秋田県民の胃袋を支え続けてきた「たけや製パン(以降、たけや)」。今回は、その製造の様子を取材させてもらうために、秋田市川尻にある、パン工場へやってきました。案内してくださったのは、営業部企画課長の加藤勇人はやとさんです。

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編集・文:矢吹史子/写真:高橋希

講師 たけや製パン 営業部企画課長 加藤勇人さん

パン工場へ!

用意していただいた作業着に着替え、しっかりと消毒をしてから、いよいよ工場内へ!

矢吹
一般のかたが見学されることもあるんですか?
加藤
いえいえ、ほとんどしていません。今はとくに、インフルエンザやノロウィルスの怖い時期でもありますのでね。
矢吹
そうなんですね! 貴重な機会をありがとうございます。
加藤
この工場は今年で50年目になります。
矢吹
そのわりにはピカピカですね。しっかり手入れされているんですね。
加藤
ガワは古いんですが、設備だけは毎年1億6000万円かけて更新していっているんですよ。
矢吹
毎年!
加藤
うちは、菓子パンも含めて、パン全体で1日15万食作っているんですよ。
矢吹
15万食!! 秋田県内全部のものを、ですか?
加藤
はい。秋田県内と、一部は仙台にもいきます。
矢吹
15万食となると、何度も何度も回さないといけませんよね。
加藤
24時間体制でやってますから。これは、伸した生地でオムそばを包んでいるところですね。
矢吹
手で包むんですね!
加藤
ここは「バラエティ」というラインで、手作業が入るラインになります。商品によってハンバーグを2枚入れてみたりとか、細かい作業があるのでどうしても手でないと作れないんですよね。
矢吹
へ〜!
加藤
もうひとつ、こちらのラインで作っているのはミニパンシリーズです。
矢吹
わ〜! 好きなやつだ〜!
加藤
こちらは、手で包むのが難しいラインナップなので、全て機械で行います。
矢吹
なるほど〜。こっちは食パンが流れてきてますね! わ〜圧巻!
加藤
食パンの内側の白い部分は触ると痛みやすくなるので、ミミを落としてからは手を触れずに、なるべく空気にも触れないようになってます。
矢吹
わ〜! もう袋に詰まってる!!
加藤
ここでクイックロックされて、金属探知機を通って、出荷場へいきます。
矢吹
あっという間にできた!
加藤
こちらはハードロールのパンで、全て手作業で作っています。技術の養成という意味もありまして、機械だけに任せてしまうと技術が退化してしまうので、手で触って状況がわかる人がいなければ、ということで。
矢吹
ハード系のパンは繊細なんですね。
加藤
技術を要するので、うちの職人のなかでも「トップの技術」を持っているのがこの登藤とどうさんなんですよ。
登藤
やめてくださいよ〜。
矢吹
パンを作られてどのくらいになるんですか?
登藤
私はもう30年ですね。
矢吹
大ベテランさんですね。これは今、なんというパンを作られているんですか?
登藤
これは「ソフトフランス」ですね。
加藤
このラインでは、コンビニエンスストアのパンも作っているんです。手が込んだ商品が多いので、職人は重要なんです。
矢吹
コンビニエンスストアのパン、美味しくなってますからね〜。
加藤
この量りなんて年代ものですよね。
矢吹
ここまで機械化されているなかで、まさかこういう道具も使われているとは!
加藤
新入社員なんかは最初はここに入ってもらって、パンの基礎を学んでもらうんですよ。手作業もできるし、機械もできるとなると、作る製品の幅が広がりますからね。
矢吹
また美味しいパン作ってください! ありがとうございます!
登藤
は〜い! ありがとうございます!

68年愛されてきた味

工場見学を終えて、加藤さんにお話を伺います。

矢吹
それにしても、1日15万食。すごい数ですよね。秋田県の人口が約99万人なので、7人に1人は食べているくらいの計算……。工場はここだけなんですか?
加藤
ここだけですね。当社は今年で68年目を迎えたんですが、すべて「基本は秋田」なんです。
矢吹
秋田県民には、かなり深く浸透していますよね。誰もが食べたことがある。これは全国的にも珍しいんでしょうか?
加藤
そうですね。青森だったら工藤パンの「イギリストースト」、山形だったら、たいようパンの「ベタチョコ」、岩手なら福田の「コッペパン」なんかもありますけど、秋田は独特で、うちは山崎製パンの商品も扱っているんですが、それを加えると県内市場の占有率が7割。学校給食は8割くらいになります。
矢吹
すごい……。創業してからの68年間、変わらず続いている商品というのはあるんですか?
加藤
1話目で取り上げていただいた商品は、ほぼほぼ、始めからのものですね。
矢吹
ロングセラーと書いてある商品がそうなんでしょうか?
加藤
はい。この工場は昭和43年に今の場所に移転したんですが、それ以前の秋田駅前に工場があったころからの商品も多くありますね。今、1日トータルで300〜400の商品を取り扱っているんですが、そのうちの50品は昔から変わらないものなんですよ。
矢吹
50品を68年間も……。
加藤
今は、新製品を出しても売り上げは2ヵ月くらいでぐんと下がるのが一般的なんですよ。コンビニエンスストアのPB(独自ブランド商品)なんかも、新製品を出しても、3週間後にはカットされることが決まっているし、話題になっても食べない人が多いままなくなっていく……。
矢吹
すごい早さ……。
加藤
そんなライフサイクルのなかにおいて、当社のロングセラー商品は、毎月安定してお取り扱いいただけている、というのが強みですよね。

アベックトーストの誕生

矢吹
これらのロングセラー商品、並べてみると、やっぱりネーミングが気になりますよね! ちなみに「アベックトースト」っていうのは、どういうところからできた商品なんでしょうか?
加藤
当時、今で言う「カップル」っていうのを「アベック」と呼んでいたんですね。今では完全に死語ですけどね。工場がこちらに移転する前、昭和35年ころの話です。
矢吹
当時にしたら、相当かっこいい言葉だったんでしょうね。「パンにアベックってつけちゃうぞ〜!」って(笑)。
加藤
ネーミングについては、当時の食パン担当が付けたということはわかってるんですが、それ以上のことはわからないんですよね。じつは、ずっと掘り下げて調べてみたんですよ。ビスケットも、コーヒーも、バナナボート、学生調理も……。
矢吹
へ〜!!
加藤
でも、名付け親まで辿り着けない……。
矢吹
謎に包まれた感じも、また良いですけどね(笑)。
加藤
うちは学校給食や学校の売店に納品してまして「学生のお腹を満たすパンを作ろう」ということで作ったのが最初なんですよ。発売当時は、食パンにマーガリンだけを塗って挟んだものと、ジャムだけを塗って挟んだもの、それぞれ1組ずつ、合計4枚のパンで1袋だったんですよ。
矢吹
はじめはマーガリンパンとジャムパンの「アベック」だったんですね!
加藤
そうしたら、お客さんのほうから「マーガリンとジャムを合わせて食べたい」というご意見があって、そこから今のように、マーガリンとジャムを一緒に塗るようになったんですよ。
矢吹
へ〜!挟みかたは途中で変わりましたけど、名前を変えようという声はなかったんですか?
加藤
うちもそのへんは頑固で(笑)。先人への敬意を払い、名前は絶対に変えないんです。
矢吹
ふふふ。「カップルトースト」にはならなかったんですね。でも、同じパンだったとしても、名前が違ったら買わなくなってしまうかもしれませんよね。

間違いから生まれた、学生調理

加藤
学生調理も「学生が作ったパンだから学生調理と付けたんでしょ?」と言われるんですけど、そうじゃないんですよ。
矢吹
うんうん。
加藤
これもベースは学校給食なんですが、あるとき学校に「これ、学生は好きそう? お弁当代わりになるんじゃない?」と試作品をお持ちしたところ、売店さんが間違えて売ってしまって……。
矢吹
え〜〜〜〜〜!!!
加藤
そうしたら、学生から「あれ、今度いつ入るの?」となってしまったもので……急遽、商品にしなきゃ! ということで生まれたんですよ。
矢吹
おもしろ〜い!!
加藤
今は商標登録をチェックしながら出していますが、昔はネーミングがもっと自由だったんですよね。飲み物でもないのに「コーヒー」とか、ビスケットじゃないのに「ビスケットパン」だったり。
矢吹
うんうんうん! それに、パッケージも、フォントや色のイメージまで昔のままですよね。これも敢えて? 
加藤
そこも絶対に変えません!
矢吹
私、ビスケットパンが昔から大好きだったんですが、ずっと気になっていて……あのパッケージの女の子って、名前はあるんですか?
加藤
あります!
矢吹
うわ〜!!! ちなみに、何と……?
加藤
「たけ子」。
矢吹
ははは〜!! 意外! 和風なんですね!! ビスケットパンもそうですが、ロングセラーの商品は味も変わらないんですか?
加藤
そこについては、原料は変えていませんが、設備は更新していっていますから、昔よりは格段に美味しくなっています。品質を落とさずに、今まで通りの価格で買っていただけるように、1時間で1500個作っていたものを2000個できるようにしたり、5人でやっていたことを4人でできる方法はないか、そういう企業努力はしています。

秋田の人が喜ぶ商品だけを作りたい

矢吹
こうして商品を作るなかで特に大事にされていることって、どんなことですか?
加藤
食品の会社ですので、安全衛生が一番ですね。商品ができたときの検査は徹底して行っています。そして、新製品開発で大事にしていることは、今、秋田県は高齢化が進んできているとはいえ、若い人がいないわけでもありません。だから「秋田の人が喜ぶ商品だけを作りたい」と思っています。
矢吹
そこに特化していく。
加藤
一般的には、市場として小さくなってきていると言われていますから、広く、関東方面まで広げられるようにしていったら良いんじゃないか、という考えも出てくるんです。
矢吹
うんうん。
加藤
それはそれで、考えようという姿勢はあるんです。お土産のように長持ちする商品だったり。それでも、基本は「秋田のみなさんにどう喜んでいただけるか」が一番なんですね。何かしらの方法で驚かせたい。
矢吹
ふふふ。
加藤
「あ〜!あるある!」「それ欲しかった!」っていうようなものを。

「何かしらの方法で驚かせたい」という加藤さんの言葉のとおり、たけやからは毎月ユニークな新製品が誕生しています。
次回は、その検討会議の様子をレポート! たけやのみなさんのパンに対する情熱がぶつかり合います。

公開! 新商品開発会議 につづく

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