Kamakura: 1. Kakunodate Hiburi Kamakura
文:成田美穂 写真:船橋陽馬
今日は何して遊ぶ?
泊まれる秘密基地 CRANDS
2019.01.23
子どもの頃、近所の森で友だちと一緒に秘密基地を作りました。落ち葉や段ボールでできた小さな空間に、お気に入りのお菓子を持ってこっそり集まるだけで、毎日わくわくしていたものです。
「このままみんなで泊まれたらいいのに」と、何度も願ったあの頃の自分が見たら、大喜び間違いなし。そんな“泊まれる秘密基地”が、ここ秋田県八峰町にあります。
泊まれる秘密基地『CRANDS』がある八峰町は、県の最北端に位置し、白神山地や日本海に抱かれた自然豊かな町です。
「秘密基地だから、目立った看板はないんです」と迎えてくれたのは、オーナーの鈴木了さん。2016年に、「地域おこし協力隊」として故郷の八峰町へ戻り、移住・定住や空き家の利活用などの任務を終えた後、2018年の夏に『CRANDS』を完成させました。
空き事務所の解体から始まり、デザイン・施工・仕上げ工事まで手がけ、地元の木工職人さんとともに、約3カ月でこの場所を作った鈴木さん。
そんなCRANDSの最大の魅力は、「1日1組限定の貸切宿」という宿泊スタイル。気心知れた仲間たちと楽しむもよし、家族水入らずで過ごすもよし。
それでは早速、中へ入ってみましょう!
CRANDSを作る資金を集めるため、クラウドファンディングに挑戦した鈴木さん。174名の支援者と、当初の目標額を超える約287万円を集め、無事成功をおさめました。
しかし、そこからが本当のスタート。CRANDSのオープンから約半年が経ったいま、オーナーの鈴木さんにお話をうかがいました。
——地域おこし協力隊として八峰町に戻る前は、どんなお仕事をされていたのですか?
- 大阪の大学で住宅建築を学んだ後、関東にある住宅メーカーで働いていました。学生の頃は、秋田から離れて少しでも遠くへ行きたかったんです。
でも、向こうで結婚して、家族と一緒に帰省するたびに「秋田ってやっぱりいいな」って。時間の流れ方の良さ、みたいなものを実感していきました。都会での生活に疲れていたんでしょうね。人混みに満員電車……よくあるパターンです(笑)。
- とはいえ、せっかく戻るならそれまでと同じような働き方じゃなくて、将来独立できるようにスキルアップしたかった。そんな時に「地域おこし協力隊」という仕事に出合いました。任期を終えたら強制的に次のステップに進まなきゃいけない、というところもいいと思って。
——なるほど。ステップアップ、という意識が強かったんですね。
- 協力隊としてのミッションは、「移住」と「空き家の改修」でした。ちょうどその頃、雑誌やテレビで「リノベーション」という言葉を知ったんです。既存の空間の用途を変えるって面白そうだなぁ、と興味を持ち始めて。
でも、空き家の改修といいつつ、実際に手を動かすのは僕じゃなくて職人さんでした。僕の仕事は、作っている様子や情報を発信すること。その頃の僕のスキルは日曜大工以下だったので、企画はできても、技術を人に教えるなんてできませんでした。
- そんな時、のちにCRANDSを一緒に作ることになる木工職人さんに出会ったんです。それからは、改修作業の一部にDIYの要素を取り入れて体験してもらう企画を提案して、職人さんが参加者の指導をするのを見ながら、僕自身も一緒にスキルアップしていきました。
以前は、きれいな新築のモデルハウスを案内する立場で働いていたけれど、いまは「新しいものをどんどん建てるより、元の物件の良さを生かしていく方がコストも抑えられて、その空間に愛着が持てる」と思うようになりました。それからは、僕の中で少しずつ「リノベーション」が軸になっていったんです。
- 協力隊の任期を終えてからは、リノベーションの依頼がバンバン来ることが理想だったけれど、その前に何か実績を積まないといけないと思って。
そのためには、ある程度の収入と、リノベーションの楽しさが見えるモデルハウスのような空間が欲しい。それに、八峰町にどんどん人を呼んで何か新しいことをしてみたい。そこでひらめいたのが、「宿」だったんです。
——なるほど。そこでつながるわけですね。
- そこで、相方の職人さんと一緒に、八峰町の酒蔵『山本合名会社』の社長に「ここのコンセプトを決めていただきたい」と相談しました。もともと知り合いでしたし、八峰町一のアイデアマンである社長なら、0から1を生み出す部分を担ってくれるんじゃないかと思ったんです。
- すると、山本社長は「ここの強みは“海”だよ。海がどーんと見えて、庭に薪風呂の窯があって。お客さんにはここで、普段味わえない非日常を体験してもらおう。だから、コンセプトは…… “秘密基地”だね」って。
——流れるようにアイデアが! それは、お二人からは出なかった発想ですか?
- そうですね。もちろん、海は大好きですが……こういう自然の豊かさってどこにでもあると思いませんか? 正直、僕たちは「日本という島国で、身近にきれいな海や山がある環境自体は、そんなに珍しくないんじゃないか」と思っていたんです。
実際、クラウドファンディングでも県外からの反応が多かったですし、海なんて見飽きている秋田県民は、ここには来ないだろうと思っていました。でも、いざ蓋を開けてみたら、お客さんの6割は秋田県内の方で……本当にびっくりしました。
——実際、お客さんが八峰町の自然を求めて来ている感じはありますか?
- あるとは思いますが、やっぱりこの「貸切空間」が一番求められてると思います。その満足度を高める要素として、海と山がある。
——さまざまな形態の宿があるなかで、なぜ「貸切」という形になったのでしょうか?
- 自分が使える時間をなるべく増やしたかったんです。僕自身、いずれはリノベーションを軸に面白い空間をたくさん作っていきたい……とは思うものの、ゲストハウスのような形態だと、僕が管理人としてずっと滞在しなければいけないので、外に出てリノベーションの仕事をするのは難しい。
そこで、お客さんだけで自由に楽しめる「貸切」というスタイルにすることで、ある程度の時間を確保できるようにしました。
——なるほど。宿運営そのものが夢のゴールではない、ということですね。
——貸切ということで、気心の知れた友人や家族と宿泊するお客さんが多いのでは?
- そうですね。平均4名くらいの友人同士で泊まる方が多いです。あとは、カップルで来てくれる方もいますよ。
料理を楽しむお客さんがほとんどで、夏はウッドデッキでバーベキューしたり。でも、秋田は天気が良くない日も多いから、中でも楽しめるように、たこ焼き機やホットプレート、燻製器も用意してます。
——外も中も楽しみがいっぱいですね。私は、ウッドデッキにスクリーンを立てて野外映画館をやってみたいです。寒い時は、中で暖炉にあたりながらぬくぬくと観ます(笑)。
- いいですね! 実は、プロジェクターもスクリーンも貸し出せるので、すぐできちゃいますよ。好きなアーティストのライブDVDでも楽しめそう!
——誕生会や新年会のようなパーティーもいいですね。
- パーティーといえば、地元のママさんたちがこの前やってくれましたよ。やっぱり、誰かの家となると片付けとかいろいろ気を遣いますけど、ここだったらそういう心配もいりません。
ちなみに、CRANDSは場所だけ貸すこともできるんです。人数が多ければ多いほどお得だし、食器も20人分はあるので、ご家族やお友達も誘ってどんどん使って欲しいです。
——もうすでに開催されたかもしれませんが、日本酒の会とかどうでしょう?
- それが……まだやったことないんですよ。
——え! ここなら、帰りの心配をせずに楽しめるのに!
- ははは! それぞれ好きなお酒を持ち寄って飲み比べとかいいですね。山本さんのお酒が新しく出るたびに、新酒お披露目会をするのもいいかも。
——いままでで「これは面白い!」と思ったCRANDSの使い方ってありましたか?
- 最近だと、パジャマパーティーですね! 県内の学生さんたちが、自分たちで用意したバルーンやお花で部屋を飾って、みんなで料理したり一晩中おしゃべりしたり。それがすごく楽しそうで、かわいい写真もたくさんあげてくれました。
——そっか、ここは写真撮影OKなんですね。
- そうです。おかげさまで、「#crands」を付けてInstagramに写真を投稿してくれるお客さんも増えていて。僕はいつも、チェックイン後にはいなくなるので、皆さんが実際どんなふうに使ってくれたのかはわからなくて。だから、SNSの投稿を楽しみにしてるんです。
その学生さんたちは、「パジャマパーティー」っていうコンセプトから、装飾や料理の材料までちゃんと準備して、ここを目的地として来てくれたんです。CRANDSの面白さを彼女たちなりに発見して、本気で遊んでくれたんですよね。僕には思いつかない遊び方だったから、本当にうれしかったです。
——「何して遊ぶ?」なんて、大人になるとなかなか言わない台詞ですけど、ここに来るとなったら自然と出てきますね。遊び方を考えるところから、すでに楽しいです。
- これは偏見かもしれないけど、秋田の若者たちが県外に出ていくのは「ここに面白いことがない」って感じることが多いからかな、と。実際、僕もそうでしたし。
でも、秋田で生きることを選んだ子たちって、自分なりの「秋田の楽しみかた」をちゃんと見つけてるんですよね。もしかしたら、やむをえず残ることを選んだ子もいるかもしれないけれど、それでも「いま、ここにいる」と決めたことがすごいと思う。
——いろいろ不便なこともある中で、自分なりの楽しみを見出して生きているんですよね。要するに、「何を “遊び” と思うか」という話で。
- そうなんです。県外に出た子たちが、「秋田にはこういう楽しみ方もあるんだ」って気付くきっかけの一つに、この場所がなれたらいい。それがいま、CRANDSのやりがいになっています。
【CRANDS(クランズ)】
〈住所〉秋田県山本郡八峰町八森字椿台96-7
〈TEL〉0185-74-7170
〈HP〉http://crands-akita.com/
〈Instagram〉https://www.instagram.com/cochi_ryosuzuki/