秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:矢吹史子 写真:船橋陽馬

ドスコイ! 花輪で出会った、全力図書館!!

2018.12.26

鉱山や温泉、ホルモンなど、自然や食べ物などのエネルギーが印象的な鹿角市ですが、エネルギーの塊はここにもありました。「鹿角市立かづのしりつ花輪図書館はなわとしょかん」。鹿角市を旅するなかでふらり立ち寄ったこの場所で、「図書館」という場への愛をもって突き進む、なんともパワフルな女性たちに出会いました。

鹿角市立花輪図書館は「鹿角市文化の杜交流館 コモッセ」内にある。

この図書館、ひとまわりしただけでもなんだか楽しいのです。とにかく随所にいろんな工夫がいっぱい。「これはただの図書館じゃないぞ!」ということで、思い切って取材交渉をしてみたところ、突然の依頼にも関わらず、快く引き受けてくださいました。

案内してくださったのは、館長の小林光代こばやしみつよさん(左)と、業務責任者の佐藤郁さとういくさん(右)。ユニークな出で立ちの館長さんに、ワクワクはさらに高まります。

お二人の解説のもと、あらためて館内を回ってみます。

子どもたちが来た際に使うというガイドの旗を掲げて、図書館見学のスタート!

佐藤
現在の館内の蔵書数は87,000冊。絵本も6000冊以上あります。こちらのコタツのスペースでは、毎週土曜日午前中に「はなわんこのおはなし会」として、スタッフが読み聞かせをしているんです。
小林
いま(取材時の11月)は「本とアート、本とデザイン」という企画を開催中で、装丁が美しい本、仕掛けがある本などをスタッフが選んでいます。ポップもスタッフが手書きで。ポップがあるかないかで、借りられ方も違うんですよね。
佐藤
医療、病気に関する本などは、プライバシーを守るために人目に付かない場所に配置しています。行政の協力を得て、持ち帰りできる医療関連のパンフレットを一緒に置いているんですよ。
小林
オリジナルキャラクターの「はなわんこ」「トワダック(十和田図書館のキャラクター)」の秋田弁を使ったラインスタンプも作っています。この売り上げは、すべて資料代に充てさせてもらってます。
小林
利用者さんからのアンケートもしっかり掲示させてもらっています。ご指摘は宝ですから。できること、できないこと、いろいろありますが、即刻返事をする! 応援のメッセージもありがたいですね。
佐藤
「暮らしの手帖」のバックナンバーは、地元の方が寄贈してくれたものなんです。
小林
鹿角は、しっかり資料を残している旧家が多くて、ほかにも寄贈いただたものもたくさんあるんですよ。
雑誌の一部は、スポンサーさんに提供していただいているんです。企業やお店など、どなたでも参加いただけるんですが、雑誌のおもて面にはスポンサー名、裏面にはその店舗の広告を入れてPRできるようになっています。
佐藤
「今日は何の日?」のコーナーは、毎日職員が選書しています。今日は「山梨の日」ということで、山梨にまつわる本を紹介していますね。
小林
ここは市民参加型コーナーで、全国の地域ごとに分かれたカゴに、みなさんの使わなくなった観光パンフレットを入れてもらって、必要な方はお持ち帰りいただけるようにしています。発端は観光雑誌をもっと入れたいけれど、お金がないから。でもみんな旅行のときに集めたパンフレットって結構捨ててしまうんですよね。そういうのをみなさんに持ってきてもらっているんですよ。

館内を一通りご案内いただいたところで、あらためて、小林館長と佐藤さんにお話を伺います。

——工夫と楽しさに溢れていますね! 配置も相当考えてやってらっしゃるんじゃないですか?

佐藤
好きでやってるんです、私たち。
小林
図書館の本というのは、基本的に決まった順番をもとに並べられるんですけれど、利用者は図書館のルールには関係なく、心理で本を探すと思うんですよ。そのあたりの声を拾って提案していく。そうすることで、より使いやすい図書館になっていく……そう信じてやっています。そして「ただ待っている図書館」ではなくて、自分たちで外にも出向いているんですよ。
佐藤
例えばこれは、「15歳の君へ薦める100冊」という本のリストを用意して鹿角市内の中学校を訪問しているんです。
小林
そこで「ブックトーク」という時間を取らせてもらって、ここに載っている本を生徒の前で紹介するんですが、学校の先生ではない外部の人が話すことって、子どもたちにとっても届き方が違うようなんですよね。そういう姿に触れると、大変でもやる気が出る。
私もこの出で立ちですから目立つでしょ? ちなみに私のこの髪型、「ドスコイヘア」っていうんですけど、中学生のみんなにも「町で会ったら声かけてね」って言って仲良くなって帰ってくるんですよ。
佐藤
学生も結構勉強しに来てくれますね。受験シーズンになると館内の一角に合格祈願で私たちが段ボールで作った鳥居を置くんですよ。長期休みの前には「団体貸し出し」といってトラックにコンテナを乗せて学校に貸し出しに行ったりもしています。

——町の財産として広くシェアしていく、ということを意識的にされているんですね。

小林
じつはこれまで、スタッフのなかから「一冊でも本をなくしてはいけない!」っていう声もあったんですよ。それは「税金で買ったもの」だから。でも、私は本当に使ってもらいたいんですよ。だって、その一冊が誰かの人生を変えることもあるんですよね。悲しいときの一冊、恋愛しているときの一冊、進路に悩んでいるときの一冊……その本の一コマが自分の人生や価値観を大きく揺さぶることってあると思うんです。広く貸し出しをすることで発生してしまう紛失本は想定内です。私たちはそのくらい、図書館というものに、誇りと自信と矜持を持って進まないといけないと思うんです。
佐藤
これは、うちが主催してきたイベントのチラシです。
イベントのチラシやポスターもすべて手作り。作っているのはスタッフの米田まいたさん。ちなみに、この図書館、スタッフはすべて女性。
小林
ヒットしたのはこれ!
佐藤
「野菜づくりのコツ講座」。これは2月にやることに意義があって、農家のみなさんがウズウズしてくるころに、農山漁村文化協会さんがDVDや本を持って講座に来てくださったんです。これには150人以上も集まりました。
小林
これでわかったのは、「よそで成功したから良い企画」っていうことじゃなくて、その土地ならではのニーズやオリジナリティがあるっていうことですよね。「冬のさなかにこんなに集まるの?!」ってびっくりしましたけど、春を待つこの土地の人たちの気持ちが伝わりました。
佐藤
こういった講座やイベントに参加した方が、次から図書館にも足を運んでくださるようになるんですよね。

——イベントを通して、一気に図書館との距離が縮まりますね。

小林
図書館って「堅苦しくて、敷居が高い」って思っている人もいるんじゃないでしょうか? 足音もダメ、おしゃべりもダメ、飲み物も飲んじゃダメ、ダメダメダメ……そんな窮屈感があるように思えます。でも、もっとカジュアルに来てもらえるような仕掛けを作っていきたいんですよね。
佐藤
「よるとしょ」というものを年に何回か開催して、その日は開館時間を延長して、BGMを流したり、珈琲を無料サービスしたりして。そうやって、ふだん来館できない方に来てもらったり。ほかにも、「仕事」をテーマにしたイベントでは、我々スタッフがいろんな職業に仮装してみたり、演劇や踊りを披露したこともありますよ。

——図書館を楽しんでもらうために、体を張っている!

小林
あとは、商店街とコラボして飲食店にオリジナルメニューを作ってもらったり。コモッセだけ賑わって、町の中が閑散としてるっていう声があったんですね。なので、商店街にも足を伸ばしたくなるような方法を考えたり。
佐藤
お煎餅屋さんと一緒にイベントをしたときは、そのお店に合った本を店内に展示して、そのあと図書館に来てくださったかたにはお煎餅をプレゼントしたり。

——図書館が町の拠点になって、いろんなことが動き出しているんですね。

小林
そうありたいなと思うんですよ。本をお貸しすることはもちろんなんですが、情報の発信が使命だと思っています。情報の拠点として地域に風を通すような。お煎餅屋さんに本を置くことによって仲良くなって、そこからパイプを作る。そのご縁で図書館オリジナルの煎餅も作ったりしたんですよ。
小林
このお煎餅は、読書感想画コンクールの記念品として参加賞で全員にお渡ししました。こんなふうに、地域とコラボしながらお互いが自分のできることで助け合う。

——でも、図書館の外部の人を動かすのって大変ですよね?

小林
ここは、リブネットという会社が指定管理者制度のもと運営しているんですが、図書館でお金を稼ぐことは難しいんです。でも、思いは人を動かすんですよね。お金をかけずともできることもあるんですよ。
例えば、ふだんならお呼びするのに数十万円もかかってしまうような立派な講師の方でも「うちは0円なんです。でも、どうしても先生のお話を聞きたいんです!」っていう熱意を伝えると、「やるよ」って言ってくださる方もちゃんといるんですよね。大事なのは「なくてもできる!」「みんなでつくる!」っていう気持ち。

——「みんなでつくる」には、町の人々にとって、いかに「自分ごと」にできるかというのもとても重要ですね。

小林
そうですね。良いアイデアがあっても、それに自分が加わらなければ「誰かのこと」。だから、参加してもらう形を作ることが大事ですよね。そして、リーダーとしてやっていく人も、一緒にやっている人をコマと考えずに、関わっているそれぞれが素晴らしいものを持っていることを忘れてはいけない。そこをコーディネートしていく力が必要だと思うんですよね。
私は、自分ではできないことがたくさんあるから、周りのみなさんを巻き込んでやってもらうんですけど、「できない」っていうのもなかなか良いものですよ(笑)。そして、自分のできることで一生懸命お返しするんです。
小林
周りを巻き込むには情報発信が大事! いい意味でも、悪い意味でも「自分たちのことなんて、そんなに周りは気にかけていないんだよ」っていうことは常に思っていますね。だから、毎日のように新聞にも話題提供をしています。押し売りにも近いんだけれど(笑)。
そして、チラシやポスターに頼らずに、face to faceでお話をする。「これがおもしろいんだよ!」って。鹿角の人口は約3万人ですが、3万人いたら3万回、同じことを話すんだっていうくらい、しつこく。「またあの人の話が始まる!」って逃げられるくらいやるんです。

——この図書館からは、その熱意がにじみ出ていますね。

小林
やる気のあるスタッフがいてくれますからね。大変なこともたくさんあるけれど、それを楽しいねって思ってくれる人とでないとやっていけませんよね。
佐藤
まずは自分が楽しいのが一番なんですけどね。
小林
仕事も恋愛に似ているところがあって「痘痕あばたもえくぼ」って言うじゃないですか。苦労するし、やめたほうがいいってわかっていたって、好きな方に行く。気持ちが動けば体も動くし、頑張れるんですよね。

なんともアツい花輪図書館でしたが、小林館長は、同じ鹿角市にある「立山文庫継承十和田図書館」の館長も兼任。併せて訪ねてみましたが、こちらも同様、楽しい工夫がいっぱいの場所でした。
鹿角へ来たなら図書館へ! 本と、情報と、パワフルな女性たちが待っています。

【鹿角市立花輪図書館】
〈住所〉鹿角市花輪字八正寺13番地 鹿角市文化の杜交流館コモッセ2F
〈TEL〉0186-23-4471
〈HP〉http://www.kazuno-library.jp/