言葉という武器をもって。<br>フリーアナウンサー相場詩織の取説。

言葉という武器をもって。
フリーアナウンサー相場詩織の取説。

2021.02.24

インタビュー:藤本智士 写真:船橋陽馬 編集:矢吹史子

相場詩織さん。秋田を拠点にテレビ、ラジオ、動画番組などで幅広く活躍されているフリーアナウンサーです。
今回は、なんも大学編集長の藤本智士が、相場詩織さんへインタビュー。

普段、秋田県民がメディアを通して見る相場さんは、朗らかで明るいキャラクターが印象的ですが、その背景には、彼女が重ねてきた経験からくる、強い思いがありました。これまではあまり語られてこなかった相場詩織さんの思いとメッセージをお届けします。

(相場詩織さんプロフィール)秋田市出身。静岡の放送局でのアナウンサー経験を経て、現在は、秋田を拠点にフリーアナウンサーとしてテレビ、ラジオなどへ出演するほか、ナレーション、モデル、イベントMCなど、多岐にわたり活躍中。

これからの「秋田美人」

藤本
藤本
僕はいつも、あまりあれこれ決め込みすぎないようにしてインタビューに臨むタイプなんですけど、詩織ちゃんとは、互いに友だちを紹介をしあったり普段から仲良くさせてもらっているので、さすがに今回は何を話すのがいいかなあと考えていたんですね。
相場さん
相場さん
たしかに、あらためてだと緊張しますね。
藤本
藤本
そしたら、「秋田よ、相場詩織に追いつけ」という少し過激なタイトルが浮かんじゃったんです。
相場さん
相場さん
あらー。
藤本
藤本
でもそれくらい、僕のなかでは、テレビに映る相場詩織と、普段会って話すときの、人間、相場詩織とに差を感じてしまっている。なので今日は、秋田の放送メディアの人たちに、あらためて相場詩織とはこういう人なんだよ。というある種の取説を作る気持ちで臨んでます。
相場さん
相場さん
おぉー、ありがとうございます。
藤本
藤本
例えば、以前、詩織ちゃんから話を聞いて印象的だったのが、「秋田美人」のあたらしい定義の話。あの話から聞かせてもらっていいですか。
相場さん
相場さん
はい。自分自身、大学進学で東京へ出たり、静岡で仕事をしたりしてきたなかで、「秋田出身です」って言うと「秋田美人ですね」って言っていただくことも多かったんですね。
藤本
藤本
うん。
相場さん
相場さん
私はそれを褒め言葉だと思って「ありがとうございます!でも、私は秋田美人というよりは、秋田巨人ですけどね〜」とか言って笑いに変えようとしてきたんですが、まわりの友だちに聞くと、それがプレッシャーになっているとも言うんです。
藤本
藤本
秋田美人という言葉が。
相場さん
相場さん
はい。それって、秋田美人イコール「かわいくて、若い女の子」というイメージがついてしまっているからなんですね。秋田美人とうたっている広告を見ても、だいたい若い方がモデルに起用されている。その広告としては、それでいいのかもしれないけれど、秋田美人の捉え方が、どこか今の時代感に合ってないなと思えることが多いんですよね。これはもちろん、そこに起用されている若い女性たちを否定しているのでもなくて。
藤本
藤本
たしかに。詩織ちゃんもだけど、そういった広告に起用される女性たちも、見えないところでいろんな努力をされている。
相場さん
相場さん
そうなんです。だからこそ、受け取り手も、起用する側も、全方位的に秋田美人とはなんなのかを改めて考えて定義する必要があると思うんです。
藤本
藤本
そうですね。
相場さん
相場さん
秋田美人って「秋田の美しい人」って書きますけど、それって女性に限ったことではないと思うんです。性で区別する必要もないし、ましてや「美しい」にも、いろんな美しさがある。知性からくる美しさだったり、何かにひたむきに努力している美しさだったり。なので、外見だけの美しさとして使うのは違うなあと思っていて。


藤本
藤本
例えば男前っていうのも、イコール、イケメンを指すわけじゃない。


相場さん
相場さん
そうなんです。だから無理をして着飾ったりすることなく、それぞれが持っている個性を輝かせて前に進んでいる。そういう人こそが、秋田美人なんじゃないかと思うんです。
藤本
藤本
この「なんも大学」の前身の「のんびり」というフリーマガジンを編集していた頃「あきたびじょん」っていうコピーが書かれた秋田県のPRポスターがあったんですね。
藤本
藤本
「よ」の字が限りなく小さく書かれていて、ぱっと見「あきたびじん」に見えるっていうもので、写真も木村伊兵衛さんの「秋田おばこ」という有名な作品が起用されていて、ある意味ステレオタイプな秋田美人ポスターに見えるんだけれど、そこにはまさに「ビジョン」という言葉が隠れていて、それがとても大きなポイントだと思ったんです。
相場さん
相場さん
はい。
藤本
藤本
それで当時、あきたびじんの定義を僕なりになんとか変化させたいと思って「あきたびじん図鑑」っていう動画を制作して公開したんですよ。だからそこに出てくるのは、ヒゲモジャの陶芸家とか……。
相場さん
相場さん
ははは!
藤本
藤本
だからいわゆる秋田美人ではないんだけど、僕にとっては、秋田に暮らしながら秋田を思い、たくましく生きている人たちがすごく美しいと感じたので、そういう人たちをあきたびじんと呼びたいと思って、その動画を作ったんですね。
相場さん
相場さん
なるほどー。あきたびじょんのポスターも、あのモデルの女性はすごくきれいなんですけれど、瞳にすごく力強さを感じるんですよね。
藤本
藤本
そうなんですよね。
相場さん
相場さん
厳しい冬を乗り越えてきた、そういう目が私はすごく好きで、今の時代、もう「かわいい」「若い」だけじゃないと思うんです。
藤本
藤本
男勝りみたいなことともまた違う「強さ」とか「たくましさ」が、あきたびじんという言葉にとって重要ですよね。

「言葉」という武器を手に

藤本
藤本
僕は詩織ちゃんを見ていて、「相場詩織は、本当にアナウンサーなのか?」って思うことがあるんですよ。
相場さん
相場さん
そうなんですか?!
藤本
藤本
ある情報をお伝えするというミッションがあって、プロの表現力をもって伝えていくっていう意味では、もちろんアナウンサーだと思うんだけど、今話していたような秋田美人の話っていうのは、およそアナウンサーさんの言葉ではない。
相場さん
相場さん
おお!
藤本
藤本
相場詩織は、何になりたいんだろう?
相場さん
相場さん
何になりたい……。
藤本
藤本
そもそもアナウンサーを目指したきっかけは、なんだったんですか?
相場さん
相場さん
きれい事に聞こえるかもしれませんが、私は「言葉で人を幸せにしたい」っていうのが原点にあるんですね。 秋田というコミュニティの小さな地域のなかで、転校の多い子だったのもあって、よくわからないことでいじめられた時期があったり、幼いながらに言葉の重みをすごく感じてきたんです。
藤本
藤本
うんうん。
相場さん
相場さん
でも、高校のとき、英語の暗唱と日本語の弁論の大会に出場して、両方で最優秀賞を獲ったことがあるんですね。
藤本
藤本
へ〜!
相場さん
相場さん
その経験から、「地方に住んでいる普通の女子高生の私だけど、言葉だけは私の武器だ」って思えたんですよね。
藤本
藤本
なるほど〜!
相場さん
相場さん
言葉で自分の思いが伝わった、あの空気感が嬉しくて、私はこの「言葉」という武器を持って、困っている人がいたら言葉の力で助けたいと思ったし、がんばっている人がいたら言葉の力を使ってもっといろんな人に知ってもらいたいって思うようになったんです。今も根っ子はそこにあるんですよね。
藤本
藤本
「言葉」っていうのが真ん中にある。だからこそ、アナウンサーの仕事を選んだ。
相場さん
相場さん
はい。適職なのかなって思っています。さらに言うと、局アナのときは、自分の発言が局の発言になってしまう可能性もあったので、表現できることが限られていたんですが、フリーアナウンサーになった瞬間から、自分に全ての責任が降りかかるんです。でも逆にいろんなことを意見できるようにもなったし、表現の幅も広げられるようになったと思います。
藤本
藤本
そういう意識をもってフリーアナウンサーになる、というケースもあるんですね。秋田で実績を積んでから、東京でアナウンサーになるようなステップを踏む人もいれば、詩織ちゃんのようなやり方もある。
相場さん
相場さん
それぞれに違うとは思うんですが、世の中のフリーアナウンサーの成功例って、ローカルで活躍して東京へ行くっていうのが一般的なのかもしれません。 じつは私、東京の番組のオーディションに受かったことがあったんです。でも、そのとき「果たして、これは今私がやるべきことなのかな?」って思えてしまったんですね。 地元秋田を中途半端なまま出ていって東京で戦っても、誰のためにもならないなと思えて、結局、秋田に残って活動していこうと決めたんです。そこには、今も後悔は全くないですね。
藤本
藤本
すごいな、その判断。なんだかんだで、オーディションに受かったら、それはふつうに浮かれちゃいますよね。
相場さん
相場さん
どこか違和感があったんですよね。「東京に行ったら勝ち組だ!」みたいな空気感にこのまま流されながら東京に行っていいのかな?って。それよりも今、秋田で「詩織ちゃんが宣伝してくれたおかげで人がいっぱい来たよ!」とか「反響ありました!」って、喜んでもらえるほうが、私にとっては幸せだと思えて。 原点である「言葉で人を幸せにしたい」っていうことが秋田でだったら実現できるって、実感できていたんですよね。

小さきものの声を拾う

藤本
藤本
でも、「言葉の力」でいうと、昨今のSNSではとくに、後先を考えない衝動的な言葉が溢れているじゃないですか。そういうものに対して、思うところも多いのでは?
相場さん
相場さん
それは、人生を通して感じていますね。高校時代に「秋田の美人すぎる女子高生」という動画で私が撮影されて、それが世界的にバズったことがあるんです。そしてその後、アナウンサーになったとき、私は何もしていないのにネットで袋叩きにされてしまったんです。「美人すぎる女子高生が劣化してアナウンサーになった」とか「あのときにちやほやされて調子に乗ってアナウンサーになった」とか……。
相場さん
相場さん
知らない人たちからいろんなことを言われて、当時はメンタルをしっかり殺されました。アナウンサーになったことも、周りからは順風満帆に見られがちですけれど、いろいろと言われる機会も多くて、精神的に追い詰められたこともありました。 そういう経験があるからこそ、弱い立場の人たちがいるなら、その人たちのために立ち上がらなきゃ、その人たちが生きていけるような言葉や機会を作っていける人にならなきゃって思うんですよね。
藤本
藤本
そういう、「小さきものの声を拾う」っていうのが、僕たちの仕事の基本ですよね。
相場さん
相場さん
本当にそうですね。それに、今って、誰もが批評できる時代じゃないですか。でも、それが議論じゃなくて、「いいエサが来たぞ!」っていう感覚で誰かを叩くみたいな感じになっていて、それがもったいないなって思うんですよね。
相場さん
相場さん
私が今話しているようなことについても「それは違うんじゃないか」という意見があっても全然いいと思うんです。でも、「こういう考えの人もいるんだ」って受け止めた上で「自分はこう思います」って言うことができない人が多いように思うんです。
藤本
藤本
対話できない人が増えてますよね。言葉では「ダイバーシティ」「多様性」って言いながらも、現実は真逆だと思うことが多い。
相場さん
相場さん
一方的に石を投げつけるような。そういうところを変えていかなきゃなって思っていますね。

仲間がいるからこそ

相場さん
相場さん
これからは、そういった思いを自分の姿で見せていくことが、次世代につながるはずっていう気持ちもあるんです。
藤本
藤本
うんうん。
相場さん
相場さん
そのときに、見た目のきれいさ、かわいさだけを磨いているだけではダメだと思っていて、人前に出る、何かするといったときに、これからの時代は何かを言われる覚悟をしなければいけない。本当は、言うほうの意識を変えていかなければいけないんですが、どうしたって言われてしまうと思うので、 そのときに、「耐える」じゃなくて、その言葉を燃料にしてどうやっていくか、自分の大事な芯の部分をブレずにやっていくかということを伝えられるようにしたいと思っているんです。
相場さん
相場さん
それに、私がこういう仕事をできているのは、周りの人たちが環境を作ってくれたからなんですよね。 私自身、アナウンサーという仕事から退いていた時期があったんですが、そのときにこういう環境があることが当たり前じゃないっていうのを実感したんです。
相場さん
相場さん
ましてや今、愛らしくて、自分よりもアナウンスの技術がある人もたくさんいるなかで、自分を選んでもらえるっていうことがどれだけありがたいことか。 だから、その人たちのために自分ができることって何だろうって、すごく考えて仕事をしています。そういう部分を次の世代に伝えていきたいと思うんですよね。
藤本
藤本
すごくよくわかるし、お仕事をいただいたなかで最大限のことで返していきたいっていうのは当然思うところなんだけど、「それでも……」っていうところも秋田ではあるよね。
相場さん
相場さん
ははは! あります、あります。
藤本
藤本
僕自身も少なからず秋田で悔しい思いをするので、詩織ちゃんはよっぽどだろうなあと。
相場さん
相場さん
そうですね。今でも人知れず泣くこともありますし、悔しいこともたくさんあるんですけれど、コツコツ、ブレずに努力してきた分、最近は反骨精神を持った仲間が集まってきたんです。


藤本
藤本
へ〜!!
相場さん
相場さん
その仲間の多くが、一度、秋田を出て、外を知ったうえで秋田に戻ってきた人たちなんですが、自分たちの土地のことが大好きで、秋田や人のために頑張りたいと思っているけれど、みんな、その思いを見事に踏みにじられる経験をしているんですよね。
相場さん
相場さん
でも、そういう人たちって、周りの悪口を言うとか、蹴落とそうというような発想はゼロなんですよ。むしろみんな、「自分はこういうことが好きで、こういうことをやっていきたい」と、高みしか見ていない。
藤本
藤本
うんうん。
相場さん
相場さん
だから、地方のドロドロしたことよりも「こういう人たちが力を出し合ったら、秋田から、日本、世界にすごいものが発信できるんじゃないか」っていうワクワク感が勝って、「今に見てろよ!」っていう気持ちになれるんですよね。なので、最近は自然と雑音が聞こえなくなってきました。
藤本
藤本
やっぱり、そこが大事ですよね。一人が一番危ないというか。
相場さん
相場さん
一人だと、どんどん悪いほうに考えてしまいますよね。
藤本
藤本
僕がこうやって地方のお仕事をさせてもらうときに大事にしているのがディレクションなんですね。すなわち、どういうチームでやるかという座組みを決めるということなんだけど、そこがなぜ大切かというと、地方は結果的に個人プレーになってしまっている人が多い。そうすると、ポジティブなことと同じだけある、ネガティブなことを1人では処理できなくなる。
相場さん
相場さん
うんうん。私も、今までなかなか認められずに辛い体験しながらも、大切にしてきたり、あたためてきたものを、今は仲間たちと共有できるようになってきたんです。それに、素直に甘えられるようになってきたところもあります。そして、「こうやってみんなが力を貸してくれてるんだから、それを燃料にして頑張らなきゃ!」って思えるんですよね。
藤本
藤本
うんうん。
相場さん
相場さん
自分の憧れている人やうまくいってる人に共通して言えるのが、自分のためはもちろん、人のために一生懸命になれる人なんですよね。そして、人のためにやったことは、結局自分に返ってくる。
藤本
藤本
僕も、そういう利他的な考えがとても大きなポイントだと思うし、これからはギブ(与える)かテイク(もらう)かって言ったら、ギブ(与える)で生きていくほうが絶対いいと思っていて。それはつまり「誰々のために」っていうのは、イコール「自分のために」だと思うんです。きれい事じゃなくて、結局は自分の喜びになるんですよね。
相場さん
相場さん
本当にそうですね。まわりの仲間たちはみんなそういうスタンスな気がします。
藤本
藤本
今日の話を伺って、今後もさらに互いの友達を紹介しあって、詩織ちゃんの仲間とも色々ご一緒できたら嬉しいなと思いました。
相場さん
相場さん
わ〜ぜひ! 楽しみにしています! いろいろカタチにしましょう。

【相場詩織さんオフィシャルサイト】
https://aibashiori.jp/

【相場詩織さんTwitter】
https://twitter.com/shiori_aiba2

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