食と暮らし学 山菜採り

春。スーパー、市場、道の駅などの売り場が一面緑色になると、秋田県民の心は踊り出します。厳しい冬を乗り越えたごほうび、山菜の季節がやってきたのです。バッケ、タラノメ、コゴミ、アイコ、シドケ、ワラビ、ミズ呪文のような名前の、色も形も似たような山菜を、スラスラと見分け、そのほろ苦さに唸り、険しい山の中へでも嬉々として採りに行く。そんなふうにして、春の喜びを満喫するのが、秋田県民のふつう。今回は、そんな秋田の山菜について学んでいきます。

講師 金野千惠子さん

文=矢吹史子

元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。

写真=船橋陽馬

山菜学①山菜採りに連れてって! 五城目朝市へ。
2016.6.1

秋田市から車で50分ほどの五城目町。この町には500年の歴史をもつ「五城目朝市」があり、毎月「0、2、5、7」のつく日に開催されています。
秋田県民の春の楽しみ、山菜について学びたいと思ったわたしたちは、自ら採った山菜をこの五城目朝市で販売しているという山菜名人、金野千惠子さん(63)に会いに行きます。

矢吹
こんにちは〜。金野千惠子さんですか?
千惠子
はい。

金野千惠子さん

矢吹
山菜採りの名人だって伺ってきたんですけれど……。
千惠子
なんもなんも。
矢吹
山菜ありますね。これ、どうやって食べるんですか?
千惠子
これね、アケビの芽。

アケビの芽

千惠子
昔の人はよぐ食べだもんだけども、湯がいで、和え物にしたり、ただお浸しにしてもいいし。
矢吹
アケビの芽…… 初めて聞いた。
千惠子
これ、苦いのよ〜。もうちょっとすれば、アケビの花っこ付ぐんだけども。
矢吹
けっこう苦いんですか? バッケ(フキノトウ)より苦い?
千惠子
苦い。フキノトウだば、天ぷらにすれば苦みは消えるけども、これはモロ苦いど思う。生のまま、ちょっとかじってみで。
矢吹
わ! にが! でもちょっとクセになりそう……。
千惠子
湯がくと苦みがちょっと増すがな。だがら、胃腸薬。
矢吹
売ってる山菜は、朝採ってくるんですか?
千惠子
朝は採ってられないがら。いつも採りに行くのは朝市の前の日。

(お客さんがやってくる)

千惠子
今日シドケいいのあったんだや〜。
矢吹
常連さんですか?
千惠子
そうです。
常連さん
今年も祭りの日、シドケどアイコど、7組できるが?
千惠子
7組……1把ずづでいいの? 
常連さん
2把。
千惠子
せば、14把ずづだね〜……。がんばってみるが、まず。
常連さん
いつものように届けでけれ。
千惠子
わかりました、はい。

(常連さんが去ってから)

千惠子
あや〜。結構な数だね。

この日、朝市に並んでいた山菜は、サシボ、山ワサビ、タケノコ、タラノメなど。

矢吹
お祭りがあるんですか?
千惠子
こご、五城目の本町のお祭りが、5月の第3の土日なの。朝市の山菜まつりは5月7日にあって、6月には「ミズたたきまつり」っていうのもあります。
矢吹
じゃあ、そのときにはたくさん山菜が並ぶんですね?
千惠子
6月ってば、そろそろアイコ、シドケがなくなってきてるので、ミズどかワラビどか。だがら、5月7日の山菜祭りが一番賑わいますね。
矢吹
そのときに向けて、山菜のこと、教えてもらえないでしょうか? 山菜採りに連れて行ってもらえませんか?
千惠子
いいけども、そのころになれば私、注文ですごいのよ。50も60も注文がくるのよ。だがら、みなさんをかまってる余裕がないもの。 それにいま、大潟村の菜の花と桜、少しずづきましたよね? あそこの桜がみんな咲いでトンネルみたいになれば、山菜が採れでくるんですよ。でもまだチラホラしか桜咲いでないものね。まだちょっと時期が早いのよ。来週ならだいぶ採れでくるど思うがら、そこがいいですね。
矢吹
それじゃあ、来週、お願いします! 山菜の食べ方なんかも教えてもらえるものですか?
千惠子
はい、大丈夫です。でも昔の人だもの、凝った食べ方より、やっぱりシンプルなのが一番。山菜の味が。お浸しにするのが私は一番好きなの。ハイカラなごどしてもね、口さ合わないのね。

五城目朝市には、山菜のほかにも、野菜、魚、花、お菓子などのお店も。平日は地元民が多く訪れます。

矢吹
千惠子さんは、五城目のご出身なんですか?
千惠子
私は男鹿おが市の船越ふなこし生まれ。こっちにお嫁にきて。お父さん(ご主人)の形見だ、これ。(携帯を出す)古しいの使ってるの、私。
矢吹
お父さん亡くなられたんですか?
千惠子
はい。今年で7年。2人息子がいるんだけど、上の息子は結婚して、今は下の息子と2人暮らし。
矢吹
五城目の朝市で売り始めて、何年くらいになるんですか?
千惠子
10年くらい。
矢吹
山菜採り自体は?
千惠子
小学校の頃はランドセル背負ってキノコ採りに行ってました(笑)。
矢吹
え〜(笑)。男鹿で?
千惠子
そうそう。学校の帰りに友だちと寄り道してね。そうやって小さいころから好きだったものな。
矢吹
それで、ご結婚されてからは五城目で?
千惠子
はい。やっぱり男鹿にはないものがこっちにはいっぱいあるし。五城目は山菜の宝庫だもの。
矢吹
そうですよね〜。
千惠子
お父さんは土建業の会社やってだの。お父さんも難儀したども、山さ行げば、おかず買って一杯飲む分稼ぐぐらいは山菜採れるし。私も商売好ぎであったがら。だがら、採って、売って……。
矢吹
自分で食べるも採れるし……。
千惠子
そう。お父さんは、ワンカップ買っていげば、ゴロっとして(機嫌良くして)ね。
矢吹
ははは〜。
千惠子
おが(たくさん)お酒飲ませでしまったべが? 体悪ぐさせでしまったがもしれない。
矢吹
山菜採り、どんな服装で行ったらいいですか?
千惠子
せば、スパイクの長靴履いで。やっぱりスパイクのほうがいいんだけど、それでも岩場だど滑るし。ほんとはスパイクの地下足袋がいいんだけどね。足にフィットするし、曲げも効くしね。
矢吹
それ、どこに売ってるんですか?
千惠子
ホームセンターさ売ってますよ。
矢吹
そんな険しい所まで行くんですね。
千惠子
そう。普段はすごいどごろ行ぐよ。
矢吹
付いて行けるかな……。
千惠子

痩せますよ。はははは〜! でも、スパイクも蔦どがさ絡まるの。こないだも、引っかがって転んで、弁慶(スネ)打って。腫れでるの! だいぶよぐなってきたけども。これ! こうなったの。

矢吹
うわ〜……。足引っ張らないようにしないと……。
千惠子
そんなキツイどごろには連れで行かないので。
矢吹
お手柔らかにお願いします(笑)。着るものは?
千惠子
私はヤッケ(ウィンドブレーカー)の上下。転んだりして泥も。ホームセンターで980円の上下で売ってるがら。赤いのがいいよ! 目立つ色のほうが。黒いの着てクマに間違われで、鉄砲撃だれるがら。頭に帽子でも。私はほっかむりして行ぐけども。
矢吹
採った山菜を入れるカゴあるじゃないですか? あれってどこで買ってますか?
千惠子
私はね、大潟村にある道の駅で。モノがいいの。頑丈なの。桑原さんっていうおばあちゃんが作っていで、それが丈夫でね。同じのを5年も6年も使ってます。
矢吹
じゃあ、それ買いに行ってきます!
千惠子
それ、私も欲しいなあ……。ちょっときたがら。桑原さんのがいいのよ。編みが。
矢吹
じゃあ、千惠子さんの分もみてきますね。
千惠子
カラフルなのがいいな(笑)。
矢吹
では来週、楽しみにしてます! よろしくお願いします!

このあと、カゴを買いに、道の駅おおがたに向かったのですが、残念ながら、桑原さん、現在はカゴは作っていらっしゃらないとのこと。それでも丈夫でカラフルなカゴを発見! スパイク付きの地下足袋と、赤いヤッケも買って、準備万端! 来週の山菜採りに備えます。さあ、いっぱい採れるかな〜!

山菜学②山菜採るど〜!につづく

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