ダムの水はまるで石油?!小水力で脱炭素!

ダムの水はまるで石油?!小水力で脱炭素!

2021.11.17

インタビュー:藤本智士 写真:船橋陽馬 編集:矢吹史子

なんも大学編集長の藤本智士です。
秋田県は「再生可能エネルギー自給率が全国1位」「食糧自給率は北海道に次いで全国2位」って知っていますか?
地球環境危機が緊迫した状況のなか、当たり前に叫ばれるSDGs、カーボンニュートラルという言葉に僕たちはきちんと向き合わねばなりません。
そこで秋田の自然エネルギーの実情について勉強したいと思っていたときに見つけたのが、今回取材させていただいた東北小水力発電株式会社でした。

代表の和久礼次郎さんにお話を伺っていきます。

「小水力発電」とは、一般河川、農業用水、砂防ダム、上下水道などで利用される水のエネルギーを利用し、水車を回すことで発電する方法。
一般的には、河川に流れる水をダムに貯めることなく直接取水し、利用する「流れ込み式」の発電方式が採用される。厳密な定義はないが、出力10,000kW~30,000kW以下を「中小水力発電」、出力1,000kW以下の比較的小規模な発電設備を総称して「小水力発電」と呼ぶことが多い。

東北小水力発電株式会社のある秋田県産業技術センター高度技術研究館(秋田市)

津波の力を目の当たりにして

藤本
藤本
ホームページを拝見させていただいたのですが、和久さんがいまのお仕事をはじめられたのは東日本大震災がきっかけだったと。
東北小水力発電株式会社 和久礼次郎さん
和久さん
和久さん
そうですね。建物が流されて、人もたくさん亡くなって……自分の人生で初めてといえるような大変な出来事で、いったい自分に何ができるだろうと問い直しました。津波だけでなく、東京電力福島第一原子力発電所の事故もありましたし。
藤本
藤本
震災のときはどこにおられたんですか?
和久さん
和久さん
震災のときは秋田にいました。
藤本
藤本
当時はどんなことをされていたんですか?
和久さん
和久さん
小型風力発電の開発をしている方の手伝いをしていたんです。
藤本
藤本
水力ではなく、風力?
和久さん
和久さん
航空機を飛ばす際の風の解析などを勉強のために、秋田の若者3〜4人をNASAへ送りこんだりしていましたね。私自身は文系だから物理や化学はわからないのでNASAには行けなかったんですが……。
藤本
藤本
ナサってあのNASA?
和久さん
和久さん
そうです。あのNASAです。
藤本
藤本
すごっ。ちなみに和久さんご自身は技術者ではないんですね。
和久さん
和久さん
技術系の勉強は苦手でした。私は地元の秋田高校でラグビーをしていました。会社設立時はその当時の仲間の多くが気持ちよく出資してくれました。
和久さん
和久さん
高校卒業後は、東京の青山学院大学へ進学しました。就職は秋田のテレビ局に入って銀座の東京支社に配属されて、たくさん遊んで。結局、4〜5年勤めた末に辞めて、その後、いろいろありつつも小型風力の会社に出会って、再生可能エネルギーの道に入ったんですね。なので、そこまで強い信念を持って始めたわけではないんですよ……。
藤本
藤本
今のお仕事からは想像できない経歴! 銀座で「たくさん遊んで」っていうのが気になって仕方ないですけど、ちょっと話逸れちゃいそうなんで我慢します。ちなみに震災当時2011年って和久さんはおいくつでしたか?
和久さん
和久さん
震災のあった2011年3月、私はまもなく還暦という頃で、やっていた小型風力というのもなかなか難しくて、引退しようか迷っていたときだったんですね。
藤本
藤本
難しいというのは?
和久さん
和久さん
やはり風力は大型でないと難しくて、小型だとどうしても無理があるんです。でも、津波の水の力を目の当たりにしたとき、風の流れを勉強した経験を活かして水力をやってみてはどうだろう?と思ったんです。
藤本
藤本
なるほど!
和久さん
和久さん
秋田には小さな水源がたくさんある。そのエネルギーを使えないかな?と思ったんです。お金はないけれど、60代ならまだ体は動く。せっかくNASAまで行って経験を積んだ若い連中もいるから会社を作ろうと思ったんですね。そこから、流体解析の分野で日本のトップである早稲田大学の教授に協力をいただきながら、これまでやってきています。
藤本
藤本
なるほど〜。まさに震災が大きなきっかけとなったんですね。
和久さん
和久さん
原発は放射能の心配があるし、大型火力はCO2を出すし、風力や太陽光は不安定。でも、水力はそういうことがない。優等生なんですよ。
藤本
藤本
まさに。今でこそ、SDGsやカーボンニュートラルだと言われていますが、10年前、世間の環境に関する考え方はどんなものだったんでしょう?
和久さん
和久さん
漠然と「風力や太陽光はクリーンだよね」というのはあったと思います。それに、政府は原発をやめる気なんてさらさらない。なので水力は後回しに考えられてしまいがちなんですが、実際は、10年前から秋田県は水力による発電が一番多いんですよ。
そういうのを世間は知らないんですよね。(秋田県内には、川やダムなどを利用した発電所は2021年10月時点で63箇所ある)

「落差」が生み出す

藤本
藤本
僕はいま、にかほ市で廃校になった小学校の利活用のプロデュースをしているんですが、にかほ市って本当に水が豊かなんですよね。至るところに水流を見るので「これを何かに使えないか?」と思っていろいろ調べているなかで知ったのが小水力発電なんですが、あらためて「小水力」というのは、どういうものなんでしょう?
和久さん
和久さん
畦道に急流があったら、そこへ水車を置けば電気を作れるんじゃないか?と、誰もが思うんですよね。でも、水車は動力にはなっても電力までは作れないんです。

電気を作るには「落差」が必要なんです。簡単にいうと滝のような。
藤本
藤本
え? そうなんですね!?
和久さん
和久さん
高さがあって、流量があって、その掛け算で決まるんです。何十トンの水が流れていても高さがないといけないんです。
藤本
藤本
へ〜! 流れの速さじゃないんだ。
和久さん
和久さん
ある程度落差があって使っていない水があれば、そこは宝庫なんですよね。うちの会社が目指すのは、なにも外からエネルギーを取って邪魔することじゃない。いわば捨てられているエネルギーを使って電気にすることなんです。
藤本
藤本
捨てられているエネルギー。
和久さん
和久さん
例えば、上下水道、農業水路、砂防ダム。それから、意外に思われますが都市部の大きなビル。ビルというのは冷暖房などで水が回っているんですよね。高いビルの屋上に雨水を溜めて100mのところから落とすと、結構なキロワットの発電をするんですよ。今、100%再生エネルギーで電力を作っているビルもあるんですよ。
藤本
藤本
マジですか?
和久さん
和久さん
水力発電の開発というのは、これ以上無理だろうというところまで終わっているんですが、秋田県と早稲田大学と当社の3者で開発した新型水車があるんです。
藤本
藤本
どんなものなんですか?
和久さん
和久さん
例えば、1トンの水量で設計したとして、これまでは世界のどの水車も、水量が30%くらいまでになると止まる仕組みになっていたんです。新型水車はそれが10〜15%くらいになっても電気を作れる仕組み。これによって、年間発電量が大きく変わるんです。こちらがその模型です。
藤本
藤本
アンモナイトみたいですね。
和久さん
和久さん
「フランシス型」という一般的な水車を改造したもので、これまでは、この水車に水が巻き取られた後、真っ直ぐ排出していたんです。でも、新型は、入ってきたのと同じように回転させながら排出する。そのほうが、排出する際に水が悪さをしない。気持ち良く出ていってもらえるんですね。
和久さん
和久さん
人間も、いやいややってもダメでしょ?お水さんも、スムーズに出してあげると嬉しい。嬉しいということは効率が良くなる。ということは水が少なくなっても発電できる……ということなんですよね。いずれはこの仕組みを秋田から輸出しようと考えています。
藤本
藤本
今の話を聞いて、和久さんが技術者でないことがよくわかりました。「お水さんが」とか(笑)。
和久さん
和久さん
物理はいつも赤点でしたから(笑)。

日本は宝の山

和久さん
和久さん
今、日本には約2700カ所のダムがあって、それぞれ農業用水、治水、洪水対策……いろんな用途があるんだけれど、農業用途の人も、洪水用途の人も他に使われると困る。各々の縄張りがあって運用がうまくいっていないので、結局、3分の1くらいしか発電に使われていないんです。

最近は政府もそこに注目するようになってきて、全てのダムに水力発電をつける動きが出てきた。チャンスなんです。
藤本
藤本
大チャンスじゃないですか!
和久さん
和久さん
こんなに狭い土地にこんなにもダムがあるのは、世界でも日本だけなんですよね。それは、雨がたくさん降るから。水力からすると宝の山なんですよ。
藤本
藤本
僕も全国のダムをいくつか見てきましたが、それぞれがどういう用途で建てられているかはわかっていませんでした。
和久さん
和久さん
ダムに溜まっている水というのは、位置エネルギーなんですよね。石油みたいなもの。蛇口をひねれば発電ができる。
藤本
藤本
すごい。資源が元々たくさんあるってことですよね。二酸化炭素は出ないし、レアメタルどころじゃないですね!
和久さん
和久さん
じつにもったいないんです。水力を進めるかどうかは、政府が「やる」と言えばやれるんですが、すると「原発がいらない」ということにもなる。すると困る人も出てきてしまうんですよね。
藤本
藤本
なるほど、またそこかー。でもそんなこと言ってられないし。秋田は原発のない県ですからね。

ハイブリットカーの第二の人生

和久さん
和久さん
基本的に東北小水力発電のようなベンチャー企業に対しては、大企業は相手にしてくれません。それがある日、秋田県庁の方が豊田通商の部長さんを連れて来たんです。
藤本
藤本
うんうん。
和久さん
和久さん
トヨタ自動車も含めていずれ自動車は全て電気化される。すると、今後は、ハイブリットカーもガソリン車も使えなくなって、そこに使用していた電子部品も使えなくなる。すると、膨大な中古車が生まれる。それをゴミにしてしまうのは簡単なんだけれど、もったいない。なので、それを他の用途に使えないか?水力発電はどうだろう?という話なんですね。
藤本
藤本
いま水力発電に使っている部品を、トヨタの部品に変えるということなんですか?
和久さん
和久さん
はい。車のモーターや制御部品が使えるんですよね。
藤本
藤本
使われなかったら、トヨタからするとただ廃棄していくものになってしまう。
和久さん
和久さん
車として5年、10年と便利さを供給してきた一方で、CO2を排出してきた。それが、今度は水力発電で役に立つ。第二の人生が始まるというわけです。そういうストーリーがあるんですよね。そして、廃棄する部品なわけですから、安価に譲ってもらうことができる。

トヨタ自動車との共同開発という、象さんとアリのような規模感の夢のような話でした。

そこから、気持ちを新たに、トヨタ自動車・豊田通商・早稲田大学・秋田県産業技術センターの皆さんとの共同開発事業がスタートしました。
藤本
藤本
実際、いま水力発電として動いているものはあるんですか?
和久さん
和久さん
まもなく、岩手県内で第1号機が動き出す予定です。
藤本
藤本
楽しみですね! 震災から10年。当時、和久さんが描いていたものと、10年経った現実を、どのように見られていますか?
和久さん
和久さん
やっと時代が追いついてきたかな?と(笑)。
藤本
藤本
そうですよね。間違いなく未来のためになることですし、あとはそれを実証したり、世の中にわかってもらえれば……というところですね。
和久さん
和久さん
そして当然ですが開発にはお金が掛かるんです。会社設立以来ずっと資金不足が続きました。いつ会社が潰れてもおかしくないような状態でしたが、いずれ上場するんだという強い思いは捨てていません。

そして早く苦労を共にした若い社員たちにバトンタッチしたいと思っています。私はこの会社を自分だけのものだとは思っていないから。
和久さん
和久さん
それと、これまで一番苦しい時に、数ある銀行を回っても全て断られてきたんですが、秋田で一番小さな銀行に行ったらそこのトップが会ってくれて、3時間くらい話した末、「わかった、がんばれ!」とお金を貸してくれたんです。それで首が繋がって今がある。だから上場したら、その理事長さんに是非テープカットをしてもらいたいという、ささやかな夢があるんです。
藤本
藤本
銀行も、投資家さんも、こういうところに投資すべきですよね。
和久さん
和久さん
従来あるような商売じゃないから、良いも悪いも、事業評価できないんですよね。でも、一番勉強してくれたのがその銀行の理事長なんですよ。
藤本
藤本
これまで、秋田に来ると「自然の風景が残っていていいなあ」とか、それを引き継いでいくことに頭がいっていたんですが、最近になって「いま目の前にあるものは、未来を生きる子どもたちから借りてるものなんだ、これを残していくために我々は何ができるんだろう?」と思うようになってきたんです。
和久さん
和久さん
水力でも、バイオでも、田舎に電源があってそれで賄えるようになる、いわば地産地消で電力ができるようになれば、こちらに電力を送ってこなくてよくなるわけで、都市部も楽になるはずなんですよね。
藤本
藤本
今日お話を伺って、あらためて、水力というのはこれからもっと注目されていくべきだと感じました。ありがとうございました。
あ〜、お金持ってたら、絶対投資するんだけどなあ。

【東北小水力発電株式会社】
〈HP〉http://www.tohoku-hydropower.jp/

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