秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:竹内厚  写真:船橋陽馬

「ウラノ畑ニイマス」
古本屋の裏庭、本屋の昆虫、米屋のミズノ

2018.06.20

朝市通りに面して、店内ところせましと古本が積み上がった小川古書店では、ときどき、こんなひと言とともに、店主が店を開けていることがあります。

”ウラノ畑ニイマス”

宮沢賢治が暮らしていた花巻の家に書き置いていたことで知られる「下ノ畑ニ居リマス」をちょいとひねった遊び。
小川古書店を訪れた人は「おうい」と呼べば、店主の小川さんが裏庭からかけつけます。

古本屋と写真屋として小川さんの父が開業。それからおよそ50年続く店。
店内に積み上がる古本。この日は雨模様ということもあって、外に出す古本も店にあるので余計に山が高い。

どうしても気になったので、無理を言ってご自分用につくられている裏の畑を見せていただきました。

「ゴチャゴチャしてるけどいいの? 整理整頓が不得手だから」と小川さん。裏庭でどんなものを育てているのか聞いてみると、イチゴ、ブロッコリー、カリフラワー、かぼちゃ、トマト、カブ、ダイコン、ほうれん草、ニンジン、シイタケ、ヤマイモ、ワサビ……と、あれこれちょっとずつつくっているそうで、否が応でも拝見したいという気持ちが高まります。

そうして案内いただいた小川古書店の裏庭がこちら。

思わず、いいなぁと声が出ました。四方を建物にとり囲まれて、決して日当たりがよいとは言えない10坪ほどの場所ですが、小川さんが好きなように畑を楽しんでいる日々がありありと想像されました。

表の古本屋にも通じる無造作な配置に見えて、季節ごとに伸びざかりの野菜を日当たりのいい位置に動かしたり、去年は失敗したという品種の育てかたを変えてみたり。
プランター、鉢植え、木箱に直まき、さまざまなやり方を試しながら、庭を畑に変えはじめてから7年くらいが経つといいます。

小川さんに聞いたお話です。

「売るために、食べるためにつくってるんじゃなくて、つくることが楽しいんだよ。種を蒔くとだんだん成長してきてこうなる、その生命のシステムというのかな、それがすごいなぁって。歳をとればわかりますよ、ほんとに(笑)。モミ殻や糠、珈琲豆を醗酵させて肥料にしたり、山砂をとってきたり。遊びでやってるんだけど、それでもこれだけできる。去年は1カ月だけど、米と卵以外は食費ゼロで生活もできました。まあ、普段はひとりじゃ食いきれないんで、店に来たひとに採れたものをあげちゃう。適当にね。ひとりでやる自由さってそういうところにあるんじゃない」。

「いまはあんまり活字を読む人もいないから、残念ながら。だけど、うちに来る若い人と結構、話があうんだよ。こっちは年季が入ってるから。
雨の日は本を読む。晴れた日は裏の畑で遊ぶ。まあ、金にはならないけどね(笑)」。

+++

小川古書店の裏庭を見せてもらって、お店のウラニワ的要素への感度が高まったこの日、ほかにも朝市通り周辺の店で“ウラニワ”を立て続けに見つけてしまいました。

地元で120年あまり続く荒要あらよう商店は、米や灯油の配達を中心に、五城目の駄菓子として人気の巨大かりんとうなどの食品や雑貨を販売。

店の一角に、古い農具や看板を展示しているミニ資料館をつくっているのもユニークなのですが、もっと気になったのが店主・荒川滋さんのブログ、その名も「ミズノ馬鹿一代」。
ミズノとは、そう、スポーツ用品ブランドのミズノのこと。その大変なる愛好家だそう。

どれほどのミズノ馬鹿なのか、話を聞いてみようと荒要商店を訪ねると、荒川さんにこちらへどうぞと案内されたのは、店のすぐ隣りにある倉庫。ここに、荒川さんのミズノ秘密基地がありました。

約15年前に趣味のゴルフが極度の不調に。その時に買ったミズノ用品がきっかけで上向き調子になったということで、ミズノにこだわりはじめたそう。

「自称、ミズノ契約アマ。いろんなミズノ商品が家に届いて、後でお金を払います。人はそれを“買う”と言うんだけど、おれはミズノ契約アマだからということにして。すっげえくだらない話だから、載せなくていいよ(笑)」と荒川さん。

「ミズノ馬鹿一代」ブログのトップ写真にも使われている、自宅の庭にミズノマークを描いて撮った家族写真は、ミズノのフォトコンテストで最優秀賞を受賞。八戸、神奈川、名古屋といった各地のミズラー(ミズノ愛好家)と交流を深めてオフ会を開くなど、ミズノがある暮らしを楽しんでいるそうです。なお、いまではブログの内容は五城目町の情報発信が中心になっています。

この日の荒川さんの服装、ミズノじゃなくてがっかりしていたら、しっかり足元はミズノ。

ところで、荒川さんは、選手9人の合計年齢が500歳以上に限るという「500歳野球」に昨年から参加。その話を聞いていたら、現役選手だという84歳のお父さんも出てきてくれました。

この500歳野球、秋田の大仙市が発祥で、昨年の全県大会にはなんと約4000人・185チームが参加。ついに初の全国大会も開かれたという、秋田の誇るスポーツコンテンツ。ご存知でしたか。
第2回の全国大会は、2018年7月14日~16日の開催が決定しています。

++++

渡辺五松堂は、本屋にして文房具店。けど、ひとつ気になるノボリが混じっていました。

「クワガタ、カブト虫」。

雑誌に文庫本、絵本……向こうの棚には文房具。
しかし、店の隅にはカブトムシのビニールが吊られた一角が。

聞けば、昆虫好きの店主、渡辺さんの仲間に昆虫飼育の名人がいて、その方が繁殖したクワガタやカブトムシを販売。ときによっては、ヘラクレスオオカブトやニジイロクワガタも並ぶことがあるんだそう。

「いまの子どもたちはあまり知らないからって思って始めたところもあったけど、子どもたちはあまり興味ないみたい(笑)。駄菓子も置くようにしたら、そっちは毎日のように買いにくるんだけど」と渡辺さん。

飼育ケースやエサ、止まり木といった昆虫飼育グッズも販売。

虫は副業、遊びと言いながら、5年前から五城目のイオンでも昆虫の委託販売をスタート。この時代、書店業の方がよほど大変なようですが、「町に本屋さんがないなんてやっぱりよくないから、できるかぎりはがんばりたいと思ってます」と話してくれました。

小川さんの裏庭を見せてもらったことをきっかけに、いくつかの“ウラニワ”を探訪しました。きっと自由にウラニワで遊べるのが個人商店のいいところ。いや、店に限らず、どんな人でもウラニワを抱えていて、お店のほうがそれが表に見えやすかったということかもしれません。

「要するに人生ね」。
小川さんのそんな言葉がいまも心にのこります。

【小川古書店】
〈住所〉南秋田郡五城目町字下タ町203
〈時間〉9:00〜18:00
〈定休日〉不定休
〈TEL〉018-852-2326

【荒要商店】
〈住所〉南秋田郡五城目町字下タ町174
〈時間〉7:00〜19:00
〈定休日〉毎月8日、18日、28日
〈TEL〉018-852-2237
〈HP〉http://www.shokokai.or.jp/05/0536110460/index.htm

【渡辺五松堂】
〈住所〉南秋田郡五城目町字上町60
〈時間〉9:00〜18:30
〈定休日〉不定休
〈TEL〉018-852-2055