木版画家の馬川亜弓さんが秋田を旅する中で、心に留まった景色や秋田らしさから作品を制作、「なんも大学」の学生のみなさんにパソコンやスマホの壁紙として使っていただこう。そんな思いつきを馬川さんに伝えたところ、快諾! ……いただいたのですが、心に留まる景色なんて、なかなか狙って出会えるものでもありません。
そこで、案内役を買って出てくれたカメラマンの船橋陽馬さん(秋田県北秋田市・根子集落在住)とともに、北秋田へと向かいました。ちなみに陽馬さん、現役のマタギでもあるんです。
どっぷり秋田を浴びるような2日間の旅から、馬川さんはどんな景色を見つけて、何を感じたのでしょう。旅を終え、地元、兵庫に戻ってから1カ月後、作品を完成させた馬川さんとともに旅を振り返りました。
兵庫県在住。木版画作家。2005年、京都精華大学 芸術学部造形学科版画専攻卒業。個展は、「The grass of a vision」 gallery CLASS(2015)、「花鳥風月犬」 伊丹市立工芸センター(2016)など。
木版画:馬川亜弓 インタビュー:竹内厚(Re:S) 写真:船橋陽馬
竹内厚
大阪府在住。編集者として雑誌、単行本、フリーペーパーなどを手がける。Re:Sに所属。
秋田の印象といえば、まずは。
- 馬川
- 山ですね。ずうっと山を見てました。どこに行っても山の気配があって。
そうでした。山にもいろんな形がありますし。
- 馬川
- 山はね、見るものですよ(笑)。私は登山をするような体力はないから。見るのがちょうどいい。
「ちょっと秋田まで山を見に」、流行らないかな(笑)。
- 馬川
- ねえ。地元の方にとっては当たり前すぎることなんでしょうけど。
山の中でも、特に印象的だった場所はありますか。
- 馬川
- 根子集落ですね。
四方を山に囲まれた、まさに山奥の隠れ里といった雰囲気で、集落へ入るのに車1台分の狭くて長いトンネルを抜けていくんですよね。そこに陽馬さんが暮らしている。
- 馬川
- いちばんインパクトがありました。実は私、あのトンネルからちょっと気弱になってしまって。怖いっていうと言いすぎだけど、ぞわっとする感じ。小さいころに「日本昔ばなし」を見て感じたのと同じような感覚です。
ちょうど根子に着いたのが日暮れ時で、しかも、根子に向かう車の中で「狐に化かされた人の話を聞いて、作品にすればいいんじゃない」って盛り上がってたから、きっとその影響もありますよ。
- 馬川
- そうでした。実際にいらっしゃるんですよね、化かされた体験を話せる方が。
「あそこの〇〇さんの小屋の上に、尻尾がついてる火の玉がすうっと横切った」とか、根子集落の方にいくつか不思議な話を語ってもらいました。リアルな名前と場所で語られるから、まさに現代の「遠野物語」そのもので。
- 馬川
- 私は、ちょっと血の気が引いてました(笑)。きっと今聞くと何でもない話なんだけど、あの土地のあの環境で話を聞いたから、すでに化かされてる気がして。
でもよく考えると、「狐に化かされた話から膨らませて木版画にすればいい」って言っても、描く馬川さんが大変ですね。
- 馬川
- あっ、でも、もう1枚描くなら、そのことも描いてみたい気がします。
ぜひ見てみたいです。今回、まず馬川さんが仕上げた作品は、根子ではなくて、2日目に行った五城目の森山の方を眺めた景色がベースになっています。
- 馬川
- 実際にあの場所に立って眺めていたときから、「これは版画だ」って思っていたんです。折り重なるように続く山々が、とても平面的にも見えて。
山また山また山…ですね。ただ、実際の景色を写したというよりも、根子でも感じられた、異世界に続いていくような雰囲気も反映されていますね。
- 馬川
- そうなんです。なんて言っていいかわからないけど、今回の旅で感じた秋田の印象は明確にあるんです。私は普段、旅するなら南へ南へ行ってしまう方で、色づかいもどちらかといえば南国寄り。だからこそ今回の秋田ではすごく「北」を感じたし、幽玄さというか、畏怖というのか…。
形容詞をいくつ重ねても、あの山々が醸し出す雰囲気にはなかなか届かない。そこは、作品で見事に応えていただきました。
馬川亜弓さんの1枚目の作品。今回はパソコン用の壁紙としてダウンロードしていただけます。
次回、馬川さんの2枚目の作品をご紹介します。記事のタイトルにも入っている言葉、あの動物が登場。今度はスマホ用の作品ですよ。