秋田を旅して木版画作品を制作した馬川亜弓さんは、これまでも動物をよく作品に登場させてきました。秋田で出会った動物は、「クマ」でした。
兵庫県在住。木版画作家。2005年、京都精華大学 芸術学部造形学科版画専攻卒業。個展は、「The grass of a vision」 gallery CLASS(2015)、「花鳥風月犬」 伊丹市立工芸センター(2016)など。
木版画:馬川亜弓 インタビュー・編集:竹内厚(Re:S) 写真:船橋陽馬
竹内厚
大阪府在住。編集者として雑誌、単行本、フリーペーパーなどを手がける。Re:Sに所属。
車の中で動物を描くのもいいかもと話していたら、道中、「くまくま園」への案内看板が何度も見えてきて。そんな流れから、「くまくま園」へ立ち寄ることになりました。
- 馬川
- そうでしたね。あんなにたくさんのクマがいるとは思わなかったですし、すごく身近に見られて面白かったです。ちょっと切ない感じもあるんだけど。
ツキノワグマが約50頭、大きなヒグマもガラス越しに2頭見て、すごい迫力で。
- 馬川
- 事前に陽馬さんからマタギの話、山でクマと対峙したときの高揚感や緊張感を聞いてたこともあって、クマってかわいいけど、かわいいだけじゃない。怖いけど、怖いだけでもないんですね。
今年はクマが人を襲うニュースが続いていたから、クマがネガティブな印象ばかりで語られるのを払拭できればと車中では話してけど、やっぱり生身のクマが目の前に向かってくると、まだ1歳のコグマでもちょっとたじろぐというか。
- 馬川
- そう、コグマといえども獰猛な。爪もすごくて。だから、どこか本能的に近寄りがたいところがありました。
やっぱり、そこは獣。
- 馬川
- といいながら、すっと背筋の伸びたクマも私、すごく好きでしたよ(笑)。
たしかに、直立したクマの姿は人が入ってるとしか思えない(笑)。これは「くまくま園」ならではですね。実はこの日の夜、陽馬さんの家でクマの肉を食べさせてもらうという体験もしました。
- 馬川
- あと、熊の胆もいただきました。表現しがたい味なんですけど、作品を制作する上では、クマを食べられたことはとてもよかったです。山で会ったらこっちが食べられるかもしれない、けど、ヒトがクマを食べることもある。そんなクマとの関係性がいちばん興味深いところでした。
滝(立又渓谷の一ノ滝)を見るために山道を歩いていったときも、この山にはクマがいると思うと……。
- 馬川
- もしかしたら出てくるかもしれないって。それが楽しいとか、嫌だったとかではなくて、街の人間からすればまったく非日常で。しかも、人の姿をそんなに見かけないから、ひとり占め感もすごくて。
普段、人混みや車に囲まれた生活をしていると余計にそうですね。
- 馬川
- おっ、違う場所に来たなという感じ。やっぱり異世界なんです。
クマはそこを橋渡しする存在のような気がしました。
- 馬川
- きっと、陽馬さんというリアルなマタギに同行してもらったことも大きいですね。陽馬さんが見ている秋田のリアリティ、秋田の山をちょっとのぞかせてもらったという気がします。
それでは、馬川亜弓さんの2枚目の作品「待ち合わせ」です。