秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:竹内厚 写真:蜂屋雄士

まさにノーミュージックノーライフ。 ホソレコで音楽再発見。
細川レコード店(秋田市土崎)

2018.04.04

秋田市の土崎といえば古くからの港町。ここに今でも山ほどカセットテープを販売しているレコードショップがあるという噂を聞いて、訪ねてみました。
到着した店の看板には、縦書きで大きく「細川蓄音器店」。カセットどころか、もっと前で時代が止まってるのか!? いえいえ、むしろ時代に並走する町の音楽ショップでした。

縦書き看板こそ「細川蓄音器店」と書かれてましたが、店の中に一歩入ると、ジャンル別に分かれた棚にアーティストの名前順でCDがずらりと並ぶ、いわゆるCDショップの雰囲気。まずは、目当ての「カセットテープ」を探しました。

と、ありました! 店のいちばん奥の一角はすべてカセットテープ。すごい。これだけのカセットテープを販売している店って、最近ではまず見た記憶がありません。

手書きのインデックスもいい感じ。

ただし、よく見るとその99分までは演歌・民謡のカセットです。もしかして、トラック野郎の御用達店なんでしょうか。

店頭にいらしたのは細川まもるさん、信二さん。77歳の護さんが「社長」、その次男の信二さんが「店長」と呼ばれているそうです。

「どっちでもいいんですけど、他の従業員が呼びやすいように、です」と信二さん。

聞けば、信二さんで3代目。

今年で創業93年目という、カセットよりもレコードよりも長い店の歴史がありました。

私のおやじの時代は、どこも「蓄音器店」と言ってたと思います。最近、おやじがラジオ番組に出て昔のことを語ってる取材テープが出てきたんだけど、そこでおやじが話してたのは、蓄音器をリヤカーに乗せて、町を巡って音楽を聞かせてまわりながら、商品を販売していたそうです。今はレコードもわからない若い子が多いのに、蓄音器の話なんて、もっとわからないでしょうけど(笑)。

——リヤカーを引いて家にやって来る音楽ショップ。そんな時代があったんですね。

ちなみに、看板の「蓄音器」の表記は当時から。「たいていの辞書では「蓄音機」と書かれていますが、うちが正解だって思ってます」とのことなので、ここでは蓄音器で通します。

突撃取材だったので、ジャケットスタイルは護社長の日常着。ダンディです。

肝心のカセットテープの話です。

信二
トラックの運転手もよく来られますけど、軽トラックで農作業をされてる方だとカーステレオにテープデッキしかなかったりするから、農家の方もまだカセットで音楽を聞いてる方は多いですよ。あとは、踊りの練習。ちょっと巻き戻したりするのはCDよりもテープの方がいいそうです。

——そうか、新舞踊の現場もカセットが現役なんですね。やっぱり演歌が中心になりますか。※新舞踊……日本舞踊を演歌、歌謡曲、民謡といった、現代に馴染みのある曲に合わせて振り付けした創作舞踊。

信二
もともとはどのジャンルも平均的に置いてたんですけど、よそであまり置かないからうちに買いに来られるお客さんが増えてきて、それで結果的に今のような棚になりました。 なんですけど、店のBGMとしてはなるべく演歌をかけないようにしています。

——おっ、そうなんですね。

よく見れば演歌屋の提灯が。 演歌CDの品揃えもおそらくタワーレコードをはるかに上まわる(筆者実感比)。
演歌カセットの試聴はこちらのラジカセで、店内に鳴り響かせる。

確かに、店内をぐるっと見てまわると、J-POP、ジャニーズ、韓流、洋楽、クラッシック、ジャズ、アニメとひと通りのジャンルがすべて揃っています。しかも、どの棚もこまめに手を入れて、商品を随時入れ替えていることがよくわかります。とりわけ、J-POPの品揃えは相当フレッシュです。

信二
そこは戦いです。あんまりやると(社長に)怒られるので。だけど、新しい音楽も置かないとやっぱりお客さんには来てもらえませんから。
空のカセットテープも販売。
レコードプレーヤの針も販売。ただし、アナログレコードは売ってません。

信二さんは3人兄弟。中学生の頃から、兄弟の中でいちばん音楽好きが店を継ぐという話になり、その後、東京の大手レコードショップでも修行をして、秋田に戻ってきました。東京ではJ-POPを担当していたそうで、この人の音楽はいいと思ったら、きっちり盤を揃えて応援するスタイルを貫いてきました。

信二
だから、棚を見てもらったらわかるんですけど、どうしてこのアーティストのアルバムがこんな揃ってるんだというのが結構あります。出会ったことのないCDもたくさんあると思いますよ。
信二さんイチオシの篠原美也子、旧譜から新譜まで揃っている。シドはなぜか手書き。

そう聞いてから改めてJ-POP棚をじっくり拝見。気になるアーティスト、アルバムが次々と目に飛び込んできます。手にとってジャケットの表と裏を見比べながら、どんな音楽なんだろうと想像する時間。この感覚、ものすごく久しぶりだなー。

というわけで、カセットテープの取材に来て、ついCDを買ってしまいました。取材陣3人でCD6枚。

不定形ジャケットの小沢健二を買ったのは、なんも大学編集部・矢吹氏。昨年のフジロックにも参戦したそう。

他にも、秋田出身ミュージシャンの棚は、演歌もJ-POPも手厚くコーナーを設置。現在は演歌でしかやってないそうですが、月替りの売れ行きランキングをベスト40まで発表して、順位の変動を矢印で表すなど、町のレコードショップに欠かせない楽しみもあり。

そんなお店の愛称は「ホソレコ」。しっかり店の入口にも、商品を買った袋にもご機嫌なロゴで書いてありました。蓄音器に目を奪われすぎでしたね。

秋田ミュージシャン棚には、地元・土崎の「港曳山まつり」の記録DVD、お囃子CDも並ぶ。
首位を守っていた岩本公水が氷川きよしに蹴落とされた2月度。福田こうへいは淡々と3位キープ。ランキングの変動にはドラマがある。
ちなみに、3月度の首位を奪取したのは秋田出身、「船村徹の最後の弟子」村木弾。岩本公水は2位、氷川きよしは3位に!
うれしいポスタープレゼントも町のレコード店ならでは。
信二
決して未来がある業界ではないんだけど、当面の目標は、あと7年がんばって。
あと7年で100年だから。
信二
ひと区切り。なんとかそこまではがんばりたいです。

町の、秋田の音楽ニーズに合わせながら、自信を持って好きな音楽も発信し続けるホソレコ。話せば気さくな社長と店長にどうぞ会いに来てください。

護社長が発掘したおやじのラジオ出演テープ。うまく巻き戻らず、手で巻き戻している場面。

【細川レコード店(細川蓄音器店)】 〈住所〉秋田市土崎港中央1-15-7〈時間〉10:00〜19:00 〈定休日〉第2・3水曜日 〈TEL〉018-845-0020 〈ホームページ〉http://www.hosoreco.com/index.htm