フォロワー約9万人。秋田のヒーロー超神ネイガーの中の人に会ってみた!
〜前編「そもそも顔出しOKですか? 」〜
2018.04.18
編集・文:藤本智士 写真:高橋希
いきなりですが告白します。私、なんも大学の編集長の藤本智士、44歳。今回取材したネイガーのことをちょっぴりバカにしてました。「子ども騙しなよくあるご当地ヒーローでしょ?」と。ほんとごめんなさい。
しかしそもそもご当地ヒーローなるものの先駆けこそがこのネイガーでした。 それがどんな世界の話であっても、「その後」を創り出していくほどに影響力を持つものの裏には、とても大きな情熱が存在するはずで、それは決してバカにできるものではありません。 いやほんと重ねてお詫び申し上げます。
そもそも、ぼくがネイガーにこれまであまり興味をもたなかったのは、勝手に亜流なものと思い込んでいたからです。しかしそれは完全に間違ってました。
それに気づいたのは、ネイガーの公式Twitter。ネイガー自身が呟く言葉のチョイス一つ一つに、これは只者じゃないぞと感じた僕は、そのフォロワー数を確認してびっくり。
なんと2018年3月現在で、フォロワー数89,000人以上!
そこまでファンを増やしたネイガーは、いったいどんなチームプレーの産物なのか? ぶっちゃけ、中の人はどんな人なのか? 気になって気になって仕方がなくなった僕は、ネイガーにインタビュー依頼をしたのでした。
ということで、かなり熱量の高い、充実インタビューとなったのですが、それゆえ前後編と二部にわけての掲載に。ひとまず前編では、
- 藤子不二雄もびっくり。
海老名保と高橋大による合作? - デビューはプロレス興行のハーフタイムショー。
- 400ほどあるという、ご当地ヒーローの先駆けだった?
- 最初はまるでガンダムだった。
- ブレイクのきっかけは
ホームページ。 - オープニング曲を歌うのは
アニソンの帝王、水木一郎!
といった感じで、超神ネイガー誕生秘話を中心に。そして後編では人気再燃のきっかけであるTwitterの話をお届けします。
しかし
そもそもインタビューに入るその前に、 僕には一つ、大きな不安がありました……。
- 藤本
- 今回インタビューをさせてもらうにあたって、ちょっと心配なことがあるんですけど、まず最初にいいですか?
- ネイガーの
中の人 - はい、なんでしょう?
- 藤本
- ぼくは県外在住のよそ者なので、秋田でネイガーが大人気だった時代っていうのを全然知らないんですね。
- ネイガーの
中の人 - はい。
- 藤本
- それもあって、正直ぼくにはネイガーに関するリテラシーが全然ないんです。
- ネイガーの
中の人 - はいはい。
- 藤本
- つまり、今回の取材でも、どこまでオープンにしていいのかわからないんです。例えば顔出しはやっぱりダメなんですよね(笑)
- ネイガーの
中の人 - う〜ん……。いわゆる「中の人」は、架空のアキタ・ケンという26歳の農業従事者なので、顔だけは出さなかったんですよ。というのは、ファンタジーの世界だから、もしかしたらあのトラクターに乗ってる兄ちゃんがネイガーかもしれないっていう夢を子どもたちには残しておきたい。まあ地元では多少、バレてるところはあるんですけど。
- 藤本
- そうですよね。で、いままさにこの記事を読んでくれている方は、僕がネイガーと喋っているように思われてる気がするんですけれど。
- ネイガーの
中の人 - はいはいはい。
- 藤本
- 実際いま僕の目の前には二人の人物がいらっしゃるわけです。
- ネイガーの
中の人 - そうですね。
- 藤本
- 左におられるのはネイガーさんですが、右におられるのは高橋大さん。
- 高橋
- はい、高橋です。
- 藤本
- ということで、読者のみなさんに状況を明らかにしますと、先ほどから僕はネイガーさんではなく、横にいらっしゃる高橋さんと会話しています。
- ネイガーの
中の人 (高橋) - そうですね。
- 藤本
- ということで確認したいんですが、高橋さんは顔出しOK?
- 高橋
- そうですね、まあ私は問題ないです。
- 藤本
- よかったです。正直、今回僕がお話を伺いたかったのは、ネイガーというキャラクターの人格が、どのようなチームプレーで作られているのか? というとことなんですね。
- 高橋
- はい。
- 藤本
- 僕はネイガーのことをTwitterで再認識したので、特にそのことについて明らかにしておきたいのですが、Twitterは、高橋さんがネイガーとして呟いているということで良いんですよね?
- 高橋
- そうですね。厳密にはネイガーのいうことを代弁しているといいますか。
- 藤本
- はいはい、たしかに。そういうことですよね。ではとにかく、大さんは顔出しOKということで、まずは大きな不安が解消されました。ありがとうございます。
- 高橋
- いえいえ。
- 藤本
- では、Twitterのことに触れていく前に、ネイガー誕生のきっかけのお話から聞いてもよいですか?
- 高橋
- はい、お手柔らかにお願いします。
- 藤本
- 聞くところによると、もともとは高橋さんの幼馴染の海老名保さんという方がネイガーをやろうと?
- 高橋
- そうです。33歳か何かの歳祝いで、彼も東京で夢破れて帰ってきたんです。それでスポーツジムをやっていたけれど、幼い頃からの「ヒーローになりたい」っていう夢を捨てきれず、幼馴染の私のところにやってきて、「ちょっと手伝ってくれ。おれ、ヒーローやりたいんだ」と。それで「いいよ」って。
- 藤本
- いま普通に言いましたけど、「ヒーローになりたい。手伝ってくれ」「いいよ」って、大分おかしな会話ですよね。
- 高橋
- そこは幼馴染だし、やっぱりいろいろ汲み取ったんでしょうね。
- 藤本
- 汲み取り力がすごい。
- 高橋
- 最初は、海老名が自分で作って、アクターとして中にも入るから、私はデザインとか設定を頼むって感じで。
- 藤本
- ちょ、ちょっと確認なんですが、いま隣にいらっしゃるネイガーさんは=海老名さんではないんですよね?
- 高橋
- あ、はい、それは違います。いまは別の人間が。
- 藤本
- そうですよね。すみません話の腰をおっちゃいました。
- 高橋
- いえいえ。それで、さまざまなパターンのイラストを書いて、ようやく海老名が気に入ってくれて作り始めたのは、そこから二年くらい経ってからかな。
- 藤本
- え? そんなに?
- 高橋
- ええ、それでようやく、まずヒーローのボディーだけはできた。そしたらやっぱり人に見せたいわけです。で、プロレスの興行のあいだのお休み…… ハーフタイムっていうのかな。そこでステージパフォーマンスとしてやったのがデビューですね。
- 藤本
- その頃プロレスの興行をされてたってことですか?
- 高橋
- 自主興行みたいにして、借金抱えながら。
- 藤本
- にかほ(秋田)で?
- 高橋
- そうです。シーサイドホテルっていうホテルにリングを借りてきて組んで。最初私に声かける前に、海老名が自分でデザインして作ってたらしいんですよ。いまのネイガーみたいなのじゃなくて青い色合いで、発泡スチロールくっつけたような平らなやつ(笑)。かっこいい風だけど、やっぱりダサいよなって感じの。敵もいないから、怪獣の着ぐるみをレンタルしてきて、プロレスのリングの上で青いネイガーと怪獣が戦うっていう。
- 藤本
- シュールすぎる!
- 高橋
- 意味わかんないでしょ?! それがやっぱり大失敗したという思いがあって、もう一回リベンジしたいってことでいまのネイガーが生まれた。
- 藤本
- プロトタイプがあったんですね。
- 高橋
- 彼とは、保育園、小学校、中学校とずっと一緒だったんですよ。高校は別だったけど、地元だからすぐ近所にいるし。私は子どもの頃、小児喘息で、保育園も行ったり行かなかったり。で、行くとその海老名保くんがジャングルジムの上で仮面ライダーごっこやってると。
- 藤本
- はいはい。
- 高橋
- いいな〜とは思うんだけど、私はかけっことかも一番遅かったから、滑り台の下で土いじったりしてたわけです。すると、彼が友達たちと一緒にやってきて、「おれは改造人間だ! おれは怪我をしたので修理が必要だ! パワーアップしてくれ!」って言って滑り台の下にいきなりバーンと寝転がるわけですよ。それで、どうやらぼくは仮面ライダーを直す博士の役割を求められているようだ、と。
- 藤本
- うわ、そこからもう汲み取ってる(笑)
- 高橋
- それで私は「よし、わかった!」って、お腹の上に松ぼっくり乗っけたりして(笑)
- 藤本
- ははは! やってること全然変わんないってことですね(笑)
- 高橋
- おんなじですね。舞台の裏側で壊れたネイガーを修理するとか、武器を渡して次の出だしを待つとか。私は裏側で、海老名は表側で戦う。保育園のころから何十年と変わってなかった。
- 藤本
- だからこそ「ヒーローになりたい。手を貸してくれ」に即答で「いいよ」だったんですね。
- 高橋
- あとは、小学生の頃にコロコロコミックとか回し読みしてても、他のみんなが読み飛ばすようなページで一緒にハマってゲラゲラ笑ってるとか。お互い「こいつとは面白いと思うツボが同じかも」ってのはあった気がしますね。
- 藤本
- それでもやっぱり、ネイガーのイメージラフを描いてる間の2年はなかなか「これだ!」っていう風にならなかったんですね。
- 高橋
- そう。頑固でしたよ。
- 藤本
- そこは逆にびっくりしません? その手前では、自前の発泡スチロールのやつをつけてたわけじゃないですか。それを人に描かせた途端、違う違うって。
- 高橋
- 当時はまだ、「ローカルヒーロー」とか「ご当地ヒーロー」っていう言葉がはっきりなかった時代で。「ゆるキャラ」とかもまだ生まれてなかった。そこで急に「いいこと思いついた」と。「地元だけを守る、地元でしか活躍しないヒーローを作る! こんなの考えてるの日本でおれだけかもしれん!」みたいに言うんです。実際はちらほら出てきてたみたいなんですけど(笑)
- 藤本
- 世の中に必要なものってだいたい同時多発的ですからね。
- 高橋
- そのときは自分のことしか見えてないんでね。
- 藤本
- ふふふ(笑)
- 高橋
- そういうよくわからんものをデザインしろと……。でも、そもそも私あんまりヒーローとか詳しくないので、何種類もいる仮面ライダーも区別つかなくて。最初になんとなく描いたものなんて、ガチガチのロボットみたいなヒーローでしたもんね。
- 藤本
- あ〜。
- 高橋
- 最初からアメリカンヒーローみたいなのとか、もっと仮面ライダーっぽくとか、そういうことを言ってくれればいいけど。
- 藤本
- ただ「ヒーロー」だけだから。
- 高橋
- いろんなパターンを描いたので、すごく無駄撃ちが多かった。それで「これだ」って言われたのが、確か17のBとか。その前に16個描いてて、それぞれAからDまでバリエーションがあるから、結局17×4ぐらい使わなかったネタがある。
- 藤本
- へ〜! でもそれでようやくボディってことは、そこからさらに「顔」が決まらなかったってことですか?
- 高橋
- そうですね。最初に海老名からあったのが、「なまはげモチーフで、名前は〝泣く子はいねが〜〟からとって〝ネイガー〟っていうんだよ。それで、きりたんぽ振り回すんだよ」、以上。
- 藤本
- ははは(笑)
- 高橋
- 「うん、まずわかった」と(笑)。なまはげということと、ヒーローだということはわかったので、組み合わせて角と牙だけとりあえずなんとかしようと。そうやっていくつか描いたうちの一つがいまのネイガーなので、これのどこが良かったのかいまとなってはわからないんですけど、結果一番しっくりきてる感じはします。
- 藤本
- なるほど。そして、そのデザインを造形に落としていくのは海老名さんが?
- 高橋
- はい、海老名がやります。なので、もともとデザインになかったものが付け加えられていたり、っていう部分もあります。デザインは100%私がっていうわけではなくて、それこそ原案をブラッシュアップしてって感じです。
- 藤本
- 一緒に作られていったわけですね。
- 高橋
- でも、本当にヒーローの作り方がわからなかったから、例えば装備なんかも全然わからなかったんですよ。ただ、ロボットアニメだったら詳しかったんで、ロボットって大体は盾と刀を持ってますよね。だから、初期のネイガーはそれを持ってました。
- 藤本
- あの竿燈のやつですよね?
- 高橋
- そうです。まるっきりガンダムなわけです! 生身のガンダム。
- 藤本
- 生身のガンダム!(笑)
- 高橋
- だから海老名は「ああ、わかってねぇな」って感じでしたよ(笑)
- 藤本
- 確かに、おかしいですね。
- 高橋
- そうでしょ? 逆にそういうセオリーみたいなものをまったく知らなかったので、言葉は悪いですけど好き勝手やれたというか、自由にやれたんですよね。
- 藤本
- ちなみにいま、敵も含めてキャラクターって何種類くらいいるんですか?
- 高橋
- 多分40種類くらいですかね…… 一時期数えてたんですけどね。
- 藤本
- すごいですよね! そんなにいるって知らなくて、ホームページ見ててびっくりしました。
- 高橋
- 一回登場しただけのキャラクターもいます。もともとそんなに人も多くないし、ショーの取り回しとか、やっていくうちにあまりかさばるからとか、そういう理由で使わなくなったり。
- 藤本
- かさばる(笑)
- 高橋
- はい(笑)あとは途中で壊れてきたからもういいやとか、ほかの怪人に作り直したりして。
- 藤本
- へ〜 面白い。いまでも二人で雑談しながらアイディアが湧いてくるっていうことはあるものですか?
- 高橋
- いまは、お互いにやる方向性が少しわかれてきたので。海老名は、県外のヒーローのプロデュースもやってますし、ネイガーを一緒に煮詰めていくということはしばらくなかったです。でも13年経って、もう一皮剥こうということで、久しぶりにデザインと造形を二人で作った新しいネイガーがもうすぐお披露目されます。
- 藤本
- それはいつ発表なんですか?
- 高橋
- この5月に発表予定です。JA共済さんがスポンサーで、秋田県内50カ所の保育園・幼稚園をまわって交通安全教室をやるんです。
- 藤本
- テレビとかじゃないんですね。
- 高橋
- そうですね、いまは。
- 藤本
- 仮面ライダーだと昆虫がモチーフになったりしてますけど、その新しいネイガーは何がモチーフになってるんですか?
- 高橋
- そもそもネイガーが得体の知れない地元の神様、なまはげをモチーフにしてますし、ネイガーのライバルのアラゲ丸なんかも道祖神がシンボルです。そして次の新しいヒーローは、これも私の趣味なんですが個人的に気に入っている神様、天狗のモチーフになっている「猿田彦」をベースにしています。
- 藤本
- 高橋さんの個人的趣味がガンガン出てるんですね。
- 高橋
- だから普通だったら「これどうなの?」っていうのが多いですよね(笑)いまでこそ普通な感じになってますけど、「超神」ですよ!
- 藤本
- 確かに。神を超える。
- 高橋
- なんとおこがましいネーミングなんだっていう(笑)。一番最初に海老名が言ってたのは、ネイガーの前に「伝統超人」って付いていたんです。神じゃなくて人。でも、これから始めるっていうのに伝統も何もないだろってことで、さすがに「外せ」と(笑)
- 藤本
- ははは(笑)
- 高橋
- かつ、なまはげっていうのは人じゃなくて神様なんだから、ということで「超人」から「超神」に変えて。すると、神っていう言葉がある程度ハマったものだから。そもそも地元にはいろんな神様がいますよね。
- 藤本
- 特に秋田はいろんな信仰が色濃く残ってますよね。
- 高橋
- 鹿島様とか道祖神とか、得体の知れない神様がたくさん。そういうのを拾っていけば、モチーフに困ることはそんなにないんです。
- 藤本
- なんだかぼくはいまお話を聞きながら「まんが道」を読んでる気分になってきたんですけど、それだけ長いことお二人でやっていると、絶対喧嘩するじゃないですか。めっちゃ喧嘩して、もう口聞かへん! っていう、全てが腹立つみたいな時期ってありますよね?
- 高橋
- あー…… あったかもしれないです(笑)
- 藤本
- いまはないんですか?
- 高橋
- えっ、いまはどうなんだろう?
- 藤本
- ふふふ(笑)
- 高橋
- 殴り合うとかそういうのはないですけど、なんとなく合わねぇなっていうときは距離をとるんですよ。漫画家とかは、いやでも机並べて描かなきゃいけないけど、デザインと造形なので離れていてもお互い仕事はできる。自分が苦しくない距離に自分を置くというのをお互いにやりつつ、その距離を縮めたり広げたり。
- 藤本
- なるほど。突っ込んで聞いて申し訳ないですけど、そこの方向性が違うなって感じ始めたのはいつごろですか?
- 高橋
- えーっと、ネイガーを始めて2、3年目くらいまではよかったのかな?
- 藤本
- ずいぶんすぐですね(笑)。
- 高橋
- そのころは、スタッフが30人くらいいたこともあって、しかも手弁当な感じで集まってくれてね。でもだんだんと、これじゃやってらんねーみたいな感じで離れていくような。組織が広がってくると意思統一が難しくなってね。そうすると、何人かでわいわい楽しくやっているというよりは、会社組織然としてきて、そうすると社長の経営方針には合わんという人もやっぱり出てくるんですよ。あとは、変にブームになったんです。
- 藤本
- そのブームになったきっかけというのは?
- 高橋
- 最初は、作ったものをどこかのスーパーの舞台とかでお披露目できれば充分だっていう低い目標だったんですが、きっかけはホームページでしょうね。一気に拡散されて。10年以上前かなあ。ちょうどその頃、自分たちでホームページ作るのが流行り始めた時代だったので、私も嫌いではなかったからHTMLを覚えるわけですよ。
- 藤本
- いまみたいに簡単にブログ開設みたいな時代じゃないですもんね。
- 高橋
- いまでこそ、送信ボタンを押せば自分のテキストがパンっと全国にいきますけど、当時はテキストにタグ打ちしてパーミッション決めてってやらなきゃいけなかった。それでなんとか一応ホームページは完成したのでそこにアクセスカウンターを置いてみたんです。
- 藤本
- アクセスカウンターって懐かしい。
- 高橋
- すると結構話題になって、たくさん見てくれて。見た目もインパクトあったので、テレビ局の取材もくるようになったりとか。あと、ホームページのおかげで、東京の音楽系の企業さんと繋がって、そこがたまたま水木一郎さんとお知り合いだったので、ダメ元で頼んでみたら話がトントン進んで、ネイガーのオープニング曲を水木さんが歌ってくれることになって……
- 藤本
- すごいですね。
- 高橋
- こちらがどうこうっていうよりは、勝手に話が転がって雪だるま式に大きくなっていった感じ。
- 藤本
- でもそこには、重要なポイントがあると思うんですけど、ローカルでものづくりをするってときに、さっきおっしゃっていたようにスーパーとかでちょっと催しできればいいかなっていう低い目標を立てがちじゃないですか。
- 高橋
- はい。
- 藤本
- それはそうなのかもしれないけど、ボディスーツ一つとっても2年間突き詰めていったように、最初から「クオリティー」っていうものをすごく意識されてたんじゃないかなと。
- 高橋
- なるほど。
- 藤本
- ぼくは、最初の段階からクオリティーの高いものを作るっていうのが、地方には足りないなと感じることが多いんです。最初はこれくらいでいいだろう、みたいな。でもネイガーの場合は、最初から造形も世界観もクオリティーが高かった。それゆえに水木一郎さんも歌ってくれる、みたいにどんどん繋がっていったんじゃないかなって。
- 高橋
- 確かにそれはお互い妥協はしてなかったと思います。仕事としてやっていたわけじゃなかったので、納期とかがないだけに、とにかく自分が納得いくところまで作りこめるわけですよね。そうやって妥協しないで作ると、やっぱり細部までこだわったかっこいいものが結果としてできた。周りから「これはクオリティー高いよ」って言われると、「なんかおれらクリエイティブなことしてんのかな」みたいな意識にはなりましたね。
- 藤本
- そこにきてのホームページってことですよね。そこで、水木一郎さんが歌うってことになると、周りも「なんだなんだ」ってざわつきますよね。
- 高橋
- テレビでも放送されるようになって、それこそいま言ったクオリティーというか…… ぱっと見、日曜日の朝に全国放送のテレビでやっているのと変わらないようなものが、ちょっと冗談めいた感じというか、クスッと笑える感じでやっていたので、すごく話題にしやすかったんだと思います。
- 藤本
- 「話題にしやすかった」かー。みんながあーだこーだいう余白みたいなものがあったんですね。
- 高橋
- だから最初は「どういうものか見てみたい」という人たちで、「秋田ふるさと村」の900人以上入るドームで立ち見まで出たり、スーパーの前でショーをやるとすぐに200人、300人と集まっちゃうから若干迷惑かけてしまったり(笑)。おかげさまでそのくらい繁盛した時期もありました。
- 藤本
- それはいつごろですか?
- 高橋
- 2005年から始めて、2006年から2007年にかけてはすでにそういう状況でした。
- 藤本
- すごい。そんな短期間で一気に?!
- 高橋
- それでやはり県外の人たちが注目して、この方法は地域おこしに役立てるんじゃないかってことでいろんな取材がきて、あとは同じように一気にローカルヒーローが全国的に増えたんです。
- 藤本
- それこそ沖縄のヒーロー「琉神マブヤー」とかもそうですよね?
- 高橋
- 沖縄では、自分たちもネイガーを参考にして作りたいということで、デザインと造形を任されて、こちらで作って渡したのでやっぱり作風が似てるんですね。作者が一緒なので。
- 藤本
- そうか、なるほど。
- 高橋
- やっぱり秋田よりもむこうの方が観光でいえば人気なので、爆発的にヒットするわけですよ。秋田県内だけでも4、5億円くらいまわしてるはずなんですが、沖縄では150億円くらい「琉神マブヤー」で経済がまわったらしいです。
- 藤本
- 桁違いですね。
- 高橋
- 映画にもなりましたし、そういうのを見るとなおさら真似したくなると。いまはローカルヒーローだけで400くらいあるって聞いたことがあります。
- 藤本
- へえ〜! ある意味「元祖」って言っていいですよね。
- 高橋
- その前からあったらしいですけど、クオリティーという面では。
- 藤本
- そうですよね。全身タイツ+αみたいなものじゃなく。
- 高橋
- 本格的にやろうと思えばやれるんだ、っていうのはネイガーから始まったかもしれないです。
——ということで、後編はいよいよTwitterのお話に。更新は4/25予定です。お楽しみに!