60枚の写真で振り返る
2018年の「いちじくいち」

2018.11.28

編集・文:竹内厚 写真:船橋陽馬

2018年10月6日(土)・7日(日)に、秋田県にかほ市で開催されたマルシェイベント「いちじくいち」。【「北限のいちじく」をじくにして身の丈の豊かさについて考えられるようないち】をコンセプトに、2016年、2017年の開催を経て、今年で3回目を迎えました。

そもそも、なぜ「いちじく」なんでしょう? まずは、いちじくいち実行委員会代表を務める佐藤れいさんに話を聞きました。

にかほ市で、地酒といちじく加工品の販売をする「佐藤勘六商店」4代目店主にして、「いちじくいち」実行委員会代表を務める佐藤さん。
佐藤
いちじくは、秋田県内のほかの地域でも栽培されてますが、昔からまとまった収穫量があるのは、ここ、にかほ市が北限だと言われています。

この辺で穫れるのは「ホワイトゼノア」っていう品種で、きれいな緑色で小ぶりないちじくです。もともと甘さも控えめで、煮ても崩れにくいから甘露煮にぴったり。

——確かに、ふだん目にする赤くて大きないちじくとは全然違いますね。それに、甘露煮にして食べるという文化も気になります。

佐藤
甘露煮は、各家庭で代々受け継がれてきたレシピがあるくらいだけど、作る人はだんだん減っていますね。

でも、ここ数年は若手のいちじく生産者たちががんばっていて、いちじくの若木も続々と増えています。こういった動きを「面白い!」と言ってくれた人たちがいて、この「いちじくいち」というマルシェイベントが生まれました。
秋田では、甘露煮にされ保存食として食べられてきたいちじく。砂糖の量や煮詰め方も違えば、レモンや赤ワインを入れる人もいて、各家庭によって作り方はさまざま。(写真:高橋希)

——いちじくいちでは、飲食店や物販店のマーケットに加えて、朝採りいちじくの販売も人気ですね。

佐藤
そうなんです。毎年あっという間に売り切れてしまいます。
お一人ずつ個数制限をつけたとしても、並んでくださったお客さん全員にお届けするのは難しくて…… 今年も試行錯誤しながら準備しました。
佐藤
甘露煮がある一方で、生で食べる完熟いちじくも甘くて本当においしいんですよ。ただ、熟れているぶん傷みやすいし、収穫量も少ないのでなかなか市場に流通しません。

だから今年は、より多くのかたに完熟いちじくを食べていただけるように、会場内の専門ブースで提供することにしたんです。完熟いちじくと甘露煮の食べ比べセットや、いちじくのクリームソーダ、いちじくバターサンドなどのアレンジメニューも提供しました。

秋田のいちじくについて、もっと詳しく知りたいかたはコチラ▼
記事:食と暮らし学「北限のいちじく

ここからは、今年の「いちじくいち」の様子を写真で振り返っていきましょう。

会場となった旧上郷かみごう小学校は昨年度末に閉校になったばかり。学び舎としての雰囲気もまだまだ色濃く残る。
会場からはこの眺め。こんなにも鳥海山ちょうかいさんがバッチリ見える日はあまりないと地元の方も言うほど。この日、にかほ市の気温は27度まで上昇!
10時の開場を前に早くも長い行列が。
先頭に並ぶのは、由利本荘市から8時に来たというお母さん。「お目当ては学校橋雑貨店、空の木Garden、FOG coffeeに、旬菜みそ茶屋くらをのお味噌汁も楽しみ」と、今年の出店者情報もバッチリ。
その頃、収穫したばかりの生いちじくを運びこむ生産者の皆さん。
あらかじめ袋数を数えるのは、このあと配る整理券のため。
会場前の行列はさらに長いものに。2日目は台風で中止と予想した人が多かったよう。
10時、いよいよ開場!
並んでいた人たちの多くが目指す、生産者による生いちじくの販売。
完熟いちじくを楽しめる飲食ブース「いちじくいちをパーラー」。こちらはいちじくの甘露煮&完熟いちじくの食べ比べセット。
今年は、いちじくいちのメインキャラクター“いちじくいちを”のオフィシャルグッズも充実。
なんも大学の記事「秋田の地元パン」がきっかけで誕生した“いちじくパン”も登場。2日分用意したのに、なんと初日ですべて完売!そのほか、各出店ブースにも、いちじくモノはいろいろと並んでいた。
関連記事①食と暮らし学「秋田の地元パン」
関連記事②なんも大学発!たけやのパンが完成!!
にかほ市で大評判のフレンチレストラン「Remede nikaho」は、いちじくとミントを閉じこめたデトックスウォーターや、いちじくバター、いちじくとトリュフのブッセを販売。
にかほ市のコーヒー専門店「Espresso Aube」では、いちじくの赤ワイン煮とチョコレートのタルトというゼータクな一品も。
由利本荘市の家具職人「fuuukei」は、いちじくの葉染めのカトラリーも販売。
美郷町みさとちょうで生まれた郷土玩具、百目木どめき人形でいちじくいちを&鳥海山を表現していたのは「勝手に宣伝組合」デザイナーの澁谷和之さん。
その場でいちじくの目を入れるという実演販売風が楽しい。
お昼どきには、飲食ブースが集まった体育館は大賑わいに。いちじく色の装飾が日の光に映えて、気持ちイイ。
まっすぐカメラにピースサインの息子さんを連れたお母さんと会社の同僚の女性。「いちじくいちは昨年も来ました。整理券をもらえたので、いちじくは帰りに買ってかえります」。手にしているのは、秋田市の飲食店「三つや」のいちじくやビーツを使った、ノンアルコールのサングリア。
家が上郷小のすぐそばというご夫婦。なんと先週、東京からUターンで戻ってきたばかりだそう。「帰ってきたら、たまたまこれやってるのを知って。母校が閉校しちゃってたので、こうやって人が集まるのはうれしいですね」。
ふたりが食べていたのはこちら、秋田市にあるエスニックベースの創作料理店「CHIVICOS」のセット。カレー3種に野菜のおかず5種盛り。
こちらも会場から歩いて5分のところにお住まいという、老人クラブ仲間の3人。「今日はたくさんの人を見れて幸せ。普段は、畑とうちの往復で人さ会わねえから(笑)」。
昼すぎには生いちじくは完売。いちじく生産者の若手チーム“いちじくボーイズ”もほっとひと息。
見事な鳥海山! ……と、校庭の片隅にはテントと水を張ったプール、不可思議な人たちが。大阪からやって来た「Tent Sauna Party」だ。
テントの中がサウナになっている。もちろん、こちらも出店者。「来ましたよーって言うと、ほんとに来たんだ!? って驚かれました(笑)」。台風予報を吹き飛ばして、バツグンの環境で気持ちイイ時間を満喫。翌日は長野へ移動するんだって。
芸人のネゴシックスさんもやって来た。体育館では「なんも大学」の読者交流会として「なんもだんだん 秋田と島根はツートップ!」と題したトークイベントを開催。島根県出身のネゴシックスさんと、なんも大学編集長で秋田に詳しい藤本智士の2人が両県の魅力をプレゼン。お客さん参加型でテーマを決め、郷土の和菓子やお酒の場での県民性などについて話した。
体育館のブースで出店もしてくれたネゴシックスさん。自身のグッズの販売とともに大人気だった似顔絵描き。
味噌の量り売りをしていたのは飲食店「旬菜みそ茶屋くらを」。ふだんは横手市増田町で、麹をふんだんに使った料理や甘酒などを提供している。
会場内でも買って手にしている人をたくさん見かけたブーケ。由利本荘市でフリーで活躍するフラワーデザイナーの小松智子さんが販売。
書店「かもめブックス」(東京)&出版レーベル「文鳥社」(京都)の柳下恭平さんは、短パンに見えて海パンをずっと履いていた。東京からその姿で来秋!
いちじくソフトを食べていたご家族。「目当てにしてたカレーがあったけど、来るのが遅くて売りきれてました。娘はこれが初めての遠出なんです」。秋田市から、まだ1ヶ月という愛娘を連れて!
「同僚がボランティアで手伝ってるのでちょっと様子を見にきました」と会社の同僚4人組。彼らが到着した15時(閉場1時間前)には、実はフードの多くが結構、品切れ状態に。
1日目の閉場後、体育館では生産者、出店者、地元スタッフらが集まって、「お楽しみ会」を開催。地元・小滝地区の伝承芸能「鳥海山小滝番楽」が特別に披露された。ステージまで賑やかに入場してくるスタイルでスタート!
テンポのいいお囃子に合わせて、演舞もどんどんヒートアップ。ユーモラスさもあり。
演目「四人餅搗き」は舞い手も汗だく、笑いもたくさん。会場では、自由に飲んだり食べたりしながら鑑賞できたので、「ゼータクすぎるやろ!これ」と客席で見ていたネゴシックスさん。
2日目だけの出店となった、にかほ市のラーメン店「湯の台食堂」は、元・職員室で出店。
店とは違った平麺の中華そばに、厚切りチャーシューも人気だった。
秋田市のパン屋「マルタベーカリー」が出店しているのは元・音楽室。後ろに見える作曲家の肖像画がかつてのおもかげ。
話題の雑誌『ちゃぶ台』第4号となる「発酵×経済」号を先行販売していた出版社「ミシマ社」(東京)は元・図書室で。「面白そうな人たちがいっぱい来てるからって、来場されるお客さんも多いですね」と営業の池畑さん。
インパクト大な秋田のお年寄りたちを写した写真展示は、長野県で発刊しているフリーペーパー「鶴と亀」のもの。編集人でカメラマンの小林直博さんも2日間参戦。
体育館のステージでは、ウェブメディア『ジモコロ』編集長の徳谷柿次郎さんがMCを務める、TBS NEWSの番組『Dooo!』の収録も。なんも大学編集長で、いちじくいちの発案者・藤本智士が、地域の編集術を語る。
O.A.映像はこちら!:『いちじくいち』で地域を豊かに“再編集”~柿次郎が尊敬する編集者が語る!」
ジーパンのデメリットをすべて解消し、アップデートしたジーパン“パンジー”を秋田で初披露していたのは、東京からやってきたアパレルブランド「ALL YOURS」の木村昌史さん。ステージ上での公開イベントとして行われた「第1回 いちじく商品企画会議」でも大活躍。
2日目に降った雨も昼にはあがり、体育館も大賑わい。
雨のなかでも、運動場で車の交通整理を続けていたのは地元スタッフの面々。ご苦労さまです!

——台風直撃という予報が出されて心配されましたが、6日の深夜に台風が通過&熱帯低気圧に変わるという“天の采配”で、無事に2日間ともに開催。 過去2回に比べてどうでしたか?

佐藤
駐車場の車のナンバーとかを見ると、秋田や東北以外の地域のお客さんが増えたと思います。それに不安な天候のなか、こうしてわざわざ足を運んでいただいてるので、無事開催できて本当に良かったです。

実は僕たち、行政から補助金や助成金はいただいていなくて。そこで今年、初めてクラウドファンディングに挑戦して、県内外からいただいたご支援のおかげで無事に目標額を達成できました。秋田のいちじくだけでなく、「いちじくいち」そのものに興味を持って応援してくれるかたがこんなにいるんだ、ということを改めて実感しましたし、本当に感謝しています。
今年は、クラウドファンディングのほかに“入場無料・退場料(お気持ちで1円から)”のやり方で運営費の一部を募った。

——反省点はどうでしょう。

佐藤
生いちじくの販売方法とか会場までのアクセスの問題とか、たくさんありますが……やっぱりもっと地元を、にかほ市全体を巻き込んでいくことですね。

ここ(旧上郷小学校)で開催するのは今年が初めてだったので、校舎の造りや周囲の環境も全然わからなくて、3回目といっても、ほとんど1からやり直している気持ちでした。

でも、地の利がある地元集落の皆さんが、早い段階から知恵と力を貸してくれたんです。過去2回の「いちじくいち」を見てたから、「いちじくいちだったら手伝いたい!」って。うれしい話です。
佐藤
もちろんこれまでも、にかほ市の職員さんや地元企業の皆さんから、たくさん手助けしていただいています。でも、にかほ市のほかの地域も含め、自分ごととして関わってくれる地元の仲間を増やすことが、これからも継続して開催していくためには必要不可欠です。そうすることで、今ある細かい課題も解決していけるんじゃないかと。

——まだまだ課題は山積み、といったところですね。

佐藤
そうですね。でも、僕たちにとって当たり前だったいちじくや甘露煮という文化が、ちょっと視点を変えて見せ方を工夫するだけで、まったく新しいものに生まれ変わった。これを継続するための努力はしないといけません。
この「いちじくいち」をきっかけに、秋田に興味を持って訪れるかたが増えて、秋田全体が盛り上がっていけたら最高です!
たくさんの来場者が残したいちじくいちをとメッセージも。
2日目の閉場後、残っていた出店者、スタッフのみんなで記念撮影をパチリ。おつかれさまでした!
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