秋田のいいとこ 旅で出会った、ローカルスタンダード

編集・文:竹内厚 写真:蜂屋雄士

野山とともにある
村上房子さんのカゴ作り
(由利本荘市鳥海町)

2018.05.30

由利本荘の住宅街にある一軒家で、厳選した暮らしの雑貨や紅茶を販売している「みつばち」を訪ねた時に、由利本荘で会っておくべき人として、いの一番に名前が挙がったのが村上房子ふさこさん。

みつばち店主の猪股さんは、年に1度、4月1日に開かれる「*金浦市このうらいち」で村上さんと出会って、すっかり意気投合。それ以来、村上さんが作るカゴをみつばちでも取り扱っています。そのカゴがまた、ほどよい形でどんな方がこれを作っておられるのか、ぜひ会ってみたいと感じました。
※春の農作業に備えるための農具や種子のほか、鮮魚や地野菜などの特産品を販売する朝市。

「みつばち」で売られている村上房子さんのカゴ。

とても元気でお人柄もすてきだという村上房子さん。猪股さんから教わって、鳥海山のふもとにある猿倉のお住まいを訪ねました。

鳥海山に向かって登っていくと、4月でもまだ雪の残る景色に。
ちょっと迷子になってしまった我々を外まで迎えにきてくれた、この方。
村上房子さん、現在74歳。
仏壇のある部屋に、村上さんの手製カゴが並べられていました。

聞けば、春夏秋は農家で、11月から3月にかけての雪が深い時期にカゴ作り。そして、冬の間に作りためたカゴを春から夏にかけて売っていくそうです。

——雪の季節にカゴを作るんですね。

村上
ゆ~っくりな。外の土、雪で真っ白ぐなって、見えねぐなるだろ。へば、一生懸命このカゴ編みしてるのよ。

——1日中ですか。

村上
起ぎでがら、暮れるまで毎日な。疲れれば、コロッと寝だりして(笑)。

——きっと雪深いんでしょうね。

村上
雪は相当あるど~! 毎朝、毎日雪かきだ。んだって、4月でもまだ雪があるもの。けど、おら、都会ってのを好ぎでねぇ人だもんな。やっぱり山の中がよくてよぉ。歩いでれば、自然の恵みがなんでもある。ワラビ、サシボ(イタドリ)、ゼンマイなんかの山菜を採ってよぉ、退屈でねぐ、毎日暮らしていぐ。

——いいなぁ。

村上
住みやすいでぇ。ここだば、生活費もそんたにかがらねぇし。野菜も食べきれねぇぐれぇ作れるし。雪降らねぇば、うんといい所だ。

ということで、村上さんのカゴを拝見。
使っている植物もさまざまで、下の写真でいえば、手前の白っぽいのがくるみ。その奥はあけび。左に見える上段に並ぶのはやまぶどうが使われています。

村上
今の季節はくるみを採り歩ぐの。ぶどうは6月の梅雨さ入ってがら、あけびは9月に入ってがら採るな。

——カゴを編むのは冬でも、先に採集して乾かしておくんですね。

村上
うん、そうですよ。乾かしておいて、編む時に、うるがして。

——うるがす、水にひたして柔らかくするんですね。ひとつのカゴで編み方を変えたり、色を変えたり、いろいろあるんですね。

村上
デザインですよ。白黒になってるのは、木の外側が白くて、木さくっついでるほう(内側)が黒いから。こう編める人、そういねんだ。

——難しそう。

村上
難しいよ~。高ぇもの売るごど、人がらお金をもらうってごどはよぉ、ほんと、根気をこめで作らねば、お金もらわれねぇの。

——いつも新しいデザインも考えてられるんですか。

村上
私は歳いったんで、これで上等、終わりだ。あどは、後継者づぐりしてる。うんとおべぇでる人(たくさんの教え子)がいるがら、いろんなデザインを考えで、自分なりにやるんだろうど思ってる。

——お弟子さんがいらっしゃるんですね。

村上
いっぺぇいるよ。矢島どが、本荘どががら通ってくる。けど、なかなか思うように作れねぇんだ。自分の気持ちさ合ったような(自分の性格が出るような)カゴになってしまうんだ。

——村上さんもどなたかに教わった?

村上
弘前の宮本工芸さ、コダシを卸してだんだ。そごの職人さんがぶどうを編んでだのよ。それを見まねでやったの。

——教わったのではなく、見よう見まね。

村上
職人さんって自分の仕事は教えねぇもんだよ。だから、2回ぐらい見に行って、それで覚えできた。それでもさ、家さ帰ってきてがら難儀したよ。ほんとほんと、ひとつのものを作るどいう、コヅを覚えねぇばねぇどいうのは、大変なもんだよ。夜も眠れねぇぐらい、楽しぐなってな(笑)。
手前のふたつがコダシ。山仕事などの時に腰にひもで縛って使う。

——このコダシ、また編み目が細かいですね。

村上
これは私が嫁に来た時、おばあさんがカゴ編みしてるんだけど、その上の人、ご先祖さん、仏だぢが編んだもの。

——では相当、古いものだ。

村上
んだよ。こういうのは大事にしておがねぇばダメ。貴重なカゴですよ。私も若い時は、このようにしてまんず作ったけど、今だばめんどくせくて大雑把になった(笑)。そっちは、私が若ぇ時に作ったもの。これだげ、ひとっつ売らねぇでおいだ。
村上さんが普段遣いしてるのはこちら。ツヤが出ていい飴色になっている。

——かごはいつから作ってられるんですか。

村上
作りはじめでがら40年になる。こっちの方では、みんなの家で作っていましたよ。でも、今の若い人だぢは、こういうものは作らねぐなって、作る人はごぐわずかしかいねぐなりました。

——もう作ってるひとが全然いない?

村上
このあだりだと、私ひとり。みんな歳いってしまって。

——作るための道具ってあるんですか。

村上
なんもないよ。底板ひとつだげ。板っこ1枚で作ってるわげ。

——季節のいい時に材料さえ採っておけば、あとはひたすら作るだけ。

村上
んだ。ツルが雪の下になれば、あど使われねぐなるんだけども、材料を採っておけば何年しまっておいでも大丈夫なんだ。私だば、死ぬまで作る分の材料、採っておいだっすよ(笑)。
もともと牛舎だったという倉庫には採って乾燥させているツルが山積み。

——今朝もくるみを採って来られたとか。

村上
オートバイで30分も行ぐよ。バイクだば、山の根もとまで、デーンと行げるものな。

——バイクで山へ入っていくんですね。

村上
材料集めるのに大変なの。だげど、秋田市の方から団体で来てよぉ、裏山のあだりのをみんな採っていぐもんでよぉ、まんず困ったもんだ。もうちょっと遠慮してほしいもんだ。

——作ってみたい人が材料集めにやって来る。

村上
しっかり作ってればいいんだども、しっちゃがめっちゃがな(めちゃくちゃな)ものをこしゃえでよぉ、材料がかわいそうなんだ。山さ感謝さねば。
愛用のバイク。これで山へ繰り出す。

——村上さんのはものがいいから、かなり売れるんじゃないですか。

村上
売れるよ。いい小遣いとりだな。農家よりいいがもしれねぇ(笑)。暑い時もこの仕事してればな。

——この家まで買いに来る人もいるんですね。

村上
新聞に載ったりすれば、調べでな。売れ残っても、最後は専門店に持って行ぐから、全部ハケます。

——さすが!

村上
ぶどうは硬くて難儀だから、高ぐなるけど、都会さ行けば10万もするの。こういうものは買われねぇもの。一生ものですよ。絶対に崩れないの。黒光りしてくる。

——植物によって耐久性も作り方も違ってくるんですね。

村上
あけびの白いのは1日煮てな、1本ずつ皮はぐの。

——それで白いのはちょっとツルが細くなるんだ。

村上
そうそう。今年はマタタビさ挑戦してみようがなと。マタタビ採る人だばいねぇから、いっぱい材料あるんだ。
話を聞いていると、だんだんカゴひとつひとつの細部まで見えてくる。
村上さんの飼い猫のユズ。取材の間だけこちらでお留守番。
村上
まぁ、歳いって、山さもいつまでもいれねぇけど、孫も育であげだし、な~んにも心配なごどはねぇ。みんなおがって(育って)しまって。

まさにお達者な村上房子さん。お話しているだけで元気までいただきました。ありがとうございます。

「また来てください~」。

【暮らしの道具と紅茶 みつばち】
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