秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:矢吹史子 写真:高橋希

買い物のその先へ。地域のハブ「スーパーモールラッキー」

2021.02.03

横手市十文字町にある「スーパーモールラッキー」。生鮮食品、お惣菜はもちろん、日用品、DIY用品、家電、衣類、おもちゃ、本……ここで手に入らないものはないと言っても過言ではないほど、充実した品揃えの総合スーパーです。店内は、老若男女問わず、常に賑わいをみせています。

食品スーパーは安定の品揃え。
セレクトマーケットのコーナーには、県の特産品や国内外のこだわり商品が並ぶ。オーガニック、マクロビ商品やお酒も充実。Instagramでの熱のこもった商品解説も人気。
レトルトカレーだけでもこの充実ぶり。カフェスペースでは、プラス50円でごはんを付けてあたためてもらって、その場で食べることができる。
雪寄せグッズは、雪国ならではの豊富さ!
DIYコーナーには、スタッフが手作りしたツリーハウスが!ガーデニング好きにはたまらない園芸雑貨も多数並ぶ。
上級者も唸る品揃えのアウトドアコーナーは、30年以上前から力を入れており「県南のアウトドア文化はマルシメが作った」とも言われるほど。
高級ブランド品もずらり。
カーピットもあり、買い物をしながら車両点検やオイル交換などもできてしまう。

このような充実ぶりのラッキーですが、じつはここには、買い物を楽しむだけではない魅力があるんです。
それは、会社として、地域貢献に力を入れているということ。今回、様々な事例を伺うなかで、これからの地域と企業の理想的な関わり方の実践がなされている様子が見えてきました。

ラッキーを運営されている、株式会社マルシメ経営企画室の奥ちひろさんにお話を伺っていきます。

※撮影のため奥さんにはマスクを外していただいておりますが、取材時はマスクを着用しウイルス感染対策を行っております。

お買い物バスを運行!?

——店舗の入り口で見かけて驚いたんですが、お買い物バスがあるんですね!

奥さん
奥さん
はい。現在14路線ありまして、横手市内を中心に、隣の湯沢市や東成瀬村への運行もあります。土日はご家族が送迎されるというお客様が多いので、平日のみ、週5日間の運行となっています。

——これは無料で運行しているんですか?

奥さん
奥さん
はい。「ラッキー・マルシメカード」という会員カードを持っている方であれば、どなたでも無料で乗ることができるようになっています。

——自社でバスを運行させるというのは、なかなか大変なことですよね。このような取り組みをしようと思われたきっかけはどういうものだったんでしょう?

奥さん
奥さん
社長が毎日店内を巡回するんですが、その際に、ご高齢の方がご近所さんと声を掛け合って、1台の自家用車にぎゅうぎゅうに乗り込んで来店するのを目撃したそうなんです。

——確かに、高齢の方、とくに女性は運転免許を持っていない方も多いですし、冬場はとても雪深い地域なので、ここまで運転してくるというのもハードルが高いですよね。

奥さん
奥さん
はい。それを見たときに、「買い物に行きたくても行けない人が多いんじゃないか?」と感じたことから、2011年の冬に3カ月間、試験的に3路線の運行を始めました。その期間が終わるときに、お客様から「どうしても続けてほしい」という声があったんですね。それを受けて、続けていくことになったんです。
訪ねたこの日も、大勢の方が買い物して、帰りのバスに乗り込んでいた。「今日は背負ったままバスから降りられないぐらいたくさん買った」「もっと前からバスがあればよかった」という声も。

お買い物バス担当の柴田さん

バスで来て、自由にお買い物ができることはもちろんなんですが、バスの中で友だちと話をするのが楽しいという声も聞きますね。バスが一つのコミュニティになっているんですよね。
買い物は早々に終えて、バスの仲間とフードコートでおしゃべりするのを楽しみにしているという方も多いんですよ。

それから、横手市増田町の狙半内さるはんない地域では、バスが一台通ると車がすれ違うことが難しい場所もあるので、狙半内共助運営体さんにも協力いただいて、対向車が来ないように交通整理してもらいながら運行したりしているんですよ。

チラシに他店舗の広告??

——こちらのチラシに、近隣の店の情報が載っているのを見ました。しかも、チラシの半分以上の面積を割いた大きな扱い。これはどういうことなんでしょう?

奥さん
奥さん
マルシメには「地域が元気でなければ、会社も元気にならない」という思いがあります。
新型コロナウイルスの影響で、ホテルや飲食店が打撃を受けているなかで、近隣の店舗の情報をチラシに掲載することで、その店舗を応援するのと同時に、その商品の一部をお取り扱いして、販路を広げる応援をさせていただいています。
奥さん
奥さん
おかげでこちらの売り場にも活気が出ましたし、お客様のなかには、外食がしたくても今は出づらいという方もいますので、みんなにとっていい効果になったと思います。
地域の店舗の商品が並ぶのを楽しみにしている方も少なくない。品揃えが豊富になる昼時には、コーナーに人だかりができるほど!

——ここで食べる機会ができることで、実際の店舗にも行ってみたいという気持ちになりますよね。

奥さん
奥さん
他店の商品を置くことで、自社の惣菜や飲食に関わる部門も、そこから学んでさらにいいものを提供しようという気持ちになったら良いなと思っています。みんなで高め合えたらいいですよね。

ファーマーズマーケット

——店内には「ファーマーズマーケット」というコーナーがありますね。これはほかの売り場とどう違うんでしょうか?

奥さん
奥さん
ここでは、地元の生産者さんによる果樹や野菜、お惣菜などを扱っています。会員になっていただいた方に場所を提供しておりまして、値段設定と陳列はご自身でしていただいています。
奥さん
奥さん
最大の特徴としては、仲卸しを入れず、生産者さんと店舗がダイレクトに繋がっていることです。それによって、生産者さんがより収益を得られるようにして、農業・加工業を続けて頂けるように応援したいと思っています。お客様にとっても、新鮮なものをお安くお買い求めいただけるので、とても喜ばれています。

ファーマーズマーケット担当の佐々木さん

現在、約400の生産者さんが会員になっています。ここでは、生産者さんがお客様や店頭スタッフと、商品の話や世間話をしながらコミュニケーションをとっているんですよね。 ただ商品を並べるだけでなく、この場があってこその交流が生まれて、その交流が生きがいになっているという方もいるようです。

お客様サポート事業

奥さん
奥さん
「お困りごと相談」のしくみも、自社のことながら、素晴らしい取り組みだなと思っています。

——お困りごと相談?

奥さん
奥さん
お買い物をしていただくだけではなく、日常生活でのお困りごとをマルシメが持つ資源を活かしてサポートしていこうという取り組みです。

マルシメが窓口となってお困りごとを受け付けているんですが、例えば、地域の方が「網戸交換をしてけれ」と相談をしてきたとします。そのときに、その交換を弊社としてやるだけではなく、提携している地域の事業者さんにもお願いしているんです。地域で支え合っていこうと考えているんですね。

——へ〜〜!

奥さん
奥さん
電気機器にまつわることも、最近は量販店に行ってしまいがちですが、地域には古くからの電気屋さんがあります。みんなが量販店に行ってしまうと、地元の企業の仕事が少なくなってしまうという問題もありますよね。なので、できるだけ、仕事を地元でまわしていこうという思いがあるんですね。

お客様サポート事業担当の遠藤さん

——どのくらいの件数の相談が来るんですか?

遠藤さん
遠藤さん
波はありますが、月に20件くらいですかね。

——そんなに! 冬場は大変そうですね。

遠藤さん
遠藤さん
雪囲いから始まって、冬は屋根の雪下ろしの依頼が多いですね。雪が溶けてからは草刈り。草刈りについては、依頼できる業者さんがいないので、私が直接行ってやっています。昨日も雪下ろしをしてきました。

——ご自身で!? 

遠藤さん
遠藤さん
私は以前、ハウスクリーニングの会社で働いていたので、その経験や人脈も活かすことができています。

——なるほど〜。でも、秋田県全体が高齢化しているので、消費者としては、こういったサービスがあるのは嬉しいですよね。

遠藤さん
遠藤さん
はい。ただ、数年後には業者さんもご高齢になって、もう後継ぎがいないというところも多々あるんですよね。

——担い手を作っていけるのかというのも、とても大きな課題になってくるんですね。要望はどんどん増えてくるでしょうし……。

遠藤さん
遠藤さん
今の仕事に充実感はありますけれど、問題は尽きないし、やっていってみないとわからないこともたくさんあるんですよね。

地域のハブとなるスーパーに

——さまざまな事例を伺いましたが、マルシメさんは「買い物をする場」ということを軸としながら、周辺の消費者、生産者、事業者、個店を支え合うような取り組みをされているんですね。

奥さん
奥さん
はい。ここに来れば楽しいし、なんでも解決するというような、ハブの役割を果たせたらいいなと。マルシメは、地域コミュニティの中心になりたいという思いがあるんですね。

——こういった取り組みに至ったのには、どういう思いがあるのでしょう?

奥さん
奥さん
社長もよく語るところなのですが、やはり、これまで地域に支えられて経営できてきたという感謝の思いと、このままでは人口が減少して地域に元気がなくなってしまうことへの危機感があります。

そこで、弊社では「これまでも、これからも、消費者、生産者、従業員のための生活を応援します」という経営理念と、取り組み方針に基づいた事業展開を行っています。
  • 1.
    少子高齢化や人口減少がトップクラスで進み、
    課題が山積している秋田県の中で、
    住民が快適な生活を維持できるよう応援していきます。
  • 2.
    人口減少や生活スタイルの変化により
    ますます困難になることが予測される
    住民同士の出会いやふれあいの場を創造し、
    それぞれの豊かな暮らしを応援していきます。
  • 3.
    田舎の価値を見つめなおし、
    暮らしの豊かさを地域内外へ発信、提案することで、
    地域の文化を守り、
    持続可能な地域社会の形成に貢献します。
  • 4.
    個人のチャレンジを応援することで、
    地域や人生に対して諦めではなく、
    挑戦できる風土の醸成に寄与します。
奥さん
奥さん
1つ目に「快適な生活を維持できるように応援していきます」というものがありますが、快適な生活を維持するために、買い物は必要です。でも、最近は買い物だけではそれが難しくなってきています。

そのときに、私たちが持っているツールで何ができるだろうと考えたとき、弊社には車両があるし、いろいろなスキルを持った従業員もいる。そこから、バスの運行やお客様サポート事業のように、こちらから出向いてお手伝いさせていただくことに繋がっていったんですね。
奥さん
奥さん
それから、2つ目に「住民同士の出会い、触れ合いの場を作りたい」というものがあります。これについては、例えば、店内のカフェのスペースを広く設けて、地域の方が自由に使えるようにもしているんですよ。 ここで、ご高齢の方たちが将棋をしている姿をよく見かけます。

——私も以前来たときに、お見かけしました!

奥さん
奥さん
みなさん「出勤する」といいながら集まっているそうです(笑)。それから、今はコロナの影響でなかなかできないんですが、このスペースで「ラッキーサークル」と銘打って、地域のサークルなどがご利用いただけるようにしたり、週末にはワークショップやイベントを行ったりもしているんですよ。

——どこか、公民館のような機能もあるんですね。この場所があることが、心のよりどころになっている方も少なくない印象です。
方針の4つ目にある「地域や人生に対して諦めではなく、挑戦できる風土の醸成に寄与します」というのも、素晴らしいですね。

奥さん
奥さん
今の社長が先代から経営を引き継いだのが、25歳のときなんですね。当時、若いことや経験が少ないことで、地域に受け入れられづらいと感じることもあったようですし、地域の同世代の方と話すなかで、将来に希望が持てないという方も多く感じたようです。

なので、若い人が挑戦できるような地域や会社にしていきたいという思いが強いと聞いています。
奥さん
奥さん
そこで、弊社としては従業員のスキルアップの応援もしていて、従業員が販売士という資格を取りたいときには費用面から応援する制度を運用していたり、若手による企画やプロジェクトを積極的に受け入れるようにもしています。

——店内を回らせてもらって、それぞれの売り場の担当の方が、商品をどう魅力的に見せていくか、とても工夫されているのを感じました。
従業員がやりがいを感じながら働いているから、消費者にも楽しさが伝わってくるのかもしれませんね。

奥さん
奥さん
まだまだできていないことも多いですが、そうであったらいいなと思っています。
ラッキーを通して、地域のみなさんの暮らしが快適になっていったり、ちょっとした難しいことが解決していって、地域全体が気持ちよくなっていくことを願っています。

【スーパーモールラッキー】

〈住所〉横手市十文字町仁井田字東22-1

 〈TEL〉0182-42-3996
〈営業時間〉9:00~21:00(お盆・年末年始は除く)
〈HP〉http://sm-lucky.com/