8月15日、夕方6時すぎ。この日はあいにく小雨まじりの天気だったため、鮮やかな夕日を見ることはできませんでしたが、送り火を焚く7時が近づくと、次第に雨も弱まり、下荒屋の小屋の前には、ふたたび町内のみなさんが集まり、祭壇にお参りをしています。この町内の加藤恵子さんとのお話です。
文=矢吹史子
元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。
写真=船橋陽馬
- 矢吹
- 加藤さんは盆小屋には昔から参加して来られたんですか?
- 加藤
- 私はここで生まれ育って、40年ほど県外にいてUターンしてきたんですけど、生まれが向こうの小屋の浜の町で、嫁いだのが下荒屋なの。
- 矢吹
- そうなんですか。しばらく離れてからこちらに戻ってこられたとき、盆小屋の印象はいかがでしたか?
- 加藤
- 小屋の数が、昔はもっとあった記憶があるのよね。ここを離れていた時期も子どもたちを連れて里帰りしていて、当時、子どもたちは都会から来たもんだから、歌の意味がよくわからなかったみたいでね(笑)。だから家から小屋へ向かう途中、歌って覚えながら来たんですよ。昔は浴衣着て、提灯持っていったの。田んぼのあぜ道を通るから、提灯を持たないと危なかったからね。帰りには必ずホタルを捕まえて、家の蚊帳のなかにそのホタルを入れてね(笑)。
- 矢吹
- いい思い出ですね。
- 加藤
- でも今は懐中電灯に変わっちゃってね……。
- 矢吹
- 小屋を12日に燃やしてしまう町内もあるって聞きました。本来の目的や情緒がだんだん薄れてきてしまっていますよね……。あ! むこうの小屋が燃え始めましたね! こちらももう間もなくでしょうか?
いよいよ始まった送り火。みんなで作った小屋にはあっという間に火がまわり、大きな炎となりました。そして、氏家さんの掛け声に合わせて再び子どもたちが歌います。この日は「お帰りください」を意味する「イトーネ イトーネ」。
- 子どもたち
- ジーダ、バンバーダ、コノヒノアカリデ、イトーネ、イトーネ
繰り返される歌とともに火が燃えゆくなか、氏家さんがお話くださいました。
- 氏家
- 我々は「守ろう」って思うんですけど、若い人たちはだんだんと「どっちでもいいや」っていうふうになってくるんでしょうね。だから「続けていきたいから教えてください」っていうのはないんですよ。
- 矢吹
- そういうなかで、氏家さんが続けてこられたのは、どういうことからなんでしょう?
- 氏家
- ご先祖様が海からやってきて、海に帰っていく。それに対して、迎えなきゃいけないし、送らなきゃいけない。それはもう当然のことだろうと思うんですよね。毎年続けて、子どもたちが大きくなってもこういうことがあったのを覚えてくれていることが一番ですよ。
一方、下浜の町のみなさんも、この盆小屋行事についてこんなふうにお話されていました。
- 勝也
- この行事、文化財に登録されたからね。だがら守らねぇばいげねぇんだ。
- 矢吹
- 文化財であるないを置いて、この行事を続けていくっていうことをどう思われますか?
- 勝也
- 継続ってすごいことだと思うけど、この行事はコミュニケーションみたいなものなんだ。うちは青年会の「海津見会」っていうのを作ってるの。近くの「海津見神社」から名前をとって。そういう会を作って続けていがねぇばなと。膝曲がってヨボヨボなるまでな。
- 秀樹
- ふだん仕事はほぼ残業で、帰ってくれば9時、10時になって、誰とも会わないからね。
- 矢吹
- 今の時代、ご近所さんが何してる人かもわからないことが多いですからね。
- 秀樹
- だから嫌でも顔を出しておかないとなあって。
- 矢吹
- 楽しんでいるようにもみえますけど……。
- 秀樹
- めんどくさいじゃないですか。この行事の準備でせっかくの休みも潰れちゃうしねぇ。迎え盆に送り盆……毎年どこにも行けない。このために仕事もずらしてしてるし。これが優先。でも、いったん顔出さなくなると、もう行けなくなりそうだしね。
- 矢吹
- この町で生きていくには、こういうことに関わっていくと。
- 勝也
- だって逆によ、オレらが霊になったどぎ、やってくれねぇば困るよな。この灯りを道しるべに帰って来るんだから。
- 矢吹
- 帰るところがない! ってなっちゃいますもんね。
- 秀樹
- そうそうそう。でもオレは嫁さんも子どもいないから、小屋作って誰かがやってくれるもんなのかなあって心配になりますよ。逆に勝也さんが長生きしてやってくれるかもしれないな(笑)。
象潟の盆小屋行事。情緒豊かで、暮らす人々と先祖がとても濃く繫がっているのを感じましたが、その一方で、時代とともに効率化、簡略化され、「先祖を迎え送る」という本来の目的から少しずつずれてきていることが気にかかります。
来年も再来年も、象潟の海岸にこの火が灯されることを願ってやみません。>
盆小屋行事のみなさんの言葉が
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