秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード
横手市編

編集・文:成田美穂 写真:船橋陽馬

暮らしを支える朝市談義

2018.10.10

古くから商人の町として栄えた、秋田県横手市増田町。その歴史を感じさせる建物や街並みから、平成25年に国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されました。毎月2・5・9のつく日に行われる「増田の朝市」は、江戸時代から370年以上続く伝統の朝市。現在も、開催日の朝は買い物客で賑わいます。

前の晩に降った雨のせいか、しっとりした空気に包まれた朝9時の増田の街並み。訪れた日はちょうど朝市が開催される19日。せっかくなので、少しお邪魔してみることにしましょう。

「おはようさん」と朝の挨拶が交わされるなか、最初に立ち寄ったのは、コンテナいっぱいのナスを携えたお母さんのお店。

——おはようございます。ナス、立派ですね。

お母さん
んだべ? 丸っこくてな、おいしいよ。
今日はどぢらがら?

——秋田市から来ました。お母さん、これ何ですか?

お母さん
これはシソの実。煮立った湯にサッとはなして、湯がいだ枝豆と和えで、醤油っこど砂糖っこ混ぜればおいしいよ。

——なるほど! やっぱりお砂糖は入れるんですね。ご飯にかけてもおいしそう。

横手市、特にここ増田では、「甘い=うまい」の文化が根付いていて、ポテトサラダやお赤飯、なんと納豆にまで砂糖を入れるそう。そういえば、宿の朝食でいただいたお味噌汁も口いっぱいに広がる麹の甘さが印象的でした。

少し歩くと、目の前に現れたのはお行儀よく並んだ山の幸たち。お店の周りには、爽やかなキノコの香りが漂っています。

——きれいなキノコですね。全部お父さんが採ってこられたんですか?

お父さん
んだよ、きれいだべ? こっちはマイタケ。あっちはヒラタケ。ぜーんぶ天然だ。
お客さん
おはようさん。コブっこ(ウワバミソウのムカゴ)ねぇが?
お父さん
あるよ。ひとっつ300円。
お客さん
せば、3つけれ。

——このコブ(写真:上段右から2つ目)はどうやって食べるんですか?

お客さん
塩漬げしておいで、食べる時に味噌さ付けるんだ。あとは、小さぐ切ってキャベツどがキュウリどが、いろんな浅漬けさ混ぜでもいいの。ちょこっと粘り気出ておいしいよ。

——コブはいつもこちらで買うって決めてるんですか?

お客さん
んでもねぇす。いろんた所がら買うよ。その日の気分だ(笑)

——この葉っぱを使った置き方いいですね。キノコのそばに生えてたんですか?

お父さん
んだよ。ホウの葉っちゅうんだ。
この白いのは、昨日採ったヒラタケだな。春は山菜で、秋はキノコ。天然物だから香りがすごいでしょ?

——本当ですね。まるで作品みたい。さすがにこれは、お高いんでしょう?

お父さん
うーん……これはがんばっても5000円だな!

——ひゃ~! でも私たちだとこの素材の味を生かしきれないかも。プロの料理人に預けないと!

お父さん
なんも、大丈夫だ。煮で食べるだけでうまいがら。
ほれ、こういうのもいいべ?

——マイタケがどっさり! これ全部1日で採ってくるんですか?

お父さん
んだよ。どうってごとねぇよ。

——山の中にお父さんだけの秘密の場所があるんですね。

お父さん
そう。そごにきれいな女の人がいれば最高だけどね。残念ながら熊しかいねぇんだ(笑)

熊談義のあと、次のお店を覗くとまたしてもキノコの山に遭遇。朝市の前日、お店のお母さんがご主人と2人で採ってきたそう。

お母さんとお喋りしていると、隣で熱心にマイタケを吟味するお客さんが。

——立派なマイタケですよね。今日の晩ご飯に?

お客さん
んだよ。マイタケは何したっておいしいがら。舞茸ご飯にお吸い物、いものこ汁*も、天ぷらもいいしね。
*里芋・肉・野菜・こんにゃく・豆腐などを鍋で煮るもの。

——なんだかお腹がすいてきました(笑)この朝市は、よくいらっしゃるんですか?

お客さん
うちの主人がね。今日は、近ぐの病院に私のお薬もらいに来たついでに寄ったの。こごの朝市には、いーっぱい本当のものがあるのよ。

——本当のもの? 「本物」ってことですか?

お客さん
そうそう。本物の味がそろってるの。

どうやら、秋の朝市ではキノコが主役のよう。どのお店にも必ずと言っていいほど並んでいます。他にも秋の味覚がないか探してみると、柿やカボチャの姿もちらほら。

「カボチャって切るの大変でしょ? 手空いでれば、好ぎな大きさに切ってあげるごどもできるがら」と優しい心遣いをしてくれるお店も。

ほくほく甘いカボチャの煮付けを思い浮かべながら、丸ごとひとつ買うべきか悩んでいると、パンパンに膨らんだ袋を持ったお母さんが通りかかりました。

「今日はマイタケもいっぱい買ったけど、一番はこのヤマブドウ。氷砂糖につけでシロップにするの。朝市にいっぱい持って来てくれる人がいるのよ」と、嬉しそうに中を見せてくれました。

曇り空もいつの間にか晴れて、徐々に気温も上がってきた朝市通り。

中盤に差し掛かったところで、今度はニンニクの束を発見!

お母さん
これは八木ニンニク。最っ高に身体にいいんだよ。

——普通のニンニクとは違うんですか?

お母さん
普通のニンニクよりも甘みがあって、香りも優しい。増田の「八木」っていう集落に畑がたくさんあって、そごで採れる伝統野菜なんだ。

これを瓶さ入れで1週間お酢に漬けで、そのあと別の瓶に移したら今度は醤油さ漬ける。そしたらいづでも食べられる。

——丸ごと食べちゃうんですか?

お母さん
ううん、皮をむいでスーッと包丁で薄ぐ切って。漬けでだ醤油も、焼いた肉さ、かげだりすればいいの。

——八木ニンニク醤油になりますね。おいしそう!

——真っ赤な唐辛子。きれいに編まれていますね。

お母さん
これは、蔵の入り口どが台所さ飾ればいいんだ。魔よけの意味があるんだど。生のまま米びつさ一本入れでおげば、虫防止にもなるの。

食べるんだば、小さぐ切ってきんぴらとか漬物さ入れだり。すりおろして刺身の横さ添えだりな。

——このままかじったらやっぱり辛いですか?

お母さん
辛い辛い! 生だもの! 乾がせばもーっと辛ぐなるけどな(笑)

——ナスもたくさん売ってますね。

お母さん
このあいだの台風さやられで、ちょっと傷ついでるのもあるけどもな。

——オススメの食べ方はありますか?

お母さん
私らはまず、四つ切りにして蒸し器で蒸すの。それに八木ニンニクで作ったタレかげればおいしいよ~。そういえば今朝食べできたんだけど……もしかしてニンニクの匂いしてらが?(笑)

——いえいえ! 大丈夫ですよ(笑)
私もその食べ方やってみたいので、ナス3つください!

今朝、畑から収穫してきたばかりのナスの中から、わざわざ大きいものを選び袋に入れてくれるお母さん。

「ほれ、これも」と言って、八木ニンニクをひとつ、ふたつ、みっつ。どんどん膨らむビニール袋に、ナスが4本と八木ニンニクが3玉。こんなに入ってなんと200円!

サービス精神旺盛すぎるお母さんに見送られながら朝市通りを進んでいくと、今度は「サンキューベリマッチ!」と威勢のいい声が聞こえてきました。

そこには、「魚、うまいよ~! とろけるよ~!」とお客さんに声をかける元気なお父さん。お店には、ぼだっこ(塩辛い鮭)に秋刀魚、クジラなどの海の幸がところ狭しと並んでいます。

お父さん
僕って本当はね、無口で恥ずかしがり屋なの。口下手で、特に女の人の前だと照れちゃってね。72歳になってもまだ独り身よ。

——72歳? お若いですね~!

お父さん
うちの魚がおいしいおかげ。ほら、この明太子つまんでみて。

——ありがとうございます! ……うん、おいしい!

お父さん
こご(増田)さ来たら「おいしい」って言葉使わないの。「め!」って言うの。こごらへんの言葉ってよ、単刀直入に短い言葉なんだよ。

——お父さん、このバケツ何ですか?

お父さん
これは金庫。ボロボロだけどな。

実はよぉ、大正3年生まれの親父が使ってたのをもらったんだ。こうしてお金入れでおぐだげでなくて、何か悪さしそうになった時にチラッと見るの。そうすれば「だめだ!」って手引っ込むんだ。もし親父が見でれば何て言うべ、って。
今だば、100均さ行げばもっと立派なの売ってるけどな(笑)

——ふふふ。でも、あえてこれを使い続けているんですね。

お父さん
うん、これは愛なの。サンキューベリマッチ!

約100年前から朝市を見守ってきた愛のバケツ。
それぞれのお店が持つ歴史に思いを馳せながら進んでいくと、これまでに見たことのない大きさの野菜がお目見え。その正体は……

農家さん
これ、ズッキーニです。こんなサイズだけどちゃんと食べられますよ。

——そうなんですか! 普通のズッキーニと同じ品種ですか?

農家さん
そう。腐らず育ってくれたんです。これでもまだ小さい方ですよ。この前採れたのはもっと大きかった(笑)

下漬け(塩につけて水を出す)して、味噌をちょこっとつけて食べるといいですよ。もちろん焼いてもおいしい。

——あまりズッキーニを漬けたことがないので気になりますね。このまま丸ごと塩に漬けるんですか?

農家さん
この大きさだと四等分に切って、たっぷりの塩で漬けます。そうするとバケツ一杯分くらいの水分が出るので、1週間くらい経ったらそれを捨てて、もう一回塩で漬けると腐らず長持ちします。

——なるほど! 保存食としてしばらく楽しめるんですね。

——この「姫んこなし」もおいしそう。

農家さん
これは早生わせの梨です。もうちょっと黄色く、柔らかくなってくると洋梨っぽくなりますよ。

——増田の朝市は初めて来たのですが、皆さん気さくにお喋りしてくださって楽しいです。

農家さん
そうですね。実は僕、隣の湯沢市から来てるんですよ。でも、よそ者だからって閉じることもなく受け入れていただいて助かってます。皆さん、本当に楽しい人ばかりで。
ほら、こちらがこの朝市の会長さんですよ。

農家さんの傍らで、笑顔で私たちの会話を聞いていたのが、「増田の朝市」会長をつとめる石川浩一いしかわこういちさん。隣町の「十文字の朝市」の会長も兼任され、ご自身は朝市で衣料品を販売しています。

——お邪魔してます。朝市でお洋服を売っているのは珍しいですね。

石川さん
昔、十文字には衣料品屋さんが14軒あって、その名残で県南の朝市には洋服が並ぶんですよ。でも今は、十文字も増田も高齢化の影響で全体的に店舗が減ってきた。

朝市の総会の時、出店する皆さんに必ず言うの。「取材とか、知らねぇ人が来れば恥ずかしいのはわがるけども、なんとか嫌な顔しねぇでください」って。

だがらみんな、初めて見る顔のお客さんが来たら、どっから来たが必ず聞ぐんだ。ちょこっとでも話してければお客さんも悪い気しねぇし、遠くから来た人ならお互い言葉も違うから面白いと思うんです。わざわざ足運んで来てくれるってだけでありがたいですよ。

たくさんの戦利品を抱えて朝市をあとにするお客さんの顔は、心なしかほころんでいて満足げ。
旬の食材の宝庫「増田の朝市」の最大の魅力は、生産者の顔が見える安心感だけでなく、あちらこちらで交わされるおしゃべりなのかもしれません。

次は来年の春、山菜の季節にまたお邪魔します。

【増田の朝市】
〈住所〉秋田県横手市増田町増田中七日町商店街 朝市通り
〈開催日〉毎月2・5・9のつく日
〈時間〉7:00〜12:00

TOP