秋田の女性学 「寒天使のカタチ」

写真・文 山本彩乃

1980年山梨県甲府市生まれ。写真家。東京学芸大学美術科卒業。バンタンデザイン研究所、外苑スタジオを経て2006年独立。
雑誌・広告等で活動中。写真新世紀入賞。
http://yamamoto-ayano.com

第2回 寒天使・佐藤ノブさん 端縫いの天使(後編)

前回に続き、羽後町西馬音内に暮らす、佐藤ノブさん、幸子さん親子のお話。今回は、ノブさんが作る盆踊りの衣装のことを中心に、お話を伺っていきます。

端縫い衣装

ノブ 私は隣の湯沢市出身なんですけど、子どものころ「一生に一回は西馬音内盆踊りを観るもんだ」って、父親に連れられて、バスに乗って観に行ったの。でも、雨が降ってね(笑)。当時はよくわからなかったけど、足と手と、バランスよく踊れるっていうのは、大変なことなんだ。ずっと観てても飽きない。
そしたら、お嫁に来て、こうして一生観ることができるようになったの(笑)。私は踊らないけど、とにかく観るのが大好き。

うちは娘が3人。孫は6人いて、3人が女の子。ここのうちの人はみ〜んな踊りが上手でね。この人(幸子さん)たちが高校生のころ、端縫いっこを着せて踊らせたいっていうのが、作るようになった始まり。40年くらい前は、端縫いは、地主さんだったり、踊りの上手な人しか着られなかったんだけど、どうしても着せたくてね。最近はそうでもなくなったけども、いつも頭の中は3日間の盆踊りのことでいっぱいだったの。

幸子 作ってもらったときは、嬉しくて舞い上がりましたよ。それまでは婦人会で作った絞りの衣装を買って着ていたので。着ていても気持ちいいんですよ。踊ってる人はみんな「端縫いを着たい」っていう夢を持って練習してますからね。

ノブ 衣装の切れたところは補修していくの。でも昔の生地はものがいい。ここの生地は、祖母が嫁に来るときに道中で着た振り袖をもらったもの。明治の人の着物。ここの生地は、お父さん(旦那さん)の妹のお姑さんからもらったの。東京から来た生地。そういういわれが一着に詰め込まれてるの。そしてこれを着て、ご先祖さまと一緒に踊るの。

私、踊ってるときに、ひゅっと裾の柄が出るのが好きでね。だから、この内側にオシャレしてるの(笑)。ひゅっとね(笑)。

何枚も生地があって、組み合わせてると「ここに継ぎたい、ここは違う」っていうのが、不思議と現われてくるんですよ。それって、結婚する人も同じだなあって思うの(笑)。
お父さんが私をほしいと親戚中挨拶にまわって。そうやって貰われてきたから「ああ、いがったな、この人をもらって」って思ってもらえるように、努力しましたよ。

私、10人兄弟の6番目で、地主の家に生まれて、若くして嫁いだから、家の仕事が何もできなくて。昔はこの人をおんぶして、泥まみれになりながら働いたんですよ。

藍染め絞り

ノブ 藍染め絞りは、師匠である縄野三女なわのさんじょ先生の図柄です。先生は踊ることを考えて作るかたでした。そして、秋田の風景を描くの。
20年前、私が始めた頃は、この町に染め屋さんもなくなってしまっていて、ほとんどの人が市販の浴衣地で踊っていたんですよ。でも、縄野先生は「藍染めと端縫い、両方あるのが昔からの盆踊りの風景だから、それを取り戻したい」って、「藍染め愛好会」を作って、みんなに藍染めを教え始めたんですよ。そうやって続けてきたら、最近、藍染め衣装も復活してきたんですよ。

これが、一番最初に習った「花いかだ」っていう柄。池に落ちた花びらがさーっと流れるようなことを「花いかだ」って言うんですよね。ほら、ここしくじってる(笑)。初めてのだからな。
始めた当時、私は農業が忙しくて、愛好会のみなさんについていけなかったんです。だから、あんまり縫わなくていい、結ぶだけでもできる柄から始めたんです。ぐるっと縫うでしょ、そして、割り箸を入れてぐっと絞るの。それぞれの絞る力加減で違うから、一つとして同じものはないんです。

それで、初めて作ったとき、一枚に留まらなくて、3枚作っちゃったの。すぐできるもんじゃないけど、やり始めると止まらないの。なんでも徹底的にやってしまうの。

私は兄弟のなかでも一番なんにもできないと思っていたら、みんなに「ここの文化を受け継いでいるから最高だよ」って言われて。それで、うれしくて兄弟たちみんなにも衣装を作ってあげました。

母から娘へ

幸子 踊りは、「音頭」と「がんけ」2種類あって、近所で子どもたちが練習するんですよ。向かいのお姉さんと、同級生と、そこらへんの女の子たちで。そうやって、近所同士でやっていくので、昔は統一した踊りじゃなかったんですよ。今は保存会を作ってきちんと残していこうというふうになってますけどね。
これは娘が小さい頃の写真。子どものころは飽きちゃって、やんだくて、やんだくて泣いだりして、それでもやらせたりしてね(笑)。

娘にも一応は踊りを教えたんですけど、あとは見よう見まねでやってますね。でも、一緒に踊ると自然と合うの。あとで聞くと「母さんさ合わせて踊ってみた」とかって言ってね。一応、私は師匠なんです(笑)。

ノブ 今年の新作、見せてあげて。

これ、挑戦なの。こんな色ほかにはないよ。水色のところは羽織だった生地。美しすぎて、艶やかすぎて、大変だったのよ。端縫いは帯は黒を合わせるの。この鳥っこの柄は道行きコートだったの。この柄をどう合わせるか、なかなかしっくりこなくて。でもちょっと発想を変えて並べてみたら「モダ〜ン!」ってなってね!

これはあなた(幸子さん)に着せたいのよ。着てみれ。今日、初卸し。

幸子 どうしよう、ちょっと勇気いるな……。

親から子へ受け継がれていく寒天の味。その土地で育った人にしか踊れない、700年前からの伝統の踊り。そして、美しい衣装。
はるか昔から伝わる文化を受け継いでいくことは、土地やご先祖様たちとの繫がりであり、この町の奥深さを感じずにはいられませんでした。

その夜、ノブさんの端縫い衣装をまとった、幸子さん、妹の紀子さん、孫の淑子さんが並んで踊る姿は、より一層美しいものに映りました。

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