創業以来、68年もの長きにわたって秋田で愛され続けてきたパンがある一方で、たけや製パン(以降、たけや)では毎月新しい製品が誕生しています。
今回は、その企画会議の現場をレポート。そこには、たけやのみなさんのパンに対する情熱が溢れていました。
パンに見られる、郷土愛
- 矢吹
- ここ数年、たけやさんの新製品には特に面白い商品が多い印象がありますね。
- 加藤
- 新製品の提案は昔からずっとやっているんですが、ここ数年は、とくに地元を巻き込んだものが多いからかもしれませんね。高校生に新しいバナナボートの味を考えてもらったり、B級グルメの「本荘ハムフライ」を入れた商品を作ってみたり……。
- 矢吹
- 確かに、話題になっていましたね。
- 加藤
- 不思議なことに、同じB級グルメの商品を使っても、他の県のものではなかなか売れないんですよ。
- 矢吹
- 秋田の人たちって、よそのものを受け入れるのに時間がかかりますからね……。
- 加藤
- よその県のご当地パンをまねて挑戦してみたこともあったんですが、全く売れませんでした(笑)。新商品を発売してみていつも思うのは、秋田県のみなさんの郷土愛の強さなんですよね。
- 矢吹
- 新製品は、毎月どのくらい作られているんですか?
- 加藤
- 20品ですね。
- 矢吹
- 20品! それを毎月ですか?!
- 加藤
- そうですね。
- 矢吹
- すごいな〜。どういう流れででき上がるんでしょう?
- 加藤
- 今は5月の製品について検討しているんですが、あまりに突拍子のないものが生まれても困るので、あくまで、コンセプトや道しるべは私のほうで出して、あとは生産側がラインの特徴や旬の具材使って「これは自信をもって出せる」という商品を提案する。そこからふるいにかけていきます。
- 矢吹
- 何段階か試作を重ねていくんですか?
- 加藤
- 4段階あります。毎週金曜日にやっているんですが、1回目は企画のコンセプト説明。2回目は製品検討会。これは試作品を食べながら行います。3回目に再度試作品を検証して、4回目の最終会議でどの商品を販売するかを決定します。
- 矢吹
- 時間をかけてできていくんですね。ちなみに、5月はどんな商品が登場するんですか?
- 加藤
- ちょうど今日はその決定会議をしていますので、実際に現物を見ながら……。
- 矢吹
- え! 見せていただけるんですか?
- 加藤
- はい。
- 矢吹
- おおおお〜〜〜〜!!!
- 加藤
- では、会議室へ行きましょう。
本邦初公開! 新製品開発会議
なんと、新製品開発会議にメディアが潜入するのは、これが初めてとのこと!
緊張しながら会議室にお邪魔すると、専務の安東さんを中心に、生産、営業のかたなど20名ほどが机を囲んで話合い中。
会議では、20種類以上のパンやお菓子を、生産担当のかたが一品一品プレゼンしていきます。全員でしっかり試食をしながら意見交換していくのですが、そこに、今回は特別に私たちも参加させてもらいました。
- プレゼンター
- こちらは通常の商品に練乳ミルククリームを入れたもの、コーヒーフィリングを入れたものです。先週4品作ったなかで、この2品の味が良かったとのことで、今日はどちらにするか決定したいと思います。
- 生産
- コーヒーはやっぱりお子さんに喜ばれますよね。ただ、味は良いんですが、見た目がちょっと……。これだと現行の商品と見た目が似ていて違いがわからない。
- 営業
- 練乳も美味しいなあ……。捨てがたいので、違う月に回して良さそうですね。
- 安東
- 例えば、ミニパンシリーズの定番というと、人気は粒あん、クリーム、チョコ……次にミルク、もしくは練乳。なので、練乳もアリなんだけれど、秋田では「コーヒー」というパンが他の県に比べて圧倒的に支持されている。小さいころから食べ慣れて安心感が絶対的にあるんだよな。なので、練乳もコーヒー味もどちらもやる価値があるのかもしれない。
- プレゼンター
- 続いて、半熟卵のカレードーナツです。カレーフィリングと半熟卵を1個入れています。今回は前回と成形方法を変えて、卵が壊れにくいようにしています。
- 安東
- 卵が崩れたら意味ないからな。値段は結構するけれど、この迫力はそれを払拭するくらいの価値はあるかもしれないな。
- プレゼンター
- 前回、カレーペーストの味が薄かったんですが、今回はしっかりした味わいのものに変えて卵に負けないようにしています。
- 安東
- カレーパンの主要顧客層は40~60代の男性が全体の半数を占めていて、女性はあまり手を出さない。女性はこれ1個食べたらカロリーが気になるんだよな。なので、これはオヤジの意見を聞いたほうがいいね。
- プレゼンター
- 続いては、塩バターフランスパンのシリーズとして、生地に黒ゴマを練り込んだものと、バジルを練り込んだものになります。
- 生産
- バジル、美味しいですね。
- 安東
- 生で食べると、良さがわかりにくいな。「温めて食べて」っていう食べ方提案がわかりやすいようにしてほしいな。バジルのほうはフランス料理なんかの脇にこれがあったら、楽しくなるね。市販のカップスープでもいいから「スープと一緒に食べよう」みたいな提案して販売できないかな。
- プレゼンター
- 続いて、クレープケーキにメロンクリームサンドしたものです。
- 生産
- これ、香料がきつくないか? 若い女性はどう?
- 女性スタッフ
- 私はこのくらい香りがあったほうがいいですね。
- 安東
- 意外と中年の単身男性もこういう商品を夜に買っていくんだよ。夜の9時とか10時にコンビニに行くと、俺と同じような年代のスーツ着た人が、スイーツの前に立ってたりする。弁当買って、もう一つは甘いものをと悩んで、シュークリームとか、エクレアとかを買ってるんだよな。
- 営業
- メロンクリームに関しては、実際は夕張とか富良野とかのメロンの産地をうたったほうが信頼性が高くなるので、明記して販売していけるように調整中です。
選ぶ喜びを
こんなふうにして、過去のデータや日々の感覚なども交えながら、味や製造方法、価格を丁寧に検討しながら作られている、たけやの新製品。会議の最後に、安東さんから講評がありました。
- 安東
- 常々みなさんにはお願いしてますけど、一品一品の完成度について、「まあ、こんなもんか」というのではなく「もっとできるんじゃないか?」というのを、手を抜かないで、ギリギリまで取り組んでもらいたい。 「数打ちゃ当たる」は、経営的に考えても効率の良いものではありません。「完成度の高い、的を絞ったアイテム」をきちんと作っていくほうが生産効率も良いし、収益の向上にも繫がりますので。
- 最終的に大事なのは「お客さまに満足していただけるか?」ですから。ボリューム重視で「安くてこれくらい大きくないと売れないんだ」って言われることもあるけれど、たぶんそのパンは1回食べたら2回目はない。後半、食べるのがキツくなって、次は別のにしようって思われるよりは「もうちょっと食べたかったのに」という感覚を持って、みなさんには作ってもらいたいですね。
(会議を終えて)
- 矢吹
- 貴重な機会をありがとうございました!
- 安東
- パン屋の新製品会議はこんなふうにやってます。20品目、手抜きなく食べないといけないから、正直、このあとのお昼ごはんのことは考えたくない……。
- 矢吹
- ははは〜! 私たちもお腹いっぱいです。こういった時間があるから、会社のみなさんに考える習慣や学ぶ習慣ができていくんですよね。県内シェア7割という実績にあぐらをかかずに、日々研究されているんですね。
- 加藤
- 今日はみなさんがいらっしゃったので、おとなしかったんですが、いつもはもっと……。
- 矢吹
- 喧々諤々?
- 加藤
- はい。「これは誰のために作ったんだ?」「何のために作ったんだ?」「コンセプトは何だ?」とね。
- 安東
- これだけやっても、すべての新製品を買っていただけるわけではないんですが、秋田のみなさんには「こんなにある! どれにしようかな?」と選ぶ喜びっていうのを感じてもらえたら。そうやって毎日を楽しく過ごしてもらえるようにやっているんですよ。
新製品の会議を目の当たりにした私たちは考えました。「自分たちなら、どんなパンを提案するだろう?」
次回は、加藤さんに新製品を作る際のポイントを伺いながら、「あたらしいパン」について考えていきます。