秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:矢吹史子 写真:高橋希 写真提供:コマド意匠設計室

コマドが開く、人とデザイン。〜コマド意匠設計室〜

2020.01.29

北秋田市にある「コマド意匠いしょう設計室」。なんも大学でも取材したゲストハウス「ORIYAMAKE」をはじめ、秋田県内を中心に、建築や紙媒体など、さまざまなデザインを手掛けています。

ゲストハウス「ORIYAMAKE」
秋田内陸線「お座敷車両 MATAGI Train」のロゴマーク、内装デザイン。
伝統工芸「曲げわっぱ」の展示会ブース
一般住宅「農家の小さな家」

これらを手掛けるデザイン事務所が、秋田内陸縦貫鉄道鷹巣たかのす駅の目の前にあるということで訪ねてみましたが、それらしき建物の入口には「community station KITAKITAコミュニティステーションキタキタ」とあります。

中へ入るとカフェのようなスペースが広がっており、コマド意匠設計室のデザイナー、柳原やなぎわらまどかさんが迎えてくださいました。

——おもてには「KITAKITA」とありましたが、ここはどういうスペースなんですか?

柳原さん
柳原さん
ここは、シェアオフォスとして1階にコマド意匠設計室、2階には、デザインや福祉関係の仕事をされている方が入居しています。

KITAKITAそのものも私が運営しているんですが、1階はどなたでも入りやすいように飲み物の提供をしていたり、フリースペースでは講演やイベントも開催できるようになっているんですよ。
柳原さん
柳原さん
デザイン事務所というと気軽に入りづらいじゃないですか。私はもうちょっとフラットにしたかったんですね。
柳原さん
柳原さん
このあたりでは、店や家をつくる際、ほとんどが住宅メーカーや工務店を通してのもので、デザイン事務所や設計事務所に依頼するというのは少ない印象でした。

ただお茶をしにきたり、世間話をしたい人を受け入れられるような場所を作って、仲良くなっていくうちに「こういうのを考えてるんだけど……」と相談を受けられるようにしてはどうだろう?と思って。

——具体的な依頼がなくても、誰でも来られる場所なんですね。

柳原さん
柳原さん
はい。「ここは何だろう?」って入ってくる方もいますし、観光客が「お茶を飲む場所がないから」って、来たりしていますよ。

ただ、ガンガン来られても仕事ができなくなっちゃうので、週4日だけ開けて、仕事で外出しなければならないときは貼紙をして出かけたりしています。

——コマド意匠設計室は、いつ頃から始められたんですか?

柳原さん
柳原さん
2015年の8月からなので、今年の夏で丸5年になります。私は大仙市だいせんし協和きょうわの出身で、高校時代から建築を学んでいたんですが、関東の大学を卒業後、大学の恩師の建築事務所で6年ほど働いていました。

その後、大館と鷹巣で展開していた「ゼロダテ」というアートプロジェクトの運営メンバーとして働くために秋田に戻ってきて、たまたま配属になったのが鷹巣だったんですよ。
柳原さん
柳原さん
ゼロダテでは、地域と関わりながら企画を作ったり、アーティストの滞在制作のためのコーディネートなどをしていました。

それで町に詳しくなったり、いろいろな方とも知り合うことができたこともあって、独立する際も「ここでやってみようかな」って、すごく軽い気持ちで決めました。
訪ねた日は、ちょうど「ゼロダテ」の看板犬「のの」がKITAKITAに預けられていた。ゼロダテ時代の仲間とも、今も繫がりを持ちながら活動している。

——いまは、主に建築士として活動されている?

柳原さん
柳原さん
いえ、私は、建築士の免許は持ってないんですよ。なので、あくまでデザイナー。ここも「デザイン事務所」としてやっています。

なので、リフォームや内装のデザインがメインになるんですが、新築の依頼がある場合は工務店さんや建築士さんに協力してもらって 必要な申請関係をやっていただいています。

——広告やロゴマークなどのグラフィックデザインもされている。

柳原さん
柳原さん
そうですね。グラフィックは、もともとは経験がなかったんですけれど、ここを始める際に「パンフレットやロゴマークは作れませんか?」という相談を受けることが多くて、独学で始めました。

——建築とグラフィックっていうのは、関係性が密ですよね。「お店ができたから、そのイメージでショップカードやカタログを作りたい」というような。

柳原さん
柳原さん
そうですね。それに、建築とグラフィックは考え方のプロセスが似ているんですよね。今はグラフィックの仕事のほうが多いんですが、グラフィックをやっていると、「やっぱり建築は楽しいな」と思えたりするんですよね。

——関東ではなく、秋田県内でやっていく思いは元々あったんですか?

柳原さん
柳原さん
そうですね。ゼロダテに入るときにすでにそういう思いがあって「地域プロジェクトに関われば、そこに暮らす人たちと知り合えるかな」と思って。

——地域の人と関わりたいという思いが強かった?

柳原さん
柳原さん
というよりは「仕事のため」で、デザインの仕事は、地域の方と深く関わらないとできないだろうと思っていたんですね。

でも、こういうコミュニティスペースをやっていると「地域貢献のためにがんばっています」「町のためにがんばっています」っていうふうに見られがちですよね。
柳原さん
柳原さん
私はそうじゃなくて、仕事がしたくて、「自分のため発信」なんです。それでも、回り回って地域が豊かになっていけば、それはそれで嬉しいんですけれど。

——こういう場所を作ってまでやりたい、「デザインの仕事の魅力」とは、どんなところなんでしょう?

柳原さん
柳原さん
私には地域愛というのはそんなにないと思うんですけれど、思いがある人のサポートや、その方の要望に合わせて自分がどう働くかを組み立てていくことが面白いんですよね。
単純に、設計やデザインをするのが好きっていうのもありますけれど。
柳原さん
柳原さん
ORIYAMAKEも、「民家を宿にリノベーションする」という一つの目的はあるものの、ご主人は「宿なので外観を印象的にしたい」、奥さんは「水まわりや導線が大事」と、それぞれに大事にしたいことがあって、それらをどういうふうに整頓していくか、時間をかけて一緒に考えていきましたね。

——KITAKITAという場があることで、変化はあったでしょうか?

柳原さん
柳原さん
鷹巣に住み始めたころは、おそらく私は「東京から来た人」という印象で「きっとすぐにどこかに行ってしまうんだろうな」っていうふうに見られていたと思うんです。でも、3年くらい経ったころから、ようやく地元の人が受け入れてくれているかんじができてきましたね。

——秋田の人は特に、外から来た方に警戒するようなところがありますからね。北秋田市という土地については、どう感じられていますか?

柳原さん
柳原さん
住みやすいですね。地元の協和は鷹巣よりずっと田舎なので、ここは都会に感じます。飲み屋さんもいっぱいありますし、山に行けば山菜採りもできるし、空港もあるので東京にも気軽に行ける。

でも、デザインをやっている人は少ないので、開拓していけるかんじが面白いんですよね。
「カラオケが得意」という柳原さん。町のカラオケ大会でも賞を獲ったほど。そういう場に臆せず飛び込める一面があるからこそ、町の人たちとの距離を縮められているのかもしれない。
柳原さん
柳原さん
最近は、近くにHOLTOホルトという家具屋ができたり、鷹巣駅の裏側には藤島木材という製材所もあったり。そういう、ものづくりをしている同世代でよく集まっているんですよ。

藤島木材は、乾燥の技術が素晴らしいので、HOLTOではそこの材を使っていて、私も、床材を藤島さんのものを使わせてもらったり、家具もHOLTOに作ってもらったりしています。

——近い仲間で、良い意味で「事足りる」環境というのは魅力的ですね。

柳原さん
柳原さん
家具をオーダーする際も、広告に使う写真の撮影も、作り手やカメラマンにできるだけ委ねるようにしていて、こちらからはあまり要望を出さないんですよ。もちろん、良い仕事をしてもらえる、という信頼があるからなんですけれど。

これまでは、一人で何でもこなしてしまいがちだったんですけれど、最近はそうやって人に頼ることができるようになってきて、そのほうが良いものができているように感じますね。

——一人の価値観の中で収めてしまわずに敢えて人に頼ることで、自分だけでは得られない相乗効果が生まれそうですね。町の人たちとの信頼関係が形になってきたなか、これからはどんなことを目指していますか?

柳原さん
柳原さん
建築士のパートナーがいるので、ゆくゆくは2人で事務所がやれたらいいなと考えています。仕事の幅も広がっていくと思うしKITAKITAも開けられる日が増やせると思うし、次はそれが目標ですね

【コマド意匠設計室】
〈住所〉北秋田市松葉町3-18
〈HP〉https://www.komado.org/

【community station KITAKITA】
〈HP〉https://www.kitakita.org/