食と暮らし学 いぶりがっこ

Contents

  • ①いぶりがっこのルーツ
  • ②いぶし小屋へ!その1
  • ③いぶし小屋へ!その2
  • ④いぶりがっこの未来?

文=矢吹史子

元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。

写真=船橋陽馬

いぶりがっこの一連の製造工程を見せていただいた私たち。最後に、いぶりがっこを作るうえでの木村さんの思いを伺っていきます。

④いぶりがっこの未来?

矢吹
工程の随所にこだわりを感じましたが、木村さんが一番大事にされていることはどんなことですか?
木村
単純に「まじめに作る」ということですね。基本に忠実に、みんなで協力しながら。大根の鮮度を落とさないように、収穫、入荷したらすぐ編んで、すぐ燻す。しっかり燻したら、すぐ漬ける。いぶりがっこ造りはいたってシンプルなんですが、それ故の難しさを凄く感じます。手を抜くとてきめんに出てしまう。ごまかしがきかないんですね。これは無添加による加工の宿命でもあります。
矢吹
だからこそ、まじめに。
木村
はい。特にこの時期、どんどん大根は入荷されるので、それを処理しきれない状態というのは、品質を落とす大きな要因になります。だからうちでは、すべて大根の都合に合わせて作っているんですよ。
矢吹
大根の都合!?
木村
はい。でも、それがなかなか難しいんですよ。大量にやってくる大根を受け入れるためには、設備もスタッフも余裕をもっていないといけませんしね。
矢吹
そのあたりも、大根に合わせて?
木村
そうですね。うちでは、設備全体の処理能力の70%稼働ぐらいを目安に大根の入荷スケジュールを組んでいます。そうすることで、イレギュラーにドーンと大量に大根が来たとしても受け入れることができます。設備に余裕を持つことは鮮度を落とさないために必要なことなんです。
矢吹
なるほど〜。
木村
昔ながらの風味を守り続けるためには、そうするしかないんですよね。それは漬ける工程でも同じで、保存料や合成着色料、合成甘味料、調味料(アミノ酸等)なんかを使用すると、もっと楽にできますし、コストダウンにもなります。
矢吹
そうですよね。
木村
でも、添加物は少量で甘味やうま味がのる反面、いぶりがっこ独特の素朴で自然な風味はなくなってしまうんです。
矢吹
そのために、敢えて大変なほうを選んでいるんですね。
木村
商売としての利益とか考えると、無理して無添加とかにこだわらなくても……と思うこともあります。でも秋田の漬物屋として、本来の製法と風味を守り、伝えていくことのほうがもっと大切だと考えています。
矢吹
そのおかげもあって、今や全国的にもいぶりがっこの知名度は上がってきていますよね。全国から通販などでも注文が来ているんじゃないですか?
木村
はい、おかげさまでご注文は年々増え続けています。ただ、すぐに出来るものではなくて………今でもお客様には1~2ヵ月お待ちいただいている状況が続いてます……すごく申し訳ないのですが……。
矢吹
2ヵ月!?
木村
はい、ここ5〜6年は生産が追いつかない状態が続いていて……もっとたくさん作れればとも思うんですが、これがなかなか難しいところなんですよね。
矢吹
すごいな〜! お客さんからの反応もあるんじゃないですか?
木村
ありますね。「今年は良くできたね」とか、「懐かしい味がする」とか、時には「今年のは出来は良くないね」というような厳しい声もありますよ。
矢吹
みなさん、舌が肥えてる! ファンだからこそ、愛情をもって指摘してくださるのかもしれませんね。
木村
うちがこのやり方を貫いていられるのも、これまでお客様の応援があったからこそですよ。
矢吹
でも、今のように2ヵ月待ちともなれば、これから産業としてもっと大きくなっていくんじゃないでしょうか?
木村
う〜ん。原料の産地や製造、物流面でも、人手不足の厳しい波が来ているなあと感じますね。それに、良いものをたくさん作るには、原料の産地の開発や設備の増強など、あまり無理をしないで課題を一つ一つ解決していかなければなりませんし、産業として成長させていくには、次の担い手の育成も大事ですしね。
矢吹
若い世代は興味を持って入ってこないものですか?
木村
若い人たちにこの職業に可能性を感じてもらえるような努力が必要なんでしょうね。それなりに重労働ではありますが、地域の伝統を担いながら新しいものを生み出す楽しさ、分かってもらえないかな~。
矢吹
漬物屋さんという職業は、今の若い人にはあまりイメージできないかもしれないですね……。
木村
スーツにネクタイの仕事も良いですが、うちのように作業着と長靴での職人的なオンリーワンの仕事も魅力があると思うんですよ。ここで作ったものが全国、世界のお客様に食べてもらえるという奇跡(笑)。可能性は無限大だと私は感じています。
矢吹
おお〜!
木村
どんな職業でも、その仕事をすることにアイデンティティとかポリシーを感じられたら、覚悟をもって取り組めると思うんですけどね。だからこそ、この仕事の魅力をもっともっと伝える努力が必要ですし、専門性や効率を高めて社員の収入を増やしていくことも大事ですね。
矢吹
最近は、秋田にもいぶりがっこを作る店が増えてきましたよね。
木村
そうですね。いぶりがっこ屋さんはずいぶん増えましたね。その反面、漬物屋さんは減っているんです。
矢吹
そうなんですか?!
木村
はい。秋田は良くもお悪くもいぶりがっこ一辺倒になっているのが、少し気がかりですよね。秋田には他にも地場の山菜を、味噌、麹、酒粕などで発酵させた美味しい漬物があったりと、漬物の宝庫なんです。漬け方も風味も、県外の有名な漬物産地と比べてもすばらしいものばかりなんです。
矢吹
きむらやさんが復活させたいぶりがっこもそうですが、秋田の名物として他のたくさんの漬物も伝え続けていきたいですね。
木村
はい、実際にいぶりがっこがきっかけになって他の漬物製品にも光が当たるようになってきました。そんなふうにして、秋田の漬物の素晴らしさを発信していければと思っています。そうすれば、産業としても大きく成長できると思っています。

いぶりがっこの純朴な味わいは、とても実直な姿勢から生まれていました。手軽に、便利に走ってしまいそうななか、このように「まじめに」作られたものを食べられることを誇らしく思いつつ、美味しくいただくことで、繫いで行けたらと思います。
最後に、そのままでも美味しいいぶりがっこですが、簡単にアレンジできる食べ方を動画でご紹介します!

  • 食と暮らし学 いぶりがっこ 終わり

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