秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

文:成田美穂 写真:船橋陽馬

マヌカハニーがくれたもの
雑貨屋m’s collectables

2019.02.27

秋田市から車を走らせること約30分。潟上かたがみ市の大久保駅のそばにあるのが、雑貨屋「m’s collectablesエムズコレクタブルズ」。

毎日を心地よく暮らすため、その手助けとなるようなアイテムが並ぶ店内は、どれも気になるものばかり。「とにかくいいものを」という一心で、国内外問わずあちこち出かけて歩いたという、店主・諸橋德子(もろはしとくこ)さん。

m’s collectables店主・諸橋德子さん。

ご主人の磯光いそみつさんとともにお店をオープンしたのは、2009年12月19日。雪の降る冬の寒い日でした。それから時間はあっという間に過ぎ去り、今年で10周年を迎えます。

さまざまなアイテムが並ぶ店内を見渡していると、かわいらしいイラストが目に止まりました。

理紀之助かや布巾(大・小)。

「これは、明治時代の秋田を代表する農業指導者、石川理紀之助いしかわりきのすけをモチーフに作ったかや布巾です。理紀之助は、ここ潟上市で生きた偉人で、私は彼のひ孫にあたるんです。

皆さん手に取りやすいように、ユーモラスなイラストとポップな色合いにしました。お土産としてはもちろん、転勤される方へのプレゼントにも人気ですよ」

美濃焼のマグカップ。岐阜県に工房を構える「SAKUZAN」の職人が、一つひとつ手作りしている。
ニュージーランドの首都ウェリントンで作られた、蜜蝋のキャンドル。お店の扉を開けた時に漂ってきたいい香りの正体はこれだった。
ラリーキルトのランチョンマット。ラリーキルトとは、古くなったインドのサリーなどを何枚も重ね、さらに刺し子を施して補強したもの。
この日、德子さんが履いていたスカートも同じラリーキルトのもの。インドの女性たちの知恵が詰まっている。
窓際に並べられた色とりどりの靴下。コットンや羊毛など、素材はさまざま。

「秋田では最近、素敵な作り手さんが増えてきていますよね。いいなと思ったものが、たまたま秋田の作家さんだった時はうれしいですね」

海鼠釉なまこゆうという深い青色の釉薬が特徴的な「白岩焼しらいわやき」のアクセサリー。金彩も加わった存在感のある作品の製作者は、秋田県仙北市「白岩焼和兵衛窯」の渡邊葵さん。
秋田市で活動する造形作家・h.u.gハグのオブジェ「ouchi」。一つずつ手作りで制作し、丁寧に色付けされている。
秋田市のコーヒー屋「08COFFEEゼロハチコーヒー」とコラボして作った“エムコレブレンド”。酸味が少なく、飲みやすい口あたりが人気。
大館市で活動しているニットのブランド「yourwearユアウェア」のミトン。すべて一点もの。

マヌカハニーとの出合い

「もともと主人は会社を経営していて、私もまったく別の仕事をしていました。
でも、全力で楽しく働けているかと聞かれたら、お互い『はい』とは言えない状況でした。そんな時、主人が会社をたたむことにしたんです。

お店を始める時、私は55歳で、主人はその3歳上。すでに人生の後半に入っていたけれど、『これからはわくわくできる仕事をしながら、毎日楽しく過ごしたいね』と、ずっと話していました」

「ここはもともと自分の土地だったので、この場所でやるのが絶対条件。他にどこか借りるなんてとても難しくて……だからこそ、まずはここで私たちができることを見つけようと思いました。

それからは、お店のデザインも何もかも自分たちで絵に書いて、それを大工さんと相談しながら少しずつ作っていきました」

「実を言うと、最初はアンティークショップをやりたかったんですよ。でも、それでは食べていけないことがすぐにわかりました。考えてみたら、アンティークのもので『日常生活で使うもの』ってそんなにないんです。

アンティークもいいけれど、まずはリピートして買っていただける商品がないとお店としてやっていけない……ということで出合ったのが、マヌカハニーでした」

マヌカハニーは蜂蜜の一種で、ニュージーランドに自生する「マヌカ」という低木に咲く小さな花からとれたもの。

20年ほど前、ご主人の磯光さんがよく訪れていたニュージーランドで見つけたマヌカハニー。現地ではふだんから生活に取り入れられ、空港の土産店にもたくさん並んでいましたが、日本で見かけることはほぼありませんでした。

「そのうち少しずつ興味がわいて、我が家でも買って帰ることが多くなりました。すると、食べているうちになんとなく風邪をひきにくくなって、体も軽くなって、インフルエンザなんて全然かからなくなりました」

その後、マヌカハニーをm’s collectablesの商品として本格的に取り扱うことを決めた二人は、正しい知識を身につけるべく、ニュージーランドの専門家のもとを訪ねました。

そこで知ったのは、マヌカハニーの高い抗菌・殺菌力。風邪やインフルエンザの予防はもちろん、整腸作用もあるほか、現地では火傷や切り傷に直接塗って、薬のように使われていたそうです。

m’s collectablesで取り使うマヌカハニーはすべて、ニュージーランド産100%純粋蜂蜜。

「マヌカハニーは本当にいいもので、自分たちが感じていた効果は正しかったんだと確信しました。

扱い始めた頃は、マヌカという言葉すら知らない方が大半だったけれど、食べてみてとても気に入ったという口コミが少しずつ増えて、お客様の間にも順調に浸透してくれました」

二人のバランス

いまや、m’s collectablesの主軸であるマヌカハニー。
「主人がずっといいと言っていたものだったので、そこは何の不安もなく進められるものでした」と話す德子さんの言葉から、二人の信頼関係が垣間見えました。
そもそも、ご夫婦で同じ仕事をするというのは、大変な部分も多いのでは?

「ものすごく大変!(笑)でも、幸いなことに気が合うんですよ。どちらかというと友達感覚です。思えば、そうなったのはお店を始めてからかもしれませんね。

それまでは、お互いの仕事内容もあまり知らないまま働いていたので、家に帰って話すのは子どものことばかり。それがいまは、家でもずーっと仕事の話をしています。テレビを見ていても、『あ、これいいね』『次はこの国に行こう』という感じ」

海外へ買い付けに行く時は、ほとんど計画は立てません。「とりあえず行く」ということだけを決めて出発するため、いつも行き当たりばったりの旅だそう。

「向こうに行って仕入れられるかどうかもわからないのに、『行きたい』とか『欲しい』って思うと、すぐ動きたくなってしまうんです。結果、そのまま勢いで買ってきてしまってね。私も主人も、そこはとてもよく似ていると思います」

「同じ仕事とはいえ、業務内容の住み分けがはっきりしているのがいいのかも。そうじゃないと、喧嘩になっちゃうものね」

マヌカハニー以外の商品は、德子さん自身が気に入ったものや、欲しいと思ったものを仕入れています。一方、経理やちょっとした大工仕事(店内に德子さん専用のドライフラワー工房を作ったり)は、ご主人が担当。

二人のバランスのよさや10年というお店の歴史は、マヌカハニーが繋いでくれたのかもしれません。

親と子

二人の好奇心がたっぷり詰まっているのが、m’s collectablesの最大の魅力。しかし、いざお店を始めてみたら、想像と違っていたこともたくさんあったそう。

「まず、お客様が全然来なかったの。最初の1年くらいは、ただお店のイスに座っているだけ(笑)。本当にね、このままじゃ暮らしていけない、って涙した時もありますよ。最後は子どもに頼ればいいなんて気持ちはまったくなかったから、ものすごく不安でした」

「子どもは常に放してやりたいと思って育ててきました。『親の面倒を見るために、いつかは戻ってこなきゃいけない』という気持ちがどこかにあると、なんとなく……好きなように暮らせない気がするんです」

「私も主人も秋田で生まれて、大学進学を機に上京しましたが、それぞれ実家の後継ぎだったので、『この楽しい4年が終わったら、自分は秋田に戻るんだ』って思いながら暮らしていました。常に、秋田に帰らなきゃいけないという気持ちがあったんです」

子どもには自分たちと同じような窮屈な思いはさせたくない、と心に決めた二人。人生のセカンドステージへ思い切って転換できたのも、その強い思いがあったからかもしれません。

原点はマヌカハニー

「ここに置くものは、体にちゃんと響いて、心地良くて、触れても害にならないものがいい。そう考えると、やっぱり私たちの原点はマヌカハニーですね。これが本当にいいものでなければ、私たちもここまで続きませんでした。

「私たちがいいと感じた『ふだん使うもの』が、絶対に高いものでなければいけないなんてことはないですし、有名な作家さんの作品じゃなきゃ、海外製のものじゃなきゃ、なんてこともありません。ましてや、秋田のものじゃなきゃいけないなんてこともありません」

「新しいことっていくつになってもできると思うんですよ。やりたいことも行きたい場所もたくさんあります。まだまだこれからです」

【m’s collectables】
〈住所〉潟上市飯田川下虻川字道心谷地48
〈定休日〉水・木曜日
〈時間〉11:00〜18:00
〈TEL〉018-877-4111
〈HP〉https://www.mscollectables.com/