秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード
横手市編

文:成田美穂 写真:船橋陽馬

風と土の醸造所CAMOSIBAカモシバ

2018.10.24

「宿」は、旅という非日常を楽しむうえで欠かせないもの。

大規模なホテルや旅館とは違い、最低限の設備で一泊あたりの単価を抑えて宿泊できる「ゲストハウス」や「ホステル」が日本で普及し始めたのは、2000年代初頭といわれています。

発酵のまち・横手市十文字町に佇む、Hostel&Barホステルアンドバー CAMOSIBAカモシバも、そのひとつ。

2017年春のオープンから、約1年半。オーナーの阿部円香あべまどかさんに、これまでのCAMOSIBAと、これからのCAMOSIBAについて伺いました。

オーナーの阿部円香あべまどかさん。ご実家は、横手市で100年以上続く麹屋を営んでいる。

元はお茶屋だった蔵と、そこに隣接する母屋が合わさって生まれたCAMOSIBA。現在、蔵は飲食が楽しめるバル、母屋が宿になっています。

宿の1階には、男女混合ドミトリー(相部屋)と女性専用ドミトリー(相部屋)、共有キッチンやシャワールームなどがあり、2階には個室が2部屋というつくり。昼下がりの柔らかな光が差し込み、どこか懐かしい香りがします。

1階の男女混合ドミトリー(相部屋)。秘密基地感のある2段ベットの部屋。
1階の共有キッチン。宿泊客はここで自炊をしたり、お茶を淹れつつ読書をしたりして自由に過ごす。

「今夜のお部屋はこちらです」と案内されたのは、ゆったりとした2階の個室。布団で眠るのは久しぶりだ、と胸が高鳴ります。

2階の個室の窓を開けると、眼下に蔵の扉が見える。黒の漆喰しっくいが美しい。

大学進学を機に上京したオーナーの阿部さん。旅が大好きで、大学を休学して海外を巡っていた時期があったそう。その頃、いわゆる「ゲストハウス」と呼ばれるところに宿泊することが多く、人と人を繋ぐ場所の魅力を肌で感じたとのこと。


阿部
帰国後、意外と日本にもゲストハウスがたくさんあるということを知りました。ただ、秋田ではまだそういう場所が目立ってなかったので、漠然と「いつかやりたい」とだけ思っていて。

元々は、大学を卒業したらそのまま都市部で就職して、30歳を過ぎたくらいで秋田に戻って始めようかな、というイメージでした。でも、帰国後に始めた就職活動もなかなか辛くて。

そこで、卒業後のことを大学の先生に相談したら、「いつか秋田に帰る意志があるんなら、別に今帰ってやればいいんじゃない?」って言われたんです。

「確かにそうだ」と納得した阿部さんは、その日を境に就職活動をやめ、故郷の横手市へ戻ることに。そして、ご実家の麹屋を手伝いながら物件を探したり、県外のゲストハウスで修行をしたりする中で、ずっと曖昧あいまいだった「いつか」が徐々に前倒しされていきます。

本格的な準備開始からオープンまでの半年間、クラウドファンディングなどを通じて集まった仲間たちと共に、自らの手で建物をリノベーションし、ついに完成したCAMOSIBA。現在は、阿部さんを含む3名で切り盛りしています。

起業時にクラウドファンディングに挑戦。支援者の名前が記されたタペストリーは、母屋の玄関に飾られている。

阿部
ここには、東北を旅するお客さんがよく泊まっていきます。でも、秋田の宿泊施設の中では、海外からのお客さんが多い方だと思いますよ。前に行ったことがある国のお客さんが来ると、ちょっと話が盛り上がったり。
共有キッチンの壁には、海外から訪れた宿泊客の写真が飾られている。少しずつ日焼けしていく写真も、CAMOSIBAの歴史の一部。

阿部
休学中は主に、西ヨーロッパや中東、南米を巡っていました。
特に印象的だったのが、イスラエル。想像以上にフレンドリーな人が多くて驚きました。それに、キリスト教とユダヤ教とイスラム教の文化が入り混じっているのが、とても面白かったんです。共存……とは違うかもしれないけれど、せまい街の中にそれぞれのコミュニティーが形成されているのが、本当に不思議で。

人それぞれが持つ文化や価値観に、正解も不正解もありません。その「違い」を面白いと感じ、そこから生まれる化学反応を楽しむことができる阿部さん。今、秋田で過ごす日々をどう感じているのでしょうか。


阿部
東京にいる時、大学の先生方は別として、心から尊敬できる大人が身近にいなかったんです。街にはあんなにたくさん人間がいるのに!(笑)

でも、秋田に帰ってきた今は、尊敬する先輩がたくさんいます。ここでは、エッジのきいた人たちを見つけやすいし、繋がりやすい。それは、人が少ないからこその良さだと思います。そういうネットワークには、ここを始める前からずっと助けられているし、毎日面白くて飽きません。

阿部
ただ、ここ(秋田)では、どこかひとつ拠点をつくってしまうと、ずっとそこにいる人だと思われてしまう雰囲気がありますね。

私の場合は家業もあったので、帰ってきた=実家を継ぐ、と思われていたみたい。でも、そういうことは一言も言っていないし、一生ここにいるとも思っていません。そうじゃなくて、私はもっと自由に動いていたい。

それでも今は、完全に離れたいわけじゃなくて、ちゃんとここにいたくているんです。これから新しく挑戦したいこともあるけど、まずはお客さんにとって、それに自分にとっても、この場所を豊かにしていく努力が必要だと思っています。
夜(19:00〜24:00)の蔵は「発酵バル」として営業中。宿泊はせず、飲食のみの利用もOK!

ふつふつと静かに醸されていく阿部さんの想いを伺った夜、横手の食文化を堪能するべく、「発酵バル」で夕食をいただきました。

“色々ソーセージのハーブソテー”。間違いなくビールに合う。
“甘糀チキンのトマト煮(バゲット付)”。トマトの酸味と麹の甘さが絶妙な一品。
「すすめられたお酒は絶対に断らない」という阿部さん。さすがです。

翌朝8時、朝食をいただきに再びバルへ。

同じ横手市内の鮮魚店から仕入れた鮭は、麹焼きに。阿部さんもおすすめの一品。
ナス、キュウリ、大根、昆布のがっこ(漬物)。ご飯がどんどん進む。
食後は冷やし甘酒を。見た目にもたっぷりな麹は、阿部さんのご実家のもの。砂糖不使用とは思えない甘さ!

その土地を訪れる“風”の人と、そこで暮らす“土”の人。どちらに身を置くかは、私たちの自由です。これから先、ここCAMOSIBAでたくさんの風と土が出会い、新たな醸し合いが育まれていくことを願っています。

【Hosterl &Bar CAMOSIBA】
〈住所〉横手市十文字町曙町7-3
〈宿泊〉チェックイン 16:00〜21:00 / チェックアウト 10:30
〈発酵バル〉19:00〜24:00(22:30 food L.O. / 23:30 drink L.O.)
〈TEL〉0182-23-5336
〈HP〉http://camosiba.com/

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