
大館市内で秋田犬を求めて、大統領の犬を育てたお宅や地域おこし協力隊を訪ねた私たち。最後に、この道40年というベテランブリーダーの日景久榮さんを訪ねると、そこには、生後4ヵ月になる秋田犬、サクラがお待ちかねでした。


文=矢吹史子
元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。
写真=船橋陽馬
- 日景
- こいつは賢しくて、呼べば返事するんだ。サクラ! サクラ!
- サクラ
- ワン!

- 日景
- よしよしよし〜(笑)。

- 矢吹
- お〜!! サクラも笑ってる〜! サクラ! サクラ!
- サクラ
- ……。
- 矢吹
- 私じゃダメか……(笑)。
- 日景
- この子は頭がいいんだよ。エサを催促したり、几帳面だしな。賢い犬かどうかは2ヵ月ぐらいでわがる。
- 矢吹
- しつけっていうのは、どのくらいからするんですか?
- 日景
- 秋田犬はしつけはしない。展覧会でしっかり立てればいいんだもの。お手だのお座りだのは、いらねぇんだ。
- 矢吹
- じゃあ、返事は自然に覚えたんですか?
- 日景
- うん。毎日話しかげでるうぢにな。

- 矢吹
- 日景さんはいつ頃からこの仕事をされてるんですか?
- 日景
- オレは大館で一番古いど思うよ。昭和48年、秋田犬会館がでぎる前からの人だがら。でも、動物を育てるっていうのは大変なごどです。よその人はオレのごどバガだど思ってるべ。真夏でも吹雪でも、朝の5時がら犬連れで歩いでるんだもの。家族の協力なしではやられない。
- 矢吹
- ご家族はどうおっしゃってますか?
- 日景
- オレのかかあ(奥さん)は犬はあんまりなんだ(笑)。たまに頭なでる程度だ。結婚した当時だば嫌がってだな、「この犬〜!」ってな。だって、犬いれば、どごさも行がれねぇんだもの。犬もわがってでよ、かかあさだば、あんまり尾っぽ振らねんだ。

- 矢吹
- ふふふ〜。日景さんには師匠はいるんですか?
- 日景
- いねぇいねぇ。飼い始めだ当時はこのあだりにも仲間(ブリーダー)がいっぱいいだんだ。
- 矢吹
- そういう人たちと情報交換しながら。
- 日景
- そうそう。昔は大館には今でいうブリーダーが各町内一人はいだったんだけども、このあだりも今はオレ一人。もうほとんどいねんだ。
- 矢吹
- それは、飼うのが大変だから?
- 日景
- 犬を育でるだげだば、生活にならないんだ。金かがるし、生ぎ物だしな。でもこれがらは、育てられる人を作らねぇばダメだ。若げぇ人いねぇもの。
- 矢吹
- どうやったら人が育つんでしょうか?
- 日景
- う〜ん……。これは行政の力もちょっと必要だよ。飼ってる人にエサ代の補助やるどがよ……そういうごども必要だど思うよ。

- 矢吹
- いま、都会でも秋田犬のPRをたくさんしていますけれど。
- 日景
- みんな、大館さ来れば犬いっぺぇいるど思ってるべ。都会の人だば、わざわざ来ていい犬いれば、そのまま買って帰ろうど思って来るがらな。でも、びっくりされるんだ。
- 矢吹
- あんまりいなくて?
- 日景
- うん。今は昔ど違ってきたんだよな。昔だば「写真を送ってください」っていう人がほとんどだったけど、今は「受け取りに行きますよ」って言うんだ。そうやって足運ばないと買えないぐらい、犬がいないんだ。
- 矢吹
- そうなのか〜。
- 日景
- 待だせでる人もいっぱいいるんだよ。
- 矢吹
- でも、生き物ですからね……。
- 日景
- ほんとに欲しくてわざわざ来てくれる人も結構いで、頼まれればなんとがしたいど思ってしまうんだけども、この間、海外がらいぎなりやって来て、「金はあるがら20頭くれ」っていうような人もいで、もぢろん断った。そういう簡単なごどではないもの。

- 矢吹
- でも、飼うのが大変ななか40年以上続けてるっていうことは、それ以上に喜びがあったりするんですか?
- 日景
- 嬉しいことっていうのは、自分が作った犬が、大館に戻ってくるごどだな。毎年、大館でやる展覧会にな。あれは何とも言えないな……。オレ、1頭よぉ、ぜひ会いたい犬がいるんだ。
- 矢吹
- え! どこにいるんですか、その犬は。
- 日景
- この犬は、最高級だよ。「ハルト」っていって、群馬にいるんだよ。秋田犬の会報なんかに載るような犬で、おそらく名誉賞候補なんだよ。わがってる人はみんな、オレどご「あのハルトの父さんだが?」って言うの。今年は種子島の人が24時間かげで「ここはハルトが出た犬舎ですよね?」って訪ねてきてな。
- 矢吹
- そういう「我が子が立派になって」っていう楽しみがあるとやめられない! と。近く、展覧会で会えるんじゃないですか?
- 日景
- んだな〜。
- 矢吹
- 育てた犬を手放すときって、情は湧かないですか?


- 日景
- やっぱり、別れってのは辛いよ。生まれだどぎがら見でるんだもの。
- 矢吹
- そうですよね……。
- 日景
- だがら、オレは近ぐの人にはやれないんだ。気になるんだよ。
- 矢吹
- どうやって飼われているか?
- 日景
- うん。子どもど同じだもの。前に、様子見に行って連れで帰ってきたごどもあるよ。
- 矢吹
- そうなんですか?!
- 日景
- 見に行ったっけ、あんまりにも粗末に飼われででな。ダニ付けで、毛も何も手入れされでねくて……。
- 矢吹
- 嫁に出した子どもがね……。

- 日景
- だがら、近ぐの人にやるんだったら、大事にしてくれるってわがる人にしかやらない。
- 矢吹
- 「誰々に飼われて幸せだ」ってなってほしいですよね。
- 日景
- あまり熱心も困るけどな。熱心すぎで、自分の飯の支度もなんもさねぇ人もいるがらな(笑)。
- 矢吹
- ははは〜!
- 日景
- このサクラは今に見事な犬になるよ。展覧会にも出せる。そのくらいのものを持ってる。
- 矢吹
- 楽しみだな〜。また大きくなった頃会いにきますね! ありがとうございました!

秋田をPRするために、活躍を求められている秋田犬。そのかわいらしさは絶大なものですが、生き物であるからこその、切実な問題もあります。その両方を受け止めて初めて、「秋田の犬」と誇れるのではないかと感じます。 最後に、それでもやっぱりかわいい秋田犬を、動画でご覧ください!
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