秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:矢吹史子 写真:鍵岡龍門

楽農?百笑??  食用ほおずきの、たじゅうろう農園へ。

2019.11.06

上小阿仁村かみこあにむらでは、20年ほど前から、全国的にも珍しい「食用ほおずき」が特産品として栽培されています。夏から秋にかけて、道の駅などには生食用のほおずきが並び、ほおずきを加工したお菓子などもたくさん。

今回は、そのほおずきを栽培している「たじゅうろう農園」を訪門。そこでお会いした園長の鈴木孝明さんのチャレンジ、試行錯誤の姿勢には、たくさんの学びが詰まっていました。

「たじゅうろう」とは、鈴木さんの先祖の屋号。この名前には約300年の歴史があるという。
鈴木さん
鈴木さん
うちは、露地栽培とハウスで小規模水耕栽培をやっていて、化学肥料は使わない、農薬も使わない、除草剤も使わない、というのをうたい文句にやってます。
鈴木さん
鈴木さん
まずはハウスからみてもらいましょう。
鈴木さん
鈴木さん
また大きぐなってら! 秋から冬にかけては育ちやすいので、ここへ来るたびに大きくなってますね。 

——まだ青いようですね。

鈴木さん
鈴木さん
これは、お盆前に植えたもので、収穫の最盛期は来春。水耕栽培なら、やり方によっては通年栽培ができるんですよ。

このほおずきは「ゴールデンベリー」と呼ばれるもので、ペルーが原産です。ほおずきは「ナス科ホオズキ属」という分類になります。

——花もかわいい! パンジーみたいですね。

鈴木さん
鈴木さん
花が咲いてから、50〜60日くらいで実になります。この殻の中に実がある。

——この、たくさんぶら下がっている紐はなんですか?

鈴木さん
鈴木さん
ほおずきの枝が大きくなったらこれで留めて支えてあげるんだ。ほおずきというのは、「自家受粉」といって、人工的に受粉させなくても勝手に実がなるんです。そういう意味ではすごく育てやすいんですけど、かなり大きくなるんですよ。水耕栽培は3メートルくらい伸びる。だから、こういう支柱や紐で支えてあげないといけなくてね。そういう細かいケアが大変なんだ。

——これは鈴木さんが考えた仕組みなんですか?

鈴木さん
鈴木さん
そう。ここにあるほとんどのものが、私が勝手に考えて作ったもの。稲作なんかとは違って、「これだ」という決まった栽培法がないといってもいいくらいで、相談するところもあまりないのでね。最初は大変だったよ。紐は全部自分一人で張ったから。今、この隣のハウスでも、水耕栽培ができるように準備してるところです。

——この下には水が入っているんですか?

——わ〜〜〜!! 根っ子はこんなに細く密集してるんですね。

鈴木さん
鈴木さん
真っ白でしょう? これが、最高に健康な証拠。これ以上間隔を近くして植えてしまうと、根と根がぶつかって茶色になってしまってね。
ハウスの室温は32度。1月ころから2ヵ月ほどはペレットストーブを使ってハウス内を温める。風呂用の温水器で水を温めることも。すべてを自力で試行錯誤しながら取捨選択しているという。

(露地栽培の畑へ移動)

——わ〜! すごい数ですね!

鈴木さん
鈴木さん
ここだけで700本くらいかな。畑が点在しているので、合わせると1000〜1200本くらいあります。

2月に種を撒いて、今年は5月あたまに定植、収穫が始まったのは7月の末くらいで、最盛期は1日20kgくらい穫れます。殻を取るだけでも大変。爆発的に収穫できるのは2〜3ヵ月間なんだけれど、少しずつだったら雪が降るまで穫れるんですよ。

これがちょうど熟したものですね。

——わあ! ほおずきというと、赤いものをイメージしていたんですが、この品種は黄色なんですね。

鈴木さん
鈴木さん
そう。黄金色。せっかくなので、食べてみますか?

——わ〜! 口に入れた瞬間は、甘さとみずみずしさが立っているんですが、途中、マンゴーみたいなまろやかさもあって、最後に柑橘っぽい苦みと酸味もやってくる。最高に美味しい〜〜!!

鈴木さん
鈴木さん
穫って、殻を付けたままにしておくとさらに熟していくんだ。旨味が増して糖度が上がって、殻ももっと黄金色になっていく。
鈴木さん
鈴木さん
これが種。1つの実に200粒くらい入ってる。これを、流水で洗い落として、乾かして保管しておくんですよ。
それを、土にピンセットで1個ずつ植えていくんです。そして、芽が出てきたらLEDの光で温めて育てる。

LEDを使うのは、安定して成長するし、葉っぱもふわっと大きくなって、健康な根になって茎も太くなるから。LEDを使う前は、ひょろひょろだったんですよ。
ほおずきの天敵のひとつがハチ。暑くなると畑にやってきて、実を食べてしまうという。

——鈴木さんがほおずきの栽培を始められたのには、どんな経緯があったんですか?

鈴木さん
鈴木さん
それまでは秋田市でサラリーマンをしていたんだけど、早期退職したんです。親父が死んでおふくろが一人になってしまったこともあって、家を守って、村を守って、社会貢献できたらいいなと、上小阿仁に帰ってきたんですね。ちょうど、東日本大震災の年でした。
鈴木さん
鈴木さん
そしたらちょうど、ここの特産品がほおずきだというので、始めてみようかな?と。何となくひらめいたんだ。私は閃くと何でもやってみたくなってしまうもんでね。

それに、稲のように誰もがやっていることでは注目もされないかもしれないけれど、ほおずきなら競争相手も少ないかなと思って。
鈴木さん
鈴木さん
20数年前、上小阿仁村でほおずきの栽培を始めたころは栽培農家が20軒くらいいたらしいんだけど、今は10軒くらい。私は今、65歳なんですけど、これでも3番目に若いほう。
上小阿仁村は平均年齢が60歳くらい。高齢化率(65歳以上の人口が総人口に占める割合)が秋田県一といわれているんですよ。
鈴木さん
鈴木さん
そういうなかで、本格的にほおずきをやって7年くらいになるけども、今現在はいくら作っても足りないという状態。うちのほおずきは、2年前からほぼ全量を、連携している県内のお菓子屋さんに納品しているんです。焼き菓子とか大福、チョコレートなんかに使われています。

——7年。やってみていかがですか?

鈴木さん
鈴木さん
私の目標にしているのは「楽農らくのう」なんですよ。「楽しい農業」「楽をする農業」。でもそれは、裏を返すと「いくらやっても全てが楽しくなることはない」「いくらやっても楽にはならない」ということでもある。それをわかりつつ、目標にしているんです。

——「楽農」を目指して、常に工夫したり、発明したりしているんですね。

鈴木さん
鈴木さん
そうそうそう。毎日、試行錯誤。

——でも、試行錯誤することを楽しんでいらっしゃいますね。

鈴木さん
鈴木さん
決まったとおりにはいかないんだけど、失敗したっていいし、時間がかかってもいいんだよ。ノーベル化学賞を受賞した吉野彰先生も「失敗しないと成功はない」っておっしゃっていて。そのとおりなんだ。
鈴木さん
鈴木さん
私は、サラリーマン時代からそうだったんだけど、何でも「できない」とか「わからない」って言うんじゃなくて、「どうしたらできるようになるのか」「どうしたらクリアできるのか」ということを考えながらやってきた。
鈴木さん
鈴木さん
わからなければ「すぐ調べて連絡します」と対応して、たとえそれができなくても、「解決に近づける目処を立てるように」と言われながらやってきたんだ。

——その姿勢が、ほおずきの栽培という開拓中の場でも活かされているんですね!

鈴木さん
鈴木さん
でも、落ち込むこともたまにあるんだけどね(笑)。

——そういうときはどうされるんですか?

鈴木さん
鈴木さん
そんなときは、「百笑ひゃくしょう」よ。「辛くなったり、嫌になったら百回笑って忘れて、次さ向かっていけ!」っていうこと。これはうちの母ちゃん(奥さん)の教えなんだ。はははは〜!

【たじゅうろう農園】
http://tajyuro.com/