
ちゃぶ台の上の秋田
〜秋田に醸されナイト〜
2019.07.10
現在、渋谷ヒカリエにある「d47 MUSEUM」で開催中の「Fermentation Tourism Nippon ~発酵から再発見する日本の旅~」。これは、発酵デザイナー小倉ヒラクさんが日本全国47都道府県を旅して、各地で出会った発酵食品を紹介するという展覧会。


秋田からは「ハタハタ」が選ばれ、魚醤「しょっつる」と飯鮓「ハタハタ寿司」が紹介されています。
6月15日、この会場で、「なんも大学」の読者交流会として「ちゃぶ台の上の秋田〜秋田に醸されナイト〜」というトークイベントが開催されました。
出演は、「なんも大学」編集長の藤本智士、出版社「ミシマ社」の三島邦弘さん、精神科医でミュージシャンの星野概念さんの3人。
じつはこの3人、秋田出身でも在住でもないのに、共通点はなぜか、「秋田と発酵」なんです。いったいどういうことなんでしょう?!
奇妙な3人による、熱い秋田トークのスタートです!
三島邦弘
編集者・ミシマ社代表。2006年10月、単身で東京・自由が丘にミシマ社を設立。以来、「原点回帰の出版社」を標榜し、「一冊入魂」の編集活動をつづけている。現在は、京都と自由が丘の二拠点体制。「ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台」Vol.4の特集は「菌をもっと!」「やわらかな経済」。今年編集した本は、最相葉月・増崎英明『胎児のはなし』、内藤正典・中田考『イスラムが効く!』、森田真生『数学の贈り物』、益田ミリ『しあわせのしりとり』。
星野概念
精神科医 など。病院勤務の精神科医。執筆や音楽活動も行う。雑誌やWebでの連載のほか、寄稿も多数。音楽活動はさまざま。著書に、いとうせいこう氏との共著『ラブという薬』(リトルモア)など。
藤本智士
編集者・有限会社りす代表。ウェブマガジン『なんも大学』編集長。「Fermentation Tourism Nippon ~発酵から再発見する日本の旅~」をはじめ、多くの展覧会の企画運営アートディレクションなどを手がける。著書に『魔法をかける編集』『風と土の秋田』。共著に『アルバムのチカラ』(×浅田政志)、『BabyBook』(×福田利之)など。『ニッポンの嵐』『るろうにほん熊本へ(佐藤健)』など、手がけた書籍も多数。
写真:鍵岡龍門、船橋陽馬、清永洋、鈴木竜典、広川智基
ちゃぶ台と発酵と秋田

藤本- 編集者の藤本智士です。僕は、クリエティブディレクターという立場で、この展覧会の会場構成を考えたり、展覧会の公式書籍である『日本発酵紀行』という本の編集を担当しました。今日はよろしくお願いします。

三島- ミシマ社という出版社をやっています、三島邦弘です。ミシマ社では、2015年10月から年に一回、「ちゃぶ台」という雑誌を作っているんですが、去年の特集が「発酵」で、藤本さん、小倉ヒラクさんにお力添え頂きました。今日はそのご縁で来ています。よろしくお願いします。

星野- 星野概念です。僕は精神科医で、もともとは、ちゃぶ台にも秋田にも全然関係なかったんですけど(笑)。たまたま僕が発酵の話とか勉強が好きで、それが精神医療とすごく繋がる部分があるんですよ。 それから、6月頭にたまたま秋田に3日間行っていて、山菜採ったり、じゅんさい摘んだりしてきました。今日はよろしくお願いします。

藤本- 今日はこの3人でトークさせていただきます。この展覧会自体は47都道府県の発酵食品が展示されているんですが、今夜に限っては秋田に特化した感じでお届けできればな……って言うてる僕は兵庫県に住んでるんですけどね。
三島- 僕は京都から来ました。
藤本- 概念くんは東京?
星野- でも僕は今日、昼ぐらいまで京都にいました。
藤本- ほんと? じゃあ、今日はほぼ、関西勢ということで……(笑)。
三島- じつは、概念さんと僕は今日が初対面なんですよ。
藤本- そうなんですよね!

三島- 藤本さんと概念さん、お二人とも今、ミシマ社でやってる「みんなのミシマガジン」というウェブ雑誌で連載してくださってるんですけど……。
藤本- だから当然、二人は知り合いだろうと思ってオファーをしたら、まさかの初めまして……。
星野- 初めまして!
藤本- これをご縁に仲良くなってください! それで、今日のトークのタイトルがなぜ「ちゃぶ台の上の秋田」かというと、さっき、三島くんが言うてくれたけど、ご縁はこの「ちゃぶ台」という雑誌なんですよね。その特集が「発酵」だった。

三島- そうなんですよ。「ちゃぶ台」の第4弾になるんですが、発酵を特集するというのは第3弾が出た直後に決めまして。
そのきっかけというのが、タルマーリーさんという、鳥取県智頭町にあるパン屋さんに、「ちゃぶ台」に寄稿してもらっているんですけども、第3弾で「スタッフと菌の関係」ということを書いていて……。
藤本- うんうん。

三島- そのなかに、「人間関係が悪い時は酵母が育たない。パンが発酵せずに腐敗してしまう」とあって驚いたんです。「スタッフの気持ちが菌にまで影響するのか!?」と思った時に、「世界を動かしているのは菌なんじゃないか?」というふうにまで思えてですね。 そこで、第4弾のテーマは「菌」にしようと。そこから、会う人、会う人に「菌だ、菌だ、菌だって」言いはじめて。
藤本- 言ってた!
三島- そしたら、吸い寄せられるように、藤本さんとヒラクさんが来て、一緒にイベントさせてもらったんですけど「次、『ちゃぶ台』で菌をやるんです!」って藤本さんに伝えたら「ほな、秋田に来な!」となったわけです。今回のトークのお誘いみたいに、もう「行かない」っていう選択肢がない感じに(笑)。
- 会場
- はははは。

藤本- いや、いや、いや、ありますよ(笑)。
三島- それで、ちょうど去年の5月に秋田に行かせてもらった。
藤本- まぁ「秋田に来な」と言うても、僕、兵庫県民なんですけど。
三島- 藤本さんは、秋田に関わって10年以上?
藤本- 東北の震災の後くらいに、「のんびり」っていう秋田県庁発行のフリーマガジンのお仕事をさせてもらって。それが2012年からなので。7年くらいですかね。

三島- そうか、そうか。
藤本- いまだに毎月のように秋田に行ってるんですよ。
概念さんと日本酒
三島- 概念さんは、「みんなのミシマガジン」の連載の第1回目で「発酵にハマった」っていうお話を書いてくださってますけど。

星野- そうですね。熱燗がきっかけで……。僕、熱燗がめちゃくちゃ好きなんですよ。
三島- それ、いつぐらいのことなんですか?
星野- いつぐらいだろうな……。でも、じつは僕、もともと日本酒は大嫌いだったんですよ。
- 会場
- へ〜〜〜!
星野- 学生の時にチェーン店の居酒屋とかで飲んで、悪酔いして、線路歩いたりとか……変なエピソードばっかりあって……。
- 会場
- ふふふ。
藤本- 概念くん、こう見えて、精神科医だからみなさんそういう見方になってるかもしれないけど、基本ミュージシャンなんで、むちゃくちゃなんすよ。

- 会場
- はははは。
星野- いやいやいや(笑)。それで、日本酒は好きじゃなくて、一生飲まないと思っていたんですけど、新宿に、寿司屋なのに寿司が1貫くらいしか出てこないっていう変わった店があるんですけど、そこに行ったら燗酒がすごく美味しくて、ものすごくハマって。そこから、いろんな縁ができて、蔵を見に行かせてもらったり、杜氏の話を聞いたりするようになって。
藤本- なるほど。

星野- そこでわかったことが、酒造りってものすごく奇跡的な工程ででき上がるんだけど、僕が好きなお酒を作ってる人たちって、あんまり手を加えないんですよ。「発酵すればいいじゃん」みたいな感じで。基本は見てる。で、おかしくなりそうになったらかき混ぜたりとかして。「だんだんお酒になっていくのを支えながら見守る」みたいな。
- 会場
- うんうん。
星野- それが、僕が思っている精神医療に近いんですよ。それを見出してしまったから、酒を飲む理由みたいなものができて、日本酒を飲み倒すようになって……。
天の戸
藤本- 秋田の蔵はどういう所に行きました?
星野- 秋田で伺ったのは、新政と、「一白水成」っていう銘柄で有名な福禄寿酒造と、「春霞」の栗林酒造。あと、「天の戸」の浅舞酒造。あそこは井戸水が………。
藤本- いいでしょ〜きれい。

星野- きれいで。僕がグッときたのは、どこの蔵も水が売りなんですけど、そこは近所の小学生が水筒持ってきて、酒造りをしている傍でその水を汲んでどこか行っちゃうみたいな。寄り合い所みたいな雰囲気があったんですよね。
藤本- なるほど〜。天の戸の杜氏の森谷さんはすごく面白い人で、僕が秋田の杜氏さんにハマったのは、森谷さんに会ったのが大きいんですよ。
星野- そうですか!
藤本- 「夏田冬蔵」という銘柄があるんですけど、それは「夏は田んぼで冬は蔵」っていう意味で。秋田の蔵人たちは夏に田んぼをやって、冬に蔵に入るみたいなことが割とスタンダードなんです。森谷さんは『夏田冬蔵』っていう本も書いていて、それがめちゃめちゃ面白くて。天の戸って、半径5kmの米と水しか使わないんですよ。

- 会場
- へ〜〜!!
藤本- 超地産地消。それって結構リスキーなわけですよ。限定されているから。何かの自然災害が起きたらダメになっちゃうわけなんですけど、そういうことをあえて選択してやっている人で。
三島- なるほど。
藤本- その蔵が横手市にあるんだけど、横手って盆地なんですよ、横手盆地。森谷さんに初めて会いに行ったとき、最初に軽トラでその盆地が眺められる山の上に連れて行ってもらったんですよ。そしたら、そこでいきなりワイングラスを出しはじめて、そこに「Land of Water」というお酒を注ぐんですよ。で、乾杯するのかな? って思ったら「その前に、グラス越しにこの盆地を見てくれって」て。
- 会場
- え〜〜〜!

藤本- で、見てみると、レンズみたいになっている中に田んぼがふわって見えて。「この景色が全部、この酒になっている」って言うんですよ。
- 会場
- わ〜〜〜〜〜!!!
藤本- 「なんなん、この人! めちゃめちゃエンターテイナーやな」と。ただの作り手っていうより、伝えるのが上手な人なんですよね。秋田って、結構そういう人が多いよね。

三島- 多いですね! 去年、僕が秋田に行った時は、五城目町の「一白水成」の福禄寿酒造に行ったり、新政の杜氏さんにお会いしたりしましたけど、みんなとにかく面白すぎて「なんなんだ、ここは!」って思って。それで、この「ちゃぶ台」がほとんど秋田号みたいになったんですよね。
三島さんと日本酒
三島- ところで、今日来ているみなさんは、日本酒は好きなんですか?
藤本- 好きやから、来てはるんやろな。
三島- 発酵好きの人が全員、日本酒好きなわけでもないじゃないですか! じつは僕も、去年秋田に行くまで、日本酒、全然飲めなかったんですよ。
藤本- 三島くん、全然飲まない。

三島- そうなんですよ。ほぼ一滴も飲めなくて。他のお酒は飲むんですけど。「昔、日本酒で悪酔いしたし、翌日、頭が痛くなるってことが多かったから、飲まないようにしてるんです」って、藤本さんには言ってたんですけど、五城目に行く道すがら、藤本さんに日本酒の講義受けたんですよ。「日本酒には純米酒と醸造酒がある」というところから。それすら知らなかったんですよね。
藤本- 意外とみんな普通に知らないと思う。「純米」ってついているやつは、米、水、麹だけで醸されているけれど、「純米」ってつかないやつは、人工的な醸造アルコールを添加してますよっていうことで。だけど、だからと言って悪い酒ではないんだよ、全然。
三島- ですよね?
藤本- じつは、僕も昔はチェーンの居酒屋に行って日本酒飲むと頭痛くなったりしてて、完全に二人と同じ感じだったんですよ。
三島- うんうん。
藤本- それが、秋田で仕事しだして、酒を飲みに行くとね、勧められるんですよ。秋田の人っておかしいんですよ、マジで(笑)。
- 会場
- ははは。

藤本- 酒量がやばい。結果、僕が割と酒が強いことがわかって。酒の相手ができたんで、今、仕事できてるのかもなって思うくらい(笑)。
- 会場
- ははは。
藤本- でも、そこでいろいろ飲んでも、次の日に二日酔いがあんまりなかったりして。
三島- 本当にそうなんですよ。だから、秋田で、藤本さんが秋田の人にやられたみたいに、僕は藤本さんに大量に飲まされるわけですよ。ガバガバ、どんどん注がれて。
藤本- でも、三島くん、いくからね! 飲むから! 無理矢理飲ましてるわけじゃないから。

三島- いやいや(笑)。もうこれで終わろうかな……と思ったら出てくるんですよ(笑)。でも、翌日全く残ってなくて。すきっとしてて。魔法にかかったみたいな、藤本さんのいつものトークで(笑)。
- 会場
- ははは。
藤本- でも、僕もそういうのが原体験であって。そこで気づいたのは、秋田って基本、純米酒だったんですよ、居酒屋で出してるものも。

藤本- さっき話した天の戸、今でこそ全量純米酒なんですけど、もともとは「桶売り」っていって、アルコールを大量に作って、それをトラックで大手に運ぶような、OEM的なことをやっていたんですよ。
*OEM=委託者のブランドで製品を生産すること。
- 会場
- へ〜〜〜!
藤本- でも、ある時、取引のあった大きな酒造メーカーに「5年後に買うのを止めます」と宣言されたんですよ。それで「やばい! これからは自分たちの酒造りをしなきゃ!」って、純米酒にシフトチェンジしていったんです。
三島- なるほど〜。
藤本- そのあたりから、秋田の蔵はほとんど全量純米酒っていうところが増えてくるんだけど、するとだんだん「純米酒が正しくて、普通酒がダメ」みたいに思えてしまうようになってくるんですよね。でも、それって間違ってるよね?

星野- 本醸造も美味しいのがあります。
藤本- 熱燗にハマると、余計にそう思う。
三島- 去年秋田に行って、これ……全部一緒やなと思ったんですよ。
藤本- ……なに言うてんの? 全部一緒?
星野- 今、すごい編集をしましたね! 全部一緒?

- 会場
- ははは!
藤本- 「いろんな世界と」ってこと?
星野- そういう意味か!
福禄寿酒造

三島- 出版の仕事も同じだなと思って。ミシマ社は始めて13年になるんですけど、出版業界も厳しいと言われがちで……。
秋田の福禄寿酒造の社長の渡邉康衛さんの話になるんですが、康衛さんが東京農大を卒業して親父さんに呼び戻されたとき、蔵には売れない日本酒が山積みだったそうなんです。


三島- そこから、少しずつ純米酒に切り替えていった、という話を聞いて、僕はその時、前提の知識もあんまりないから「今、一白水成がすごく売れているという状況になるまでは、反対する人もいっぱいいけれど、そんな中で必死に舵を切ったんだろうな、自分たちよりも日本酒業界は先にいってるな」と、そういうふうに感じたんですけど、それを康衛さんに言ったら「いや、そうじゃないんです」とおっしゃるんです。

三島- 「ほっといたら、蔵自体を無くしていくしかないぐらいに日本酒業界が追い込まれていた。だから、そこで舵を切りたくて切ったというよりも、切らさざるを得なかったんだ」と。


藤本- うんうん。
三島- なるほどな、と思って。さっき藤本さんが言ったように「こっちが正解で、こっちが間違っている」とかじゃなくて、多分両方必要なんだけど、大量生産、大量消費しかなかったというところから、そうじゃないところに舵を切ったのであって。そこは見習わなきゃいけないなと、すごく思いましたね。
切羽詰まった場所の可能性

藤本- ある意味、羨ましいっちゃ羨ましい。その切羽詰まった感が。僕は日本中いろいろ回ってるとね、一番厄介なのは、観光地だと思うんですよ。
三島- それなりに回っちゃうから。
藤本- 観光バス来てまう、みたいな。観光地に大量にバスでやって来て、ばーっと買い物だけして帰っていくような世界があるじゃないですか。あれって結構邪魔してる。一見、盛り上がっているように見えてしまうから、イノベーションが起こりづらいんですよね。
三島・星野- うんうん。

藤本- そういう意味では、切羽詰まっている世界には可能性があると思うし、悪い言い方かもしれないけど、だから僕は秋田に行ったっていうのはあるんですよ。少子高齢化、人口減少NO.1っていう、この秋田県、どう考えても一番切迫詰まっている気がする。そういう所でやったほうが可能性があるんじゃないかと。
三島- 一番のフロントランナーなわけですよね。藤本さんがそう言っているのをずっと聞いてたんで、去年、秋田に行って本当に実感しましたね。
藤本- うんうん。
三島- 逆に言ったら、まだ観光客でお客さんが来てくれているうちに、変わってしまうほうがいいと思うんですよ。そういうことが、ありとあらゆるところにあるんだろうなと思いますね。

藤本- 例えば、僕は4年間「のんびり」というフリーマガジンをやらせてもらったんですけど、これは、秋田でないとできなかったと思うんですよ。
三島- はい。
藤本- それは、言うてしまうと無茶苦茶やってたんですよ、ある意味。台割りとかも決めへんし、県庁のみなさんと編集会議はちゃんとするんですけど「次の号はこうします、でも行ってみないとわかりません」っていうことがまかり通る会議なんて、まずないじゃないですか。
三島- はい。

藤本- もう、信用してもらうしかない。でも、それができてしまうっていうのは、秋田県としても藁にもすがるような状況だったというのは間違いなくあるなと。
三島・星野- うんうん。
藤本- そういう意味で、僕にとって秋田ってやりやすい場所なので。秋田だからこそ、成功事例が起こりやすい、見えやすいんですよね。

藤本- 同じことを東京でやろうと思ったら、めちゃめちゃ大変ですよ。これだけの人たちの中で頭出すって、すごいことじゃないですか。
そういう意味で、秋田の勝ち目とか、逆に秋田が引っぱれることっていっぱいあるなって思いながらやっています。
山菜採りのブルースロック
藤本- もっと秋田の話をしたいんですけど、お酒以外で印象に残っているものとかありますか?

星野- おっちゃんとおばちゃんのパワーがすごい! 3日間、秋田に行っていたなかで、初日に白神山地で山菜採りに行ったんですよ。笹竹やウド、ミズ、ワラビとか。おっちゃん、おばちゃんチームに混ぜてもらって。
藤本- チームなんだね!
星野- そういう団体があって。白神山地の山の中に入って行くんですけど、車が飛ぶぐらいの道なんですよ。
藤本- 道が悪すぎて。

星野- 特攻野郎Aチームもびっくりみたいな所なんですけど、おばちゃんが謎のブルースロックみたいな音楽持ってきて、山の中で流すんですよ。で、「これが聞こえる範囲にいろ」って言うんです。

- 会場
- ははは!
星野- 「これが聞こえなくなったらお前は迷子になるから。聞こえる範囲で。それだったら助けに行けるから」って。
- 会場
- うわ〜〜〜。


星野- で、採り始めるんですけど、笹竹とか、プロには見えるけど素人には見えない。レントゲンの初見とかもそうなんですけど。
- 会場
- ははは!

星野- 肺炎とか、最初はわからないんだけれど。やっているうちに、これちょっと怪しい」「あぁ、肺炎だ」ってわかるようになるのに近くて。それで、ブルース・ロックが聞こえてるから大丈夫だと思って夢中になって採ってたら、いきなり「あれ? 聞こえなくなった」ってなって、急いで上にあがったら、おばちゃんがラジカセ持って移動してて。
- 会場
- ははははは!!!
星野- 「あぁ、来た来た」って言われて。なんなの? みたいな(笑)。
じゅんさい沼
星野- ほかにも、三種町でじゅんさい沼に行ったんですけど……。
藤本- 「じゅんさい」って、みなさん、あんまりわからないですよね? あの、ぷるっとした、おすましにちょこっと入っているような。

藤本- あれって「じゅんさい沼」っていう、田んぼを沼にした所で育てているんですね。沼といってもめっちゃ綺麗。透明度が高い。

星野- タニシとかもいるんですよね。
藤本- そのくらい水がきれいなんですよ。そして、でっかい引き出しだよね!
星野- でっかい引き出し?
藤本- 見るからにどっかの引き出し抜いて来たような長方形の船、なんの動力もないやつに乗るんですよ。ちょこんと。
星野- ……箱舟のことか(笑)。一寸法師みたいな感じですよね。


藤本- で、棒一本持たされてね、それで沼の中を自分で移動するんですよ。で、沼の中に海藻みたいにしてじゅんさいがいるんですよ。それを手でプチプチ切っていく。
星野- うんうん。
藤本- これがハマるんですよ。延々やってられるよね。めちゃめちゃのどかなところで。
星野- めちゃめちゃ日焼けします。
- 会場
- はははは!
藤本- 天気いいとやばいよね(笑)。それで、このじゅんさいが採れるのが、三種町っていうところなんですけど、日本一の生産地なんですよ。
星野- 国内シェア9割って言ってました。
三島- まじっすか!

星野- 僕が行ったじゅんさい沼を経営している親父、ずーっとギャグ言ってるんですよ。こっちは必死にじゅんさい摘んでるのに。それで、「俺は吉本に入るんだ」みたいなこと言いながら、摘みに来てる人に「お前はセンスがない」とか、女の子には「センスがいい」とかって言ってみたり(笑)。
- 会場
- ははは!
星野- でも、沼はすごくきれいに管理されてるんですよね。
自由でブレない秋田県民
星野- あと、すごいクセの強いおっちゃんがやってる酒屋、知ってます?
藤本- それだけじゃわからないけど(笑)。

- 会場
- ははは!
星野- お客さん帰らせたりすることもあるらしいんですけど。
- 会場
- あ〜。
星野- 僕を連れて行ってくれた人が勝手に冷蔵庫を見て「これいいね」とか言うと「お前ら、くせ者だな。じゃあ、これをやろう」って言って、裏から不老泉の貴醸酒とか持ってきてくれたり。
藤本- はいはい(笑)。

星野- そういうパンチのあるおっちゃんがいる一方で、秋田市の中心で若い人たちがやっている「亀の市」っていうイベントで、マルシェとかライブとかやってたりして……。
藤本- 最近、「ヤマキウ」っていう、醤油とか味噌を造ってる会社の倉庫だった所をリノベーションして若い人たちが店を始めたんだけど、ちょうど、そのオープニングイベントで「亀の市」ていうのをやってたんだよね。
星野- そうなんですよ。そういうお洒落な感じも発展して行きつつ、山とか沼とかにはくせ者親父もいっぱいいて。それぞれがいい意味で勝手というか、変なものに縛られてないっていうんですかね。
藤本- うんうん。

星野- やっぱり東京に住んでいると、もうちょっと縛られるものがある気がして。「周りがこうだし」とか「こうせねばならない」っていう、超自我的なことがいっぱいあるように感じるんですけど。秋田の人たちは自然体で過ごしてる。それが、発酵してるみたいだなって思えて。
藤本- 菌っぽいよね。
- 会場
- ふふふふ。
星野- そうなんですよ。現地にいらっしゃる方は、それぞれの事情があって、そんなことねぇって思うかもしれないけど。
藤本- すごいわかるわ。総じて、秋田って楽しそうでしょ。自由度高いし。それぞれの世界であんまりブレないんですよ。周りがどうとかっていうのはなく。特におっちゃんたち、おばちゃんたちがそうなんやけどね。
我が家は羽場こうじ

三島- 出会ったおばちゃんたちがすごい元気でしたね。連れて行ってもらった、羽場こうじ店さんとかも……。
藤本- うんうん。


三島- 創業が大正7年という麹屋さんで、ここのお母さんは麹造りを50年くらいされているそうなんですけど、造りの期間は、夜も3時間おきくらいに起きて、麹室の中に入って調整するっておっしゃってました。僕は、そこにいるだけで元気になりましたね。

三島- そこのお母さんが、「孫が毎日甘酒を飲んでたら風邪ひとつひかなくなった」っておっしゃるので、大量に買って帰ったんですけど、それ以来ずっと注文してます。1年間、我が家は羽場こうじ。
藤本- はぁ、ありがたいですね。
三島- むっちゃくちゃ美味しいですよね。
藤本- でも、みんなそういうのあるんですよ。県外の人が来て「出会い頭でついつい買っちゃたんだけど、以来、ずっとここの味噌頼んでます」とか。
三島- そうそう。もちろん他のものにも出会ってはいるんですけど、定期的に羽場こうじさんで頼んでるんですよね。
盛とLVNR
星野- 飲食店もいいとこたくさんあるんですよね〜。
藤本- 二人とも盛は行きました? レバニラ食べました?

星野- 盛だけ、行けなかったんですよ。
藤本- そっかぁ。盛っていう……。
星野- 中華料理の。
藤本- 秋田市の。あれ、何料理って言ってらいいんやろ。中国料理みたいな感じかな。普通の家みたいな所なんですけど。
三島- 行きました、行きました!
藤本- レバニラがめちゃめちゃうまくて。

星野- 若い人たち、みんなレバニラのTシャツ着てますよね。
藤本- 今、めっちゃ流行ってるでしょ? 僕も持ってます。レバニラの頭文字をとって「LVNR」って書いてあるんですよ。

- 会場
- ふふふふ!
藤本- 地元のTシャツ屋さんが作ってるんですけど、とにかくみんな「盛のレバニラ」リスペクトなの。これ、マジでめちゃめちゃうまい。
でね、以前、秋田県知事と一緒に県民300人くらいを前に対談みたいなことをさせてもらったことがあったんですけど、そこで盛の話をしたんですよ。

- 会場
- うんうん。
藤本- その時に僕、「あのレバニラ、日本一、いや世界一っすね」って言ったら、みんな知ってるから「わー!」となったんですけど、ステージ降りる時に、知事が僕の所にぱーっと来て、ちょんちょん、と。で、耳元で「あれは宇宙一」って。
- 会場
- はははは〜!!!
藤本- 知事に訂正された(笑)。

三島- 知事、やばいっすね〜。
星野- 次回こそは! 行きたかったところ、盛だけ行けてないんで。
藤本- マジで、マジで(笑)。
三島- レベル高いですよね。発酵のまちですね。
藤本- やっぱ発酵してるよね。
三島さんの仮説その1
三島- じつは今日、概念さんに聞こうと思っていたことがあるんですけど。
星野- はい。
三島- 「同じ釜の飯を食う」っていう表現がありますよね。以前、「ちゃぶ台」で「会社」を特集した時に、company(会社)っていう言葉は「com(一緒に)」「panis(パンを食べる)」っていうのが始まりなんだという話があったんですが、つまり、「仲間たちと一緒に鍋をつついているあいだに、そこで菌が共有されている」ということじゃないかなって思うんですけど、どうでしょうか?

星野- もはや……精神医療は全然関係ないですね。
- 会場
- はははは!
星野- むしろ、微生物学的な観点というか。
三島- 僕ら、言葉だけじゃなくて、菌レベルでコミュニケーションしてるんじゃないかと思うんですよ。
藤本- 「合う」「合わん」って、ある程度そうだと思いますよ。菌レベルで合う、合わないみたいな感覚があるんじゃないかな。

星野- 要は「言葉だけじゃない」って話だと思うんですよ。ノンバーバルというか、醸し出すオーラとか表情、雰囲気とかあるわけじゃないですか。そういう細かいところに菌も含まれているんじゃないでしょうかね。
藤本- 秋田の話にはならないんですかね?
三島- そうなんです。その、菌レベルのコミュニケーションっていうのが、秋田の人はすごくレベルが高いと思ったんです。
藤本- なるほど。良かった、秋田の話に落ちて(笑)。
- 会場
- はははは!
星野- ……落ちたんですか!?

藤本- でも、実際そうだよね。どちらかというと、僕らと比べて秋田の人たちって言葉数が少ないじゃないですか。
秋田県庁の農林水産部にいた人の話なんだけど、その人は、自分の担当する農家の今年の状況を知りたいんですよ。肥料をやる時期とかちゃんと記録していかないといけないから。
- 会場
- うんうん。

藤本- でも、農家の人たちって全然言わないんだって。聞いても聞いても、「あぁ……なぁ……」みたいな。それでしばらくしてから、タバコ吸いながら、突然「そろそろかな」みたいな発言をしたりして。
星野- なるほど。
藤本- だから、コミュニケーション自体が僕らと全然違う。僕なんかは関西人的に入っていくから、いわゆる「発酵的な待ち方」というより土足でこじ開けていくタイプになってもうてるけど。
三島さんの仮説その2
三島- そういうことでいうと、じつはもう一個、概念さんに聞きたいことがあって……。
藤本- カウンセリングコーナー?
星野- ははは。

三島- 概念さんといとうせいこうさんの共著『ラブという薬』、これすっごいおもしろかったです。
星野- ありがとうございます。
三島- この中で、概念さんが「抑止力が大事」という話をされていて、僕はもう読みながらずっと、この抑止力=発酵なんじゃないかという仮説を立ててしまったんです。
藤本- ……概念くん、ちょっとフォローして!

- 会場
- ははは!
星野- えーっと……。
三島- 本では、「衝動性が制御されなくなっていくのはすごく心配です」っていう概念さんの発言のところに、僕、赤ペンで「菌」って書いてる。

- 会場
- はははは!!!
星野- 「菌」印!
藤本- まず「衝動性」っていうのは、たとえばSNSとか? 割と鋭角でとげとげしいやりとりとかが、匿名なのをいいことにみんな衝動のままに発信している、みたいなことで、そういうのを抑えていく力が「抑止力」ってこと?

三島- そうです。そこから始まる暴力、ということに触れられているんですけど、「想像はしても実行に移さない、言葉に出さない、ギリギリのところで踏みとどまる」ってすごく大事なんじゃないかと。
星野- そうですね。
三島- だから、秋田の人たちが言葉数少ないっていうのも、日頃から発酵に触れている絶対量と関係してるんじゃないでしょうか?
待てる秋田の豊かさ
星野- それはあると思います。というのは、発酵という現象は、自分の思い通りにできるものじゃないから、生物学的に完全に「他者」。民族が違う、国籍が違う、肌の色が違うとかじゃなくて、生体として「他者」なんですよね。
藤本- うんうん。

星野- だから、他者に任せるしかないんです。そういうものが身近にあったり頻繁に携わったりするというのは、「自分の思い通りにならないことって普通にあるし、待ってたらなんかいい感じになるよな」っていう感覚があるっていうことでもあって、「衝動性」っていうのは、「とにかく思い立ったら口にする」とか、たとえばLINEを送って「なんで返事くれないんだ!」みたいな。
藤本- はい。

星野- でも、そう言う前に相手のことを想像してみて「そんなに自分の思い通りになることばっかりじゃないんだから、ちょっと待ってみようかな」みたいな感覚を持ってるか持ってないかが、大きな意味で平和に結びつくんじゃないかっていう話を本のなかでしてるんです。
藤本- なるほど〜。
星野- 「いまはまだまだだけど、そのうち良くなるだろう」とか、「最低限これはしておこう」というようなメンタリティーを持てることが大事かな、と。
藤本- そういうのが秋田は割とあるかもしれないですね。


星野- 今回展示されている発酵のものもそうですけど、「地味で、地道なことをどうしても省略できないから、それをコツコツ続けてきたらすごいのできた」っていう世界。「重しを乗せて待ってたらできてた」みたいな。
藤本- うんうん。
星野- でも、デジタルの感覚が増えれば増えるほど、地味なことを省略してもなんかイケてる風になるんですよ。でも、人間もアナログな生物だから、そういうのが増えてくると知らないうちにキツくなってくる。だから、地味で地道な試みがじつは自然な在り方だったりするんですよね。

藤本- さっきcompanyの話もあったけど、組織や会社として成り立ってくると、いろんなことが待てなくなってくるじゃないですか。結果とか成果みたいなものをすぐ求められちゃうから。
星野- そうなんですよ。
藤本- 前に「消費者でいることが辛い」っていう話をブログに書いたことがあるんだけど、農業や酒造りがある秋田の人って基本「生産者」だから、ふだんから自分がコントロールできないものを相手にしてる。
三島・星野- うんうん。
藤本- 消費者は自分が欲しいものを買えばいいだけだから、ある種、コントロールできてるように見えてしまうけど、じつは、その裏返しに、その供給がなくなったらどうしようっていう不安が常にある。だから、秋田という土地は豊かだと僕は思うんですよね。
三島・星野- うんうん。
藤本- 酒があって、米がある。そういう意味で、秋田の発酵との近さと「待つ」っていうことは、関係してるかもしれないですね。

3人の話もどんどん発酵していくなか、トークイベントは終了となりましたが、「Fermentation Tourism Nippon ~発酵から再発見する日本の旅~」は、好評につき会期を延長して7/22(月)まで開催! この機会に、秋田のみならず、全国の発酵の世界にぜひ触れてみてください!
