秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:矢吹史子 写真:船橋陽馬

本日は、ラルゴで、ラルゴに。

2019.02.20

「ラルゴ(largo)」=「極めてゆっくりと」「豊かな」「幅広い」という意味。

夏には多くの海水浴客で賑わう、潟上市かたがみし出戸浜でとはま。その向かいに佇むのが「カフェレストラン ラルゴ」です。同じく、潟上市に暮らす、かぎ編みアクセサリー作家の藤田美帆さんを訪ねた際「ハンバーグが美味しいんですよ」とおすすめされ、やってきた私たち。

訪ねてみると、そこはまさに「ラルゴ」なお店でした。

ドアを開けて最初に飛び込んでくるのが、黒板の手描きのメニュー。字面を見るだけでも心が踊る。
客席は、カウンター、テーブル席に加えて、小上がりも。奥には薪ストーブが灯る。
テーブルにもメニューが。「おっきいハンバーグ」「どでかいハンバーグ」「オムレツ添え」「パスタ添え」「ライスorトースト」……ハンバーグだけでもこのバリーエーション。まさに「ラルゴ(幅広い)」

優柔不断を本領発揮させつつも、ラルゴデビューは、やはりおすすめのハンバーグから、というところに着地。
マスターの「一つ一つ作っているから、時間がかかるけど大丈夫?」という忠告にうなずき、待つこと40分。「ラルゴ(極めてゆっくりした)」な時間軸のなか、やってきたのはこちら!

「ハンバーグセット」。ハンバーグはすべてに秋田県産黒毛和牛を使用しているそう。肉の食感とうまみがぎゅっと凝縮、「肉、食べてます!」という充実感に包まれる。
「オムレツ添えハンバーグ」は、まるで夫婦のようなコンビネーション。ハンバーグの力強さを、爽やかなトマトソースのふわトロオムレツが優しく支えてくれる。
「ハンバーグドリアセット」は、アツアツのホワイトソースの中からハンバーグ、チキンライス、目玉焼きを掘り当てる、さながら宝探し。

噂どおりのハンバーグを堪能し、大満足でお店を後にした取材班ですが、満腹な胃袋を携えながらも「次はあれが食べた〜い!」と、まだ見ぬメニューへの妄想が止まりません。

……ということで、数日後、再訪。

相変わらずの優柔不断ぶりの取材班ですが、迷いに迷って、今回はハンバーグではないメニューにチャレンジ!

スター夢の競演、「海老フライ添えオムライス」。ボリューム満点の華やかな出で立ちではあるものの、軽やかなトマトソースのおかげか、ペロリと完食できてしまう。
ハンバーグに並ぶ人気メニュー「ステーキランチ」は、ミディアムレアに焼かれた肉にカリカリのフライドガーリックがたっぷり乗った、マッチョな一皿。噛むほどに旨味が溢れ出す。
「半熟卵はいつ潰す?」カレーとチーズに相談しながらいただく「チーズ焼きカレー」。時折、ごろっと大きなビーフも「こんにちは」。
ここで変化球。そう、ラーメンまであるのだ。「ハンバーグラーメン」は、味噌タンメンに、不思議なほどトロントロンな煮込みハンバーグが乗った一品。
食欲旺盛な取材班に、マスターから「チーズドリア」の挑戦状が。豪快なエビとほんのり甘みのあるホワイトソースが絡み合う。参りました、お腹も心も「ラルゴ(豊か)」です。

なんとか食べ終えたところで、マスターの小田おだ昌彦まさひこさんにお話を伺います。

——いつ頃からお店を始められたんですか?

小田さん
ここに来て30年くらい。その前は追分駅のそばに15年くらいいたんだ。向こうは駐車場がなかったから、不便でこっちに引っ越したの。

——出戸浜海水浴場の向かいですから、夏はお店も賑わいそうですね。

小田さん
浜からは全然! 来ない、来ない!
今はコンビニもあるし、みんな食べ物も飲み物も自分でクーラーボックスに入れて持って来ちゃうんだよね。だから海の家も大変みたいだよ。

——泳いだあとにここに来たら最高なのに。てっきりみなさん、海パン姿でここまで来てるんじゃないかと想像してました。

小田さん
20〜30年くらい前まではあったけどね。いまは、うちに来てくれる人は、ほとんどがうちを目指して来る人。土日祭日には遠くから、平日は近所に勤めてる人がランチに来るのが多いね。
小田さん
もともと俺は海運業の仕事をしていて船に乗ってたの。いつか外国に行きたくて、船の休暇中にアルバイトで飲食店で働いているなかで「自分でもやってみるか」って思うようになって。だから飲食店はほぼ独学なんだ。

——独学とはいえメニューは豊富だし、ハンバーグ、最高です。

小田さん
店はずっと、妻とふたりでやってきてるけど、お客さんからも教えられてきたよ。アレ作ったら?これ作ったら?って。メニューは今も毎月少しずつ変えてるんだけど、そうやっているうちにだんだんとハンバーグなんかを作るようになったんだ。
ハンバーグで使ってる秋田の和牛は1頭分の塊肉を買ってきて、ここで挽いてるんです。そうしないと好きなときに好きな部位が使えないから。なるべく自分で手をかけてやるようにしてるんだ。
追分時代から、40年の付き合いになるという常連客も来店。

——もしかして、野菜もご自身で?

小田さん
野菜はせいぜい、ナス、ピーマン、トマトとかね。あと、イチゴとかキイチゴね。
酸味がキリリと光るレモンスカッシュと、春に採れたものを砂糖漬けにして使っているというイチゴジュース。見た目にも味にもときめいてしまう。
珈琲を注文したところ「浅めがいいかな? 深入りを強めにしましょうか? 」と、いくつかの豆の缶を開けている。なんと、煎り分けた豆をお客さんの好みに合わせてその場でブレンド。
本日の豆はブラジルとタンザニア。マスターが、その日の朝手煎りしたものをサイフォンで淹れてくれる。
左がスタンダードなサイズ、右がゆっくり過ごしたい人にオススメの「デカカップ」。

——もともとの外国へ行く夢は?

小田さん
パー!!(笑)。 もう20年若ければ、もう少しやりたいこともあったけどね。

——どんなことがしたかったですか?

小田さん
雪の降らないところでやりたいね。駐車場を求めて引っ越したんだけど、やっぱり除雪が大変。でも、もう引っ越しするほどのパワーはないもんね。
小田さん
でも、スマートフォンが始まってから変わったね。情報を発信して、話題にしてくれるようになって。昔はそういうのがないから大変だった。こうなるのが、20〜30年早ければね……。
小田さん
このエスプレッソの機械も、もう少し早ければもっと活躍させてあげられたんだけどね。うちはエスプレッソを、40年以上も昔、今みたいに流行る前から出していたんだけど、当時は誰も見向きもしなかった。この機械も使えなくなってしまって、今は飾り。ただの鉄くず。

——でも、先駆けて、こういう機械に興味を持ったり、メニューを新しくしたり。常に探究心があるんですね。

小田さん
中学校のころからステレオいじりも好きで、自分でスピーカーも作ったりしてね。新しいもの好きなだけなんじゃない?

——料理も音楽も、好きなことをお店で表現できるのは、楽しいですね。

小田さん
特に音楽は、昔は隣近所にも迷惑がられたね。追分時代は「ラルゴはうるせぇ」ってね(笑)。
店の名前はヘンデルの曲から取ったんだ。「ラルゴっていうのは、その曲の速度記号で、自分では「のびのびした」っていう意味で付けたんだけど、全然そんなことないね。ずーっと何かに追われてるね(笑)。

その後、調べてみたところ、「ラルゴ」は、イタリア語で「沖」という意味もあるとのこと。ラルゴという言葉とこの店は、どうにも切れない縁があるように感じます。
「のびのびできていない」とは言いながらも、どこか楽しそうな小田さん。ごちそうさまでした。また「ラルゴ」しに伺いますね。

【カフェレストラン ラルゴ】
〈住所〉秋田県潟上市天王下浜山175-10
〈TEL〉018-878-9419
〈時間〉10:00〜15:00
〈不定休〉