秋田市から車で50分ほどの五城目町。この町には500年の歴史をもつ「五城目朝市」があり、毎月「0、2、5、7」のつく日に開催されています。
秋田県民の春の楽しみ、山菜について学びたいと思ったわたしたちは、自ら採った山菜をこの五城目朝市で販売しているという山菜名人、金野千惠子さん(63)に会いに行きます。
- 矢吹
- こんにちは〜。金野千惠子さんですか?
- 千惠子
- はい。

金野千惠子さん
- 矢吹
- 山菜採りの名人だって伺ってきたんですけれど……。
- 千惠子
- なんもなんも。
- 矢吹
- 山菜ありますね。これ、どうやって食べるんですか?
- 千惠子
- これね、アケビの芽。

アケビの芽
- 千惠子
- 昔の人はよぐ食べだもんだけども、湯がいで、和え物にしたり、ただお浸しにしてもいいし。
- 矢吹
- アケビの芽…… 初めて聞いた。
- 千惠子
- これ、苦いのよ〜。もうちょっとすれば、アケビの花っこ付ぐんだけども。
- 矢吹
- けっこう苦いんですか? バッケ(フキノトウ)より苦い?
- 千惠子
- 苦い。フキノトウだば、天ぷらにすれば苦みは消えるけども、これはモロ苦いど思う。生のまま、ちょっとかじってみで。
- 矢吹
- わ! にが! でもちょっとクセになりそう……。
- 千惠子
- 湯がくと苦みがちょっと増すがな。だがら、胃腸薬。
- 矢吹
- 売ってる山菜は、朝採ってくるんですか?
- 千惠子
- 朝は採ってられないがら。いつも採りに行くのは朝市の前の日。
(お客さんがやってくる)
- 千惠子
- 今日シドケいいのあったんだや〜。
- 矢吹
- 常連さんですか?
- 千惠子
- そうです。
- 常連さん
- 今年も祭りの日、シドケどアイコど、7組できるが?
- 千惠子
- 7組……1把ずづでいいの?
- 常連さん
- 2把。
- 千惠子
- せば、14把ずづだね〜……。がんばってみるが、まず。
- 常連さん
- いつものように届けでけれ。
- 千惠子
- わかりました、はい。
(常連さんが去ってから)
- 千惠子
- あや〜。結構な数だね。

この日、朝市に並んでいた山菜は、サシボ、山ワサビ、タケノコ、タラノメなど。
- 矢吹
- お祭りがあるんですか?
- 千惠子
- こご、五城目の本町のお祭りが、5月の第3の土日なの。朝市の山菜まつりは5月7日にあって、6月には「ミズたたきまつり」っていうのもあります。
- 矢吹
- じゃあ、そのときにはたくさん山菜が並ぶんですね?
- 千惠子
- 6月ってば、そろそろアイコ、シドケがなくなってきてるので、ミズどかワラビどか。だがら、5月7日の山菜祭りが一番賑わいますね。
- 矢吹
- そのときに向けて、山菜のこと、教えてもらえないでしょうか? 山菜採りに連れて行ってもらえませんか?
- 千惠子
- いいけども、そのころになれば私、注文ですごいのよ。50も60も注文がくるのよ。だがら、みなさんをかまってる余裕がないもの。
それにいま、大潟村の菜の花と桜、少しずづきましたよね? あそこの桜がみんな咲いでトンネルみたいになれば、山菜が採れでくるんですよ。でもまだチラホラしか桜咲いでないものね。まだちょっと時期が早いのよ。来週ならだいぶ採れでくるど思うがら、そこがいいですね。
- 矢吹
- それじゃあ、来週、お願いします! 山菜の食べ方なんかも教えてもらえるものですか?
- 千惠子
- はい、大丈夫です。でも昔の人だもの、凝った食べ方より、やっぱりシンプルなのが一番。山菜の味が。お浸しにするのが私は一番好きなの。ハイカラなごどしてもね、口さ合わないのね。

五城目朝市には、山菜のほかにも、野菜、魚、花、お菓子などのお店も。平日は地元民が多く訪れます。

- 矢吹
- 千惠子さんは、五城目のご出身なんですか?
- 千惠子
- 私は男鹿市の船越ふなこし生まれ。こっちにお嫁にきて。お父さん(ご主人)の形見だ、これ。(携帯を出す)古しいの使ってるの、私。
- 矢吹
- お父さん亡くなられたんですか?
- 千惠子
- はい。今年で7年。2人息子がいるんだけど、上の息子は結婚して、今は下の息子と2人暮らし。
- 矢吹
- 五城目の朝市で売り始めて、何年くらいになるんですか?
- 千惠子
- 10年くらい。
- 矢吹
- 山菜採り自体は?
- 千惠子
- 小学校の頃はランドセル背負ってキノコ採りに行ってました(笑)。
- 矢吹
- え〜(笑)。男鹿で?
- 千惠子
- そうそう。学校の帰りに友だちと寄り道してね。そうやって小さいころから好きだったものな。
- 矢吹
- それで、ご結婚されてからは五城目で?
- 千惠子
- はい。やっぱり男鹿にはないものがこっちにはいっぱいあるし。五城目は山菜の宝庫だもの。
- 矢吹
- そうですよね〜。
- 千惠子
- お父さんは土建業の会社やってだの。お父さんも難儀したども、山さ行げば、おかず買って一杯飲む分稼ぐぐらいは山菜採れるし。私も商売好ぎであったがら。だがら、採って、売って……。
- 矢吹
- 自分で食べるも採れるし……。
- 千惠子
- そう。お父さんは、ワンカップ買っていげば、ゴロっとして(機嫌良くして)ね。
- 矢吹
- ははは〜。
- 千惠子
- おが(たくさん)お酒飲ませでしまったべが? 体悪ぐさせでしまったがもしれない。
- 矢吹
- 山菜採り、どんな服装で行ったらいいですか?
- 千惠子
- せば、スパイクの長靴履いで。やっぱりスパイクのほうがいいんだけど、それでも岩場だど滑るし。ほんとはスパイクの地下足袋がいいんだけどね。足にフィットするし、曲げも効くしね。
- 矢吹
- それ、どこに売ってるんですか?
- 千惠子
- ホームセンターさ売ってますよ。
- 矢吹
- そんな険しい所まで行くんですね。
- 千惠子
- そう。普段はすごいどごろ行ぐよ。
- 矢吹
- 付いて行けるかな……。
- 千惠子
痩せますよ。はははは〜! でも、スパイクも蔦どがさ絡まるの。こないだも、引っかがって転んで、弁慶(スネ)打って。腫れでるの! だいぶよぐなってきたけども。これ! こうなったの。
- 矢吹
- うわ〜……。足引っ張らないようにしないと……。
- 千惠子
- そんなキツイどごろには連れで行かないので。
- 矢吹
- お手柔らかにお願いします(笑)。着るものは?
- 千惠子
- 私はヤッケ(ウィンドブレーカー)の上下。転んだりして泥も。ホームセンターで980円の上下で売ってるがら。赤いのがいいよ! 目立つ色のほうが。黒いの着てクマに間違われで、鉄砲撃だれるがら。頭に帽子でも。私はほっかむりして行ぐけども。
- 矢吹
- 採った山菜を入れるカゴあるじゃないですか? あれってどこで買ってますか?
- 千惠子
- 私はね、大潟村にある道の駅で。モノがいいの。頑丈なの。桑原さんっていうおばあちゃんが作っていで、それが丈夫でね。同じのを5年も6年も使ってます。
- 矢吹
- じゃあ、それ買いに行ってきます!
- 千惠子
- それ、私も欲しいなあ……。ちょっときたがら。桑原さんのがいいのよ。編みが。
- 矢吹
- じゃあ、千惠子さんの分もみてきますね。
- 千惠子
- カラフルなのがいいな(笑)。
- 矢吹
- では来週、楽しみにしてます! よろしくお願いします!
このあと、カゴを買いに、道の駅おおがたに向かったのですが、残念ながら、桑原さん、現在はカゴは作っていらっしゃらないとのこと。それでも丈夫でカラフルなカゴを発見! スパイク付きの地下足袋と、赤いヤッケも買って、準備万端! 来週の山菜採りに備えます。さあ、いっぱい採れるかな〜!

