秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:矢吹史子 写真:高橋希

大館市民イチオシの銘菓、
煉屋ねりやバナナを買いに。

2019.03.27

なんも大学では、秋田を取材するなかで出会った方々に、その土地のおすすめのモノ、場所、人などを聞いています。今回の大館おおだて市の旅でも「おすすめのお菓子」をみなさんに聞いてみたのですが、そこで口々に挙がったのが「煉屋ねりやバナナ」。

秋田県民ならばきっと「ああ!あれね!」となるこの煉屋バナナ。大館で長く愛されているお菓子なんです。
いったいどんなお菓子だと思いますか? 早速、買いに行ってみましょう!

JR東大館駅から車で約2分。ありました、「煉屋バナナ」の看板!噂のお菓子はここ、「煉屋菓子舗」で作られています。
店内に入ると、ありました! 煉屋バナナの箱。
店頭には、個包装のものも並びます。小ぶりなサイズの「ミニバナナ」もあるようです。
どんなお菓子なのでしょう?! 開けてみます。
ジャン! そう、煉屋バナナとは、最中なんです。

ここからは、この煉屋バナナを食べながら、煉屋菓子舗の松本美千子まつもとみちこさんにお話を伺っていきます。

——袋を開けた瞬間からバナナの香りがしっかりしますね!

美千子さん
最中でここまで香りがあるお菓子は珍しいかもしれませんね。

——いただきます!……ん!? 口に入れると、そこまでバナナの香りは強くないんですね。ふわっと漂う感じで、餡がまろやか!

美千子さん
白餡にバナナの香料が入っているんです。最中なので、唇に結構くっついてしまいますが(笑)。最中の皮とバナナのフレーバーがとてもよく合うんです。
この日が「煉屋バナナ初体験」という編集部・成田も、一口食べるとニンマリ。笑顔がこぼれます。

——そもそも、なぜバナナを使おうと?

美千子さん
当店は、いまの社長の祖父が昭和2年に創業したんですが、この商品もその当時からあるんですよ。そのころはバナナが高価だったんですよね。それをお菓子にして、広くみなさんに楽しんでいただこうと。
包装紙は、今の社長の父がデザインしたもの。「この絵柄がトレードマークのようにもなっているんですよ」とのこと。

——ということは、もう90年以上も親しまれているんですね。

美千子さん
はい。でも、この「香り」が一度危機に陥ったことがあって……。このバナナフレーバーが製造中止になるかもしれないという話があったんです。それは困るということで、イギリスにあるこのフレーバーの製造元に掛け合ったところ、「次に作る分を全量引き取ってくれるなら作れる」ということになって。なんとか危機を乗り越えられました。

——ということは、このフレーバーには限りがあるということですか?

美千子さん
そうですね。ただ、フレーバーってそんなにたくさんの量は使わないんです。なので、まだしばらくは大丈夫です。別の香りを試してみたりもしましたが、やっぱりどれもしっくりこなくて。やっぱりこれでないとダメなんです。

——変わらぬ味だからこそ、こんなにも愛されているんですね。

美千子さん
ありがとうございます。久々に食べて懐かしんでくださる方もいます。最近は、お客様から「冷凍にして食べるとおいしい」と頻繁に聞くので、試しにやってみたらおいしくて! あまりカチコチにならずに、固めたバニラクリームのような食感が癖になるんですよ。

地元のみなさんのオススメのナンバーワンは「煉屋バナナ」でしたが、じつは「煉屋に行ったら絶対にアレも食べてみて!」と一緒に薦められたのが「おばこ餅」。こちらもいただいてみましょう。

——……んん?! ザックザク!! 揚げてあるからかな? この食感、たまりませんね!

美千子さん
ふふふ。「食べた人の一口目のリアクションが見たい」とおっしゃって、お土産や差し入れに買われる方が多いんですよ。

——この食感と甘辛い味付け、最高です! みなさんがハマるのがわかります。

美千子さん
甘味噌ダレなんです。合うでしょう? みなさん、何度もリピートしてくださいますね。やっぱり揚げたてが最高です。時間が経つと、だんだんと柔らかくなっていくんですよ。

——「おばこ餅」という名前はどこから?

美千子さん
なんとなく、秋田らしさを出したくて。「おばこ」は秋田弁で“若い娘さん”っていう意味なんですよね。

——これ、お土産に買って帰ろうかな……。

(すると、残っていたおばこ餅がショーケースから引き上げられていく)

美千子さん
すみません、今、ちょうど残っている分の電話注文が入りました。なので、今日は売り切れですね。

——そうでしたか……残念!

美千子さん
ごめんなさいね。まとめ買いされる方が多いのでね。最近はSNSで発信してくださるお客さんも増えて、秋田市や青森方面からも来てくださるんです。予約もできるので、どうしてもという時は事前に連絡ください。
美千子さん
おかげさまで煉屋バナナもおばこ餅も大変好評なんですが、昔ながらの大館のお菓子というのもありまして、「明がらす」ってご存知ですか?

——これはどういうお菓子なんですか?

美千子さん
原料は単純で、お砂糖とくるみと寒天だけ。ちょっと珍しいかもしれません。どうぞ、召し上がってみてください。

——いただきます……ああ!

美千子さん
甘いでしょう? その甘さが特徴なんです。

——それに不思議な食感ですね。トロリと溶けるような。くるみの香ばしさも効いてる!

美千子さん
これが明治の頃から続くものです。お茶席の先生方に使っていただくことが多いですね。

—— “だての” 明がらすと書いてありますが、これは「大館」という意味なんですか?

美千子さん
はい。じつは岩手の遠野にも、「明がらす」というお菓子があって、それにもくるみが入っているんですが、もう少し黄みを帯びていてお餅っぽいものです。
大館のものには、お餅は一切入っていないんですが、「これを大館のお菓子としよう」ということで、大館市内のお菓子屋さんでレシピを共有して作り始めて、町を盛り上げていったそうです。
明けがらすとともに、古くから大館で親しまれているという「すまし餅」。こちらは、餅の上にくるみを乗せたもの。
美千子さん
それから、最近は、秋田犬の形の「もろこし」も人気ですよ。大館といえば、秋田犬発祥の地ですからね! お土産にもぴったりですよ!
「もろこし」とは、小豆粉と砂糖を合わせて作った秋田銘菓。「もろこし」についてはこちらの記事もご覧下さい。

夢中になっていろいろと食べてしまいましたが、どれも大館ならではのもの、そしてなんだか懐かしい気持ちになるものばかり。旅の途中に、お土産に、煉屋菓子舗に立ち寄ってみてはいかがでしょう?

【煉屋菓子舗】
〈住所〉大館市泉町4-3
〈TEL〉0186-42-2405
〈HP〉http://www.neriyakashiho.com/