前回、新製品会議を目の当たりにした私たちは考えました。「自分たちならどんなパンを作るだろう……」。
そこで今回は、加藤さんに新製品を考える際のポイントを伺いながら「あたらしいパン」を考えていきます。

  • 教えて! あなたの推しパン
  • 必見! あのパンができるまで
  • 公開! 新商品開発会議
  • 作りたい! あたらしいパン

編集・文:矢吹史子/写真:高橋希

講師 たけや製パン 営業企画部 加藤勇人さん

3つのポイント

矢吹
会議を拝見して、僭越ながら、私たちもあたらしいパンを考えてみたいと思ったのですが、普段はどんなことをポイントに考案されているんですか?
加藤
「こんな人のために」というのを限定したほうがいいんですよ。アベックトーストなんかも「ミミを残す人がいる」というので、ミミの柔らかい食パンで作ったり、
バナナボートも、バナナが食べられない人に向けて、他のフルーツを入れてみた。そうしたら大反響で、今のところ売れ筋ベスト3ですからね。アレルギーでバナナが食べられないかたからも感謝されましたね。
矢吹
へ〜!
加藤
最初は社内でも反発がありましたけどね。「バナナが入っているからバナナボートだろう」って(笑)。日常的に食べている人たちをよく見る、ということが大事ですよね。
矢吹
奇抜だから良いというわけでもなさそうだし……。
加藤
秋田のみなさんには、馴染みのある形状、ロングセラー商品の派生品のほうが手に取ってもらいやすいようですね。
矢吹
「え!これの○○味が出たの?」と、買いたくなりますよね。
加藤
そして、うちの場合、スーパーさんに卸していただくというのが最初で、そこからお客様の手に渡っていきます。なので、最初にアピールするのはスーパーさんなんですよね。
矢吹
なるほど。
加藤
あとは、幅広く展開するのではなく、どこか1社に絞って「ここだけで販売してみませんか?」と提案すると、良い結果が出ることも多いんですよね。
矢吹
手広くやることが全てではない?
加藤
はい。今は、スーパーもコンビニも激戦なんですよ。とくにコンビニのパンはPB(独自ブランド)化していて、そこでしか買えないものがほとんど。でもうちの商品はどこでも買えるんです。となりの店でも売っているからなかなか力を入れてもらえない。そうなると、価格だけの勝負になってしまうんですよ。
矢吹
そうか〜。だから店舗を絞ったほうがより注目してもらえるかもしれませんね。
加藤
はい。なんも大学で作ったパンを作った場合も「○○スーパーだけで販売します」としたほうが、じつは売り上げの数値的にも高くなるかもしれませんよね。
矢吹
なるほど〜〜〜! ぜひ考えてみたいので、ご協力をお願いしたいです!

加藤さんのお話を整理すると、
商品を提案する際のポイントは以下。

  • こんな人のために」とターゲットを限定する。
  • 定番製品の派生品は手に取ってもらいやすい。
  • 販売店を限定したほうが効果的な場合がある。

これをもとに、私たちは、あたらしいパンを考えました。スケッチブックを携え、再びたけや製パンへやってきました。加藤さんへのプレゼンのスタートです。

なんも大学生調理

矢吹
よろしくお願いします! 私たちが考えたあたらしいパンのご提案を、絵に描いてお持ちしました。
加藤
絵で! なるほど!
矢吹
3つの提案をご用意しましたが、ポイントとして教えていただいた「こんな人のために」ということについて。このウェブマガジン「なんも大学」では、秋田のことを全国のかたに知っていただきたい、というものなので「秋田の文化を知らない人」のために「食べるだけで、秋田に触れられるパン」を提案したいと思います。
早速、1つ目! ジャン!「なんも大学生調理」。
加藤
お〜!
矢吹
この絵を見ていただけると、なんとなくおわかりかもしれませんが……。
加藤
やきそば。
矢吹
はい。目玉焼きと福神漬けが乗った横手市の名物「横手やきそば」です。そしてこちらは、厚切りハムを使った、由利本荘市の名物「本荘ハムフライ」。さらに、この真ん中はポテトサラダなんですが……。
加藤
あ! いぶりがっこ?
矢吹
そうです! 中にいぶりがっこを刻んだものを入れます。ということで、秋田名物を3種挟んだ調理パンです。既存の「学生調理」に準じて、麺類、揚げ物、サラダという組み合わせにしています。
加藤
うんうん。
矢吹
目玉焼きの部分については、大きさ的に難しいと思うんですが、やっぱり横手やきそばに目玉焼きは欠かせないので、ここはうずらの卵で作れたらいいかな? と思っています……。
加藤
これ、いけますよ!
矢吹
ほんとですか?!
加藤
はい。が! 問題は、各名物の商標ですね。なかには弊社ですでにお取引させていただいているものもあるんですが、そうでないものについては、相談が必要になってきますね。
矢吹
でも、各所へのご相談が通れば実現可能?
加藤
そうですね。コンセプトも良いと思いますよ。このパン一つで、秋田のご当地グルメを一度に食べられる、というのはいいですね。
矢吹
お〜!! ありがとうございます!
そして、販売店については、先日のお話では場所を限定して販売するのも効果的とのことでしたよね?
加藤
はい。
矢吹
このパンは、秋田を知らないかたに秋田名物を食べていただきたいので、例えば、秋田駅の売店や空港で販売していただくのが良いのではないかと。
加藤
なるほど。賞味期限の問題などもあって、空港では基本的にお取り扱いしていないんですが、最近は他社のサンドイッチも空港で買えたりしますからね。アリかもしれないですね。

いちじくアベックトースト

矢吹
そして2点目がこちら! 「いちじくアベックトースト」。
加藤
うんうんうん。
矢吹
「なんも大学」でも取材させてもらったんですが、にかほ市には「北限のいちじく」と呼ばれる小さないちじくがあります。これを、地元の方々は保存食として甘露煮にする文化があるんですね。そのいちじくの甘露煮を使ってアベックトーストにしてみよう、という提案です。
加藤
うんうん。
矢吹
そして、いちじくにはマーガリンじゃないよな……と。ちょっと爽やかにしたいので、クリームチーズはどうかな? と考えています。
加藤
なるほど。
矢吹
そして、去年、一昨年と、にかほ市では「いちじくいち」というイベントが開催されています。
そこで、このパンは、そのイベント会場やにかほ市内を中心に販売できないかなと思っています。そして、イベントのキャラクターである「いちじくいちを」の焼き印を入れたいなと。
加藤
このいちじくについては、「県産」とうたえるわけですよね? いいですね。産地の表記ができると説得力があるんですよ。
矢吹
甘露煮やジャムも、にかほ市で製造している業者さんがすでにありますので、一緒に開発していくというのはかなり現実的じゃないかなと。
加藤
なるほど。これ、大丈夫!
矢吹
お〜!!
加藤
が、この「いちを君」の焼き印。アベックトーストっていうのは、1時間で2000個できる製品なんですよ。なので、焼き印を付ける工程を入れるのが難しい。
矢吹
製造の回転が早すぎて追いつかない?
加藤
そうなんです。じつは、うちでも卵のイラストをレーザーで打ち込むことはやっているんですよ。
矢吹
はい。その商品を見て、いける! と思ったんですが……。
加藤
はい。でも、これには結構な費用がかかるんですよ。
矢吹
う〜ん……。
加藤
包材のデザインにキャラクターを使うほうが現実的かもしれません。でもこれ……バナナボートならできますよ。
矢吹
なんと! 夢広がる!
加藤
バナナボートはアベックトーストとは製造ロットが違うし、過去に高校生との企画で校章の焼き印を入れた事例もありますから。
矢吹
バナナの代わりにいちじくの甘露煮を入れて、ホイップクリームを合わせる?
加藤
はい。いまちょうど、バナナボートの派生商品で「フルーツボート ダブルピーチ」というのを販売しているんですが、これがすごい人気で。白桃と黄桃の両方入ってるんですが、みなさん、果肉の食感を好まれるんですよ。
矢吹
うんうん。
加藤
なので、いちじくの甘露煮も、果肉感が出るようにクラッシュしたものを入れるのが良さそうですね。
矢吹
なるほど〜!
加藤
アベックトーストも良いんですが、焼き印を入れるということがしたいとなれば、バナナボートが良いかもしれません。

ハチ公のしっぽワンパン

矢吹
ここまでの2点は、ロングセラーの商品をベースにしていましたが、3点目は、新規の形のものになります。ジャン!「ハチ公のしっぽワンパン」です。
加藤
うんうん。
矢吹
いま、インターネットで「AKITA」と検索すると、一番最初に出てくるのが「秋田犬」なんです。そして、この「AKITA」という言葉は、「FUJIYAMA」の3倍も検索されているそうなんです。秋田の、日本の象徴として、秋田犬をパンにしたいとなったとき、やっぱりあの「丸いしっぽ」だろう、と。
加藤
ほ〜。
矢吹
そこで! 先日、工場でお会いした、登藤とどうさんの力をお借りしたいんです!
加藤
なるほど。
矢吹
美しいしっぽの巻きを再現するには、職人さんの熟練の技術が大事なんじゃないかと。そして、生地はソフト系のフワフワものが良いのですが、外側がちょっとだけ、秋田犬の毛の色のように、ほんのり色が付いたらなあ……。
加藤
うん。
矢吹
そして、中には美味しいあんこかクリームが入っていたらバッチリなんですが。
加藤
なるほど……。これもやれると思いますよ。成形をどうするかテストが必要ですね。既存のものでいうと、こういうふうに巻いた形状のものっていうのは、基本、デニッシュパンなんですよ。
矢吹
そうすると、フワフワ感よりはサクサク感が強いですよね。
加藤
そうなんですよね。丸く巻かれているものをほどきながら食べていくのか、それともかぶりつくのか、それによって具材の入り方も違うんですよね。
矢吹
形のアイデアが先行しすぎて、成形の具体的なところまで考えが及んでいませんでした……。しっぽの渦巻きと、ふわふわ感を重視したいので、製造担当のかたとの相談して、ぜひ、ザギトワさんにも食べてもらえるパンにしたいですね!
加藤
ははは〜!
矢吹
ここまで3つご提案しましたが、いかがでしょう?
加藤
じゃあ、これ全部、秋に向けて進めましょうか?
矢吹
え〜〜〜!!! 全部??? 本当ですか?
加藤
うん。
矢吹
わ〜!! ぜひお願いします!!
矢吹
提案としては、いかがだったでしょう?
加藤
冗談抜きで、100点じゃないでしょうか?
矢吹
ひゃ〜!
加藤
私も研修でいろんな地域を回っては、各地の情報や文化に触れて、吸収したものを新製品に活かすようにしていますが、なんも大学さんのパンにも、旅をしたり、文化に触れたり、食べ物を食べたり……蓄積されてきた経験が活かされていますね。
矢吹
わ〜嬉しいです!
加藤
では、秋に向けて、計画していきましょう!
矢吹
よろしくお願いします!!!

なんと、提案した3つのパンが商品化に向けて動き出すことに!! 引き続き、秋の販売までの経過は、これから随時レポートしていきます! たけや製パンとなんも大学が作る、あたらしいパン。どんな仕上がりになるのか……ご期待ください!

  • 食と暮らし学 秋田の地元パン 終わり

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