食と暮らし学 ババヘラアイス

食と暮らし学 ババヘラアイス

講師 ちがま冷菓のみなさん

Contents

文=矢吹史子

元デザイナーの編集者。秋田生まれ秋田育ち、筋金入りの秋田っこ。
フリーマガジン『のんびり』副編集長。

写真=船橋陽馬

③ババヘラくださ〜い!

ババヘラアイスは、どんな人がどんなふうに買っていくの? その様子を見させてもらうべく、男鹿おが鵜ノ崎うのさき海岸で販売をする、船橋枝美子さんの売り場にお邪魔した私たち。枝美子さんとお話していると、早速、この日最初のお客さんがやってきました。

枝美子
おはようございます〜。
矢吹
どちらからですか?
お客さん
岩手からです。
矢吹
アイス、食べたことありました?
お客さん
いや、ないです。
矢吹
お! 初のババヘラなんですね。存在は知ってましたか?
お客さん
はい。
枝美子
知らない人はいないですよね〜! 今日は釣り?
お客さん
はい。昨日から秋田に来て、秋田市内に泊まって。年に1回来てるんで。
矢吹
何が釣れるんですか?
お客さん
サクラマス釣りに来たんですけど釣れないんで、今日は男鹿の海で釣ってから帰ろうかと。
枝美子
釣りが盛りだからね、今は。
矢吹
わ〜バラになってきた! 美しい……。これ、バラ盛りっていうんですよ。知ってました?
お客さん
あ〜!
枝美子
特別にいっぱいね。最初ですからね。ありがとうございます、200円です。
矢吹
初のババヘラ、どうですか?
お客さん
美味しいです! さっぱりしてて。
枝美子
ありがとうございますー!

(続いて、お客さんがやってくる)

お客さん
おはようー。
矢吹
常連さんですか?
枝美子
そうです。いっつも私にもごっつお(ごちそう)してくれるんですよ。
矢吹
アイスは毎週買いにくるんですか?
枝美子
これから暑くなってくると毎週だね。
お客さん
オレは早いんだ。何しに来るかっていうと、ここの海岸のトイレ掃除。
矢吹
そうなんですかー! ご苦労様です。
お客さん
ほら。あなたたちも食べて。
矢吹
えー! 私たちにも!? ありがとうございます! この景色の中で食べるのも最高ですね!
枝美子
ですよね〜。
矢吹
こういう常連さんとのやりとりも嬉しいですね。
枝美子
私、いつもここにいるからね。この前は魚ももらってね。美味しかったよ。
お客さん
それじゃあね〜。
矢吹
ごちそうさまでしたー!

(車でお客さんがやってくる)

お客さん
おはよう〜。
枝美子
おはようー! 今日は寄らないのかなあと思って時計見でだんだよ。
矢吹
このかたも常連さん!? すごいなー。関所のように人が来る!

(車の助手席に乗っているおじいさんに向かって)

枝美子
お父さん、おはよう!
矢吹
お父さん、いつもアイス食べてるんですか?
お客さん
おう! 何十年と食べでる。他のは買われねぇ。1週間に1回食べるんだ!!
矢吹
お父さん、おいくつですか?
お客さん
もう90歳になる!
矢吹
えー!? 元気!
お客さん
(大声で)今日も元気で、声高げぇど〜! ♪アイヤサ〜〜〜!
矢吹
わ! 歌い始めた!!
枝美子
奥さんが入院してるのよ、それで毎週病院にお見舞いに行く途中に寄ってくれるの。
矢吹
ファンがいっぱいいるんですね。あ、またお客さんかな。山形ナンバーだ。
枝美子
こんにちは〜。
お客さん
5つください〜!
矢吹
ご旅行ですか? どちらから?
お客さん
山形の東根ひがしねから。
矢吹
このアイス、食べたことありますか?
お客さん
はい。「(ババヘラが)いないかな、いないかな、いないかな」って探してたらここにいた! 途中の道の駅にもあったんだけど、それは建物の中にあって、それじゃあなんか風情がない感じがして。
矢吹
やっぱり道路沿いにいないと……ってね。
お客さん
わ〜きれいだ〜!
枝美子
昨日は男鹿に泊まったんですか?
お客さん
はい。(車にいる仲間に向かって)みんな〜降りて来て〜!
枝美子
じゃあ、まず2つ。どうぞ。
お客さん
わ〜!! いただきま〜す。念願の!
矢吹
山形にこういうアイスは?
お客さん
ないですよ〜。さっぱりしてて美味しいし、綺麗でね〜。
矢吹
今日はこれからどちらに行かれるんですか?
お客さん
もう帰り道。今、ゴジラ岩(男鹿名物のゴジラ型の岩)も見てきてね。毎年、男鹿に泊まりに来てるんですよ。
枝美子
そうですか〜ありがとうございます。また来年もお待ちしてますね。
お客さん
ごちそうさま〜!
矢吹
こういうやりとりがあると辞められないですね。
枝美子
「ああ、去年来てた人来ないな、どうしてるかな……」とか思いますね。
矢吹
来る側にしても「いつものおばちゃん、また会えるかな?」とかね。
枝美子
そういうのあるね。

その後も続々お客さんがやってくるなか、他の売り場のお母さんたちの様子も知りたくなった私たちは、同じく男鹿市の観光道路「なまはげライン」の前で販売する、加藤つたえさんの売り場へ向かいました。

矢吹
おつかれさまですー。どんなかんじですか?
つたえ
まあボチボチですかね。
矢吹
ここは暑そう!
つたえ
そう、日陰が全然できないからね。パラソルはあるからまだいいけど、今日みたいに暑いと、アスファルトの照り返しが暑くて座ってられないの。だから立ってないと。
矢吹
お天気次第のお仕事ですもんね〜。
つたえ
雨降ったときはもっと大変。途中で雨降ると迎えが来ないから、その時は困る。雷鳴ったりすると一番怖い! このパラソルがあると逆に怖いし。
矢吹
そうか〜。あ〜!!! 観光バスが来た! わっ! 別の車も来たよ! こういうボーナスステージみたいなのがあるんだ! つたえさんだけで大丈夫かな……。
矢吹
みなさん、県外からですか?
お客さん
岩手県から。
矢吹
嬉しい限りですね。
つたえ
ほんとに。
お客さん
岩手のほうだとこういうアイス、ないんですよ。今日は暑いからね、食べたかった〜!
矢吹
つたえさん、すごい手さばき。だいぶ作ったけど、あと10個!? まだまだだ〜!
お客さん
いま稼がないとね(笑)。腱鞘炎になっちゃうんじゃない?

(十数個やっと作り終えて)

つたえ
はい、どうも〜。
お客さん
ありがとうございますー!!
矢吹
いや〜、一気にいっぱい来て大変でしたね。スリリング!
つたえ
ほんと。1台寄ればみんな寄るのよ。なのに、誰も停まってないと、もう素通り。だから、ああいうふうに寄ってもらえるのはいいのよ。あんなふうにはなかなか来ないのよ〜。
矢吹
よかったよかった〜。私だったら、あんな十何人も来ちゃったら「ごめんなさい」って言うしかないですよ〜。
つたえ
でも、話ししながらやってれば、みんな待っててくれるから。私も最初のうちは「まだ始めたばっかりで……」って言えば、みんな合わせてくれたよ。
矢吹
コミュニケーションですもんね。
つたえ
そう。でも、昔はただ山みたいに盛るだけだったんだけど、最近ですよ、バラ盛りなんて。ああいうふうにたくさん来れば、最初の人が「バラ盛りにして」って言えばみんなそうしなきゃいけないからね(笑)。
矢吹
どんどんレベルアップを求められちゃうんですね(笑)。つたえさん、今日もこれからまだまだありますけど、がんばってくださいね。ありがとうございました〜!
つたえ
はーい!

お客さんたちとの楽しいやりとりと、お母さんたちの見事な手さばきに感動した私たち。見ていたら、どうしても自分たちでもやってみたくなり、千釜さんにお願いして、バラ盛りに挑戦させてもらうことになりました!

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