

宿泊客の7割が外国人。人と自然をまたぐ宿「ORIYAMAKE」。
2020.01.15
北秋田市根森田地区。住民は28世帯80人という小さなこの地区に、「ORIYAMAKE」というゲストハウスがあります。
ここは、織山英行さん、友里さんご夫婦が営む宿。2018年にオープンし、約2年が経ちますが、これまでの宿泊客の約7割が外国人。
今回、このORIYAMAKEを訪ねてお話を伺ったところ、このように外国人が利用する宿になるまでには、織山さんたちによるさまざまな試行錯誤があったことがわかりました。そしていま、この宿を軸に、周辺地域や自然環境が循環しはじめているんです。








ここからは、英行さん、友里さんにお話を伺っていきます。

- ここには小さい頃から遊びに来ていたんですが、そのときから感じていたのが「良い所だけど、観光客が少ない」ということ。
50〜60代くらいまではお金を貯めて、ゆくゆくは民宿とか、外の人を呼び込む場所を作りたいという思いはずっとあったんです。

- でも、ノウハウがないので、最初は県外の観光地でやってみてから……と考えていたんですが、探しているうちに東日本大震災が起きて、当時暮らしていた東京都の中野区には取水制限がかかってしまったんですよ。
その頃、子どもが産まれて間もなかったんですが、乳幼児を育てるには厳しい状況なうえに、また地震がくるかもしれない。もう東京には住めないけれど、宿をやるのに条件の合う場所が見つからない……。
そうしていたら(友里さんが)「ゆくゆくは行くつもりなら、秋田に行ったらどう?」と言ってくれたんですよ。

友里さん- 子どもが小さいうちに、知らない土地で育てるのは不安だったのもありますね。こっちだと、秋田市にはおじいちゃんおばあちゃん(英行さんの両親)もいるから。
- それで、2011年の7月にこちらにやってきたんですが、この家は、祖父母が亡くなって10年近く空き家になっていたので、修繕するところだらけ。
資金もないので、地元の宿で働いたり、森吉山ダムで働いたりして、修繕資金を借りられるようになったのが2〜3年前でした。
外国人の力ってすごい!
——はじめから、外国人向けの宿にしようと考えていたんですか?
- 宿を始める前、行政のやっている農村体験ツアーに関わっていたんです。
きりたんぽ鍋って、鶏を実際に捌いて食べると別物みたいに美味しいんですよ。それを、外から来た人にも体験してもらいたいということで、集落の人たちと一緒に提供していたんです。

- 女子限定、秋田県内の方、首都圏の方……と、ターゲットを変えてやっていくなかで、あるとき、秋田大学に来ている留学生を対象にやったんです。そのときの集落の人たちの反応が、それまでとは全然違っていて……。

- 外国人から「ここは日本で一番美しい場所だ」「こんな美味しいもの、今まで食べたことない」と言われて、おじいちゃんおばあちゃんたち、すごく嬉しかったみたいで「今まで70年、ここで生まれて育って、この景色をきれいだと思ったこともなかった。でもこうやって言われてみると、たしかにきれいかもしれないな」って言うんです。
——外から認められてはじめて気付くことってありますよね。
- 「外国人の力はすごいな!」って思いましたね。自信を取り戻すというか、誇りに思ってくれるというか。なので、外国人をターゲットにして、根森田をもっとざわざわさせたいなと思ったんですよね。
地域と循環する宿
- それと、宿をやるにあたって、周りの民宿のお客さんを取っていると思われるのも嫌だなと思っていました。でも、このあたりの民宿のほとんどが外国人の受け入れが進んでいなかったんですよ。

- そして当時、北秋田市の宿はほとんどが1万円前後でした。でも、観光客を増やしていくためには、1泊2000円台もあれば10万円の宿もあるとか、バラエティがないといけないと思っているので、自分では安い宿をやろうと思ったんです。
でも、そういう安い宿にしてしまうと、外国人よりも日本人の50〜60代の層が流れてきてしまう。そうならないように、「外国人が来やすく日本人が来づらいやり方」を考えていったんです。

- まずは、ここは2泊3日からしか受け付けない。そして、予約はインターネットだけ、支払いはキャッシュレスのみ……。そういうハードルを設けていったんですね。
そうやって外国人向けのやり方で固めていくことで、周りの民宿も「外国人向けなら助かる」と、うちを応援してくれるようになったんですね。この地域の宿として、うちだけでお客さんを集めようということではなく「うちはうちの役割を」と、決めてやっています。
森の港
——外国人がお客さんとなると、大変なことも多いのでは?
友里さん- 2人ともほかに仕事をしながらやっているので、いまは1ヵ月に2組くらいしか入れていないんですよ。なので、のんびりやれています。

——言葉はどうされているんですか?
友里さん- 英語が基本。私は少しだけ語学留学をしたことがあったので。
- 僕は中学生英語。覚えようかなとも思ったんですけど、お客さんから「そのままでいい」って言われて。「東京だとどこでも英語が通じて面白くない。自分たちも日本語を覚えたいから」って。それで、英語を覚えるのをやめました(笑)。

- いまは「一人でも多くのお客さんに来てもらいたい」というよりも、まずは「外国人が来て、このくらい楽しんでいってくれている」というのをきちんと形にしていきたいんです。
なので、カメムシやアブや蚊が多い時期は営業せずに、田舎の良い所、過ごしやすいところがより伝わりやすい季節に絞って、無理せずやっています。
——アクティビティも用意されているんですよね?
- はい。何種類かあって、森吉山ダムの湖でカヌー体験もできますし、一緒に山に行ったりもしています。

- カヌーはレクチャーができる団体にお願いしているんですけれど、山に行く時は、冬ならばかんじきを履いてスノートレッキングをして、山の中で焚き火をして、ごはんを食べたり、お味噌汁を炊いたり、熊肉を焼いたり……。

- ここを始める際に、改修してくれた建築家さんから「森の港」というコンセプトをいただいたんですよ。
「ここで一時休んでもらいながら、こちらはこの地域の話をするし、お客さんは自分の地域の話をしてくれる。そんな宿にしたい」という話をしたら、「船がついて、荷物を下ろして、またどこかへ出航していく……港みたいな場所ですね」って言われたんですよね。
まさにそういうイメージで、帰ってからも「日本の秋田の森吉には、こんなところがあった」と、話したくなるような体験をしてもらいたいと思っています。

- そのためにも、どんなニーズにも、「はい、できますよ」と言うようにして、お客さんに満足してもらうために、予約は毎日は入れずに、自分たちに余力を残しておくようにしているんです。
自然との循環
——英行さんは、マタギでもあるんですよね?
- はい。狩猟免許を持っています。最初は「この地域にはマタギの文化があるなあ」というくらいだったんです。でも、ある日、友だちに誘われて、鈴木英雄さんという現役マタギと一緒に山を歩いたんですけど、すごいんですよね。
その辺りに生えている植物でいろんな遊び道具を作ったり、次の人が歩きやすいようにって、枝を折りながら歩いていたり。
マタギにイメージしていた「孤高の狩人」というよりも、「山が大好きな人。山を保全してくれている人」なんですね。

- 一方で、この根森田には、当時マタギは1人しかいないかったんです。なのに、熊はこのすぐそばを歩いているんですね。だから、地域の人は山に恐いイメージを持っていて、普段から誰も山に入らない。
——鈴木英雄さんのように、山を楽しんでいる方もいるのに……。
- なので、自分がやらないといけないかなと思って、31歳のときに狩猟免許をとったんです。今年で6年目になります。
やっていくなかで、佐藤一二三さんというマタギから教わったのが、「自然と人間の世界の間をまたいで立っているのがマタギだ」ということ。そして「四季をまたいで山と関わっていくのがマタギだ」ということ。

- 僕は、これからマタギ文化が必要になってくると思っていて。というのも、秋田にはいなかったイノシシと鹿が、最近、このあたりに増えてきているんですね。
だからといって、駆除一辺倒ではなく、循環狩猟を目指したいんですよ。イノシシや鹿にも居場所があって、人間も変に警戒するのではなく、良い距離感を持ってやっていきたい。

- それは、昔からマタギがやってきたことで、討って終わりではない。ハンターとは違うんですよね。動物を授かって(討って)、お金になったので木を植える、そうすると動物が住みやすくなって動物が増える。それをまた授かって……と循環してきたんですよね。それが森吉マタギの新しい姿になればいいなと。

- それで、鳥獣管理士という資格も取ったんです。そこでは、行政と住民の間に入って、獣による被害の状況をみたり、罠の効果的な張り方や、廃棄野菜は獣を呼ぶことに繫がりやすいので、その処分方法を指導をしたり……。アドバイザーのようなことをやっているんです。
——こういった取り組みに興味のある外国人も多そうですね。
- ここに来る人たちは、自然が大好きな人が多いんですよ。宿をやりながらも、マタギの文化や鳥獣管理士としての取り組みを外国の方に伝えていきたいと思っています。

【ORIYAMAKE】
〈住所〉北秋田市根森田字仲ノ又131
〈HP〉https://www.oriyamake.com/