食と暮らし学 山菜採り

②山菜採るど〜

文=矢吹史子

元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。

写真=船橋陽馬

4月28日(木)朝8時半。
五城目ごじょうめ朝市」で出会った山菜名人、金野千惠子さん(63)との山菜採り当日。いまにも雨が降り出しそうなどんより空のなか、道の駅五城目に集合した、千惠子さんと私たち。予報では、もう数時間もしたら大雨になるということで、とにかく雨が降る前に、採れるだけ採ろう! と、急いで山へ向かいます。

講師 金野千惠子さん

Contents

  • ①山菜採りに連れてって!
  • ②山菜採るど〜!
  • ③山菜って、んめな〜!
  • ④宝母さん
  • ⑤五城目朝市山菜まつりへ。

(ヤッケに着替えて、山菜採りスタート!)

金野千惠子さん

矢吹
いつもこの山に来てるんですか?
千惠子
なんもなんも。ほかのところもあるけども、そごはキツイコースだもの。こごは比較的楽なのよ。
矢吹
初心者コース?
千惠子
そう。

(話しながら、ぐんぐん進んでいく千惠子さん)

矢吹
うわ、山になってきた……。進むの早いし!
千惠子
ほら、これアイコ。細いけどな。採ってみません? グっと根元さ手を入れで、採ってみで。
矢吹
はい!
千惠子
もっと根元。人差し指入れで。根元から引っ張るように。
矢吹
根元から……引っ張るように……。
千惠子
そうそうそう。
矢吹
採れた!
千惠子
アイコゲット! ほら、これもこれも。
矢吹
え? これ? これ?
千惠子
このジガジガでえの(ギザギザしたの)。
矢吹
この似たような緑のがいっぱいのなかで、パッと目に入ってくるんですか?
千惠子
ええ。葉っぱがわがるがら。私はゆ〜っくり歩いて探すんだもの。
矢吹
それでもかなり早いですよ……。やっぱり、太くて、葉っぱも大きいほうがいいんですか?
千惠子
葉っぱ大きいど固いって言われるけど、今の時期のならまだ大丈夫だがら。

(スタートして10分もたたず)

千惠子
ほれ。もう自分で食べる分ぐらいは採った。
矢吹
すごーい!
千惠子
ほら、こごにもいっぱいあるよ。太いのだげ採って、細いのは来年に残しておぐ。女ってバガで、な〜んでも採るのよ、欲でな。でもそれじゃ、来年太くならないもの。
矢吹
見つけると楽しくて、小さくても採っちゃうんですよね。
千惠子
ついついね。ほらほら、こういう草の間さも生えでるがら。お〜! いだいだ、シドケ。
矢吹
ものの15分ぐらいで、もうカゴがいっぱい!
千惠子
でも大変なんだ。明後日アイコ25把も注文になってでな。で、明日は大雨予報でしょ。今日採ったアイコもなんぼが入れたいけど、アイコってのは、す〜ぐ葉っぱの先が傷むんだもの。だから前の日採らないとね。
矢吹
新鮮なうちに。
千惠子
あ、これ、うちの息子が好きなの。
矢吹
なんですか?
千惠子
サガリハ。
矢吹
サガリハって、初めて聞いた。
千惠子
アザミの一種なんだけど。
矢吹
どうやって食べるんですか?
千惠子
これとミズをね、炒めてきんぴらにするの。醤油と、トンガラシ入れで。息子が大好ぎなの。安い男でな(笑)。
矢吹
息子さんにお土産ですね。
千惠子
晩ご飯の草だよ〜ってな(笑)。ははは〜。大量だ!
矢吹
千惠子さんは何の山菜が好きなんですか?
千惠子
私は何でもいいな。私は食べるのより、採ってるほうが楽しいもんな〜。

(さらに奥へ進む)

千惠子
この上に行けば、シドケいっぱいあるのよ。でも道がキツイの。
矢吹
いつもはそこまで行ってるんですね。
千惠子
でも今日は雨だし、無理しないで。
矢吹
雨に降られなくてよかった〜。
千惠子
神様ちゃんと見ででくれだ。私、山さ行ってな、いっぱい採れだり、良い場所に当だったりすれば「あぃ〜ありがとう、お父さん!」って。
矢吹
お父さんのおかげで採れたよ! って?
千惠子
そう。天国のお父さんど、実家のじいさんに、ありがとう、ありがとうって言うの。心の中で。でも明日は大雨だっていうがら、お父さんでもダメな場合もある(笑)。
矢吹
だいたい毎日来てるんですか?
千惠子
毎日。朝市が終わってがら。昨日は細いタケノコを昼から採りに行って、それでアイコも採ってきたし。
矢吹
ふふふ〜。いつも山に入ってるのは、2〜3時間ですか?
千惠子
いつも、朝8時ころ出て、帰ってくるってば午後3〜4時。
矢吹
すごいな〜。
千惠子
リュック2つ持って行ぐもの。一つ車に置いでおいで、いっぱいになればまた……。
矢吹
そうか、それで2回も3回もリュックとカゴと、入れ替えて採るんですね。
千惠子
そうそう。だがら、欲ばりだって言われるけども、やっぱり注文も来ていで、そのほかに朝市でも売らないといげないがらね。安請け合いしちゃうのよ、なんでも私。注文くれば、ハイハイって。
矢吹
でも嬉しいですもんね、頼まれたら。いつも一人で採りに行くんですか?
千惠子
一人。でももうちょっと最盛期になれば、仲間っこど二人で行って手伝ってもらうの。70歳のおばあちゃん。一人だと注文さ間に合わないもの。50も60もって無理だもんね、一人だど。とくにシドケって採るの大変なのよ。あ、シドケだ。わ〜! シドケ畑だ。みんな足下にあっても気付かないんだな。
矢吹
私には、どれもみんなおんなじに見えるのに……。
千惠子
ほら、シドケ。採ってみる?

※音声が流れます

矢吹
わ〜! 立派だ〜!
千惠子
ね、立派でしょ? 私のウエストみだいなもんだ。
矢吹
ふふふ〜。
千惠子
シドケって、葉っぱがキラキラキラって光ってるの。
矢吹
え?
千惠子
ほら、光ってる。ここにもあるもの。上がら見ればわがるもの、光ってで。
矢吹
シドケが、採って〜! って光ってるんですかね?
千惠子
ほらほら、いっぱいある。太くていいの。おや〜いい所だな。
矢吹
ここは宝庫ですね!
千惠子
誰もこごらへんでは採らないんだ。みんな山の上の方さ行ぐがら。
矢吹
穴場だったんですね。
矢吹
息子さんと山菜採りには来るんですか?
千惠子
息子とは、キノコ採りね。マイタケ採りに連れで行ってるの。
矢吹
それじゃあ息子さんの先生ですね。
千惠子
なんも。先生でないよ。好ぎなだげ。みんなプロだのなんだのって言うけど、違うって。プロなんていっぱいいるの。私以外にも好ぎな人いっぱいいるがら。プロでなぐ、ただ好ぎなだげだって。
矢吹
う〜ん。
千惠子
って、一応謙遜してしゃべってる(笑)。
矢吹
ははは〜!! 秋田はそういう意味では山菜の先生はいっぱいいますね。
千惠子
いっぱいいる。こうして生業にしている人もいるし、おじいちゃんがだだって、山さ入ってどっさり採ってくるものな。みんなプロなんだ。
矢吹
でも、山に入ってると気持ちいいですね。
千惠子
だがらね、世間の憂さどがみんな忘れるし、ストレス発散なるし。
矢吹
一緒に採りに来る70歳のおばあちゃんも、千惠子さんみたいに、ひょいひょい山の中歩けるもんですか?
千惠子
私より足長くて、早いの。
矢吹
ほんとに〜!?
千惠子
「今年、山歩げるべがど思ったっきゃ(山に行けるか心配だった)」って言っておいで、私よりよげ(たくさん)採ったっけ。歩ぐの早いんだもの。だがら、「まだまだ大丈夫だ」ってしゃべってるのよ。
矢吹
こんな険しい所を歩けるなんて……。
千惠子
山奥で育って、小さい頃から山に慣れ親しんでるがら。おや、こごさもアイコあった。
矢吹
わ〜! いっぱい採れましたね。ありがとうございます!
千惠子
せば、家に戻りますか!

③山菜って、んめな〜!につづく

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