秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:矢吹史子 写真:高橋希

日本一のいかさま手品師?! ブラボー中谷

2020.05.27

「ラスベガスを拠点に主に秋田で活動する、いかさま手品師」という、なんともユニークな異名を持つ、ブラボー中谷なかやさん。秋田では、テレビ番組やCMなどに頻繁に登場しており、県民ならば知らないという人はいないと言っても過言ではないほど。

そんなブラボーさんのマジックは、秋田弁満載。そして、飛び出す技は、あえてタネがわかってしまうようなものや、上手なのか下手なのか……絶妙なバランスが魅力。そのゆるさが、何とも言えずみんなを楽しませてくれるんです。

海外での大きなショーにも出演するほどの人気ぶりのブラボーさん。世界のマジシャンの一番の憧れの場所である、ハリウッドのマジックキャッスルで披露したマジックをご覧下さい!

このブラボー中谷というマジシャン、いったいどのようにして生まれたのでしょう? ブラボーさんの暮らす美郷町みさとちょう千畑せんはたを訪ねたところ、ふだんの愉快な姿からは知り得ない、大切なエピソードを伺うことができました。

小児病棟の子どもたち

ブラボーさんが営んでいる居酒屋「呑呑どんどん」にて。ここには特設ステージも設けられており、予約制で食事をしながら間近でマジックを見ることができる。
ブラボーさん
ブラボーさん
ちょうど30年前。私が29歳の、まだマジシャンになっていない頃の話です。当時、私は会社勤めをしながら趣味で空手をやっていだんですが、試合中にアゴの骨を複雑骨折してしまったんですよ。

しばらぐ入院するごどになったんですが、私のいる歯科口腔外科病棟の近ぐに小児科病棟があって、その子どもだぢが、私のごどをちょくちょく見に来たんです。

病棟に大人は少ないし、私が運ばれできだどぎに、空手着を真っ赤にして運ばれできたのもあって、珍しがったんでしょうね。
ブラボーさん
ブラボーさん
その子だぢに「どのくらい入院しているの?」って聞いでみだら「何年も」と答えるんですよ。

「こんなに小さいのに、何年も入院してるのがぁ」って驚いで、この子だぢに何がしてあげだいなって思ったどぎに、たまたま、一つか二つマジックがでぎだので、それをやってみせだら、どっかんどっかんウゲぢゃって。

アメ玉か何かを隠すようなマジックだったんですけど、みんなが驚いでくれだごとに、自分でも驚いぢゃって(笑)。
ブラボーさん
ブラボーさん
「すごいおじちゃんがいる!」って、子どもだぢがさらに仲間を引き連れで来るので、消しゴム、鉛筆、スリッパ……全部消してみせだら「おじさん、マジシャンなの?」って聞かれるようになって、弾みで「そうだよ」って言ってしまった。もう、そごがらして「いかさま」ですよね(笑)。

それがらは、カミさんにマジックの本を買ってきてもらって、一夜漬げで練習してやって見せでね。不思議なもんで、本の通りにやればでぎるようになるんですよ(笑)。
ブラボーさん
ブラボーさん
でも、あるどき、いつも来てくれていた子のなかの一人が来なぐなってしまったんですよ。看護師さんに聞いでみだら、その子は亡ぐなっていだんですよ。

ショックでね。入院中は自分の子どもにもながなが会えながったがら、その子だぢを自分の子どものように可愛がっていだしね。

朝まで泣ぎ続げました。そして、明げ方、空が青ぐなってきたころに、「プロマジシャンになろう」って決めだんです。

——マジックで子どもたちを元気づけられたことが大きかったんですね。

ブラボーさん
ブラボーさん
いや、実は、その決心をする前に、子どもだぢに「おじちゃん、だいぶ元気になったね」って言われだんですよ。「始めは見てられなかったよ〜」って、子どもだぢが言うんです。

それを聞いで、気付いだんです。私は子どもだぢを元気づけようと思ってマジックをやっていたつもりだったんだけど、実は子どもだぢが私を元気づげようど見に来てくれであったんだなって。

——相手をしてあげているつもりが、相手をしてもらっていた。

ブラボーさん
ブラボーさん
はい。それで、退院してすぐに会社に行って「会社辞めます。プロマジシャンになります」と宣言をしたんですけど、「何、バカなごど言ってる、真面目に働げ!」って言われで。

よぐ考えでみだら、私は本を見でちょっとやれるようになっていだだげ。鳩を出せるわげでもながったんですよね。

それで、働ぎながら勉強して、場数を踏むために「日本一のいかさま手品師、ブラボー中谷」っていう名刺も作って、地元の老人ホームや幼稚園なんかを訪ねでマジックをやっていぎました。

ハルちゃんの後押し

奥さんでありアシスタントのハルちゃんと、実際に飼っている鳩のよしこ。
ブラボーさん
ブラボーさん
当時、小さい子ども2人がいるなかで、マジックのために衣装を買うわ、鳩、うさぎ、ニワトリ、うなぎ……いろんな動物を飼い始めるわで、家の中は動物園状態。当然、カミさんは怒りますよね。

——……そうですね。

ブラボーさん
ブラボーさん
あんまり困ったもんで、カミさんが、当時放送されでいだ「桂三枝の愛ラブ!爆笑クリニック」という、夫婦の悩み相談をするテレビ番組にハガキを出したんです。そしたらなんと採用されでしまったんですよ!
ブラボーさん
ブラボーさん
二人とも初めで飛行機さ乗って、大阪まで行って、番組に出で……。
三枝(現・桂文枝)さんをはじめ、錚々そうそうたる芸能人を前にマジックをやったら、緊張しすぎで、鳩も遠ぐさ飛んでいってしまったりね……。

でも、三枝さんは「マジックは言葉が通じなくても、訛っていても、海外でもできる。そこへ奥さんも付いて行けばいいじゃないか」って、カミさんを説得してくれだんですよね。

しかも、最後に賞品獲得ゲームでサイコロを振ったら、なんとハワイ旅行が当だって(笑)。初めで海外旅行さも行げました。

——その出演をきっかけに、ブラボー中谷の名前が広く認知されていった?

ブラボーさん
ブラボーさん
そうなんですよ。秋田県内のホテルがら依頼が来るようになって、県外にも呼ばれるようになってきた頃に会社を辞めました。それが33〜34歳ぐらいのどぎ。

「会社を辞めでまでマジシャンになるなら、最高峰を目指そう」と、目標をラスベガスにしたんですよ。

夢のラスベガスへ

ブラボーさん
ブラボーさん
ある年に、ニューヨークでマジックの世界大会があったので、出でみるごどにしたんです。ビデオ審査に受がって、本大会に出られるごどになったんですが、旅費は全部自己負担。なので、家にある車3台をみんな売って、それを資金に行ぐごどにしたんです。
ブラボーさん
ブラボーさん
ところが、本大会を前にして、同時多発テロが起ぎでしまった。日本ではニューヨークへ行ぐのに制限があって、危険だし、行ぐべぎが二人で悩んでいだんです。

でも「オレがマジックを始めだきっかけは何だった? ニューヨーク市民が悲しみに暮れでいるどぎに、元気づげに行がないでなんとする!」って思って、カミさんを説得したんです。
ブラボーさん
ブラボーさん
それで、空席でガラガラの飛行機に乗って二人で行ったら、「日本がらここまでよぐ来てくれだ!」って、喜んでもらえで。

そして、大会には世界的にも技術のあるマジシャンがたくさん出でいる中で、みなさん、私のマジックにどっかんどっかん笑ってくれで。大会中で一番盛り上がったんですよ。

そして「コメディアワード」という賞をいただぐごどがでぎで、これは、大会の100年の歴史のながで、なんと、私を入れで2人しかもらえでいないものだったんですよ。

——そこではどんなマジックをやったんですか?

ブラボーさん
ブラボーさん
イリュージョンです。プロのマジシャンだど、ホワイトタイガーを出して、空中に浮がせだりしますけど、私がやるのはそのパロディ。

カミさんを檻さ入れで「彼女が消えます」と言って布を被せる。布を取るど、消えでるんですが、よぐ見るとトラが1頭いるんです。それは、カミさんがトラの衣装を着たものなんですけれどね。

——はははは!

ブラボーさん
ブラボーさん
そしたら、そごに来ていだラスベガスのプロモーターの方に声をかげられで、ラスベガスで一番大きい大会のメインゲストショーに出演させでもらえるごどになったんですよ!

——え〜〜〜!!

ブラボーさん
ブラボーさん
その後、(冒頭の動画でもご紹介した)ハリウッドのマジックキャッスルでは、7日間、21ステージ出演させでもらいました。
マジックキャッスル出演の際のブラボーさんとハルちゃん

ブラボー中谷が愛される理由

ショーで登場する際にも使用しているという愛馬に乗って。

——「いかさまマジック」が海外でもここまで喜ばれるのはどうしてだと思われますか?

ブラボーさん
ブラボーさん
その場の空気を予想していぐのが得意どいうが。

以前、台湾のショーに出だどぎも、台湾で地震があったどぎで、イリュージョンでカミさんが空中に浮いだ瞬間に「台湾加油(台湾がんばれ)」と書いでる板を見せだんです。

そしたらみんな、バーッと立ち上がって、スタンディングオベーションしてくれだんですよ。

ボストンに行ったどぎも、地元の野球チームにちなんで、赤い靴下を履いで「レッドソックス!」って言ってみだり、名物のロブスターを出して見せだり。

——そういう、どこか手作りのような温かさが愛されるんでしょうね! ブラボーさんは「上手くならないように気をつけている」と聞いたことがあります。

ブラボーさん
ブラボーさん
はい。誰でも長年やっていると上手ぐなってしまうんです。そうならないように、いづまでも素人臭さが抜げないように、血のにじむような努力をしています(笑)。

——ははは!

ブラボーさん
ブラボーさん
「日本一のいかさま」を維持するためには、こなれちゃダメなわげですよ。トランプを切っているどぎは必ずバラっと落どすし(笑)。お客さんがらは「自分のほうが上手い」って言われるしな。そうすると油断させることができる。

——方言をしっかり出しているところなんかも、親近感が湧きますよね。

ブラボーさん
ブラボーさん
マジックに言葉は関係ないですからね。ずっと住まいは千畑だけど、訛っていだって、英語が喋れなくたって、それでもラスベガスまでも行げるわげじゃないですか。そういうのを見せで行ぎたいんですよね。

でも、田舎を出でみなければわがらねぇごどもある。千畑がら出だごどで、こごの良い所がわがるんですよ。

——例えば、どんなところが?

ブラボーさん
ブラボーさん
やっぱり、落ぢ着げるっていうどごろがなあ。

東京さ行って、ショーを終えでホテルさ戻っても「終わりました、ご苦労さん」っていう気持ちにはなれない。
こごまで帰ってきて、やっと「ご苦労さん」って思える。奥羽山脈が待ち受げでくれるんですよね。
ブラボーさんの暮らす千畑には、見事な杉林も立ち並ぶ。

——ラスベガスと千畑、すごい振り幅ですね。

ブラボーさん
ブラボーさん
この振り幅、楽しんでいますよ〜。ラスベガスのステージに立ってがらすぐに、地元の祭りで軽トラックの荷台をステージにしてマジックしてますからね。

——当初の目標であった、ラスベガスでの出演も叶った今、次の目標はあるものでしょうか?

ブラボーさん
ブラボーさん
今は、日本、秋田県内、千畑……もっと身近に楽しんでもらえるようにしていぎたいですね。

——ふだんはここ、「呑呑」でもマジックを見ることができるんですよね。

ブラボーさん
ブラボーさん
公演でいないごども多いので、予約いただげれば。でも、これからはこっちに重点を置ごうがども思っています。遠くへ出歩かずに、見たい人が見れるようにね。

そして、今はコロナの影響で人前に出られない。なので、ものすごく苦手なんだけれども、TwitterどがYouTubeでもクスリと笑ってもらえるようなごどを自分なりに発信していぐようにしています。

私のマジックを見るごどで、落ち込んでいだ人も「あ〜おもしろがったな、元気出だな」と気分転換になってもらえるようにね。

【ブラボー中谷さん】
〈HP〉http://www.obako.or.jp/bravo/