花火師

いよいよ開催が迫った全国花火競技大会「大曲おおまがりの花火」。前回に引き続き、この競技会に出場する大曲花火化学工業(有)の新山さんに、今年の見所や意気込みを伺っていきます。

Contents

  • ①花火ができるまで 2016.8.3
  • ②花火師という仕事 2016.8.10
  • ③新山さんと花火 2016.8.17
  • ④大曲の花火にかけた思い 2016.8.24
  • ⑤いざ、大曲の花火へ! 2016.8.31

④大曲の花火にかけた思い

新山
やっぱり、「大曲の花火」というのは、ふつうの花火大会とは全く違っていて「競技会」なんですね。最後に上がる、大会提供花火の豪華さが話題になりがちですけれど、花火師としては、一社一社の競技をしっかり見ていただきたいですよね。
矢吹
うんうん。
新山
全国にいま、花火製造をしている業者が150社ほどあるんですが、大曲の花火に出るのは、ほんの一握りで、毎年30社以内という規定があって、今回は28社。
矢吹
それはどうやって選ばれるんですか?
新山
主催者が全国の競技会に見に行って、そこで賞を獲った業者だとか、技術のすごい業者を選ぶんです。5年に1回、5社の入れ替えがあるんですよ。
矢吹
だんだん入れ替わっていくんですね。
新山
その28社が「内閣総理大臣賞」を狙って、最高級のものを持ってくるわけですよ。内閣総理大臣賞があるのは、この大会と茨城県の土浦つちうら花火大会だけです。
矢吹
ほ〜!
新山
それから、これは全国でも大曲だけなんですが「昼花火」という競技があります。これも見物だと思います。
矢吹
昼花火って、色の着いた煙のようなものですよね?
新山
昼花火の煙は「煙竜えんりゅう」っていうんですが、これは日本ならではの技術なんですよ。
矢吹
色や打ち上がり方なんかを競い合うんですか?
新山
そうです。落下傘によって、煙がくるくる回って降りてくる仕組みなんですが、竜が蜷局とぐろを巻いたように、太く、濃い色であることが大事で。光と煙と音で魅せていくものですね。
矢吹
なんだか乙ですね。
新山
そうなんですよ。そして夜は「10号玉の芯入り割物」「10号玉の自由玉」、そして「創造花火」で競い合います。
矢吹
今年の大曲花火化学工業さんは、どんなところに力を入れてるんですか?
新山
「10号玉の芯入り割物」では、うちは今まで「四重芯」というのを完成させてきていて、それで去年は3位だったんですね。
「四重」というのは、開いたときに芯(円)が四層ある、というものなんですが、それでも内閣総理大臣賞をもらうためには「五重芯」ができないとなかなか難しいんです。五重芯は、今までも3社くらいしか出してないんですよ。
矢吹
そんなに難しいんですか?
新山
超難しいです! なかなか五重に見えないんです。単純に芯が一つ増えただけと思われがちですが、四重から五重に増えるだけで、全く別物になります。割薬のバランスだとか、玉貼りのバランスだとかでも違ってくるんですよ。
矢吹
「八重芯」っていうのもありますよね? それはもっと難しいんですか?
新山
それがちょっと違っていて。そもそも「芯入り」っていうのは、一つの玉の中に1個の芯が入っている、というものなんです。そして、一つの玉の中に、芯が2個入っているものを「八重芯」というんです。
これはかつて2個入りが完成したときあまりにも難しくて、これ以上のものはできないだろうといわれて。それで、最高の「八重」っていう名前を付けたんですって。
矢吹
へ〜。
新山
それを開発したのが、長野県の青木煙火店さん。私の師匠なんですけれども。そしたら、それをまた研究して、もう1個入るかな? って思ってやったら出たんですよ。それで、もう八重芯って名付けちゃったけど、次はなんていう名前にしようってなって、三つ入ったからというので「三重芯」に。
矢吹
八重の上が三重なんですね(笑)。
新山
さらにそのあとに、四つ、五つのもできて……。
矢吹
いま最高のものが「五重芯」。
新山
八重芯でさえ難しいのに。ただ、人間の目で見ると、八重芯が一番バランスが良く見えます。だから私は本当は八重芯が一番好きですね。
「10号玉の自由玉」のほうは、今年はターコイズブルーという珍しい新色を開発したので、それをテーマに披露したいなと思って。
矢吹
夜空にブルーが映えそうですね! 創造花火はいかがですか?
新山
今回「輝く星に感謝をこめて」っていうタイトルなんですが、これ、うちの親父に向けて作った花火なんです。
矢吹
お父さん?
新山
うちの親父、今年の2月に亡くなったんですよ。
矢吹
そうでしたか。

写真右・お父さんの良治さん

新山
屋根の雪下ろしをしていて転落して、頭打って気を失ったまま川に落ちてしまったみたいで。溺れて亡くなったんですよ。
矢吹
それは大変でしたね……。
新山
もちろん、内閣総理大臣賞を狙っていきますし、審査員にもお客さんたちにも見てもらいたいんですが、個人的には天国の親父に見てもらいたいなと。
矢吹
亡くなられたお父さんは、花火師としての師匠でもあったわけですよね?
お父さんから学んだこととか、思い出ってあるものですか?
新山
親父には、怒られた記憶がほとんどないくらい、とにかく優しい人でしたね。昼花火は親父の担当だったんですよ。いつも上位に入賞していて。今、我々がやってみてもなかなか思うような色が出なくてね。もっとよく教わっておけばよかったって、今更ながら言ってるんですよ。
矢吹
お父さんは去年まで上げられてたんですか?
新山
はい、去年は3位でしたね。
矢吹
おいくつだったんですか?
新山
69歳。まだぴんぴんしていて、毎日仕事しに来ては残業も自らやるくらいでしたね。
今、大曲は「花火産業構想」っていって花火一色になってきてるんですよ。来年の4月には「国際花火シンポジウム」っていうのが大曲で開催されて、1週間毎日花火が上がるんですよね。そういうこともあって、亡くなるちょっと前に「まだまだ現役でがんばるから、お前たちも気合い入れて頑張れ」って言われてたばっかりだったんですよ。
矢吹
お父さん、悔しいでしょうね。
新山
あまりに急なことだったのでね。今でも「あのときああしていれば……」っていろいろと後悔してしまいますけど、そういう運命だったのかもしれないですね。
葬儀が終わってから、弔い花火も上げました。私もやっと少し気持ちが落ち着いてきましたけど、ここ最近、大会が近づいてきたら、親父に会いたくなっちゃってね……。大好きでしたからね、親父のことが。
矢吹
今年は今まで以上に特別な花火になりますね。他の出場者のみなさんも、それぞれいろいろな思いがあって上げているのかもしれませんね。本番での成功、お祈りしています。

次回はいよいよ開催となる「大曲の花火」当日の様子をレポート!
例年70万人もが訪れるというその会場の様子とともに、花火師たちの渾身の作品、そして、新山さんの思いが込められた花火についてもお届けする予定です。

⑤ いざ、大曲の花火へ! へつづく >>

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