

農業に新風を。高齢農家を支える若き担い手。―ゴロクヤ市場―
2020.07.22
「秋田県産の野菜を余すことなく、そのおいしさを届けたい」そんな想いとともにスタートした「ゴロクヤ市場」は、県内産の野菜を専門に、主に首都圏の量販店や飲食店へ卸す卸売会社です。
代表である佐藤飛鳥さんは由利本荘市出身の25歳。秋田の農業に新風を起こすであろう、あるプロジェクトへ挑む佐藤さんにお話を伺いました。



佐藤さん- ゴロクヤ市場は2017年にスタートして以来、県内にある50軒の農家さんと提携し、年間100軒ほどの量販店や飲食店へ野菜を卸してきました。
農家さんによって「余ってしまう野菜をなんとかしたい」「売り上げをもっと伸ばしたい」など個々に悩みや課題を抱えており、その部分をクリアできるような卸先を提案しています。
秋田と東京の2拠点で活動し、新型コロナウイルス感染症が拡大する以前は2週ごとに行き来する生活を送っていました。

——これまで、県内の農家は農協へ出荷するケースが多かったんでしょうか?
佐藤さん- そうですね。農協などの地元の集荷団体へ出荷し、卸売市場を介して全国各地へ流通するケースがほとんどです。
農家さんのなかには「新しい販路をつくりたい」と思っている方々もいらっしゃいます。しかし、発送にかかる運賃が負担になったり、自ら積極的に発信して売り込むことが不得意だったりと、なかなかハードルが高いようです。


佐藤さん- そこで私が農家さんと新しい卸先の真ん中に立ち、野菜とともに、こだわりや想いを一緒に届ける「伝え手」となることで、双方にとって良い関係が築けるようサポートしています。


とんだクリスマスプレゼント??

——ゴロクヤ市場をはじめられたきっかけは何だったんでしょうか?
佐藤さん- じつは起業するまで紆余曲折ありまして……。
大学進学で上京したあと、都内の食品商社の営業として1年半ほど働いていたんですが、会社内でストライキが起こり、突然会社を退職することになってしまって。
——え~!それは、大変でしたね……。
佐藤さん- しかも、そのとき、社内の留学制度でニューヨークへ渡っていて、帰国と同時にその事実を知らされたんです。「あと1ヵ月後に退職してください」と宣告されたのが、ちょうどクリスマスの時期で。
——とんだクリスマスプレゼント……。

佐藤さん- ほんとうに、そうですよね(笑)。当時、その会社ではキャビアやフォアグラなどの業務用高級食材を専門に扱っていたんですが、それとは別に生鮮専門の新しい部署をつくって、そこで秋田の山菜を扱おうと計画していたんです。
地元へ帰省したときに、知り合いの農家さんから「山菜がたくさん余って、困っている」という話を聞いて、どうにか手助けしたいと動きだした矢先のことでした。
——では、大変な状況のなかで、起業を決意されたんですか?
佐藤さん- 最初は職を失い、これからどうすればいいんだろうとすごく落ち込みました。
でも、私がここで農家さんの力になることをやめてしまったら、「おいしい食材が余っている」という事実はこの先も変わらないんだろうなぁと思ったんです。
当時22歳で、たとえチャレンジして失敗したとしても、また引き返せるんだと思って、一人でやってみようと決意しました。

——実際、やってみていかがですか?
佐藤さん- 前職の経験を活かして、地元の力にすぐになれるのがやりがいですね。いま、こうして続けられているのも、秋田に生まれて、地元の食材にこだわって卸してきたからこそだと思っていて。取引先でも「秋田の野菜専門」という部分に信頼を寄せてくれるところが多いんです。
こちらにいると、野菜をあげたり、もらったりするのが当たり前すぎて、普段の暮らしからその価値を実感することってなかなかできないですよね。
でも外へ出てみると、秋田の野菜は安全面でもおいしさの面でも世界に通用するレベル。市場でも価値が上がってきています。そうやって地元のものが評価されているのが、すごくうれしいです。

——佐藤さんは、子どもの頃から食に興味があったんですか?
佐藤さん- 鳥海町に住んでいる父方のおじいちゃんとおばあちゃんの影響が強いのかなぁと。おじいちゃんはマタギとして狩猟を、おばあちゃんは山菜採りや、畑で野菜や果物の栽培を、いまでもしています。 「自然のものをどうやっておいしく食べるか」。そこに向き合う姿を近くで見てきました。


高齢農家を支えるプロジェクト、発進
——これまでの活動を経て、いま、農家さんのための新しいシステムを開発中なんですよね?
佐藤さん- そうなんです。秋田の農家さんの多くは高齢の方々で、そういったおじいちゃんやおばあちゃんでも使いやすいような受発注システムをつくろうとプロジェクトを進めています。クラウドファンディングも立ち上げ、支援の募集もしています。

佐藤さん- ふだん高齢の農家さんへの発注は電話でのやりとりが多いんですが、納品先を口頭で伝えると、「それ、どこだ!?わがんねぇ」となって、結局「もう……じゃあ、明日直接伝えに行くから!」みたいなパターンがすごく多くて(笑)。
それに、その場で記録が残らないので発注の手違いがないかお互いがすごく不安になり、出荷が完了するまで確認の回数も多くなってしまいます。
そこをシステム化できないかと思ったのがきっかけでした。


——最近は、農家から直接野菜を購入できるサイトも増えてきていますよね。
高齢の農家さんでも利用されている方はいらっしゃるんでしょうか?
佐藤さん- そういったサイトの多くはBtoC(Business to Consumer)である消費者向けのシステムで、高齢の方も利用されていますが、文字が小さかったり、複雑で使うのが難しいと言って断念してしまうケースが多いようなんです。また、個々へ出荷するとき、自分たちで梱包の作業をしなくてはならず、その手間やコストが負担にもなってしまいます。
いま、私がつくろうとしているのはBtoB(Business to Business)である事業者向けのシステムで、農家さんは専用コンテナに直接野菜を入れるだけ。そのまま運送会社に卸先へ運んでもらうことができるので、出荷準備が簡単に済みます。

佐藤さん- そして、高齢の方だと畑で農作業中に熱中症で倒れてしまったり、山で遭難してしまうことも多いんです。
私のおばあちゃんも山へひとりで山菜採りに出掛けるので、無事に帰ってくるか心配なこともあって。畑や山にスマートフォンやタブレットを持って行く習慣をつけてもらうことで、何かあったときに安否確認できる役割にもなれたらと思っています。
まずは県内の農家さんで実証実験を行い、実際に使っていただいた声をできるだけ反映させ、ゆくゆくは全国向けとしてのシステムリリースも目指しています。

——高齢化が進む秋田に寄り添う画期的なシステムですね。
佐藤さん- 秋田は後継者不足や新規就農者が少ないといった、長期を見据えて向き合わなければならない課題もたくさんあります。
しかし、高齢化が顕著な秋田にとっては、現実的に「今」を支えるシステムが必要なんです。農家さんには、心身健康で、少しでも長く農業に専念してもらいたい。そんな仕組みづくりをしようと動いている段階です。

——人生の先輩たちが元気に楽しんで農業をしている姿を見れば、「自分もチャレンジしてみたい」と思う若い方々も増えていく可能性もありますよね。
佐藤さん- はい。私自身も、農業を楽しむ家族の姿が近くにあったからこそ、いまに繋がっています。自分の活動自体も、秋田の未来に繋がる農業のロールモデルになれるように頑張っていきたいです。
※「イージー」開発プロジェクトは、7月31日までクラウドファンディングを実施中。詳しくはこちら。
【ゴロクヤ市場】
〈住所〉東京都目黒区五本木2-32-10 101
〈TEL〉080-1653-5037
〈HP〉https://www.568market.com/