廃校を買い取って15年
廃校の利活用といえば、国も地方も民間もいまや積極的に推し進めているトピックですが、約15年前、県外から藤里町へ通っていたひとりの女性が中心になって、廃校になった校舎を買い取り、現在にいたるまで維持・活用を続けているという…
編集・文:竹内厚 写真:船橋陽馬
2018.08.22
角館にある夜の方がにぎやかそうな雑居ビル、その突き当たりでひっそりと営業している喫茶店に出会いました。
「有頂天喫茶」という店名からして、扉を開く前から期待とすこしの不安がよぎります。
もちろん、こちらで紹介する以上、ステキな店だったという「ネタバレ」になってしまうので、自分の目で確かめたいという人は、この下の記事を読まずに今から角館町上新町を目指してください。
それでは、有頂天喫茶の扉を開きますね。
カウンター席と3つのテーブル席。コーヒーカップがきれいに並ぶ棚に、山野草のグリーン。
ビルの裏側に向かって開いた窓のおかげもあって、店の立地から想像するよりはずっと明るくて、ヌケのいい店内。
店主の飯高三枝子さんが4年前に開いた、正統派喫茶とでも形容したくなる喫茶店です。
聞けば、飯高さん、東京で建築設計の仕事をされていたそうですが、「昭和の場末の純喫茶」か、「山小屋の避暑地みたいなところ」で店をやりたくて、この秋田の仙北市にたどり着いたんだとか。
なので、この雑居ビルの奥まった立地も飯高さんにとっては理想的。「あえてこういう感じがよかったんです。注文の多い料理店じゃないですけど、ひっそりしてるのがいいなって」。
漫画『笑ゥせぇるすまん』の魔の巣。もしくは、新宿ゴールデン街。
飯高さんの口から飛び出す、理想の店のイメージは、かなり男っぽいのですが、飯高さん自身の心安いキャラクターと、昼前から夕方までという健全なる営業時間もあって、店の雰囲気は、ほどのよい隠れ家っぽさが実現されています。
自分の店を持とうと東京で仕事を辞めてから、仙北市で開店にこぎつけるまで、およそ10年もの年月がかかったそう。その間、飲食店のバイトで勉強したり、温泉旅館の仲居さんをやったり。
だけど、そもそもどうして秋田へ?
「温泉好きで東北を訪ねてきたこともあったのですが、北秋田にある「森のテラス」へ行ったときに、そこがあまりにステキで。こういう自然の多い場所で店をやれたらいいだろうなって。源泉かけ流しの温泉にも日帰りで入れますし」と笑う飯高さん。
なんて話があったとしても、あこがれで終わるのが世の常というものですが、飯高さんはひとつずつ実現へ向けて歩を進めてきました。
仙北市が進める定住支援のための空き家情報サイト(「えぐきてけだんし」)で、まずは住まいとなる物件を発見。極寒の2月にその家を見に行ったそうですが、それでも「理想的!」と喜ぶ飯高さんの様子を見て、つきそった市職員も「あなたは秋田に住めます」と太鼓判を押したそう。
家が決まった後も、店を開くための物件を探したり、縁もゆかりもない秋田への移住について親を説得したり。時間はかかっても、着実に少しずつ。
そして、もとはスナックだったという、いまの物件を見つけて開店したのが2014年6月28日。念願のオープン日ですから、聞けばさすがの即答で月日まで教えてくれました。
「ひとつずつ手づくりで丁寧にやりたかったから」と、オープン直後はドリンク4種、ナポリタンとプリンくらいしかなかったそうですが、ひとつずつ少しずつ、メニューの数を増やしてきました。
そして、昨年の夏から有頂天喫茶で提供されているのが珈琲ぜんざいです。
「私、あずき好きなんですよ。だから、自家製の甘さひかえめのあずきを使って、和風パフェみたいなメニューをつくりたくて。珈琲はすべてドリップなんですけど、珈琲ぜんざいだけはのどごしがいいから、水出し珈琲を使ってます。暑くなればなるほどよく出るメニューですね」。
雑居ビルの奥にある扉を開いてみたら、そこには、飯高さんの本当に好きなものとこだわりを形にした喫茶店がありました。
【有頂天喫茶】
〈住所〉仙北市角館町上新町3 しんまちビル1F
〈時間〉11:00~19:00
〈定休日〉木曜日
〈TEL〉0187-42-8675
〈HP〉http://ucho-ten.com