秋田犬保存会の富樫さんの紹介で向かった、ブリーダーの畠山さんのお宅。家に近づいてきたころ、むこうから犬を連れた男性と、若い女性2人が歩いてきました。
文=矢吹史子
元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。
写真=船橋陽馬
- 矢吹
- こんにちは〜! 畠山さんですか?
- 畠山
- はい。
- 矢吹
- 散歩中ですか?
- 畠山
- ああ、さっき電話をくれだ?
- 矢吹
- はい! 矢吹です。みなさんは?
- 女性たち
- 大館市の地域おこし協力隊で、いま畠山さんのところに秋田犬の研修に来ているんです。
- 矢吹
- そうでしたか! 一緒に散歩してもいいですか?
- 畠山
- はい。
みなさんと一緒にひとまわり散歩したあと、畠山さんのお宅でお話を伺います。
- 矢吹
- 秋田犬保存会の富樫さんのご紹介で伺ったんですが、2012年にロシアのプーチン大統領に贈った「ゆめちゃん」の育ったお宅だと聞いたんですが。
- 畠山
- はい。そごにいるのが、ゆめの母親。
- 矢吹
- わー! この子が! 決まったときは、どんなかんじでしたか?
- 畠山
- 当時、うぢで仔犬が3頭生まれだんですよ。1頭はブリーダーを通じで秋田県の羽後町にいったんだけど、もう2頭は当時の保存会の人が「仔犬を欲しがってる人がいる」って写真を撮りに来てだんですよ。でも2ヵ月経っても全然連絡がないのよ。
「ありゃ〜変だな〜」って思ってだんだけど、そしたらちょうど、贈呈式のどぎに発表になって、そごで初めで知ったんですよ。
- 矢吹
- えっ! 途中まで知らされてなかったんですか?
- 畠山
- 絶対に口外しちゃいげないごどだったがら。その後も、うぢの犬行ぐごどは、マスコミには全然出さながったの。大騒ぎになってしまうでしょ。それはありがだがった。公表されだら大変なごとになってだもの。
- 矢吹
- そうですね〜。育ての親とはいえ、ロシアのゆめちゃんとは、もう会えないんですよね?
- 畠山
- もう、大統領家族の一員だがらな(笑)。
- 矢吹
- かわいがってもらえてるんでしょうね。
- 畠山
- あの犬は最高に幸せだ(笑)。ああいう所になんて、誰も行ぐごどでぎないんだがら。
- 矢吹
- 本当ですね! でも畠山さんも、言ってしまえば親戚ですからね(笑)。やっぱりいい犬だったんですか?
- 畠山
- ちょっと肌が弱がったんだ。湿疹が出やすがったがら、獣医さんがら薬用シャンプー買ってきて、こまめに洗って、ようやぐ治って。きれいになって。
- 矢吹
- だったらなおさらかわいかったでしょうね。お嫁に出す前の親のような気持ち?
- 畠山
- そうそうそう。手をかげだぶんな〜(笑)。3ヵ月と2日でむこうに行ったんだ。ちょうどかわいい時期だったな。
- 矢吹
- まさか、ロシアへ行くとはね〜!
- 畠山
- 「ゆめ」にも思わねがった! ははは〜!
- 矢吹
- 畠山さんは、ブリーダーのお仕事をされてどのくらいになるんですか?
- 畠山
- 本格的に始めで、今年で9年。農家をやりながらトンネル工事の仕事をやってあったんだけども、歳も歳だがら、トンネル仕事ももうキヅいがら、それがらボヂボヂ飼い始めだんだ。
- 矢吹
- 元々は犬が好きで飼われてたんですか?
- 畠山
- そう。いろいろ飼ってだども、やっぱり秋田犬が一番いい。
- 矢吹
- 何が違いますか?
- 畠山
- 飽ぎがこない。同じ犬でも、シェパードも、ポインターも、柴犬も飼ってみだけども、秋田犬が一番。
- 矢吹
- 飽きがこない……? どういうかんじなんだろう。
- 畠山
- 何と言うかな、優しいし、人懐っこいがら……。
- 矢吹
- 一緒に育めるというか?
- 畠山
- そうそう。癒されるんだ。これが一番いい。やっぱり秋田の犬だ。
- 矢吹
- でも、9年やっていて、大変なことのほうが多いんじゃないですか?
- 畠山
- いや〜。でも、好ぎだがらな。好ぎでねば飼えねぇ。
- 矢吹
- 今、5頭いますが、この子たちは外に出す予定はあるんですか?
- 畠山
- これは要するに、子どもをとるための犬ど、展覧会用の犬なんだ。
- 矢吹
- そうか〜。いい成績、取ってるものですか?
- 畠山
- いや〜。ながながうまぐいがない(笑)。
- 矢吹
- ははは〜。
- 畠山
- 関東、関西の犬もすごいがらな〜。負げる! みんな血統もいいしな。
- 矢吹
- でも、プーチンさんのところに出した犬がいるとなれば、みんなその血統を求めてくるんじゃないですか?
- 畠山
- これ(ゆめの母犬)の子はすぐ出だよ。
- 矢吹
- 地域おこし協力隊の彼女たちには、どんなことを教えているんですか?
- 畠山
- 散歩の仕方、エサの与え方どが。
- 矢吹
- これからずっと飼っていくことになるので、相談役みたいなことになるんでしょうか。
- 畠山
- う〜ん、そうなのがな。あの子がだもある程度、役所のこともしながら飼わないといげないんだがら、大変だど思うよ。
- 矢吹
- そうですよね。彼女たちにとっても初めての土地で、しかも犬を連れてあちこち動かないといけないんだもんなぁ。彼女たちへもそうですけど、これから秋田犬を飼う人たちへ伝えたい「心得」って、あるものですか?
- 畠山
- 散歩だけは、欠かさずやってください!
- 矢吹
- それはやっぱり、運動をさせて、コミュニケーションをとって……?
- 畠山
- うん。そうすれば、犬は素直になるがら。人懐っこぐなるがら。
- 矢吹
- 直接、一緒に歩くことが?
- 畠山
- そうそう。
- 矢吹
- 地域おこし協力隊のみなさんは、今は仔犬を飼ってるんですよね? ぜひ見せてもらいたいんですが、お願いできるものですか?
- 地域おこし協力隊 富澤さん
- ちょっと上司に確認してみますね。
確認いただいた末、後日、協力隊のほかのメンバーにもお会いしながら飼っている仔犬を見せていただけることに。次回はその活動や、かわいい仔犬の様子をレポートしていきます。