秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:矢吹史子 写真:船橋陽馬

他人ごとから、自分ごとへ。「のしろ家守舎」がシャッター街を動かす!

2020.12.23

「商店街がシャッター通りになった」「子どもたちの遊び場がなくなった」「母親世代の集まる場所がない」。
これらは、全国の多くの地域でも挙げられている課題であり、秋田県能代市のしろしも同様。JR能代駅前は、畠町、上町、万町と、古くから商店が軒を連ねていましたが、最近では、その多くがシャッターが閉まった状態。

そんななか、これらの課題に向き合おうと、ある会社が生まれました。「合同会社のしろ家守舎やもりしゃ」。この会社で、かつて酒屋だった「丸彦商店」の建物をリノベーションし、地域の拠点を作っていくとのこと。創設メンバーの一人、湊哲一みなとのりかずさんにお話を伺いました。

シャッターが開く。

湊哲一さん。地元能代市で「ミナトファニチャー」という注文家具の工房を営みながら、「木都」と呼ばれきた能代の木材文化向上の取り組みにも幅広く関わっている。
湊さん
湊さん
1階が「こどもの遊び場」やカフェ、2階がオフィス(コワーキングスペース)、地下1階には「DIYのがっこう」というものを作る予定です。
湊さん
湊さん
1階では子どもたちがわいわい遊んでいる。その様子を、親世代は窓越しに見ながらカフェで過ごすことができるようにします。地元で活動している子育てサークルも、これまで拠点がなかったんですが、ここでワークショップをやっていこうと考えています。
現在の1階。ここが子どもの遊び場に変わる。
画像提供:納谷建築設計事務所
湊さん
湊さん
地下にもすぐ行けるようになっていて、子どもはそこで木に触れることができて、それを1階に持ってきて遊んだりもできる。大人はDIYを学んで、低コストでお店を作るスキルを身につけて、ほかの空き店舗の改修に活かせるようにしていく。

——なんだか、ものすごく理にかなっていますね!完成はいつごろなんでしょうか?

湊さん
湊さん
全ての階を一気にはオープンできないんですが、2階部分は2021年3月には完成予定です。オフィスは6部屋作るんですが、現在、5部屋の入居が決まっている状況です。

——どんな方が入居されるんですか?

湊さん
湊さん
今決まっているのは、工務店、デザイン会社、英会話スクール、地域おこし協力隊の事務所、介護をやっている会社の事務所などですね。

——お子さんのいる利用者には、遊び場もあるので安心ですね。

湊さん
湊さん
入居が決まっている方のお子さんがすぐ近くの小学校に通っているんですけれど、家までは歩いて帰れない距離なので、学校が終わったらここにきて遊んでいてもらって、仕事が終わったらみんなで帰る、みたいにできるんですよね。

うちらの世代で変えていかなきゃ!

——この「のしろ家守舎」は、ずいぶん前から計画して生まれたものなんでしょうか?

湊さん
湊さん
この会社を一緒に立ち上げたのは、僕と、この近くで店を構えている仏壇店を営む阿部誠さん、飲食店を営む田中秀範さん、住宅建設業を営む鈴木隆宏さんの4人なんですけれど、県の事業である「動き出す商店街プロジェクト」というものに一緒に参加していたメンバーなんですよ。
「動き出す商店街プロジェクト」のプレゼン資料。このプロジェクトでは、空き店舗と起業者をマッチングし、地域の活性化を図る。全国で地域活性化事業を手がけてきた講師から、起業プランのブラッシュアップや、開業に向けた取り組みなど、具体的なアドバイスをもらうことができた。
湊さん
湊さん
まずは一つ拠点を作って、そこから町全体を盛り上げていこうというようなプロジェクトなんですが、能代市がそのモデル地域となっていて。

僕は、初めはこのプロジェクトの運営の方に誘われて「なんとなく参加した」という感じだったんです。メンバーともはじめは顔見知り程度の関係で。
でも、このプロジェクトに関わるうちに、向いている方向がみんな一緒だっていうことがわかったんですよね。

——「向いている方向」というのは?

湊さん
湊さん
「町のなかに子どもたちの遊び場がない」「それ以前に、町に人がいない」「シャッター通りになってるよね」「郊外型になってるけど、やっぱり中心地を盛り上げなきゃね」「だったら、うちらの世代で変えていかなきゃ!」って。

——みなさん同世代だったんですか?

湊さん
湊さん
はい。みんな40代で、それぞれ1歳差で。会社を立ち上げたのは今年8月ですが、プロジェクトの講座に参加していた去年の夏から、少しずつ動き出していましたね。

——「こうしたい」という思いがあっても一人ではなかなか動き出せないし、どうやって仲間を集めていったらいいかもわからないですよね。思いを同じくした仲間が揃ったというのは恵まれていますね。

湊さん
湊さん
メンバーそれぞれ、他の団体にも所属しているんですが、そこではずっとモヤモヤしていたみたいなんですよ。「何かやりたいけど、何もできない」って。
でも、これまで聞いた講師の人たちの話を整理していったら「これって、そこまでリスクなくできるんじゃない?」ってなったんです。

ここで、湊さんと一緒にのしろ家守舎を立ち上げた一人、「お仏壇の千栄堂」代表、阿部誠さんがいらっしゃいました。

阿部さん
阿部さん
商店街自体は元気がなくなってきてはいるんですけれど、それでも、商店主たちはなんとか気を吐いてがんばっているんですよね。みんな付き合ってみるとそれぞれ面白い人ばかりだし、良い商品を扱ってもいて、この町をなんとかしたい気持ちはみんなずっと持っていて、これまでも商店街としてはいろいろやってきてはいたんです。
湊さん
湊さん
みんな「商工会での勉強会はたくさんやってきたけど、これまでとは手法や攻め方が違う」って言いますよね。

——商工会ではどんなことを学んできたんですか?

阿部さん
阿部さん
マナー講座や税制、効果的な広告の打ち方など、主に経営や売り上げアップの勉強ですよね。

——これまでは、どちらかというと個店としての勉強だったのかもしれませんね。それはもちろん大事ですけれど、町全体の課題をどう解決していくか、というのは根底からやり方を変えないといけない。

阿部さん
阿部さん
本当に、根底から変わりました。実際、町を変えていくなら自分でリスクをとってちゃんと動かないといけないっていうことを、今回のこの動きの中から教わりましたね。

——それで会社を作るにまで至ったのですから、意気込みを感じざるを得ません。

湊さん
湊さん
みんなすごく勉強するようになりましたよね。他のセミナーに参加したりもして。
阿部さん
阿部さん
今まで商店街は「助けを求めていた」。そんな感じがします。本来は、自分たちが動かないといけなかったんだろうし、分かってもいたんだろうけれど、本当に「誰かなんとかして!」という感じだったと思うんですよね。

——もともとみなさんに、動きたいというエネルギーは十分にあったのだから、動き方のヒントさえもらえたら「あとは力を注ぐぞ!」というふうになって、今、形になってきているのかもしれませんね。
あらためて、のしろ家守舎の目指すところというのは、どういうものなんでしょう?

湊さん
湊さん
まず、「このあたりの店のシャッターを全部開けるぞ!」というのと「子どもたち、大人たちの居場所をつくる」というのが大前提にあって。
このままでは、子どもたちがなんの思い入れもないまま県外に出てしまうことになってしまいそうじゃないですか。でも、能代のことを好きになってくれれば、県外に出てもまた帰ってこようかなっていう気持ちにもなるだろうし。それは、どこの地域にも当たり前に必要なんだろうけれど、そういうのをうちらがやらないと。

他人ごとから自分ごとへ

湊さん
湊さん
この前も、ここでイベントをやったら、すごくたくさんの人が町を歩いていたんですね。それを少しでも日常に近づけたいなって思っていて。
拠点ができたら、小さいイベントやマルシェをやったりして、そういうのを見せながら、まだ、「他人ごと」として見ている人たちを、いかに輪の中に入れていくかっていうことが今後の課題ですね。
訪ねた日は、週末に控えた「マルヒコバザー」の準備中。酒屋の倉庫にあった膨大な数の物品を格安で提供しながら、この場所の動きを伝えていくということをたびたび開催している。

——何か新しいことを始めると「気になるけど入れない」とか「ちょっと斜めから見てしまう」という人もいますよね。

湊さん
湊さん
「気にしてはいるよな」っていう感じはあるので、こういうことをひたすらやっていって「みんなで盛り上げていこうよ」と。自分たちだけでは盛り上げられないから。
阿部さんも言っていたけど、この町にはずっとがんばってきた人たちもいるので、その動きを加速させるというのが、家守舎の仕事だなって思いますね。

——講義やセミナーでヒントを得ながらも、実際に動かしていくのはそこに暮らしている人たちの力なんですよね。ここには「なんとかしなきゃ」と、自分たちの力で踏み出した方々がいるのが素晴らしいですね。

湊さん
湊さん
定期的にイベントをやっていたら、ママさん世代も関わってくれるようになって、ちょっとした小商いをしてくれるようになって。小物を作って販売している人なんかもいて、これからはそういう人たちに一部を任せていこうかなと思っています。

——関わりの場ができれば、この場所が自分ごとになっていきますからね。今日伺ってみて、関わっているみなさんが、なんだかとてもワクワクしている感じが見ていて伝わります。

湊さん
湊さん
ここができることになってから、すぐ近くにウェブの会社が引っ越してきたり、ヨガのスタジオができたり、これから、ジーンズの工房ができたりもするんですよ。

——それは、ここありきで集まってきたんでしょうか?

湊さん
湊さん
タイミングが一緒だったというのはありますけど、そうなっていったら嬉しいですよね。
これまでのセミナーで、講師から勉強させてもらって、町の人たちが自分から動くという流れが自然にできていたのも大きいと思いますね。これからは、学んできたことを、家守舎として担っていって、町のなかで動ける人をどんどん増やしていきたいですね。

【のしろ家守舎】
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