秋田の女性学 「寒天使のカタチ」

写真・文 山本彩乃

1980年山梨県甲府市生まれ。写真家。東京学芸大学美術科卒業。バンタンデザイン研究所、外苑スタジオを経て2006年独立。
雑誌・広告等で活動中。写真新世紀入賞。
http://yamamoto-ayano.com

秋田のお母さんたちは、甘いものからしょっぱいものまで、
なんでも寒天で固めてしまう、寒天使い=寒天使。

そんな話を聞いて、見せてもらった寒天の写真。
普段、写真家として「あらゆるもののもつ輝きを写したい」という思いでシャッターを切っている私は、
その寒天の美しさにどうしようもなく心惹かれました。

そして、寒天を流し、形作っていくように、
様々な思いを秘めながら自分の生きる「カタチ」を見い出してきた寒天使たち。
同じ女性として、その生き方を学びたい、と強く思い、秋田を訪ねることにしました。

その様子を、写真と寒天使たちの言葉を通してご紹介していきます。

第1回 寒天使・藤原孝子さん 白割烹着の天使

旅行で一度は来たことがある秋田ですが、撮影で訪れるのはこれが初めて。そして、秋田の寒天をいただくのも、地元のかたとゆっくりお話をするのも初めて。ワクワクしながら向かった先は、横手市増田にある「旬菜みそ茶屋 くらを」という飲食店。
今回は、ここで調理を担当している藤原孝子さん(68)にお会いします。

内蔵うちぐらのある街へ。

横手市増田は、国の重要伝統的建造物群保存地区になっていて、趣のある建物が軒を連ね、それらの多くには「内蔵」と呼ばれる蔵があります。
この家蔵は、冠婚葬祭や来賓をもてなす際にも使われていて、主屋と蔵は「さや」と呼ばれる外囲いで覆われ、屋内に、さらに建物があるような造りになっています。

今回訪ねた「くらを」は、街の麹屋さんが始めたお店で、国の指定有形文化財「旧勇駒酒造」を活用した建物には、やはり内蔵がありました。店内には麹や味噌を使った商品が並び、奥の部屋ではそれらをふんだんに使った料理をいただくことができます。

さらにその奥、ガラス張りの調理場を覗くと、白い割烹着にリンゴ柄の手ぬぐいで姉さんかぶりをした、孝子さんがいらっしゃいました。

憧れの白割烹着

「ご縁があって、くらをで働かせてもらって、まもなく4年になります。メニューはお店のみんなで考えるの。試食して、材料と調味料を決めて、お皿に並べて、みんなで食べてみる。

1ヵ月同じメニューだがら、それを毎日繰り返し作ってるど、だんだん自分のものになってきて、それが新しい発見になって。それを家では家族に食べさせで……その繰り返し。

いろいろな仕事をしてきたけど、いまの仕事が自分に一番合ってるかな、なんて思う。よくテレビなんかでも、白割烹を着た女の人がおにぎり握るシーンなんかあるすべ? ああいうのに憧れだ時期もあってね。

でも、食べ物の仕事は初めてだったので、最初は戸惑いもあってね。仕事の内容も、お客さんへの対応のしかたも、全然わがらながった。前の会社ではずっと流れ作業だったけど、今は自分がら率先してやらなきゃダメだがら。これはやりがいあるなあど思ってます。」

くらをの思い

具だくさんのみそ汁、麹漬けされた魚や肉、漬物の盛り合わせ……どこか懐かしく身体に染み込む、くらをの料理。店主の鈴木百合子さんは、食を通して、孝子さんのような秋田のお母さんたちの知恵や技を未来へ繫げていこうとしています。

店主、鈴木百合子さんの言葉

孝子母さんに「あれない?」って聞くと、ないってものがない。必ず保存してあるんです。そして、漬け方がわからない、保存の仕方がわからないっていうときに、聞いて答えられないことがない。

厨房のスタッフはみんな、孝子母さんのようなベテラン主婦たちなんです。私は、この店を架空の自分の田舎の家みたいにしたいんですよ。でも、アイデアはいろいろあっても私じゃまだ説得力ないから、孝子母さんのように本物を作れる人たちに来てもらっているんです。

それを習って、残して、自分たちが説得力ある世代になったときに、また誰かに教えて繫いでいきたいなと思ってるんです。

ほうれん草とあまえっこの寒天

夏になると、くらをのメニューにも寒天が加わるとのこと。数え切れないほどあるレパートリーのなかから、孝子さんの十八番「ほうれん草とあまえっこの寒天」を作っていただきました。

「ある日、実家に行ったら母が作った緑の寒天があるわげ。『これ、なんの緑?』って聞いだら『ほうれん草だ』って。ほうれん草をすり鉢で擦って作ったんだって。これなら家で穫れだほうれん草で私もできるなど思って、それをさらに『こうしたらいいんでないが?』ってアレンジして。

今日はあまえっこの寒天どの2層にします。このあだりでは、甘酒のごどを『あまえっこ』って言うんです。くらをの麹で作ったあまえっこね。甘酒は『飲む点滴』って言いますからね、体にいいの。」

「5月ころの田植えのことをこのへんでは『サツキ』っていうの。そのサツキのどきのおやつにも寒天を出すの。子どもの頃は好きだどは思わなかったけども、今作ってまた思い出してね。母はよぐ、ヨーグルトの寒天どがを作ってくれました。私の娘は作らないけど、正月に帰ってきたどぎには食べさせでますね。」

「素材の棒寒天って、このあだりだど、仏事なんかでお供えに持っていぐの。多いど50本も並ぶごどもあるよ。そうやってもらうもんだがら、お供えどが、お彼岸どが、冠婚葬祭なんかにも作るのね。

ほかには、ツルムラサキの寒天を牛乳で2層にしたり、くるみ、大豆、ずんだ、りんご……いくらでも作れる。全部家で穫れるものを使うがら。いっぱい穫れだものをどう消費するがってなったどぎに寒天にするの。」

煮て、流して、固めて……と、あっというまに形になっていく寒天。
寒天を作ることは、孝子さんにとっては家で穫れたものを消費するための手段の一つであり、暮らしや行事のなかで行われてきた、あまりにもふつうのこと。それに対して強い執着は持たず、淡々と作っている姿が、潔く、とても印象的でした。

次回は孝子さんのお宅へお邪魔して、その人となりについて、迫っていきます。

孝子さんが働く「旬菜みそ茶屋 くらを」はコチラ

材料

【ほうれん草寒天】
・ほうれん草 20g
・水 200㏄
・砂糖 50g
・塩 一つまみ
・棒寒天 1/2本
【あまえっこ寒天】
・甘麹の素 100㏄
・水 100㏄
・棒寒天 1/2本

<ほうれん草寒天を作る>

  • ①寒天は分量の水で戻しておき、ちぎる。
  • ②ほうれん草は分量外の水で茹でておき、分量内の水を足しながらミキサーで擦り潰す。
  • ③①に②を入れ、沸騰させないように優しくかき混ぜながら火にかける。
  • ④完全に寒天が溶けたら、型に流す。

<あまえっこ寒天を作る>

  • ⑤寒天は分量の水で戻しておき、ちぎる。
  • ⑥⑤に甘麹を入れ、沸騰させないように優しくかき混ぜながら火にかける。
  • ⑦ほうれん草寒天がしっかり固まったら、表面に熱湯を回しかけ接着面をつくり、⑥を流し、固まったらでき上がり。

※写真奥は、横手市の「あやめ卵」をたっぷり使った「カミナリ寒天」。

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