秋田の伝承学 盆小屋

秋田では盆行事として、西馬音内にしもない毛馬内けまない一日市ひといちなどをはじめ、各地でさまざまな盆踊りが行われ、各家々でも迎え火や送り火を焚く文化がみられますが、にかほ市象潟きさかた町には「盆小屋ぼんごや」という行事があります。
これは、近隣の町内が海辺にワラを使った簡素な小屋を作り、火を焚いて先祖の霊を迎え、送る、という行事。国の「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」にも指定されています。今回はこの「盆小屋行事」について学んでいきたいと思います。

講師 象潟町盆小屋行事保存会 氏家完次さん

Contents

  • 1. 盆小屋行事って? 2016.9.7
  • 2. キトーネ キトーネ 2016.9.14
  • 3. 下浜の町の盆小屋 2016.9.21
  • 4. イトーネ イトーネ 2016.9.28

文=矢吹史子

元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。

写真=船橋陽馬

①盆小屋行事って?

8月12日、朝6時。象潟海水浴場にやってきた私たち。これからこの砂浜に小屋を建てるということで、その様子を見させていただくことに。訪ねたのは下荒屋しもあらや地区の設営場所。
毎年恒例となっている早朝からの集合に、準備万端で待ち構える大人たちと、眠い目をこすりこすりなんとか起きてきた子どもたち。人数が揃うと、早速小屋の設営が始まります。

海辺に建てられるのは、木材とワラを使った小屋。柱になる大きな木材もあるため、制作の中心となるのは大人たちで、子どもたちは材料を運んだり、ワラを取り付けたりする細かな作業をしていきます。
その様子を見ながら、「象潟町盆小屋行事保存会」の会長を務め、この町内で全体の指揮をしている氏家完次さんにお話を伺います。

氏家完次さん

氏家
昔はこれを作るのは中学生だったのよ。中学生が中心になって、小学生が手伝って。子どもたちだけで作るものだったの。
矢吹
そうなんですか。今はほとんどが大人ですね。
氏家
中学生はみんな部活だもの。
矢吹
向こうのほうでも同じく小屋を建ててますが、この海岸には、五つの小屋ができるんですね。
氏家
上浜の町かみはまのまち下浜の町しもはまのまち、それから浜畑はまばたけ冠石かんむりいし、そしてここの下荒屋の五つの町内の小屋ですね。
少し離れた海岸にも三つあるので、全部で8町内。ほかにもやっている所もあるかもしれないけど「象潟町盆小屋行事保存会」に加入しているのは8町内です。
矢吹
うんうん。
氏家
今日はこの小屋を建てて、夜になると小屋の横に迎え火を焚いて、その灯りのなかで子どもたちが歌を歌うんです。

「ジーダ、バンバーダ、コノヒノアカリデ、キトーネ、キトーネ」。

「おじいさんたち、おばあさんたち、この火の灯りをたよりに来てください、来てください」という意味です。そして、15日には、この小屋を燃やして送り火にして、今度は

「ジーダ、バンバーダ、コノヒノアカリデ、イトーネ、イトーネ」

と歌います。送るときは「イトーネ、イトーネ」。「お帰りください」という意味です。

矢吹
なるほど〜! 氏家さんは、ずっとこの盆小屋行事を続けるためにこうやってお世話をしているんですか?
氏家
そう。盆小屋を作るためのワラを集めるのが大変なんですよ。保存会の分、全部を管理していて、農家からもらうんですけど。昔は「ほにょ掛け」っていう方法で稲刈りの後、稲を自然乾燥させていたから、ワラも手に入ったんだけども、今は機械化してしまってね。小屋にするってなると、軽トラ2台分くらいになるからな。
矢吹
それを、秋から今までずっと持ってないといけないんですもんね。
氏家
ワラを保管するためのコンテナも用意してね。この小屋も今はだいたい幅が1けん(1820mm)だけども、昔は2間もあったのよ。
矢吹
大きかったんですね。こういう行事はよそにもあるんでしょうか?
氏家
ほとんどない。神様や先祖が海から来るっていうのが、ほかではあまりないからな。海から来て、海に帰してやる。ふつうは神様は山なんですよね。山から降りてきて、山へ帰す。
矢吹
なるほど〜。
氏家
だから昔はお盆に仏壇に上げたものなんかは、16日の朝には全部海に流したんですよ。「これを海に持って帰ってください」ってね。今は海にものを流すことすらできなくなってしまったから。それから、昔はここで焚いた迎え火を提灯に付けて家へ持って帰ったんですよ。
矢吹
それを自分の家の仏壇に……?
氏家
うん。そして、15日は家からその火を持ってきて、それで小屋に火を付けて「イトーネ、イトーネ」と歌って送ったんですよ。それに昔はお墓の塔婆とうばを持ってきて、柱なんかはそれで作ったんですよ。
矢吹
へ〜! そしてそれを燃やしたんですね。

迎え火を焚くためのワラや木材を小屋の隣に集めます。

氏家
今はそれはしなくなったけど、うちの町内は古い塔婆は一緒に燃やすから、ここへ持ってきてくださいって言ってるの。
矢吹
いろいろなことが変わってきていますね……。子どもたちも昔とは違うものですか?
氏家
違う、違う、違う、違う! 全然違う! 今の子どもたちなんて、子どもだけじゃ全然やれないですよ。何でも危ないって怒られるんだろうね。
矢吹
そうですよね……。小屋、だいぶ出来上がってきましたね! 祭壇のお供えものも、面白いですね。
氏家
ホオズキ、シマウリ、リンゴ、ナシ……。
矢吹
そうめんや、カラフルな麩菓子みたいな飾りもありますね! みんなこうやってぶら下げるんですね。
氏家
お供えはぶら下げるんですよ。それからキュウリとナスに割り箸で足をつけてね。ご先祖様は来るときにはキュウリの馬に乗って素早く来て、ナスの牛に乗ってゆっくり帰るんですよ。お、よーし、終わったな!

約1時間半ほどで完成した小屋。夜にはこの小屋の横に火を焚いて、子どもたちの歌とともに先祖を迎え入れます。次回はその様子をお届けします!

2. キトーネ キトーネ へつづく >>

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