三吉梵天祭当日の神社への奉納までの道中、広面、櫻の各町内の様々な世代のみなさんから、梵天にまつわるお話を伺いました。それぞれのお話から、祭りに対する思いや、かつての冬の秋田の暮らしぶりが見えてきます。
- 矢吹
- お父さんは、いつ頃からこの祭りに参加してるんですか?
- 櫻の町内のかた(以降、櫻)
- 15歳から、いま70歳に至るまで!
- 矢吹
- それじゃ、55年、欠かさず?!
- 櫻
- 東京さ5年いだったがら、それ以外は毎年だな。ほれ、俺、標準語だべ?(笑)。
- 矢吹
- あははは〜! きれ〜いな標準語ですね。
- 櫻
- 昔はもっと参加する人が多がった。一時期、祭りの参加者も下火になったごどもあったけども、こご10年ぐらいで、だんだん盛り返してきてるんだ。
- 矢吹
- 下火になったっていうのは、どうしてなんですか?
- 櫻
- 世代交代よ。昔はみんな百姓で勤め人はいながったけど、今はみんな会社勤めだべ? 勤め人が多ぐなって若い世代がながなが集まらなぐなったの。祭りが毎年1月17日って決まってるがら、祭りの日が平日に当だるど、会社休んでまで来られねぇべ? 神社にも日にちを変えられないがって相談もしてるけど、神社にも神社の事情があるんだよな。
- 矢吹
- そういうなかで、どうやって盛り返し始めたんですか?
- 櫻
- 俺は町内で野球なんかもやってだがら、その仲間さ声かげだりな。自分より10〜20くらい年下の人だぢにも集まってもらって、そういうどごろがらだんだん多ぐなってきた。最近だば会社規模でも参加してくれでるしな。
- 矢吹
- 参加し始める、その一歩までが大変そうですよね。
- 櫻
- とにかぐ、梵天っていうのは、昔は不良に見られだがらな。けんかもするし酒も飲むがら、嫌がる人もいる。でも戦力を求めで「一緒にやるべ」って声かげで、だんだんと参加するようになるんだ。その声かげが大事なんだな。
- 広面の町内のかた(以降、広面)
- 俺はいま62歳だけど、昔は18歳になるど、町内の発起人、責任者をやらされだの。俺が発起人のどぎは、梵天の飾りがみんな取られで、裸にされで、大変だった……。
- 矢吹
- 18歳で! その重圧ってすごそう……。でも、そういうところから町内の大人として認められていくんでしょうね。
- 櫻
- 50年くらい前の梵天は今よりもずっと大変だった。もっともっと歩いだ。梵天を持って10〜20kmくらい離れた町まで歩いでいって厄払いしながら、「奉賀」っていって、寄付金を集めに回るんだけど、当時はみんな1円どが5円どがの小銭しかくれながったがら、何軒も回らないどいげない。そうするど、小銭で集金袋が重くて重くて……ふらめぎながら(フラフラしながら)歩いできた。
- 広面
- 自分の町内がらもらう奉賀は、お金じゃなく米だったんだよ。そごでもらった米をお金に換えだりしてだんだ。そして、昔は祭りの17日は、酒を2斗(36リットル)空げでだ。
- 矢吹
- 2斗?!
- 広面
- 道中の酒屋では酒を振舞ってくれでだしな。今は町の酒屋自体が減ってるがら、そんなごどはでぎないな。
- 矢吹
- 今は限られた町内が参加する祭りという印象ですが、昔は秋田市をあげて盛り上がっていたんですね。
- 広面
- 昔って、このあだりはだいたいみんな百姓だったがら、冬は何にもやるごどないのよ。だがら、酒飲んで、三吉さんで荒げで(暴れて)、そごでもまだ足りねくて、終わってがらまた田んぼに来てけんかして……。だって、その日は無礼講なんだもん。鬱憤だよな。1年の憂さ晴らしっていうがな。
- 矢吹
- 秋田の冬は雪に閉ざされると、どうしてもみんな鬱々としてきますよね。
- 広面
- うん。とぐに広面なんて、昔は田んぼだらげで陸の孤島のような場所だったがら。それにうぢの町内は、秋田市とはいっても竿燈まつりにも参加してないし、他の祭りもない。だがら、梵天っていうのは地域の一大行事だったんだ。
- 矢吹
- だからこそ、一気にエネルギーを放出するんですね。それに、夏場は体力を使って農業したりしてるのに、冬は動かないなんてできないのかもしれませんよね。
- 広面
- そうそう。寒いなか、あまりの熱気で、みんな頭から湯気を出してだ。今はそういうごどはなぐなったがら、そのあだりはもの寂しいな。
今は町内の梵天は20本もないけれど、昔は40〜50本あって、境内に着く前からもう押し合い。周りの住宅は全部家を閉めで2階から見ていだんだ。そのくらい人でいっぱいだったんだ。
- 矢吹
- すごい迫力でしょうね!
- 広面
- でも「我々のころはこうだった」なんて言ってでも仕方ない。今は今の時代に合ったごどがあるがらな。
- 矢吹
- お若いですね。おいくつですか?
- 広面
- 20歳です。今年初めて参加するんですよ。
- 矢吹
- そうなんですか?! お祭り自体は見たことはあるんですよね?
- 広面
- いや、ないです。
- 矢吹
- え?! じゃあ、これからどういうことが起こるかわからないんですね……。このあと、けっこう危険なかんじになるみたいなんですけど……。
- 広面
- なんとなくは聞いてるんですけど……。まずはやってみます(笑)。
- 矢吹
- 梵天を持ってみて、いかがですか?
- 広面
- 結構重い……。持ち方すらわかならなかったから。休み休み行けば大丈夫かな?
- 矢吹
- 腰の帯にひっかけて、支えながら持つんですね。このお祭りは、どういうきっかけで参加することになったんですか?
- 広面
- 叔父に誘われて……。
- 矢吹
- 叔父さんは毎年参加されてるんですか?
- 叔父 私は3〜4年くらい。生まれは広面なんですけど、18歳から県外に出でしまって。でも、最近こっちに戻ってきたら、町内の若頭と同級生ってごどもあって、ずっと誘われ続げでだんです。ずっと逃げ回ってだんですけど……。
- 矢吹
- 捕まっちゃった?(笑)。
- 叔父 はい。でも、やったら面白がった(笑)。
- 矢吹
- どのへんが醍醐味ですか?
- 叔父 一年に一回、爆発する!
- 矢吹
- 大人になってから大暴れできる機会なんて、なかなかないですからね。
- 叔父 私は紳士なので、けんかはしませんよ(笑)。
- 矢吹
- あくまで「もみ合い」ですからね(笑)。お母さんも心配してるんじゃないですか?
- 叔父 「頼むよ!頼むよ!」って、念押されできました。
- 矢吹
- 「大事な息子にケガさせないでよ!」ってね。
- 矢吹
- ガタイいいですね〜。ご参加はされないんですか?
- 広面
- 今年は膝を痛めでいで、出られなくて。
- 矢吹
- 広面のナンバーワンの腕力のかたが、負傷していると聞きました。お兄さんだったんですね!
- 広面
- 俺は元は北秋田市の人間で、広面でもないんだけど、7年前、先輩に誘われで参加するようになったんですよ。高校時代も柔道で日本で5位で、総合格闘技の大会にも出だりしていで。
- 矢吹
- えーーー!!
- 広面
- 柔道で繫がりがあった広面の先輩に「お前の力が活がせる祭りがあるがら」って誘われで、二つ返事で参加してみました。
- 矢吹
- 初めての参加のときって、どうでしたか?
- 広面
- よその町内の梵天1基、全滅させでしまいました。梵天の飾りも、ベースになってる竹籠も全部バラバラに……。あのころは体力が一番あったので。
- 矢吹
- ひゃ〜〜〜! 絶対に敵に回したくない……。でも、毎年声をかけてもらって参加しているって、良い関係ですね。
- 広面
- 他の祭りにもいくつか声かげでもらってます。秋田の伝統的な祭りに参加でぎるのっていうのはおもしぇし、参加させでもらえるだげでも光栄なごどで。俺の周りは40歳過ぎでもやんちゃな人ばっかりですよ!
次回は、奉納後の広面の反省会にお邪魔します。そこでの盛り上がりから、町内会というコミュニティの豊かさをあらためて実感させられます。