秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード
羽後町編

編集・文:菅原真美 写真:高橋希

地を潤す麦酒―羽後麦酒―

2019.10.09

羽後町(うごまち)にある道の駅うご「端縫(はぬ)いの(さと)」の人気商品 「羽後麦酒(うごばくしゅ)」のビール。

藍苺(ブルーベリー)夏菊(なつぎく)柚子(ゆず)西瓜(すいか)……思わず、どんな味なの!?と手に取りたくなるようなラインナップ。

豊富な味のバラエティやビールが苦手な人でも飲みやすいことで人気を博している羽後麦酒。

「羽後町に根付いたお酒を造りたい」。 その思いから始まったストーリーには、長い長い道のりがあったようです。

お話を伺ったのは「羽後麦酒」代表の鈴木隆弘すずき たかひろさんです。

——よろしくお願いします!羽後麦酒はいつ頃から始められたんですか?

鈴木さん
鈴木さん
2017年からです。僕が小さい頃、近所に日本酒の酒蔵があったんですが、今は無くなってしまいまして。羽後町のお酒を造って酒蔵を復活させたいと思ったのがはじめにありました。
こちらがビール製造工房。元々、味噌の貯蔵用に使用されていた蔵を改築した。

——お酒の中でも、なぜ「ビール」を造ろうと思ったんですか?

鈴木さん
鈴木さん
海外にはフルーツや野菜、ハーブ、スパイスを原材料とするビールがたくさんあるんです。農作物なら秋田は得意分野なので、地元で生産された食材を活かして、美味しいビールができるんじゃないかなぁと思ったんです。

——なるほど!いろんな食材を取り入れることで、味のバリエーションも増えるし、ビールの可能性は無限なんですね。食用菊を使用したビールにも驚きました。

鈴木さん
鈴木さん
夏菊ビールは、食用菊の煮汁をハーブのように風味付けする役割として使用しています。東北地方、特に秋田だと菊を食べる文化があるので、ビールにしてもそんなに違和感がないだろうなと思いました。大根おろしを乗せたさんまの塩焼きに、ものすごく合うんですよ。
「もってのほか」という愛称で広く知られている紫色の食用菊を使用したビールも発売する予定です。
真ん中が夏菊ビール。横手市十文字産の食用菊を使用。食用菊の苦味と香りが楽しめる商品。

この日、工房では今後発売予定の「羽後産の西瓜」と「男鹿の塩」を使用した新商品「西瓜ビール」の瓶詰め作業の真っ最中。

工場長の鈴木 栄治すずき ひではるさん。同じ「鈴木」コンビのお二人は幼稚園から中学校までの同級生。
鈴木さん
鈴木さん
いま、「JAうご」さんとのコラボ商品である「西瓜のビール」を販売しているんですが、そちらのビールの色は黄色なんです。今度は西瓜のような赤味がある色を出したいと思って、地元の農家さんと一緒に試行錯誤しています。
「JAうご」とのコラボ商品である「西瓜のビール」
新商品の「西瓜ビール」。ほんのり赤く染まり、甘い匂いが漂う。発酵時に酵母によって西瓜の色が吸収されてしまうため、なかなか赤味を出すのは難しいとのこと。
こちらは発酵用の冷蔵庫。釜で麦芽やホップなどの原材料を煮沸しゃふつしたものに、酵母を加え、1週間ほど20℃の温度で発酵させる。
プクプクと発酵中。発酵後は徐々に温度を下げ、さらに1週間、低温管理する。その間に浮遊物は沈み、よりクリアになっていく。

——ビールの味を考える時って、この味がゴールだなという感覚はあるんですか?

鈴木さん
鈴木さん
最初はなんとなくイメージしながら造っていくんですけど、発酵によって予想したものと味が変わってしまうんですよ。なので「最後はこんな味になるんだ」と、データを蓄積している最中です。
羽後麦酒の商品は、食事に合う飲み飽きないビールがいいなと思っていて。どの商品もそこからはブレていないと思っています。
こちらが定番商品の3種類。左:羽後町産あきたこまち使用の「ゴールデンエール」/中:オレンジピール・コリアンダーを使用した「ベルジャンホワイト」/右:副原料を使用せず麦芽・ホップのみで作った「ペールエール」。
鈴木さん
鈴木さん
すっきりとした味の「ゴールデンエール」は揚げ物や塩むすび、フルーティーな味の「ベルジャンホワイト」はアップルパイや秋田名物のババヘラアイスなどのデザート系、やさしい味わいの「ペールエール」はお肉全般や塩気の強いものに合いますね。

——羽後麦酒のビールはどの商品も口当たりが優しくて、飲みやすいですよね。

鈴木さん
鈴木さん
そうですね。あまりビールが得意じゃない方にでも美味しく飲んでいただけるように意識して造っています。
鈴木さん
鈴木さん
地ビールやクラフトビールって個性的な味が多いんですよね。そういうなかで、優しいビールもあってもいいのかな、と。たくさんの人にビールを好きになってもらえるきっかけになってもらえればいいなと思っています。

——鈴木さんは羽後麦酒を立ち上げる前は、ビールを造る経験はあったんですか?

鈴木さん
鈴木さん
なかったですね。ここができる前は、実家が営んでいる靴製造の会社で働いていたんです。当時は会社を立ち上げるお金もないし、ビールの知識もないという感じで。とりあえず、いろんな人に「羽後町にビールの会社があったら面白いと思うんだけど。」という話をし始めました。

——その時の周りの反応はどうだったんですか?

鈴木さん
鈴木さん
まぁ、無理だろうと。「何、言ってんの?」と感じでした。

——最初は受けて入れてはもらえない感じだったんですね。

鈴木さん
鈴木さん
はい。その後も同じことを5、6年くらい言い続けて。その結果、段々と「面白そうだね」「やりたいね」と周りで言ってくれる人が増えてきました。

——その間、諦めそうになったことはないんですか?

鈴木さん
鈴木さん
なかったかなぁ。なんでだろう……「羽後町では美味しいビールが作れる」って自分の中で絶対的な自信があったんだと思います。

——同級生であり、工場長の鈴木さんは、長年の夢に賛同してくれたお一人だったんですね。

鈴木さん
鈴木さん
そうですね。会社として動き出す1年くらい前に同窓会で話をしたら、「俺もやりたい」って言ってくれて。酒の席だけの話かなと思っていたんですけど……(笑)。当時、僕が骨折して入院しているときに突然病室に現れて、「会社、辞めてきたよ。ビールの仕事どうなってる?」って言われて。「いや、まだ動いてねぇよ!」という感じで。

——えー!まさに0からのスタートですね。

鈴木さん
鈴木さん
会社にもなっていないし、何も動いてもいない状態だったので、給料もお小遣い程度のものしか出せなくて。苦しいスタートでした。
鈴木さん
鈴木さん
二人ともビール造りの知識もないので、人づてに秋田の地ビール製造会社の方を紹介してもらってアドバイスを頂いたり、県外のビール製造所に研修に行かせてもらったりして、徐々に造り方を習得していきました。今では彼がメインとなって仕込みを担当してくれています。

——「羽後麦酒」という会社名にはこの土地を背負っていくような強い意気込みが感じられますね。

鈴木さん
鈴木さん
昔、いまの秋田県に位置する地域を「羽後国(うごのくに)」と呼んでいましたよね。秋田県の大部分を指していた名前がこの町の地名として残っているって、すごいなぁと思っていて。羽後町から始めたものが、秋田県、そして全国を巻き込んでいけたらいいなという思いを込めて付けました。
鈴木さん
鈴木さん
ここは田舎だから何もないと思っている子どもたちも多いかもしれない。だけど東京へ上京した時に入った飲食店で、自分の近所で作った農作物が入っているビールが置いてあって、ものすごく美味しいことを知ってくれたら、自分の故郷を見直すきっかけになると思うんですよね。

——それをきっかけに秋田って面白いぞって思ってくれたら嬉しいですよね。

鈴木さん
鈴木さん
現在は麦芽やホップは羽後町以外で生産されたものを使っているんですが、いずれは羽後町の畑で育てた麦芽やホップを使ってビールを造りたいなぁと思っています。

——原材料が全て羽後町産になったら、まさにここでしかできないビールになりますね。

鈴木さん
鈴木さん
その時に完全なる「羽後麦酒」が造れるかもしれないです。

【羽後麦酒】
〈住所〉雄勝郡羽後町西馬音内字本町109 旧みそ蔵棟
〈TEL〉0183-56-7890

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