廃校を買い取って15年
廃校の利活用といえば、国も地方も民間もいまや積極的に推し進めているトピックですが、約15年前、県外から藤里町へ通っていたひとりの女性が中心になって、廃校になった校舎を買い取り、現在にいたるまで維持・活用を続けているという…
編集・文:成田美穂 写真:船橋陽馬
2018.10.10
前の晩に降った雨のせいか、しっとりした空気に包まれた朝9時の増田の街並み。訪れた日はちょうど朝市が開催される19日。せっかくなので、少しお邪魔してみることにしましょう。
「おはようさん」と朝の挨拶が交わされるなか、最初に立ち寄ったのは、コンテナいっぱいのナスを携えたお母さんのお店。
——おはようございます。ナス、立派ですね。
——秋田市から来ました。お母さん、これ何ですか?
——なるほど! やっぱりお砂糖は入れるんですね。ご飯にかけてもおいしそう。
横手市、特にここ増田では、「甘い=うまい」の文化が根付いていて、ポテトサラダやお赤飯、なんと納豆にまで砂糖を入れるそう。そういえば、宿の朝食でいただいたお味噌汁も口いっぱいに広がる麹の甘さが印象的でした。
少し歩くと、目の前に現れたのはお行儀よく並んだ山の幸たち。お店の周りには、爽やかなキノコの香りが漂っています。
——きれいなキノコですね。全部お父さんが採ってこられたんですか?
——このコブ(写真:上段右から2つ目)はどうやって食べるんですか?
——コブはいつもこちらで買うって決めてるんですか?
——この葉っぱを使った置き方いいですね。キノコのそばに生えてたんですか?
——本当ですね。まるで作品みたい。さすがにこれは、お高いんでしょう?
——ひゃ~! でも私たちだとこの素材の味を生かしきれないかも。プロの料理人に預けないと!
——マイタケがどっさり! これ全部1日で採ってくるんですか?
——山の中にお父さんだけの秘密の場所があるんですね。
熊談義のあと、次のお店を覗くとまたしてもキノコの山に遭遇。朝市の前日、お店のお母さんがご主人と2人で採ってきたそう。
お母さんとお喋りしていると、隣で熱心にマイタケを吟味するお客さんが。
——立派なマイタケですよね。今日の晩ご飯に?
——なんだかお腹がすいてきました(笑)この朝市は、よくいらっしゃるんですか?
——本当のもの? 「本物」ってことですか?
どうやら、秋の朝市ではキノコが主役のよう。どのお店にも必ずと言っていいほど並んでいます。他にも秋の味覚がないか探してみると、柿やカボチャの姿もちらほら。
「カボチャって切るの大変でしょ? 手空いでれば、好ぎな大きさに切ってあげるごどもできるがら」と優しい心遣いをしてくれるお店も。
ほくほく甘いカボチャの煮付けを思い浮かべながら、丸ごとひとつ買うべきか悩んでいると、パンパンに膨らんだ袋を持ったお母さんが通りかかりました。
「今日はマイタケもいっぱい買ったけど、一番はこのヤマブドウ。氷砂糖につけでシロップにするの。朝市にいっぱい持って来てくれる人がいるのよ」と、嬉しそうに中を見せてくれました。
曇り空もいつの間にか晴れて、徐々に気温も上がってきた朝市通り。
中盤に差し掛かったところで、今度はニンニクの束を発見!
——普通のニンニクとは違うんですか?
——丸ごと食べちゃうんですか?
——八木ニンニク醤油になりますね。おいしそう!
——真っ赤な唐辛子。きれいに編まれていますね。
——このままかじったらやっぱり辛いですか?
——ナスもたくさん売ってますね。
——オススメの食べ方はありますか?
——いえいえ! 大丈夫ですよ(笑)
私もその食べ方やってみたいので、ナス3つください!
今朝、畑から収穫してきたばかりのナスの中から、わざわざ大きいものを選び袋に入れてくれるお母さん。
「ほれ、これも」と言って、八木ニンニクをひとつ、ふたつ、みっつ。どんどん膨らむビニール袋に、ナスが4本と八木ニンニクが3玉。こんなに入ってなんと200円!
サービス精神旺盛すぎるお母さんに見送られながら朝市通りを進んでいくと、今度は「サンキューベリマッチ!」と威勢のいい声が聞こえてきました。
そこには、「魚、うまいよ~! とろけるよ~!」とお客さんに声をかける元気なお父さん。お店には、ぼだっこ(塩辛い鮭)に秋刀魚、クジラなどの海の幸がところ狭しと並んでいます。
——72歳? お若いですね~!
——ありがとうございます! ……うん、おいしい!
——お父さん、このバケツ何ですか?
——ふふふ。でも、あえてこれを使い続けているんですね。
約100年前から朝市を見守ってきた愛のバケツ。
それぞれのお店が持つ歴史に思いを馳せながら進んでいくと、これまでに見たことのない大きさの野菜がお目見え。その正体は……
——そうなんですか! 普通のズッキーニと同じ品種ですか?
——あまりズッキーニを漬けたことがないので気になりますね。このまま丸ごと塩に漬けるんですか?
——なるほど! 保存食としてしばらく楽しめるんですね。
——この「姫んこなし」もおいしそう。
——増田の朝市は初めて来たのですが、皆さん気さくにお喋りしてくださって楽しいです。
農家さんの傍らで、笑顔で私たちの会話を聞いていたのが、「増田の朝市」会長をつとめる石川浩一さん。隣町の「十文字の朝市」の会長も兼任され、ご自身は朝市で衣料品を販売しています。
——お邪魔してます。朝市でお洋服を売っているのは珍しいですね。
たくさんの戦利品を抱えて朝市をあとにするお客さんの顔は、心なしかほころんでいて満足げ。
旬の食材の宝庫「増田の朝市」の最大の魅力は、生産者の顔が見える安心感だけでなく、あちらこちらで交わされるおしゃべりなのかもしれません。
次は来年の春、山菜の季節にまたお邪魔します。
【増田の朝市】
〈住所〉秋田県横手市増田町増田中七日町商店街 朝市通り
〈開催日〉毎月2・5・9のつく日
〈時間〉7:00〜12:00