秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

文:矢吹史子 写真:船橋陽馬

楽天で人気ナンバーワン! 枕界の「王様」は、八峰町にあり。

2019.01.30

「八峰町には、枕の会社があるんですよ!」そんな、地元の方からの情報に驚いた私たち。海と山に囲まれた自然豊かなこの町で、「枕」という思いがけないワードに出合うとは! さらにその枕、インターネット通販「楽天市場」で、売り上げ、レビュー数ともに、たびたび1位に輝いていると言うではないですか! 
居てもたってもいられず、早速、その会社「Beechビーチ株式会社」を訪ね、代表の服部隆司はっとりたかしさんにお話を伺うことにしました。

枕が人に合わせてくれる

服部さん
これが、うちの代表的な商品「王様の夢枕」です。

——わ〜!! これが人気の枕ですか? もっちもちですね!!!

服部さん
はい。うちの製品は「枕がその人に合わせてくれる」というのが一番の売りで、どんな寝姿勢になっても、中の素材が瞬時に形を変えてくれるんです。

——いったい、どんな素材が使われているんですか?

服部さん
約0.5mmの超極小ビーズとポリエステル綿です。

これを開発したのは十数年前で、当時は他社でもこのビーズだけを使ったクッションやぬいぐるみはいろいろありました。でも、この素材で、もっと生活に密着したものはないかな? と考えたときに思いついたのが「枕」だったんです。
毎日使うものですから、ビーズの流動性が気持ちいいだけではなく、ふんわりと支えてくれる要素も欲しい。ということで、素材を組み合わせて入れています。

——人気の枕ということで、もっと複雑な構造かと思っていたんですが、意外とシンプルな形なんですね。

服部さん
そうですね。単純なんですけれど、真ん中の長方形のくぼみに頭を乗せると、枕が首の部分にフィットして支えてくれるんです。でも、最初に作ったのは、枕の中央にだけくぼみがあるものでした。
服部さん
枕づくりは、元々は当時の社長と私の、素人二人でスタートしたんです。そこで、試作品を寝具メーカーさんに見てもらったら、先方の会長さんが「おお、面白いね! でも、これじゃ寝返りが打てないから、こうしてごらん」ってアドバイスをくれて、今のような長方形にくぼみが入ったものになったんです。それで、横の動きにも対応できるようになりました。

——そして「王様の夢枕」が生まれたんですね。

服部さん
はい。暮らしや地位の差はそれぞれにあると思いますが、睡眠のときだけは、誰しもが王様気分でいてほしい。そんな思いから「王様」と付けました。この枕、これまで100万人の方にご愛顧いただいているんですよ。

八峰町との出会い

——八峰町で作られているのには、どんな理由があるんでしょうか?

服部さん
じつは、ここで始める前「王様シリーズ」は、別の会社が東京でやっていたんです。私はそこで商品開発に関わっていました。
当時、うちの商品はテレビショッピングで人気だったんですが、いろいろな事情があって、倒産してしまったんです。
その当時の製造工場の一つに、八峰町の大森建設さんのグループ会社がありました。そこは枕の中のビーズが作れる会社だったんですね。
服部さん
商品は良いものですし、ファンも増えてきていたので、その後は私が「王様シリーズ」を引き継ぐことになりました。すると、大森建設の大森社長が「協力するから、がんばってやってみなさい」って言ってくださったんです。信頼を損ねてしまっている状況のなか、そんなふうに私にステージを与えてくれたんですよね。それを機に、2007年11月から、八峰町で再スタートさせてもらうことになりました。そのときの決断に、本当に感謝しています。

1位のひみつは、八峰町にあり?

——現在は、インターネット通販が主流なんでしょうか?

服部さん
そうですね。買ってくださった方々のレビューのおかげで購入者がだんだんと増えていって、今に至ります。中でも一番人気がこちらの「王様の抱き枕」ですね。

——わ〜!! これは独特な形ですね。

服部さん
タツノオトシゴのような。こちらの抱き枕も、その人の抱き心地に合わせてくれる。ちょっと力を抜けばふわっと膨らむし、足に挟んだり角度を変えればお腹もあったまる。
これは今日(2018年12月18日)、楽天の人気ランキング1位になっています。100週連続1位だったこともある商品なんですよ。

——この抱き枕、レビュー数が6000件を超えていますね! やはりみなさん、素材の気持ち良さを一番に書かれていますね。「腰痛が楽になった」という声も。そして、妊婦さんの購入も多いんですね。

服部さん
そうなんです。特に寝返りが辛いということで、妊婦さんには人気がありますね。それから、抱き枕って、じつは夏によく売れるんですよ。冬は布団も分厚いのでかえって邪魔になることもあるようなんですが、夏は「暑いから何もかけたくない。でも、お腹を冷やさないように」ってね。

——このレビューは、何よりの財産ですね。

服部さん
卸しがメインで、お客さんとのやりとりはほとんどないので、直接の声は聞けないんですが、ネット社会になってレビューを読めるというのは励みになりますね。そして、これを見ていると、この土地でやれてよかったなって思うんですよ。

——秋田だからこそ、八峰町だからこその良さがある?

服部さん
はい。これまで、全国の工場と関わってきましたが、秋田の人たちは本当にまじめです。そして、細かいところに目が届く。
「こんなに高級な枕を買っていただけるなんて!」(王様の夢枕は6000円)と、お客さんに届けるところまでを丁寧にやろうという意識を、ものすごく強く持っているんですね。
この日作っていたのは、マルチ枕。近くの工場で縫製された布地に、ビーズと綿を入れて口を閉じる。シンプルな作業ながら、検針も2回と入念に行い、安全な状態で出荷している。
服部さん
よその工場では、忙しくなると段ボールの扱いが雑になってしまうこともあったんですが、そういうことは絶対にない。当然のことではあるんですけれど、細かいちょっとしたところが人として丁寧なんです。そういう部分からいつも気づきをもらいますよ。

——その丁寧さが、商品の人気を支えているのかもしれませんね。

新・王様の夢枕

——それでも、常に人気の上位にいるというのは、大変なことですよね?

服部さん
今日の楽天のランキングを見てみると、「王様の夢枕」は4位になっています。1位、2位に入れていないんですよね。この、4位と1位っていうのは、お客さんの反応が全然違うんですよ。
服部さん
最初は「ベスト10に入っていればいいんじゃないの?」って思っていたんですけど、1位だった時は1日平気で100個くらい売れていたのに対して、4位だと30個くらいになってしまう。3分の1ですよ。

——消費者としては、「どうせ買うなら1位のを買おう」って思いますしね。1位に返り咲くために、何か方策はあるんでしょうか?

服部さん
じつは、この「王様の夢枕」は、「新・王様の夢枕」として、2019年からリニューアルするんです。ここ数年で海外展開もできるようになってきて、台湾、中国、タイなどでも販売していますが、向こうでも「最高に気持ちいい」とは言っていただけるんです。でも、「小さい」と。日本人に合わせたサイズだと、海外では子ども用に思われてしまうんですね。
新・王様の夢枕(画像提供:Beech株式会社)

※「新・王様の夢枕」は、2019年1月8日から先行発売を開始したところ、あっという間に楽天総合ランキング1位に。あまりの人気のため製造が追いつかず、現在注文数に制限があるとのこと。

服部さん
これまで11年、がむしゃらに走ってきたんですが、ここからはあらためてラインナップを整理しつつ、リニューアルしながら、さらに多くの方に愛される商品を作っていきたいと思っています。

Beech株式会社
https://www.beech.co.jp/