文=矢吹史子
元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。
写真=船橋陽馬
5月7日(土)
五城目朝市の山菜まつり当日。あいにくの雨。例年はたくさんの人で賑わうこの日も、いつもの活気が見られない様子……。それでも、各店山菜が山積みに並び、山菜汁や五城目名物のだまこ鍋など、美味しそうなものもいっぱい。さて、千惠子さんのお店はどんな様子なのでしょう?
- 矢吹
- おはようございます〜! 雨で大変ですね……。
- 千惠子
- あぃ〜。大変だ。でもほどんど売れでしまったよ。あど、これしかない。
- 矢吹
- ほんとだ〜! 山菜、雨に濡れちゃって。
- 千惠子
- 山菜は雨に当だって元気になって、かえっていいのよ。
- 矢吹
- 人間だけが大変だ。あれから毎日山菜採りに行ってましたか?
- 千惠子
- 毎日毎日。
- 矢吹
- あ、お客さんだ!
(次々とお客さんがやってきて、やっとひと息)
- 千惠子
- 今日はこのぐらい売ったもの。あど良しとする。
- 矢吹
- ほぼ売り切れ。今日は何把ずつぐらいあったんですか?
- 千惠子
- シドケ30把ぐらいあったし、アイコだって40把以上あったね。
- 矢吹
- すごいな〜。
- 千惠子
- 注文のお客と常連さんが来てくれるから、すぐに売れでしまうんだ。やっぱり普段のやってるごどが、いまに繫がってるんだど思う。
- 矢吹
- さっきのお客さんも「ここのを買ったらよそのを買えない」って言ってましたね。
- 千惠子
- まず、できるだけ正直にやるしかないなって喋ってるんだけどね。でも、やっぱり朝市のためになぁ……。このままでいいのがなって思ってしまうの。ただモノ持ってきて、売れで、お金稼げればそれでいい、でなくて。評判も落ぢできてるし、なんとすればいいがなってみんなで考えでるんだけども。
- 矢吹
- いま、若い人たちが「ごじょうめ朝市プラス」っていうのをやっているそうですけど、どうですか? 毎月、0、2、5、7のつく日曜日に、五城目朝市と一緒に開催してるんですよね?
- 千惠子
- けっこう盛り上がってで、コーヒー出す人もいれば、民芸品どが、小物どがも、売れでるみだいだけど、ここの朝市は、本来、観光市ではなぐ生活市で、日常生活で食べるものを買いにくる朝市なんだもの。私たちは小物を売ったりでぎないし、生活に密着したものを出すしかないんだけども、お客さんを呼ぶには、若い人たちのいまの動きはプラスになってるし、若い人もやる気十分だしな。まずは出店者が増えるってごどは、楽しみなのよ。
- 矢吹
- うんうん。
- 千惠子
- 「朝市プラス」で盛り上がってきてるけど、元々売ってる私たちがちゃんとしないと。
- 矢吹
- ベースがあって、プラスですからね。
- 千惠子
- だけど、ベースに問題があるものな。出店者一人一人がちゃんとやらないと、それで客逃げでいってるって思うのよ。目先のごどでなく、長い目で見でな。お客さんどご大事にして。
- 矢吹
- あと10年もしたらね。
- 千惠子
- みんなあの世だ。朝市もだんだん高齢化なってきて、なかなか後継者が育たないじゃない。みんな自分のばり売れればいいっていうんでなくて、買う人の立場になって……って。
- 矢吹
- みんなで足並み揃えるのは難しいですよね。
- 千惠子
- んだ〜。
- 矢吹
- 朝市やってて楽しいことってどんなことですか?
- 千惠子
- やっぱり、お客さんど話したりな。それが一番いいど思うね。自慢じゃないけど、注文くるんだもの。
(ノートを見せてくれる)
- 矢吹
- 注文票!
- 千惠子
- これ、ぜ〜んぶ注文! 5月2日……シドケ、アイコ、2把3把……って、合わせれば50も60もなるんだや。
千惠子さんの注文ノート
- 矢吹
- どこから来るもんですか?
- 千惠子
- 近所のおばちゃんどががら、電話くるの。
- 矢吹
- 全部手書きなんですね。
- 千惠子
- これが一番いいのよ。今年のももうすでに注文きてるもの。字は汚いけども(笑)。
- 矢吹
- 山菜はお店にも卸してるんですよね? 地元のお店ですか?
- 千惠子
- なんも。東京の。
- 矢吹
- どうやって知り合ったんですか?
- 千惠子
- 地元の人の紹介でね。モノがいいがらって。若い人がやってるお店でね。朝市にも来てくれで。昨日も思い切っていっぱい送ってやった。
- 矢吹
- そのサービス精神が、ずっとに繫がるんでしょうね。
- 千惠子
- 私もいっつも「高げぇべが、安いべが……」って迷いながら送ってるんだ。自分がお客さんだったら買うベが〜ど思いながらな。薄利多売だって友だちには笑われるけどもな。
- 矢吹
- そうやって考えてくれてるのを、お客さんもわかるから、千惠子さんから買いたいって思うんでしょうね。
- 千惠子
- 世話なった人さ出すがらって買っていってくれだり、遠ぐ離れだ息子や娘さ送るがらっていう注文も入ってるもの。
- 矢吹
- このあいだ、秋田市民市場で聞いたら、買ったお客さんは、みんな、まずは都会の人に発送するんですって。秋田は珍しい山菜がいっぱいあるから、自分が食べるより先に送るんですって。
- 千惠子
- やっぱり喜ばせたいっていう気持ちがあるでしょうし。私はお裾分けっていうより、売るのが先だがらな。
- 矢吹
- 千惠子さんはそっちでおもてなししてますからね。
- 千惠子
- お金でまけるってごどはしないけど、やっぱり束の良さでな。だがら、よぐ朝市であるのは「あだえ(あなたの家)の電話番号教えで」って。
- 矢吹
- リピーターだ。
- 千惠子
- それで、知らない所がら連絡くるもの。注文の電話。
- 矢吹
- 口コミで? すごいですね。
- 千惠子
- いまからこれも、注文きたの配達に行ってくるがら。
- 矢吹
- すごい! 花束みたいにある。
- 千惠子
- シドケ2把、アイコ5把、ワラビ5把、タラノメもある。配達終わったら、家さ寄ってお茶っこ飲んでいって〜。
- 矢吹
- それじゃ、あとでお家にお邪魔します!
ちょうどこの日は千惠子さんのお誕生日。そして明日8日は母の日。何かお祝いできないかと、タイミングを謀っていたところでした。配達の隙に、花屋でカーネーションの花束を用意して、準備万端。我らの宝母さんのお祝いに向かいます。
(千惠子さん宅)
- 矢吹
- ごめんくださーい。
- 千惠子
- はーい。入ってください。
- 矢吹
- 千惠子さん! お誕生日おめでとうございます!
- 千惠子
- あぃ〜! 嬉しい。なんか催促したみだいだな。
- 矢吹
- 明日が母の日だっていうので、併せて。
- 千惠子
- あぃ〜。きれいだ〜。
- 矢吹
- いろいろ教えていただいて、ありがとうございました!
- 千惠子
- なんも、なんも。でも、いっつも私「山ってありがたいなあ」って言ってるの。ほんっとに。そういうふうに感謝しながらね。好きなごどして、お金も稼がせでもらって。お父さんに怒られでも、隠れででも行きたいんだもの(笑)。
- 矢吹
- ははは〜、そうですよね。
- 千惠子
- 疲れだ〜って思っても、すぐまた行きたいって思えるもの。
- 矢吹
- ほんとに好きなんですね。
- 千惠子
- 好ぎだ〜。だから、息子には「狂ってる」って言われるのよ(笑)。
- 矢吹
- はははは〜。
- 千惠子
- いまに行がれなぐなる日が来るけど、それまで楽しませでもらう。今度はマイタケの時期に来てください! 一緒に食べにましょう~。採れる場所は教えられないけどね(笑)。
秋田の春のふつう、山菜採り。千惠子さんの大きな山菜の束は、大好きな山を仕事にできている幸せの象徴のように感じました。
千惠子さんの言葉が、ためになった
と思われた方はぜひ
「ためになったボタン」を押してくださいね。
※音が出ます
ためになった 199