前回は大きさも形も様々な「もろこし」を一堂に集め、実際に食べてみましたが、そもそもどうやって作られているのでしょう? 丸っこくてかわいい「なまはげ」形のもろこしを作る、大正15年創業の「郷土菓子司 勝月」さんを訪れ、その工程を見せていただきます。
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文=高木沙織
写真=鍵岡龍門
- 片谷
- まずはミキサーにあずき粉と上白糖を入れて、そこに水を少し加えてなじませます。うちは全て手打ちで作っていますから、この3つの材料以外は何も入れません。
- 高木
- 機械で作る場合は材料が変わるんですか?
- 片谷
- 型崩れを防ぐためにでんぷんとか若干の「つなぎ」を入れている場合もあると聞いたことはあります。
- 高木
- 上白糖とあずき粉はどんな割合で?
- 片谷
- 上白糖2に対して、あずき粉が1。そして水の分量は、正確な量は決まってないんですね。やっぱり季節によって水の塩梅も変わってきますし。いま(取材時は5月)は湿度が低くて気温も高くないから作りやすいんだけど、お盆があったりおみやげでよく売れる夏の時期は気をつけないといけない。
- 高木
- そうなんですか?
- 片谷
- 気温が高いので、作ってるうちにどんどん水分が蒸発して粉が乾いていくんですよ。だからその塩梅を見て粉の状態を調整しながら作らないと、後で崩れてしまいます。
- 片谷
- こし器に粉を通して空気を含ませることで、粉の粒子を均一にさせます。
- 片谷
- その後で、今度は手を使って粉を擦ります。これも粉を均一にする作業ですね。これでだいたい粉が安定します。
もろこしは、押し固めて作るお菓子なので、粉の粒子がばらついていると、できあがりが均一にならないんですね。
- 片谷
- まずもろこしの粉を詰める前に、木型にあずき粉を引きます。
- 高木
- もろこしの粉が型にくっつかないように打ち粉をするんですね。
- 片谷
- それから詰めていきます。
- 高木
- 木べらで押し付けるようにして詰めて、その後に手の指でぎゅっぎゅっと押さえるんですね。
- 片谷
- この作業をもう一度繰り返して、ヘラで余分な粉を落とします。
- 片谷
- 詰めるときは、あまり力を入れすぎるとガチガチのものになってしまうので、力加減の塩梅が大事です。
- 高木
- そうか。力まかせに押さえたらだめなんですね。
- 片谷
- そこを気をつけると、口溶けのちょうどいいもろこしができるんです。
- 片谷
- 先が平らになった木づちで、木型の表面をならして……。
コン! トトトトトン
- 高木
- お〜! 木型の端をリズミカルに叩いて上の枠を外すんですね!
- 片谷
- 軽い衝撃を与えて、空気の隙間を作って型離れしやすいようにしています。その後、木型をひっくり返して外します。
- 高木
- この瞬間が緊張しますね。
- 片谷
- この状態で食べてみますか?
- 高木
- いただきます! あ、指で簡単に崩れるくらい柔らかい。
- 片谷
- ここから、乾燥させて固めていきます。
- 片谷
- 乾燥させる場合、「ホイロ」っていう装置を使う店が多いです。下で火を焚いて、その熱でもろこしを乾燥させる。うちの場合は、その装置ではなく、80度くらいの乾燥庫に入れて30〜40分ほど乾燥させています。温度もそれより高いと色が変わっちゃうんです。
- 高木
- どの状態まで乾燥させるんですか?
- 片谷
- はい。爪で押しても跡がつかない程度が目安ですね。焼き色を付けないもろこしの場合はこれで完成です。
- 片谷
- 乾燥が終わったので、焼きもろこしを作っていきましょう。
- 高木
- まずバーナーで網をあぶって、その熱でもろこしを焼いていくんですね。
- 片谷
- 焼く機械はお店によって様々ですね。専用のバーナーが売ってるわけではないので。もろこしを並べた板をゆっくりと移動させながら、網の下に通すと……。
- 高木
- もう焼けてる! 直火じゃないのにすぐに焼き色が付くんですね。
- 片谷
- 砂糖が入っているから、カラメルを作るときと同じ原理でちょうどいい焼き色が付きます。ここで、「ちょっと色が薄いな」と思ったら、もう一回。ちょうどいい具合の色に仕上げれば出来上がりです。どうぞ、食べてみてください。
- 高木
- まさに焼きたて! 贅沢ですね〜。
- 片谷
- 食べるときにね、噛まないで口の中で溶かすようにしてみてください……ほろほろ溶けていくでしょう?
- 高木
- ほんとうですね。
- 片谷
- よく観光客の方に、「もろこしってキャンディみたいだよね」って言われるんです。確かに硬いもろこしを食べるとキャンディみたいなんだけど、僕からすれば、違う。口の中に含んで噛まずにいるとじゅわっと「ほどける」瞬間があるんですよ。
- 高木
- 確かに……私はもろこしは、キャンディどころか、ガリっと噛んで食べるお菓子だと思っていました。
- 片谷
- でしょう。うちのもろこしをずっと買ってくださってる方は、そこが好きだって言ってくださいます。僕もいつも、出来上がったときにちょっと味見がてら食べたりして、飽きのこない素朴なおいしさが好きだなって。自分でおいしくないと思ったら、もう作っている意味がないですからね。
工程を見せていただく中で、何度も耳にしたのが「塩梅」という言葉です。数字でピタリとは表現できない、頃合い。季節ごとの条件を気にしながら「ちょうどいい具合」を重ねていく、その職人技はとても印象的でした。ぜひ動画でもご覧ください。特に、リズミカルに木型を外すところは必見!
次回は、もろこしの元祖、杉山壽山堂さんのお話を伺いながら、もろこしの未来を考えていきます。