8月10日。鹿角市花輪の町なかに着くと、アーケードや町内の会館など、町のそこここで、お囃子の練習が行われ、お祭りのムードがじわじわと感じられます。
この日がお囃子の練習初日という、谷地田町をあらためて訪ねました。
- 佐藤
- ここは、「御旅所」といって、祭りの間、神様がお休みになる場所なんです。それがうちの町内にあるので、ここでいつも練習させてもらっています。
- 矢吹
- すごくいい雰囲気ですね〜! 祭りの期間は神様がここに?
- 佐藤
- そうですね、花輪ばやしって、8月19日、20日がメインではあるんですが、神事としては16日から始まるんですよ。神輿渡御といって、16日に、東山にある幸稲荷神社本殿から、御神体がここにはこばれて、20日まで安置されるんです。
- 矢吹
- なるほど。お! 子どもたち、集まってますね〜!
- 佐藤
- 練習するのは基本、子どもたちだけです。毎年、囃子のコンクールがあるんですよ。町内ごとに中学生までが参加する、子どもたちの戦いなんですよ。
- 矢吹
- へ〜!
- 佐藤
- 毎年祭り初日の19日に開催されるんです。演奏技術を競うものなんですが、ただ叩けばいいっていうものじゃなくて、バチ裁きであったり、掛け声であったりも審査するんですよ。
- 矢吹
- 基礎は、そのコンクールに向けて子どものうちに身に付けてしまうっていうことなんですね?
- 佐藤
- はい。私たちも子どものころに培ったものを元に、毎年叩いているんです。ただ、町内の外からも参加したいという方も受け入れているので、そういう場合は大人でも練習しますけれどね。練習も谷地田町は、七夕が終わったあと、8月10日から始める、というのが昔からのしきたりなんですよ。
- 矢吹
- なるほど〜。そういうことだったんですね!
- 佐藤
- 本番と同じように、前が4つ、後ろが5つ、9つの太鼓で練習します。笛と三味線の「芸人さん」たちも来て、稽古をつけてくださるんです。お、始まりますね。
- 矢吹
- 本番では、何曲くらい演奏するんですか?
- 佐藤
- 実際は12曲くらいあるんですけれど、演奏できる曲数もその町内によって違っていて、うちの町内は「本囃子」「追込」「羯鼓」「二本滝」「霧囃子」「拳囃子」、そして、得意曲で「開化宇現響」。全部で7曲ですね。開化宇現響は、うちの町内のオリジナルなんですよ。
- 矢吹
- オリジナル?!
- 佐藤
- はい。祭りの伝承曲ではなく、うちだけの曲なんですよ。「開化」、ここで開いて化けた曲なんです。昔、春滝っていう笛の名人が編み出した曲らしいんですよ。
- 矢吹
- へ〜! それでも、これだけの種類の曲を覚えるって大変ですね。
- 佐藤
- ええ。でも、子ども時代に覚えることって、しっかり染み付いているんですよね。大人になるころには、もう自然に体が動きますからね。繰り返し、繰り返しですよ。
- 矢吹
- うんうん。
- 佐藤
- 練習は、たった7日かそこらですけど、祭り本番はたくさん叩けますから。あとは、太鼓が好きになれば、どんどんうまくなっていきますからね。
- 矢吹
- 今日はまだ初日ですから、これから徐々に上がっていくんでしょうね。
- 佐藤
- まだ動きも硬いし、声も出てないし……。でも、16日に山から神様が降りてくると、屋台も各町内に戻ってくるので、そうすると屋台で本番同様に演奏できるんですよ。
- 矢吹
- じーっくり見てましたが、私は最後までリズムを飲み込めませんでした……。
- 佐藤
- 子どもたちに教えている彼、高村っていうんですが、彼は、子どもと向かい合わせに鏡のようになって、手を逆に動かして教えられるんですよね。私にはあんな器用なことできないですよ。
- 矢吹
- 佐藤さんの小さい頃はどうでしたか?
- 佐藤
- 先輩たち、厳しかったですよ〜! 「手が上がってない」とか「足が違う」って叩かれたりね。でも、難しいですよね、今の子どもたちは。厳しくしたらしたで、萎縮してしまうし……。今は褒めて伸ばさないと。
- 矢吹
- やっぱり、高村さんはお上手なんですか?
- 佐藤
- まあ、私の次に、ですね(笑)。私が一番うまいですから!
- 矢吹
- ははは〜! みんなそういう気持ちでやっているんでしょうね(笑)。過去の祭りのパンフレットを見ていたら、高村さんが書かれたものがあって、「お囃子が完璧でも、心から楽しかったという達成感がなければ、コンクールで最優秀賞は取れない、と先輩から教わった。」というようなことが書かれてあったんですが。
- 佐藤
- ああ、あいつ、祭りバカなんでね(笑)。
- 矢吹
- すごくいいお話だと思って。やっぱり、楽しむ気持ちが一番なんでしょうね。子どものころは、ベテランの人たちにも憧れるものじゃないですか?
- 佐藤
- 憧れますね〜! 大人みたいに観光客のいるところで叩きたかったですね。とくにお客さんの多い駅前なんて、高校生でもなかなか叩けなくて、大学生くらいでやっとなんですよね。お客さんの拍手や歓声なんかがワ〜ッと聞こえてくると、フツフツと湧いてくるものがあるんですよね。
- 矢吹
- 昔は人数ももっといたのであれば、競争率も高そうですね。
- 佐藤
- 昔は屋台に乗れない人もいましたよ。歳よりも技術的に上手い人が乗れて、年下の人に抜かれたりしてね。だから、負けたくないっていう気持ちから上手くなるだろうし。
- 矢吹
- 佐藤さんも練習、かなりしましたか?
- 佐藤
- しましたね〜。家で座布団叩いたり(笑)。
- 佐藤
- じつは、花輪ばやしって、41歳が定年なんですよ。それで私、今年で41歳なんですけど……。
- 矢吹
- え!! 今年で卒業!?
- 佐藤
- そうなんです。提灯を持った人が屋台を誘導していくんですれど、先頭を歩けるのは、41歳まで。特殊ですよね、祭りに定年があるというのは。
- 矢吹
- え〜切ない……。
- 佐藤
- もちろん、定年以降も、町内に関わることはできるんですけれど、運営自体は41歳までの人がやっていくので。
- 矢吹
- 間もなく本番を迎えますが、心境はいかがですか?
- 佐藤
- 卒業の年とはいえね、まだ卒業したこともありませんし。いつもどおり楽しみたいなと。ケガなく、事故なく。みなさんが楽しんでくれれば。
祭り本番を前に知らされた、佐藤さんの卒業の話! なんともたまらない気持ちになりながらも、練習風景に触れたことで、祭りへの楽しみがいっそう深まります。次回はいよいよ、花輪ばやし当日の様子をレポートします!