秋田県民が大好きなハタハタ。今回は地元のかたがハタハタをどのように食べているかを学びます。
訪ねたのは、男鹿市脇本の漁師、小玉隆司さんのご自宅。妻の和子さん、お嫁さんの由紀さんと一緒に、ご自宅裏の作業小屋を案内してくださいました。
たくさんの樽や瓶が並ぶなか、目にとまったのがこの樽。
- 矢吹
- これは? 「塩ハタハタ」って書いてありますけど。
- 隆司
- これは、去年塩漬げしたの。見るが?
- 矢吹
- 去年のがまだ残ってるんですか?!
- 隆司
- 生のハタハタを大量の塩に漬けでおぐの。2回に分げで漬けるんだけども、まずは今時期に一度漬げして、4月くらいになったらそれを洗って、また塩をする。そうするど、稲刈りごろまで食べられるんだ。
- 矢吹
- そうやって年中ハタハタを食べるんですね。
- 隆司
- そう。貴重なタンパク源だがら。塩漬けしておいで、食べるどぎに塩出しせば、なんとでも食べられるんだ。
- 由紀
- 水に漬けて何日かかけて塩出しして、おつゆ(汁物)にしたりとか。
- 矢吹
- 焼いたり、煮付けたりも?
- 隆司
- うん。
- 由紀
- うちではこれが常識だからね。ハタハタだけじゃなく、春に採れた山菜も塩漬けにして、同じようにして食べますよ。
(ハタハタを、麹、砂糖、塩、酢、野菜などで漬ける飯鮓)
- 由紀
- ハタハタの保存ってハタハタ寿司にするのが多いイメージかもしれないけれど、うちはあんまり寿司はやらなかったんですよね。塩漬けが基本。
- 隆司
- 塩漬けにさえしておげば、寿司にしたいってどぎにも、戻せばすぐ作れるがらな。これが、今年漬けだ寿司。まだ漬けで2〜3日しか経ってないけど。全部でだいたい2週間漬ける。
- 矢吹
- 味も隆司さんが決められたんですか?
- 由紀
- データとってね。
- 矢吹
- データ!?
- 隆司
- 毎年漬けだものの平均でやってるの。これ、データ。平成14年がらのずっととっての。
- 矢吹
- うわ〜細かい! この、ブリコっていうのは……?
- 隆司
- ブリコの入ったメスのハタハタだげで作った年もあるんだ。
- 矢吹
- へ〜。でもこうやってデータを取っても、その時のハタハタとか、天気とか、いろんなコンディションで仕上がりも違ってくるから難しそう……。一番のこだわりはどこですか?
- 隆司
- やっぱり、割合だな。そして俺のは砂糖は入れないの。キャベツと大根の甘みだげ。
- 由紀
- これ、お義父さんが作った麹。
- 矢吹
- え! 麹も作ってるんですか?! じゃあ、寿司に入れる麹も自分で作ったものを入れている?
- 隆司
- 今年はな。
- 矢吹
- すごいな〜。麹はどこで作ってるんですか?
- 隆司
- こご(小屋)。
- 矢吹
- この小屋から何もかも作られてる!! 作ってないもののほうが少ないんじゃないですか?
- 隆司
- 味噌もこのあいだ作ったばっかり。麹だって、慣れればそんなに難しぐないよ。温度管理と湿度管理さえしっかりしていれば。
- 矢吹
- いや〜、研究家気質なんですね。
- 和子
- これは生のハタハタを味噌とザラメで1日くらい漬けたの。今朝食べてみたら、そんなにしょっぱくなくて良かったよ。
- 矢吹
- 初めてやってみた味付けなんですか? 思いついて?
- 和子
- いやいや、友だちに聞いて。こういうふうにしてやるとおいしいよって。
- 矢吹
- 味噌とザラメの割り合いは……?
- 和子
- 適当! だって、そこの家の味噌の味もあるでしょ? さあ、食べて。
- 矢吹
- わーいただきま〜す! うわ〜大きい!!
- 隆司
- 自分で獲ったやづだがらね。これ買うってなったらずいぶん高いよ。
- 和子
- ハタハタを食べるときは、真ん中の骨を最初に取っちゃえば、あとの小さい骨は柔かいから食べれるから。
- 隆司
- おらがだは、尾っぽ取って、頭取ってがら、体の部分を手で軽ぐ揉めば、スッと取れるんだ。ほら。さあ、どんどん食べで。
- 矢吹
- いただきます!(プチプチプチプチ)ん〜!! ブリコ、プッチプチ!
味噌付け、いいですね〜。塩焼きとか、三五八(塩、米麹、蒸米を3:5:8の割合で混ぜ合わせて作る漬け床)に漬けるのも多いですよね。
- 由紀
- お義母さん、今日ちょうどハタハタの佃煮作ってたよね。
- 和子
- これ。食べてみて。
- 矢吹
- 私、秋田市に住んでますけど、ハタハタの佃煮は初めて食べます。
- 和子
- あ、そう?
- 矢吹
- いただきます。わ! 骨まで柔らかい。こんなに身がキュッと引き締まるんですね。美味しい〜!
- 隆司
- 今日の佃煮は生のを煮たんだけど、干したハタハタでやるともっと美味しいんだ。やっぱり歯ごたえがないと。
- 矢吹
- この佃煮の味付けは?
- 和子
- これは、醤油、ザラメ、お酒。あと、酢も入れて、圧力鍋で煮るの。
- 由紀
- うちは、アジとかタイの小さいのとかも、獲れるといつも佃煮にするんですよ。
- 矢吹
- 私は普段は、焼くか、しょっつる鍋(ハタハタなどの魚醤で味付けした鍋)にして食べるくらいなんですが、みなさんは、ハタハタはどんな食べ方が好きですか?
- 由紀
- 湯引きにしたり、最近は、丸ごと唐揚げにするっていう人もいますよね。
- 隆司
- 俺はやっぱりおつゆだな。味噌で味付けしてな。
- 矢吹
- 漁師さんは、「味噌がつくから(しくじる、失敗するから)」って、味噌味は食べないって聞いたんですけど……。
- 隆司
- なんもや。俺はちっちゃいころがら味噌だな。昔は番屋(漁師の詰所)で食べだのよ。
ハタハタばっかり入れで。出汁なんかなんにも取らないの。昼なんかはバケツ1杯分くらい、大きい鍋に入れでな。
- 矢吹
- 豪快! 自分で獲って、自分で食べて。小玉さんのお宅はご家族みなさん、お料理するんですね。
- 由紀
- 魚捌くのと下処理はお義父さんが専門。さっきの小屋で捌いてくれるの。味付けはお義母さんがやってくれて。私は食べるのが専門(笑)。刺身もなんでも、みんなお義父さん。ふつうのまな板じゃ追いつかないから、1畳くらいある板をまな板代わりにして、その上で捌いていくの。バンバンってね。
続いて、ご自宅からほど近い海沿いにある小屋に、干したハタハタを保管しているということで、見せていただきます。
- 由紀
- この小屋も、お義父さんが建てたんですよね。
- 隆司
- うん。
- 矢吹
- なんでも作っちゃうんだ……。わ!これが干したハタハタ? 煮干しみたいになってるんですね。これ、どういうふうにして食べるんですか?
- 隆司
- 半日くらい水につけて戻して、それから佃煮にしたり。
- 和子
- 戻してから、醤油とみりんに漬けて、みりん干しみたいなかんじにしたりね。あとは、このままさっとあぶって食べるっていう人もいるよ。
- 隆司
- 酒のつまみになるな。
- 矢吹
- こんなにしっかり乾燥させるんですね。これでどのくらい干したんですか?
- 隆司
- 2ヵ月くらい。ひさしに掛けておいて。
- 矢吹
- しっかり時間をかけて。みーんな、保存することがベースにあるんですね。干すことでうまみも増しますしね。
- 隆司
- 俺はよぐ言うの。「なんでおいしぐなるがって言うど、そのものがら水分取るがらなんだ」って。大根なんかも水分取ればおいしぐなる。
- 矢吹
- 干し大根とか。そうですよね。
- 隆司
- 塩漬けだって、塩で水分を引き出すんだがら。それが基本なんだって。
- 矢吹
- 干したり、塩をしたり、何かしらの方法で水分を取る。しっかり取るのもあれば、ちょっと取るのもあったり。
- 隆司
- そうそうそう。そうするどおいしいんだ。それが料理の基本だど思う。
- 矢吹
- 何十トンと獲れた時代は、こうやって保存しないと逆に食べきれないっていうこともあったんでしょうかね。
- 由紀
- う〜ん。でも、こうやって干すのは手間だから、あんまりみんなやらないかもしれない。
- 矢吹
- 今はとくに、焼いたり、鍋にしたりで生のものを消費するほうが多くなってきているかもしれませんね。ハタハタ寿司も、家族が少なかったり億劫だったりで、作る人も格段に減ってますもんね。
小玉さんのお宅で、ハタハタの保存や食べ方を学んだ私たち。次回は、漁師さんとしての隆司さんのお話、そして、この家に嫁いだ由紀さんのお話を伺います。