ教えられねぇなって言ってるうぢに、みんな亡ぐなるの。大概そうなのよ。
矢吹
毎年遭難する人もいるのに、みんな行きますよね?
千惠子
それはキツイどごろさ行ぐがらでしょ? 私なんかサンダル履いても行げるようなどごで採ってるがら。
矢吹
今日のとこなんて、サンダルじゃ行けないよ〜!
千惠子
なんでああしてまで採りに行ぐべ? って思うよ。遭難したニュース見るど、息子にも「母さん、こんなどごで採ってるんだが?」って聞かれるけど、なんも難儀しないで採ってるよ。それでも山いろいろ歩いで、毎年通って、その年その年の山菜の様子みながら覚えでいったの。
矢吹
経験なんですね。
千惠子
それを息子さ教えでいでいがねば。いまに自分に何かあってもいいようにって思ってるのね。息子さもキノコ狩り教えだっけ、面白ぐなってしまって、田んぼの仕事してでもキノコのごどばがり気になってね(笑)。
矢吹
やっぱり、自分で育てたんじゃないところに面白みがあるんですかね。宝探しみたいな。
千惠子
お父さんは私どご「宝母さん、宝母さん」って呼んでな。持ち上げれば夢中になって稼いでくるがら「宝母さん」だって(笑)。
矢吹
え〜! 愛がありますね、「宝母さん」って。
千惠子
お父さんも悪い意味で喋ってるわげでないんだけど。
矢吹
千惠子さんは、仕事と楽しみが一緒になってますね。
千惠子
息子もな「仕事なんて、誰も楽しくてやってるもんでねぇ。生活のために嫌でもがんばってるんだよ。でも、お母さんだばいいなあ」って言うんだもの。「なして?」って言えば「好ぎでなんもかんもねぇものが仕事だもの」って。
矢吹
ふふふふ〜。

千惠子さんの結婚式の写真

千惠子
長男がそう言うんだもの。「せば、おめも好ぎな事やればいいべ」ったって、ながながな〜。家庭持でばな。
矢吹
でも、千惠子さんは家庭持っても好きな事してましたね。
千惠子
お父さんが理解のある人だったがら。土建業って景気に左右されるがら、お父さんも苦労したのよ。だがら「もしオレに何かあっても、おめ一人でもママ(ご飯)食うにいいように、まず、市日いちび(朝市)さ立ったら良ぐねぇが?」って、お父さんがそう言ってくれだの。それで小屋っこ作ってくれで。
矢吹
へ〜!!
千惠子
その小屋もぶっ壊れだけどな。木で作ったやづだがら。でも、それで市日さ出れば、売れるがら面白いものな。で、お父さんも「おめぇさだば協力する」って、従業員が暇だば、みんなして山の雑木切って、ほだ木にして、ナメコどが、ヒラタケどが、アカモダシどがの菌付けだりしてな。
矢吹
へ〜。
千惠子
そして、お父さんはね「おが(あんまり)高ぐするな。悪りぃもの売るな、悪りぃもの売るな」って、口酸っぱく私に言うの。昔は山菜もたくさん採れだがら「安ぐ売れ」って言われでだんだけど。それがあるがら、いま、それより高ぐでぎないのな。
矢吹
そうか〜。
千惠子
でも、それがあるがら、お客さんは付いでくれでるし。ありがたいなあど思って。
矢吹
お父さんの精神を引き継いでるんですね。
千惠子
私もずるいごどでぎない性格だがら、お父さんのそれを守ってるのよな。だがら、いまも「お父さん付いで、守ってくれでるべが」ってな。お客さん付かなぐなれば「オレの言うごど聞かないがらだ」って言われるなど思ってな。
矢吹
いい旦那さんだな〜。
千惠子
いい人だったよ〜。お父さん亡ぐなって7年だけど、10年も前がら市日やってる。
矢吹
そうやって、楽しみを続けられるように残してくれたんですね。
千惠子
いまやれでるのは、お父さんのお陰っちゅうが。好ぎだ事で、私のでぎる事はこれだど思って、ちゃんと道付けでくれだのがお父さんだった。
矢吹
辞められないですね〜。
千惠子
そうそうそう。
矢吹
この写真の小屋が、お父さんが建ててくれたもの?
千惠子
そう。あぃ〜若げな〜(笑)。この小屋は軽トラさハマるようになってで、屋根はブルーシートかげで。キノコど山菜の旗まで作ってくれで。でもみんな壊れでしまって、いまは屋根なしで朝市に出してるの。テント一つ買えばいいんだけどな。じぇんこ(お金)かげねぇの。
矢吹
秋田の人はこうやって山に入ってるから元気なのかもな〜。
千惠子
元気でもないよ〜。
矢吹
元気ですよー! 歳とっても元気な人が多いのは、こういうのがあるからなんだろうなって思いました。
千惠子
自分で、生き甲斐としてできるからね。それにいまから会社に務めるなんてでぎないし。スーパーのレジだどがも、私はでぎないもの。
矢吹
その仕事ができる人もいれば、山菜を採るのが仕事の人もいるんですもんね。
千惠子
人に使われるってのは大変だし、自分の自由きぐし、ストレス溜めないし。いろいろあったけど、楽しい人生だなって思う。だがら、体は悪ぐされねぇなって思ってます。
矢吹
今日はありがとうございました。それじゃあ、5月7日の山菜祭り、行きますね。
千惠子
5月7日。私、誕生日なの。また一つ歳いぐんだ〜。
矢吹
え〜!! それじゃあ、お祝いしなきゃ!
千惠子
なんもなんも。まず今日のシドケどアイコ、いいどご持っていって。
矢吹
わ〜ありがとうございます! それじゃあ、また7日に!

⑤五城目朝市山菜まつりへ。 につづく

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