秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集、文:矢吹史子 写真:高橋希

秋田の女性たちが編み成すカタチ。
ニットブランド「yourwear」

2019.03.06

yourwearユアウェア」は、佐藤孔代みちよさんによるニットブランド。東京のアパレル会社勤務を経て独立し、2010年にyourwearを立ち上げた佐藤さん。5年ほど前からは、地元の大館市おおだてし岩瀬いわせに拠点を移して活動しています。その仕事場に伺いました。

yourwearのニット

商品はほとんどが定番のもの。ニットキャップ、マフラー、ストール、ミトンなどの小物が中心。実店舗は持たず、全国の販売店への卸販売を中心としている。

——ここでの制作はどのように行われているんですか?

佐藤さん
サンプルを私が作って、量産していく部分は地元に暮らす方々を中心とした「編み子さん」にお願いしています。 手編みのものはそれぞれの自宅で編んでもらったり、この仕事場には「家庭機」と呼ばれる編み機があるので、ものによってはここで作業してもらって、家庭機では作れない大きさのものは専門の工場へ依頼しています。
佐藤さん
ニットは、編まれた後の仕上げが大事なんです。洗濯をしたり、アイロンをかけて糸に空気を含ませたり、ネームタグをつけたり。それらの作業もこちらで行います。
佐藤さん
洗濯や乾燥の仕方で仕上がりが大きく変わります。水洗いできるものはここでするんですが、難しいものは地元のクリーニング屋さんにお願いしています。「これはタンブラー乾燥でちょっと縮ませて」とか「これはクリーニング屋さんにお願いするけれど、あえて水洗いで」とか、細かな要望にも応えてもらっています。
右が洗ってアイロンをかけたもの、左が洗い前のもの。仕上げで風合いにこれだけの違いが。

yourwearだからできること

佐藤さん
勤めていた東京のアパレル会社は大きなメーカーだったので、製造ではなく、海外の工場に出す仕様書をまとめたり、糸を選んだり、というニットの企画の部分を担当していました。
そこでは主に働く若い女性向けのデザインを手掛けていたのですが、自分はカジュアルでメンズライクなデザインが好みだったので、正直自分の方向性との違和感を持ちながら仕事をしていました。
だから自分のブランドは、女性でも男性でも、若い方でも年配の方でも、分け隔てなく使えて、幅広い方に「あ、これだ!」と感じていただけるものにしたい。そういう思いから「yourwear」と付けました。
佐藤さん
アパレル会社って、大きな工場へ発注することが多いので製造ロットも大きくなってしまうんですが、うちは自分たちで編んでいるので「2、3個だけ足りない」というような状況にも対応できるんですよね。
それに、会社員時代は毎年同じ物を作るということはほとんどなかったんですが、今は商品のほとんどが定番のものなので、今年在庫を残してしまっても来年同じものを売ることができるし、お店側にも年をまたいで持っていてもらうことができる。お客さんも、その年に欲しいものが全て買えるわけじゃないので、少しずつ揃えていってもらえるんですよね。

——作る側、売る側、買う側、みんなにストレスのないやり方になっているんですね。ファッションの世界は、安価なものが多くなって、ものすごいスピードで移り変わっていく印象ですが、yourwearはそれとは逆行しているように見えます。

佐藤さん
最近は、洋服を「ファッション」ではなく「プロダクト」という感覚で買われる方が増えているようにも感じます。手に取る方によっては、うちの商品を、いわゆるファッションビルで買えるものとは「同じ衣類だけど違うもの」として捉えられているかもしれません。
佐藤さん
同じようなものが世の中にいっぱいあるからどれを選んでいいかわかならなくなってしまう。なので、それが作られた背景だとか、買った後にも修理ができるとか、そのあたりをみて選んでいただけているかもしれませんね。
yourwearの商品は、修理メンテナンスも可能。同じ糸、同じ形の定番商品を基本としているからこそできること。
佐藤さん
おかげさまで、今、関東にいた頃より仕事が増えています。「秋田に来たらどうなるかな? 仕事がなくなってしまうんじゃないか? 」と思っていたし、もうちょっとゆっくりするつもりだったんですが、逆にできていないんですよね(笑)。

編み子さん

——秋田では、何をするにも人材が足りないということに行き着いてしまいがちですが、編み子さんたちとは、どんなふうに出会ったんでしょうか?

佐藤さん
人はいないですよね、実際。でも作らなきゃいけないし……。なので、「できることでいいからやってください!」という気持ちで探しました。
佐藤さん
今は、お向かいの家の方とか、大館市内の方とか、5名ほどにお願いしているんですが、農協や道の駅で売っている編み物のアクリルタワシなんかを見つけては「この方を紹介してもらえませんか?」と探しまわったこともありました。でも、どこもさすがに個人情報は教えてくれなくて……。結局、地元の親戚で編み物をしている方から、だんだんと繫がっていって今に至ります。
「この帽子はこの方」というように、編む商品ごとに担当が決まっていて、編み図はそれぞれの方の名前で分類されている。編み子さんのほとんどが60歳以上。
佐藤さん
同じ方が同じ物を作っていても、手作業なのでどうしてもその時の気持ちや体調によってサイズなどにバラつきが出てしまうことがあります。なので、最後は私の方で細かい検品をしてその都度修正しています。
左右の模様が異なるミトンは、70代の松岡さんによる手編み。家で淡々と編む作業がお好きな方とのこと。

——yourwearというブランドを通じて、それぞれに「編み子」という役割ができたことは大きな刺激になっているかもしれませんね。一緒に制作をするなかで、逆に佐藤さんが編み子さんたちから学んだことはありますか?

佐藤さん
年配の方々とお仕事をするようになって「身体の衰えとともにできることが限られてくる」という現実を考えさせられるようになったことは大きいですね。
仕事場の片隅に見つけた甥っ子さんによる絵。佐藤さんは、仕事場を兼ねたご自宅に、ご主人と、2匹の猫「タケ」「ノコ」とともに暮らしている。
佐藤さん
「歳を取ってもできることがある」とわかったのと同時に、目が見えづらくなってきたり働ける時間が限られるようになったりという「物理的にできなくなってしまうこと」が具体的になったことで「私自身も歳を取ってもできる仕事を今から作っていかなくちゃ」と考えるようになりました。

これは、同世代の方とばかり仕事していた時はあまり考えなかったことです。
私も60歳を過ぎたら、企画や営業は若い人に任せて編み子さんになる予定でいます(笑)。
佐藤さん
そのためにも、今、企画や営業の部分を一緒にやってくれるような若い方を探しているんです。ひと通り仕事の流れを次の世代に今のうちに伝えていきたくて。

——「ニット作家」であれば、自分の手で作りたい、自分が作れる量を作っていく、という方も多いと思うんですが、yourwearはあくまで「ブランド」として繫いでいく思いが強いんですね。

佐藤さん
そうですね。「自分がやりたい」ということよりも先に「お客さんがいる」ということなので、やりたいという方がいればほかの方にやってもらってもいいかなという思いはありますね。
佐藤さん
大事なのは、これまでと同じような品質できちんと作れるようにしておく、ということなので。でも、見つからないんですよね……。

なので、引き続きご注文をいただけるように、まだまだ自分で外に出て行かなくちゃいけませんね。

【yourwear】
〈HP〉 http://yourwear.jp/

2019年4月9日(火)〜4月12日(金) 東京都内にて展示会を予定。DMご希望の方はメールにて送付先ご住所をお知らせ下さい。〈mail〉 sato@yourwear.jp