秋田の女性学 「寒天使のカタチ」 第3回 寒天使・阪本真千代さん 樫の木の天使(前編)

写真・文 山本彩乃

1980年山梨県甲府市生まれ。写真家。東京学芸大学美術科卒業。バンタンデザイン研究所、外苑スタジオを経て2006年独立。
雑誌・広告等で活動中。写真新世紀入賞。
http://yamamoto-ayano.com

秋田県大仙市太田町。一面に広がる田んぼにうっすらと雪が積もりはじめた12月のはじめ。平野のなかの小さな林を抜けると、現われたのが「かし食堂」。

ここで農業をしながら食堂を営むご夫婦の、奥さんの真千代まちよさん(43)が、今回の寒天使です。

樫食堂の定食

定食は、自分たちで育てた米や野菜を中心に使っています。あくまでメインは農業なんですけど、規格外で出荷できない野菜も美味しく食べてもらえたら、という気持ちで始めた食堂です。だから、決まったメニューがしっかりある、というよりは、その日何が穫れたかでメニューを決めて。
今日の定食は「トマトと葱のカレーセット」。ミントの寒天を添えています。

店の営業は、水、木、金、土の週4日間だけで、毎日2時間しかやってないんですよ。だから週8時間だけ。テーブルも3つしかないから、多くて6組。

真千代さんの寒天

調理のほとんどは旦那さんがやっていて、餃子とか、カレー用のチャパティなんかの粉モノと、デザートが私の担当で。
寒天はもともと自分では作ったりはしないんですけど、この店をやるにあたって作るようになりました。

寒天は定番のレシピっていうのはそんなになくて。季節のジャムを乗せた牛乳かんとか、いただいた果物を寒天でとじたりとか。今日の定食のミントの寒天も、うちのビニールハウスにミントがあったから。味付けはいつも味見をしながら、そのときの材料に合わせて、感覚で。だからはっきり決まった分量はないんですよ。

私は出身が大阪で、8年前に旦那さんの実家の秋田に来たんですけれど、秋田に寒天の文化があることも最近まで知らなかったんですよ。
秋田のお母さんたちはみんな棒寒天を使ってるんですよね? 実は私、棒寒天って使ったことがないんです。お店で寒天を出すようになったのも、私の母がときどき寒天を作っていて馴染みがあったからで、実家では粉寒天を使っていたんですよね。

この時期、寒天を溶かすのはこの薪ストーブで。これでケーキも焼けるし、濡れたお鍋を乾かしたりも。冬のあいだは薪ストーブはずっと付けっぱなしにしてるんです。風もすごいし、隙間から雪が入ってきちゃったりするんですけど、このストーブで十分あったかいんですよね。

寒天といえばね、この地域に「大台山おおだいさん」っていう山があって、そこにイタヤカエデがたくさん生えていて、その樹液をとっている人が、うちにタンクで持って来てくれるんですよ。
それを大きな鍋に入れて、薪ストーブで2〜3日かけて40分の1くらいまで煮詰めると、メープルシロップができるんです! それで寒天を作るんですよ。今年はもう樹液がなくて作れないんですけどね……。この土地ならではですよね。

樫食堂

8年前に旦那さんの実家の秋田に帰ってきて、食堂を始めたのが5年前になるんですけど、この店はほとんどを、ご近所の大工さんと私たち夫婦の3人で作ったんですよ。
でも、農業をしながら片手間でやっていたので、3年もかかって。米を売ったお金で今年は煙突だけ入れて、次の年はストーブ本体を買って……っていうかんじで(笑)。
コストを抑えなきゃっていうのもあったけど、私の実家は自分でなんでも手作りするような家だったから、もともと「家は自分で建てるもの」って思ってるようなところはありましたね。

でも、店がないときは辛かったですね。こっちで農業だけだと、ほんっとに人に出会わないんですよ。人に会えるのは自分の家族と農協でだけ、みたいな。だから、秋田に来たけれど知り合いもできなくて、言葉もわからなくて。

秋田に来て1ヵ月くらいですぐに、すごい目眩で立てないくらいになったんですよ。
あまりにも限られた人間関係に、気持ちがいっぱいになってしまって。誰も悪くないんだけれど、文化が違いすぎたんですよね。
こんなに自然があるのに、それすら見えなくなっていたと思います。

それまで、人で潰れることがなかったんだけど、店を建てている3年くらいは、ほとんど引きこもりみたいなかんじでしたね。
でも、店を始めたことで、周りの人たちに視野を広げてもらえたから、今こうしていられるなって。今はすごくいい状態ですね。

店の裏に樫の木が生えていて、すごく大きいんですよ。秋になると、どんぐりがダーーッて落ちてきて、もう、土が見えなくなるくらい。落ち葉の時期は葉っぱでフカフカだし。 そこから「樫食堂」っていう名前にしたんです。この木に守られている感じがするんですよね。

私がこれまで秋田で出会った寒天は、熟練の女性たちの技や知恵が固められたような力強いもので、それはまだまだ自分が作るには遠いもののように思えていましたが、真千代さんの寒天は等身大。そのときある材料で、ストーブで溶かして、そこにあった容器に固める。驚くほど肩肘の張らないもので、これなら初心者の私にも気軽に作れるかも、と思えました。
次回は、そんな真千代さんの、暮らし方、考え方について、お話を伺っていきます。

材料A

  • ・粉寒天 3g
  • ・水 50g

少量の水で寒天をふやかしてから、残りの水を加えて寒天を煮溶かす。

材料B

  • ・ミント たっぷり
  • ・水 200g

分量の水でミントを煮出し、ミントの葉は取り出して、刻んでおく。

  • ・砂糖 適宜

材料AにBを少しずつ入れてよく混ぜる。味見をしながら砂糖を加え、お好みで刻んだミントを加え、器に流す。

  • ・砂糖と刻んだミントを加えずに器に流したあと、下記のソースをかけるのもおすすめです。
  • ・たっぷりのミントの葉と、柑橘の果汁ミキサーで撹拌する。
  • ・味見をしながら、砂糖を加え、鍋に移して砂糖が溶ける程度にさっと火を通す。
  • ・固まった寒天にお好みでかける。

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